第72話最後の戦い

 今もまた航宙艦が一隻避難の為に飛び立つ、世界中から機体をかきあつめ無人機を全て放出し輸送を繰り返しているがまるで間に合っていないようだ。

 多国籍の連合で救助に協力してもなお、だ。その様子は世界中に中継されている。

 進行状況、避難状況、デバイスを持つすべての人がこれを眺めている。

 

 俺はというと、視界の隅に避難状況を表示しつつサンプルを回収、解析を進めているが…………。


『わからないですぅ~ごめんなさい』


『私もよ、まるで上位者のような…………死人さんもしかしたら』


「なんだ? 情報は少しでも多い方がいい。言ってくれ」


 凄くな悩まし気な表情をするメグミ、そんな重大な事なのか?


『おそらく、私たちの大本、高度先史文明の産み出した母なる存在よ。もともとは人の可能性を突き詰め、実験、実証を繰り返し様々な生命体を生み出していた……と。なぜ今更になって思い出したのかしら。接触することがトリガーになったのかもしれないわ……』


「となると柱の親玉か、白い柱がそうなのかもしれないな。なあ■■■さんよ、何か分からねえのか?」


――殺せ、喰らえ、殺せ、喰らえ、殺せ、喰らえ


「ぐうッ! なに押し付けて来てんだよ! ぐうううううううう」


 頭が割れるように痛い、そんなに憎い存在なのか? もう少し分かり易く伝えろよ!


「――づう……、どうやらその通りみたいだな。そりゃあ一筋縄でいかないよな」


『すみません、白い柱に接触すれば何か分かると思うのですが……』


「■■■さんによれば今回はかなりまずそうだ。みんなを集めてくれ」


 ちょっと帰って来るのが遅くなる予感がするんだよな……十五年、五年、そして今度は何年だ…………。糞がッ!





 真剣な面持ちで家族みんなが集合する、子供たちは避難しているようだな。

 阿岸に、朱里、静里、三重、相倉、水無瀬、鈴、そしてエステリ。


「集まってくれてありがと、今回もまたヤバそうだ、もしかすると帰って来るのが遅いかもしれない」


 返事がない、毎度のことながら悲しませるのが得意だよな俺も。


「それでだ、皆のコアの欠片を少しくれないか? もちろん俺のコアも少し置いていく」


 無言だ、俯き、沈黙。


「毎度心配ばかりかけているようで済まない。俺はお前たちを愛しているし誰にも渡したくない、もちろん俺もどこにも行くつもりはない。必ず帰って来る」


 黙って、胸元の服を捲りこちらに無言で差し出す、それならばと自分の胸にあるコアを少し千切り、各々の胸へ同化し混ぜ合わせようとする。


 まずは阿岸、胸へと同化させほんの少しもらい受ける。苦しそうな顔をしつつもこちらを見つめて来る。――唇へ軽いキスを受ける「帰ってきたら抱きなさい」。――もちろんだ。


 朱里、泣きながらも睨みつけられる、不意にビンタを食らい強引にキスをされる。「この子も待ってるわよ?」、そうか、もう家族が増えたんだな。分かってる。


 静里、いい子で待っていろよ? ん? 彼氏ができても知らないんだからって? そりゃあ困ったな……。帰って来てもいないならお父さんが何とかしよう。


 いつも世話になってるな三重、いや晶、これからもみんなを守ってくれ。腕を首に回され舌を差し込んでくる。これは、いい女だな。細くしなやかな腰を掴む。おっと、また後でな。


 美奈子、皆を支えてくれてありがとう、子供は二人しか孕ませられなかったが続きをまたしような。泣きじゃくっているが死ぬと決まったわけではないぞ?


 水無瀬、腹を殴るんじゃない、ん? 浮気するぞ? あー、何も言えねえな、すまねえ甲斐性が無くて、離れて欲しくないんだが。イテッ、お腹の子がいるのにするわけねえって? すまん、ありがとう。行ってくるよ。


 王氏に、挨拶なかなか行けなくてごめんな。ん? 孫を見せに行ったって? そうか、二人目も見せに行かないとな。


 エステリ、里帰り行けなくてごめん。信じて待ってくれるのか? ありがとう、耳が相変わらず可愛いよ?


 ん? もちろんメグミも、ミコトちゃんもハザマもだよ? 待っててくれよな? 扱いが雑だって?


「私の扱いが雑なんですが? お腹の子もいますのに」


「え? メグミ、本当に?」


「本当でございますよ? まったく!」


「ありがとう、嬉しいよ」


「父上、行ってらっしゃい」


 うんうん、ハザマは可愛いなあ。そうかメグミもかそれは帰ってこないとな。


「ミコトちゃん……心配かけてばかりだけど待っててな? お嫁さんになるんだろ?」


「う、ぐすっ……ふええぇん……当たり前でぇす。私だけ子供いないでぇす……帰ってこないとこっちから迎えに行きますよぉ」


「そん時は頼むな?」


 これで挨拶とコアの回収は終わった。現在の状況は、良くないな、位相がおかしい為に転移座標が掴めない。直接乗り込むしかないか。


「――皆行ってくる」


 みんなに背を向け宇宙空間へ転移する。何かを言われたのかもしれないが確認はしない。聞くと寂しくなるしな。




 

 竜阿修羅に変異し大気圏内に突入する、目標であるエメリカ大陸の白い柱。付近は生肉の海で不気味に蠢いている。


「あれは……軍人か?」


 肉の海の中消化されずに白い柱にしがみ付き、下半身が同化されている軍人がいる。なにか叫び散らしているようだ。


「ははははははっ私は神となったッ! 溢れる万能感! 様々な個体と混ざり合い、真理を会得するぅぅぅぅ! わぁあたしはぁ神ィィィィィィィィ!」


 正気ではないのだろう、顔は焼けただれ、笑い続けている。


「んぅ? なんだぁおめええぃぃ? 神たぁぁぁぁる私に対して頭が高いぃぃぃぃ! だ・す・てぃ・ん大佐ああああああ! だぞッ!」


 肉の海がうねり出し大きな拳を形成する、こちらに向かって攻撃をしてくるようだ。すぐさま回避し、軍人を潰すべくビームを射出、ッチ、腕が生え弾かれる。


「貴様貴様貴様ぁぁぁぁぁぁ! 傲慢! 不遜! 不敬! 斬首ッだッ!」


 肉の剣が発生し所かまわず振り回す。防御力は高いが力を扱いきれていない。


 副腕すべてから飽和攻撃を開始する、防がれるも熱が伝わり、人型が焦げてきている。


「あつ゛ぃあつ゛ぃあつ゛ぃぃいい! 糞がッ死ねやッオラッ!」


 貴様に関わってる暇などないのだ、軍人め。背部に展開したブースターを瞬時に全開する。


 流れる景色。加速する思考。世界の全てが停止する。


 ブレイド状に変形した刃が軍人の上半身を押しつぶす。自身のスケールが大きすぎて人間のサイズでは潰れてしまったようだ。


 断末魔を上げる間もなく血煙と化す。周囲の変化も肉の海へと還り、再び波打つ存在となる。


「なんだったんだあいつは。エメリコが実験でもしていたのか?」


 刃先に付いた血を振り飛ばし、白い柱にゆっくりと近づく。


 あと数メートル。触れてはいけないと脳内が警鐘を鳴らす。


 そうも言ってられないじゃないか。後数センチ。


 俺の変化した銀椀が柱に触れる。同化――開始。


 飲み込まれる。暗転。


――ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ


――同化しやがれ下さい


――進化しやがれ下さい


――楽しみッ楽しみッひひひひひひひひひひッ!



 深い深い深い深い、何かに触れた、深い深い深い深い、何かがいた、深い深い深い、母がいた、深い深い深い深い、可能性に満ちていた、深い深い深い深い。

 

 貴様が邪魔をする者か…………愚か者め……我に……溶けて消えろ。


「あ゛? んだコラァッ!」


[存在固定、因果固定、確率収束]


 腕が、体が、顔が、作り上げられ、存在が確定する。


 俺、私、僕、俺、私、僕。


「俺は俺だ、貴様なんぞになってたまるかッ! 存在を――寄越せッ!」


 惑星をも吸収した[アートマン]が解放される。自らに内包された世界を展開、周りの全てを自らに変換する。


「所詮、貴様は高度な生命体に作られた存在でしかないんだよッ! 人様にナマ言ってんじゃねえぞゴルァッ!」


 互いの存在を掛けた戦いが始まる。


 


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