111.後悔と言い訳と責任〜ジョシュアside
「それで、俺の弟含めて4年生のグループとそのチーム腹ペコとやらは最終的にどうなるとそちらの担任は考えているのか教えてくれ」
恐らくこの男は逸れた話を軌道修正しつつ、弟がこれまでに犯したかもしれない行為を看過させた。
この男は侮れない。
あの異母兄がこの学園に在学中、学友として関わっていただけの事はある。
「4年生グループが蠱毒の箱庭で自分達の命を危険に追いやる行動さえしなければ、または家柄や学園での位置づけからチーム腹ペコの生きる為の行動を阻害さえしなければ、Aクラスも生き残る可能性は高くなるでしょう。
あのチーム腹ペコのリーダーとサブリーダーは冒険者登録もしています。
仲間の誰かを故意に危険に晒さず、協力するなら見捨てる事は決してしません。
上級生グループが賢明な判断をなさるのを教師として心から願っています」
「ふっ、なるほど。
・・・・絶望的だな」
思わずだろう。
自嘲気味に鼻で笑った。
彼の弟のエンリケ、そしてニルティ家と縁故の関係にあるあの侯爵家の2人。
彼らはそれぞれの家の家格に見合った考え方をする、良くも悪くもわが国の貴族らしい貴族だ。
特にエンリケは側近候補として、入学する少し前からの付き合いだから性格は良く知っている。
もし資料に書いてあった通りにあの3人が行動するなら、これまでの俺の言動から、まず俺の婚約者という立場に長年居続けるラビアンジェ=ロブール公女に何かしら仕掛けるだろう。
エンリケはそういう人間だ。
それに彼もまた数日前までの私と同じくロブール家の養女であるシエナを可愛がり、私の婚約者の差し替えを望んでいた。
くそ。
思わず資料を握る手に力が入り、くしゃりと皺が寄る。
まだ気持ちの整理もついておらず、こんな事になるとは思っていなかった。
だからあの時執務室で婚約者からの慰謝料請求の場に同席し、王家の影の報告書に目を通したヘインズ=アッシュしかシエナやロブール家の内情を知らない。
整理がついたとしても、ヘインズ以外の側近候補に伝えるかどうかと聞かれれば、今は否と答えるだろうが。
どちらにせよ婚約者への言動を改める旨はエンリケ達の為にも、すぐに伝えておくべきだったと今更ながらに後悔する。
まさかエンリケ達が下級生に対してあのような事をしているとは思いもよらなかった。
だから・・・・いや、結局言い訳だ。
あの公女が王子妃として相応しいとは今でも思わないが、だからといって王子という立場と権力も持った私が彼女を貶め続けて良いはずが無かった。
彼女の義妹の嘘に振り回されたとはいっても、無才無能で性悪な女だと事実関係を確かめもせずに決めつけ、責め続けたのは俺の責任だ。
エンリケ達が彼女を標的にするとすれば、それもまた俺の言動が招いた結果だろう。
一縷の望みは辺境領主の娘であり、血の繋がりのない親戚となるミナキュアラ=ウジーラか。
ミナキュアラ嬢なら自らのグループとチームを組んだ下級生への攻撃は決して許さないはず。
資料にあったように下級生に精神感応魔法を使って自分達の下僕のように扱おうとしても、必ず気づいて防いでくれるはずだ。
実際、資料には彼女の目の届く所にいるようにと書かれてあった。
そしてミナキュアラ嬢は自分のグループを捨て置いたりもしない。
間違いなくあの3人は見捨てられるとこの手元の資料が物語っているし、長年の付き合いからも確信している。
彼女が頼めば自分だけはチーム腹ペコに同行は許されるだろうが、それは決してしないように思う。
義理に厚いのが辺境の防衛の要であるあの家系だし、彼女もまたウジーラ家の令嬢らしい性格をしている。
助けたい。
恐らく父上は、いや、国王陛下は蠱毒の箱庭に救助を出したりはしない。
仮に全ての家から反感を持たれても、決してそうしない。
各家々の親達も結局は仕方ないと受け入れざるを得なくなる。
貴族である者全員が替えの利く者達だからという理由だけではない。
隣国との共同結界に、そもそもあの中へまともに救助に向かえる者がいないのだ。
蠱毒の箱庭はそういう場所だ。
このまま救助が無く閉じ込め続けられれば、あの婚約者も含めて全員が死んでしまうだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます