114.学生である前に〜ジョシュアside
「確かに魔法とは一方通行な性質がありますからな。
できぬわけではないが、双方に効果を発揮させようとすれば結界魔法は脆くなり、仮に危険度Sクラスの魔獣が生じれば結界を壊されかねませぬ」
学園長が宰相の言葉に頷く。
「左様です。
ですから蠱毒の箱庭に救助を送る事ができないのです。
ああ、お分かりかと思いますが、お2人共この件は秘匿しておいて下さいね。
知る者は知っている事で重要度は低いのですが、隣国との協定がありますから」
だいぶ軽く暴露されたが、この場の面子を考えれば問題は無いのだろう。
学園長と共に頷いておく。
「学生達の各家には国からの救助ができない事も含めて説明なさって下さい。
四大公爵家であるニルティ家とロブール家当主には私から説明しておきましょう。
もっとも彼らは結界の性質については知っていますから、問題はありませんが」
宰相がそう言うと、こちらの了承の意思を示すのも待たず国王陛下が立ち上がろうとする。
まずい!
学生達が見捨てられる!
「待ってください、陛下!
いや、父上!
それでは学生達はどうなるのですか!
仮にも王立学園の生徒ですよ!
それに私の婚約者もいるのです!
国が助けないなどあってはならない!」
「王子!」
すぐに立ち上がり、父上に詰め寄ろうとして、宰相が慌てて間に入った。
父上はそんな俺を見て、小さく嘆息する。
「だから余にどうしろと?
そもそもが王立学園の生徒であろう。
入学の際、余が、学園長が祝辞を述べる時に必ず入れる文言がある。
覚えているか?」
「それはもちろん・・・・」
まずい。
それを持ち出されれば黙るしかない。
「学生である前に、貴族。
この学園への入学が許された平民ならば、何かしらの国の責任の一旦を担うべき者。
学生という立場に甘えず、自らの責を忘れるな、と」
ぐっ、と唇を噛む。
その後に続く王族としての責についての言葉も・・・・覚えている。
「少なくとも結界の性質以前に、わが国の手の者がわが国の貴族や富豪と認める立場にある者の為に、蠱毒の箱庭に足を踏み入れよと?
そんな事、隣国との関係上できぬと推察できように。
あの箱庭があるからこそ、わが国と隣国は共闘という立場による結びつきを選び、無用な争いがないのだ。
学園でもそれは教えられるが、お前は入学前の王子教育で既に学んでおったはず。
加えてもし結界魔法に何かが起こり、中の蟲が解き放たれればどうなる。
わが国だけでなく隣国の民をも巻き込んだ大惨事となろう。
最悪、それが引き金となって隣国との戦争が起こる。
しかしそれだけではなかろう。
仮にその戦に勝利したとして、国力が衰えるは必至。
となれば他国からの侵略に合うかもしれぬが、その時犠牲になるのはまたも民達だ。
祝辞での言葉はあくまで貴族や富豪の者達へのもの。
お前には王家と四公の存在意義が何たるかを折に触れて伝えてきた。
更に王家と四公には民の為に生きる事を責務とし、それこそが本来の余達の存在意義だとな。
未だにその傲慢な性根は、理解しておらぬようだ。
自分より弱き者の為に剣を持ち、盾となって命尽きるまで民の前に立ち続ける。
王の戴冠と四公の当主着任の際、これを聖獣に宣誓する。
民達を守らず、民への信頼を得られぬ者は王族や四公ですらないが、お前はどうなのであろうな」
冷ややかに見つめられ、血の気が引いていく。
「どちらにしてもそうした理由があって救助を出さぬ事に責は問えぬであろう。
問うたところで結論は変わらぬのは明白。
せいぜいが王立学園の不祥事として学生達が帰還した際に後ろ盾である国が何かしらの補償を行う事になる程度。
しかし学生達の行方不明の件については死者が出たと確認できぬ限り、補償は難しいであろうな」
つまりただ無事を祈り、帰って来るのを待つ以外に国は家族に何もしないという事だ。
貴族の頂点に位置する四大公爵家のニルティ家とロブール家が動かなければ、他の学生の家も表立っては動けないだろう。
だから四公の当主達には宰相の方から直接説明するという事か。
王子という身分にありながら私にできる事は何もなく、そもそも父上に認められてすらいなかった。
しかしあの時生徒会室で婚約者と話していなければ、反発こそすれ、こんな風に父上の言葉が心に深く突き刺さる事も無かったのかもしれない。
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