第71話懇願

 日がかすかに地平線に姿を見せる頃、ふと脳内に警報が鳴り響き目が覚める。なんだ、この感覚は。


 即座に周囲の広域探査に入る、これはなんだ? 人の反応が多数に不定形のような何かが蠢いている。方向は砂漠地帯の方か。


 反応がこちらに向かってきている。これは不定刑生物だな、緊急でミコトちゃんに回線を繋ぐ。


『急ぎの用事だ、現在地付近におかしな反応がある、そこから観測できるか?』

『んにゅぅ~、なんですかぁ~もう。ん~現在エメリカ大陸がこちらから観測できないですぅ、あと数分お待ちを~』

『よろしく頼む』


 爺さんとアンナを急いで起こし身支度をさせる。


「爺さん異常事態だ、何かが近づいている。すぐに移動した方がいい!」

「な、なな、なんじゃッ! ……おんしがいうなら間違いないんじゃろう。ほれアンナ準備せい!」

「う~ん、もう食べられないよう~」


 キャンピングカーに荷物をつめこみ、無人機もハンガーへ回収する、まだ視界の暗闇が完全に開けていないが今は緊急事態だ。エンジンを掛けるとルート55へ向け車を発進させる。


 窓から身を乗り出し後方の街を確認しながら爺さんにスピードを上げる支持を出す。


「これ以上出すと岩山にぶつかるわいッ!」


「――爺さんヤバいのが見えて来たぜ。バックミラー見て見な」


「…………爺ちゃんあれ、超やばーい」


 先程までいた廃墟街が何かに飲み込まれていく、見える限りの地平線がおぞましい不定形の生物に。


「なななななんじゃああああああああッ! ほええええええぇぇ!」


 余りの驚きに車のスピードが急加速する、爺さんやるじゃないか。最悪ハンガーで移動するかな。部外者をいれるのは抵抗があったが悪い人間じゃないしな。


 朝焼けに照らされ不定形の津波の全貌が判明していく。あれは――生肉の塊だ。


 筋繊維と脂肪をぐちゃぐちゃにこねくり回して不定形にすればああなるのだろう。とても生物の体をなしていない。筋肉スライムと言えばいいのか? 創造するだけでも気持ち悪い。


 とある地点を中心に爆発的に増殖しているな……これは人、いや戦車もあるな。軍人関係者か。


『死人さぁん、観測できましたよぉ~、なにこれぇキモチワルッ! 中心点に付近に戦車や軍人がゆっくり飲み込まれてますねぇ~、あ、白い柱が見えます。こいつですかね原因』

『……可能性が高いな。ここにあったのか、埋もれていて発見できなかったのか?』

『反応はなかったんですけどね~もう柱の色変わると法則全く違うから分かんなくなりますぅ~サンプル送っていただければ解析しますよ? 気持ち悪いですけどぉ』

『……………………善処しよう』


 あれを吸収するだと…………できれば遠慮したいが、そうも言ってられないか。


 未だに逃走を続ける爺さんを眺める、相当必死だな。


「爺さん、月に避難するか? あれはもうここら一帯を全てのみ込みかねないし恐らく逃げ切れない。どうする?」


「…………お願いできるかの? 家は……まあ運が良ければ残っとる……のか?」


「どこにあるかはわからないが、アレの増殖速度ヤバいぞ? 残ると思うか?」


「爺ちゃんヤバいってあれ、早く避難しようッ! 月に行けるなんてらっきーじゃん! 死人っちのとこに就職しよーよ! ね、いいでしょ!」


 爺さんが揺さぶられている、おい、運転中だぞ? 


「うぬぬ、トレジャーハンターは店じまいかのう…………死人や……お願いできるかの?」


「任せておけ。とにかく停車させろ。ハンガーを開く」


 車を停車させるとすぐ後方には生肉の津波がやってきている。ハンガーに収納を終える瞬間には津波は過ぎ去っていっただろう。





 自宅兼中央指令室にあるモニターにエメリカ大陸の発生地点を表示する。地球上にいくつもの衛星を飛ばし監視ができる優れモノだ。もちろん通信設備も兼ねており世界のネットワークを担っている。


