第70話トレジャーハント

 頭頂の平たい岩山を背景にまっすぐのびるルート55をひたすらキャンピングカーが走って行く。

 ガワはオンボロだが中身がまるで違う、昨夜のうちにハンガーで中身を丸ごと改修をおこなったのだその際にアンナが起きてしまいずらりと並ぶ工作機器や機体に目を輝かせていたな。

 レールガンでも撃ち抜けない新工法で作り上げられた外装に、旧陸戦機に採用されているリアクターを魔導刻印処理して、無補給でもビームが打てるように改造されている。

 へたすると機体よりコストがかかっているかもしれない逸品へと仕上がった。


「なんじゃあこの快適ゴキゲンな車は、昨夜とは全然違うわい」


「ガトリング撃ち込まれてもへこみもしないぜ? ビームも内蔵している。後方のトラクターは変形するし、飛行も可能だ」


「やりすぎじゃッ!」


 車内ではアンナが目元にVRゴーグルを付けて、空戦機の操縦を訓練している。

 トレーラーの小型空戦機の操縦が楽しみなのだろう。


 荒い息を整えると運転しながら煙草を吸い始める爺さん、それに吊られて俺も肺を煙で一杯に満たす。

 喫煙者がいるとこんなにも気が楽になるものだな。

 スキットルに入れたウイスキーをちびちびと啜る、ジワリと広がる酩酊感が心地い。


 こういう旅も味なものだな。


 アンナが操縦訓練に一段落ついたのか装備の点検を始める、そろそろ目的の廃墟街に到着するそうだ。


 進行方向を荒れ果てた荒野に切り替え砂埃を巻き上げながら進んでいく。


 しばらくするとかつては活気があっただろう街並みが視界に入ってくる。

 ボロボロの光を失ったネオン管の看板、打ち捨てられたクラシックカー、有名なピザ屋の店舗、プレイラビットのマーク等が寂し気に佇んでいる。


 もとはグランドキャニオンにくる観光客向けの街だったそうだ、ゾンビが発生して二十年以上放置されているらしい。


 視界の開けた駐車場に車を止めると爺さんは周囲の索敵を行う、俺ももちろん感覚を広げこの周辺をくまなく探す。


「いくらかいるな、廃墟の地下にいる」


「ほんとか? お主がいうなら嘘ではないと思うが」


「どうする? 今回は俺が居るから楽をしても良いぞ?」


「安全には変えられん。よろしくたのむぞ」


 そういわれるなりハンガーから小型無人機を小隊規模で出す、ぞろぞろと武装した蜘蛛型無人機が這い出て来る。数体は護衛で残りは殲滅に向かわせる。


「この数体は護衛だ、荷運びや護衛をしてくれる。音声認識で判断し行動するから命令もきくぞ?」


 ついでとばかりに輸送に便利な大きめのカートも出しておき、爺さんのデバイスに詳細な周辺地図を送信する。


「いたれりつくせりじゃのう。街のもんにバレんようにせんとな」


「爺ちゃんこれに乗って引っ張ってもらおうよッ!」


 ライフルを背負ったアンナがカートに飛び乗り蜘蛛型無人機に命令をだして装甲を始めてしまう。

 爺さんは慌てて追いかけると飛び乗ろうとする。


「ま、またんかッ! 儂も乗るぞ!」


「楽しい爺孫だな」


 コントのようなことをしながら街の探索を始める、キャンピングカーは警戒モードに設定をしているので問題ない。




 古ぼけたレコードショップを漁りながら爺さんはぶつぶつと呟いている。保存状態も悪くないレコード達は積み重なった埃を除けば今でも使用できそうだ。


「これは掘り出し物じゃの、アンティークな品物は値が付きやすいんじゃ。こいつは店主の趣味が良いのう」


 ごそごそと倉庫らしきところから爺さんが引っ張り出してきたのは焦げ茶色の四角い箱だった。埃を払いふたを開けると蓄音機だった、ラッパのような部分は取り外されており、布に包んで保管されてある。


「ウチの親父がよく聞いとったんじゃ。今じゃCD、いやもうデバイスデータか。レーコードには味があるのにのう」


「もう一つくらい蓄音機はなかったか? 俺も欲しくなってきたな」


 ZPで新しめのレコードプレイヤーは生成できるが、時を重ねたアンティーク品はなんだよな。奥まで探してみるともう一つあったので爺さんにお願いをする。一緒に来てるし経費も持ってもらっているからと遠慮なく頂いた。


