108.見せるつもりの無かった資料〜ジョシュアside
「それなら、上級生グループも……」
「いいえ」
「恐らくそれはないでしょう」
私達の4年Aクラスの担任の言葉に2年Dクラスの担任は即答し、同じく2年の学年主任も続いて、2人して首を横に振った。
「どういう事だ?
私のクラスは高位貴族達ばかり。
剣や魔法の腕前、魔力、学力に関してもこの学園でトップクラスだ。
言い方は悪いだろうが、彼らがDクラスのグループに劣ると?」
眉を顰めて不快感を顕にする4年の担任。
彼はAクラスである私達を担当する事を誇りに思っていると常々口にする男だ。
確かこの学園の卒業生なのはもちろん、在学中はAクラスであり続けたと聞いている。
この学園に勤めて長く、年齢も2年を担当するそこの2人より高い。
もちろんこれらは誇るべき事だろう。
しかし時折彼はAクラス以外、特にDクラスを蔑む発言をするきらいがあった。
あれだけ婚約者のDクラス入りを恥じていた私が言うのもなんだが、教師としてはどうなんだろうか。
「冒険者パーティーの最高レベルであるAクラスですら蠱毒の箱庭に足を踏み入れれば帰って来られないと言われている場所ですよ。
チーム腹ペコが生き残る可能性が高いからあなたのクラスのグループも、とは言えません」
「何だと」
不穏な気配が両者の担任の間に漂うが、チーム腹ペコという気の抜けた単語がその雰囲気を無駄に乱しているような感覚に陥るのは私だけだろうか。
「これは見せるつもりの無かった資料ですが……」
そんな2人の担任の間に割って入るのは2年の学年主任だ。
持っていた資料の束から何かの紙の束を出して4年の学年主任に差し出す。
「これは?」
「まず目を通していただけますか」
言われるままに受け取ったのを見た私達の担任の顔色が悪くなっていないだろうか?
「これは……どうして今まで黙っていた?!」
パラパラと捲り、主任が血相を変えた。
「これは卒業したDクラスの生徒の証言のみがまとめられた書類です。
それ以外の明確な証拠はなく、合同討伐訓練前に自分の担当する生徒に気を配って欲しいと今朝彼女が彼に渡そうとしていました。
しかし彼はDクラスは下級貴族や平民が殆どですから、見せたところで無意味だと突き返した。
私はたまたまその直後の場に居合わせたので、彼女から預かっていました」
「なっ?!
それをこんな場で見せるとはどういうつもりだ!!」
冷静に話をするのは2年の学年主任だ。
資料の中身はわからないが、私達の担任の反応から突き返したのは間違いないと察する。
4年の学年主任は資料を全て検分した後、資料を学園長に手渡せば、4年の担任はさっと顔色を青くした。
学園長も資料を見て顔を顰める。
資料の中身が気になるな。
「それで、何故このタイミングでこの資料を?」
「4年生グループだけで生き残るには難しい。
しかしチーム腹ペコと行動を共にするならば彼らの生存率は上がります。
その証言の通りの事をチーム腹ペコの誰かにしない限り」
「考えたくはないが、もしその資料通りに4年生が害を与えたら?」
学年主任達のやり取りに耳を傾けつつ、ちらりと2年の担任を見やる。
どうでもいいが、チーム腹ペコを連呼しないで欲しい。
事態は深刻なはずなのに、気が削がれる。
いや、それより害を与えると言ったか?
被害報告のような内容なのか?
「彼らは行動を別にする事を選択するでしょう。
当然です。
蠱毒の箱庭でそんな事をするのは、自分達に死を突きつけるのも同然ですから。
もしチーム腹ペコが離れれば、Aクラスのグループは間違いなく全滅します」
「もしそうなった場合、そのふざけたネーミングのグループが何らかの責任を負うかもしれないが?」
ふざけたネーミングには心から同意するが、質問に答えているだけの自分より年若い担任教師を脅すような発言はいただけない。
しかし2年の担任は冷静に、冷めた目で反論した。
「蠱毒の箱庭でなら、チーム腹ペコの判断は妥当でしょう。
彼らは単体で生き残る程の実力はありません。
グループで補い合うからこそ生き残れる可能性が生まれるのだと誰よりも理解するはず」
「学園長、その資料は何だ?
内容は随分と物騒なようだが、俺の弟が何かしら関わっているという事か?」
そこで初めてニルティ家当主代理が口を挟んだ。
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