 家族たちも飛び起きなにか言いたいことを我慢してるようだが緊急事態なので黙殺しているようだ。


「爺ちゃんあれあれ、あそこらへん近所のスタジアムじゃない?」


「あ、ああ……やはりだめじゃったか……」


 増殖速度は速くすでに一つの州が飲み込まれている。このままではまずいので

手始めに高高度衛星からの重力子砲を撃ち込んでみる。目視できないほどの小ささだが命中と同時に拡散、強力な高重力が中心点に掛かる。――だが。


「消えていないだと…………耐性があるというのか?」


『転移魔方陣の応用で未来演算が通りません、もしかすると位相をずらせているかもしれません。次元が違う生物なのかもしれせんねぇ』


「やれることはやろう、質量弾を衛生高度からドンドン撃ち込め。光学兵器もだ」


 エメリカ大陸に向けてガンガン撃ち込まれるも効果は出ない、さすがに世界規模でまずい為に警告の為ネット通信に広域で警報を出す。――もちろんエメリカにもだ。


[緊急事態を宣言します。現在エメリコ大陸グランドキャニオンにて不定形生物増殖し、全ての物を飲み込んでいる。流れている映像はリアルタイムで流しています。エメリコ大陸在住の方は直ちに避難を開始してください。繰り返します――]




 

「糞が! 糞が! 糞が! 糞がああああああああああッ! なんだあの生物は! コントロールできてはいないではないか! ダスティ大佐はどうした!? ――連絡は!?」


「数時間前に途絶したままです、恐らくあの生物に…………」


 秘書が沈痛な表情をしている。そんな顔しなくてもわかっているッ! どうせ失敗したのだろう。それはまあいい。


「なんで、なんで俺の国にに避難警報だしてんだよおおおおおおおお!? 世界警察気取りやがって! 糞がッ!」


 クソ、息切れがしやがる、なんだあいつらの攻撃は、映像を見てたが光線やら質量弾やら、重力関係まで…………あんなの聞いてないぞ! 隠してやがったか。


「ふふっそれでもあの怪物に効いてないだと、それだけは胸がすく思いだな」


「技術部所長の計算によれば、あと半日しなくともエメリコ大陸は消滅するそうです……どうされますか?」


 え…………………………。どうしよ、なにそれ。


「ミ、ミサイルとかアーミーロボットは? 何機かあっただろう?」


「迎撃用に残っていた長距離ミサイルを撃ち込んでいたようですが効果無し、陸戦機は実証実験用に怪物の発生地点に全ておりましたが?」


 冷たいまなざしで秘書が見つめて来る、やめろ、俺をそんな目で見るな。


「…………よし、ルシアにいくぞ、戦闘機を回せ。お前も来たいなら来ても良いぞ?」


「亡命されるのですか?」


「あ、あーまあ、落ち着いたら帰ってくればいい。あいつらが何とかしてくれるだろう」


 秘書の冷たい視線が物理的に伝わってきそうだ、だって俺、大統領は一山いくらの国民より大事な存在だ、死んでいいはずがない。


 いそいそと権利書関係や、必要なものを纏めていると準備をしていた秘書が警備の人員を連れて部屋に入ってきた。


 そろそろ脱出の時間か、あれ、何を向けているんだ?


 秘書が太ももに収容していたハンドガンを抜きこちらに向けて来る。


「元第四十八代目大統領は責任を取るために自決なされました。かわって新たに第四十九代目大統領代理である私、アメリア・ハンドベルが指揮権を受諾します。――愚かで無能な元大統領さん、あなたは最後まで糞でしたわ、地獄で犬の糞でも食べてなさい」


 胸の辺りに暖かい感触が流れている、あれ、血が、でてい、る。なんで……私は……大統……領の……に。





『緊急通信・エメリコ大統領が交代、救援要請です。通信はいります』


 なんだって? 散々反発しておいて今更、いや殺されたか何かかな、どうしようもないだろうしな、あれは。


 俺は代表ではないため阿岸が現大統領と通信を開始する。


『初めまして現大統領代理のアメリア・ハンドベルです。お願いするのも烏滸がましいかもしれません。どうかエメリカを助けてください』


 単刀直入に謝罪、それも大統領代理が深く頭を下げている、後方にいる関係者もだ。これは助けないといけないだろうな…………。


 阿岸は額に手を当てるとゆっくりとため息を吐いた。頭が痛いのだろうな。


「条件はあとだ、現在稼働させられる航宙艦をすべて出す。危険地域からの避難が先だな。戦闘も行えない。急げ、作戦開始ッ!」


 即決だな、惚れ惚れするよ阿岸、ほら大統領も重たい交渉が待っていると思っていたのか口あけて呆けているよ。あ、涙流した。


『…………ありがとう……ございます』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る