109.知らなかった事実と思い当たった現実
「ふむ」
許可を与えるように学園長が2年の担任に頷いた。
「この資料は昨年のDクラスの卒業生が後輩であり、卒業研究を引き継ぐ彼らへの餞別として贈ったもので、コピーして各グループのリーダーがそれぞれ持っていたようてす。
今日の早朝、リーダーの1人が確認していたのをたまたま見つけてこの資料の存在を知りました」
2年の担任が説明を始めたところで、学園長は手にしていた資料をウォートン=ニルティに手渡した。
目を通した瞬間、彼は眉間の間に皺を寄せる。
間違いなくよろしくない何かを書いてあるのだろう。
内容が気になって仕方ない。
「過去のDクラスもこれまでに似たような事をされていたと聞きました。
もちろん明確な証拠はありません。
全ては憶測や気のせいだと言われればそれまでですが、在学する他の学年のDクラスにも似たような被害があるかもしれません。
ただ、既に私が担任を務める2年Dクラスは証拠が残るように対処して全員が今回の合同討伐訓練に臨んでいたようです」
「なっ、罠にかけたと?!」
私達の4年の担任が詰め寄る。
一瞬、クジで同じグループになった2年生との顔合わせした時の顔を思い出す。
どこか緊張した面持ちだったが、あれは警戒されていたという事か?
当然だが私は合同討伐訓練の際に誰かの命を脅かすような真似はした事はない。
私のグループの者達もそのはずだが……。
「罠?
随分見当違いな事をおっしゃるんですね」
彼女の4年の担任へ向けて発する声には嫌悪が含まれる。
「自己防衛です。
何もされなければ何も起こりません」
「屁理屈だ!」
険しい顔で詰め寄ろうとする4年の担任に、2年の学年主任が間に入った。
「それこそチーム腹ペコは昨年、貴方の元クラス生、今はBクラスの生徒によって囮に使われ、危険度Cとなった一角兎の群れに取り残され、見捨てられました」
「待て、それは聞いていないぞ」
怪訝な顔をしたミハイルが口を挟む。
実妹が自分も参加した昨年の合同討伐訓練でそんな危険に曝されていたとは思いもよらなかったんだろう。
私もその件は知らない。
「あの時、私と彼とはチーム腹ペコを残して去って行く当時の3年生を目撃しています。
しかし私達の目撃証言に食い違いがありました」
「だがあの生徒達は最終停学処分となった!
公女も特に言う事はないと言っていた!」
4年の担任は間に入った2年の学年主任を押しのけようとして、しかし主任の方が若く、力で押し負けて敵わない。
「公女は明確な証拠もないのにDクラスで平民と下級貴族で構成されたこのグループが何か言うのは無駄だと言ったんです。
そして可愛い兎との時間を上級生も共有できたようだから何よりだと。
結局上級生グループも一角兎に囲まれて襲われましたからね。
そこで溜飲を下げたんでしょう」
いや、どんな溜飲の下げ方だ。
一角兎の群れが出たが、怪我人はいなかったとは聞いていた。
それがあの者達のグループだったのか。
「囮にされた生徒達の担任である私からすれば、たかが1週間の停学です。
それも全く別の問題が出てきたからそうなっただけで、当初の会議では数日の謹慎処分で決定していました。
それはこの場の教師全員の記憶にあるのではありませんか」
「ああ、もちろん覚えている」
4年の学年主任が静かに答えた。
学園長も軽く頷いたから、上まで話はいっていたようだ。
今年の進級の際にBクラスとなった者は覚えている。
まさか彼らがそんな事をしていたとは夢にも思わなかった。
しかも仮にも四公の公女であり、不本意だが私の婚約者の立場の者がいるグループにそんな事を……。
いや、だからか?
数日前、公女に怪我を負わせるまでの私の態度は周囲の者達が彼女を軽んじさせるのには十分、蔑み貶める言動だった。
態々Dクラスに赴いて罵倒した事も何度もある。
そこでふと、ある可能性に思い当たり、人知れず恥ずかしくなった。
もし私達グループの者の名前がその資料になくとも、これまでの私の言動から今日同じグループになった2年Dクラスのグループは警戒したはずだ。
私自身があの顔合わせで下級生に緊張した顔をさせた元凶だった可能性は高い。
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