 休憩がてら蓄音機でクラシック音楽を奏でるともの悲しさのなかに重みを感じることができた。ぜひ俺の家族にも聞かせてあげたいと思っているとアンナはポップがどうのとプンプン頬を膨らませていた、一応他のレコードにもポップな音源はあるが今時のアンナは分からないだろうな。


 他にも楽器店で、トランペットだったり、壊れたラジオ機器や、カジノで使われていたチップ、埃被っているワインや、ブランデーなど回収していった。

 余りにも量が多かったので一部をハンガーに回収するほどだった。洋酒類は特に気になったので丸ごと頂いたがな。

 こうしてみるとトレジャーハンターというのも悪くないなと思ったほどだ。


「おんし、酒が好きじゃのう、樽ごと持って行きおって」


「飲めることは確認したからな、ワイン何て二十年以上経っているしな。まあ保存方法が悪いから味の保証はしないがな」


「今日は大量に回収しすぎた、ハンガーとやらのお陰で大助かりじゃな。明日も回収したら帰還するぞい」


 そう会話していると血が付いた無人機たちが帰還してくる、索敵してもゾンビの反応がない事から掃除が終わったのだろう。

 水をぶっかけて軽く清掃をしてあげる。


「どうした? 大丈夫だったのかの?」


「ああ、ここら行ったのゾンビ掃除が終わったようだ、軽く清掃をしてるんだ」


 無人機の上には魔方陣が浮かび上がり、雨のように水が降ってきている。もうツッコムのも疲れたのか爺さんはスルーしている。


「爺ちゃん魔法だよ魔法! ねえねえ私も使えるのかな!?」


「うーん、今は使えないかな? ブラスターを上げるから今はこれで満足してくれ」


 そういうとブラスターのレクチャーを行う、瓦礫に向けて撃つとジュワッと音を立てて溶けてしまい、爺さんが唖然とする。アンナは喜ぶが扱い方によく注意をするようにと警告した。


 日が沈み辺りも暗くなったころにキャンピングカーに戻り駐車場で食事の準備をする、ここは豪華に焼き肉でもしようと思う。


 特性の鉄板を用意し、火種を準備する。魔法で炙ってもいいが炭を使うとする。


 十分温めた鉄板に肉を乗せるとジュウジュウと油が跳ねお腹がすくにおいが周囲に漂う、臭み消しに今日回収した赤ワインを掛けると綺麗な炎が瞬間的に立ち上がる、コレコレ、これがしたかったんだよな。


 爺さんとアンナは涎を垂らしながら用意した紙皿を手に握りしめている。


 待たせるのも悪いと思い冷たいジョッキに入ったラガーを生成すると目の前に置いてあげる。キンキンに冷えて水滴の滴るジョッキを見るなりカパカパと飲み始める爺孫、一気に飲み干すなりお代わりをジョッキを掲げることにより催促してくる。――しょうがねえなあ。


 追加で二杯を置き飲み干すまでに肉を焼いてしまおう。焼き加減はミディアムレアに仕上げナイフで一口サイズに切っていき紙皿に次々と乗せて行く。

 数枚纏めて焼いたため、食い尽くすにはたんまりとあるので持つはず。

 ラガーを飲みつつゆっくりと食べさせてもらおう。




 口の中に溢れる肉汁とワインの残り香が鼻を突き抜けて行く。キンキンに冷えたラガーののど越しが今日の疲れを癒してくれる。

 腹がくちくなったのかアンナはうつらうつらと毛布を羽織り船を漕いでいる。


「孫のアンナと二人で細々とやっておったがこういうのもたまにはいいのう。息子を思い出すわい」


 遠いい眼差しをしながらしみじみと呟く、恐らくアンナの父親だろう、生まれたころにはゾンビが蔓延る世界だったはずなのに逞しい事だ。

 今ここにいないということはそういうことなのだろう。

 

 阿岸も親を再生しないのかと聞いたのだが断られてしまった。理由を聞きたかったのだが『摂理に反した私が言うもなんだが、蘇るのはそう多くない方がいい。キリがなくなる』と心配をされてしまった。まあ家族が死んだら即座に蘇生だがな。


「このままトレジャーハンターも悪くないがいずれは安全な職にしようと思ってる。まあ年寄りの独り言だがな」


「その時は相談ぐらいうけてもいいぞ。安全とは限らないがな」


 その後夜遅くまで爺さんと語り合った。ただ分かったことはアンナの可愛い所が複数分かっただけだがな。

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