第56話地球へ帰還

 消え失せた帝国軍に対し、王国兵は賞賛の声も勝利の雄たけびも上がらず、ただただ沈黙で支配される。

 ゆっくりと機体を向けると慌てて撤退を開始し始める。


「これじゃあ邪神か何かだろ俺」


「旦那様の活躍は私が見ていますよ? お気になさらず。畏怖されるとはこういうことなのですよ」


 ここに居てもしょうがないので高度を上昇させ、機体をアードルフ君の領地へ向け、発進させる。







 帰還途中の鬼族の集落をついでとばかりに殲滅し魔石を回収する、地球に帰還するとなかなか魔石を得る機会はないからな、研究用にも回収して置く。


 他の領地にも大規模な拠点が点在していたために到着したのが数日たった後だった。


「旦那様、収集癖が少々強いようですね」


「いや、落ちてたら拾うだろ? 安全も確保できて両得じゃないか」


 家に帰れると思っていたのに数日たてばさすがのエステリちゃんもむくれるか。機体をエステルちゃんのお家に着陸させる、俺の家でもあるのだが単身者用のこじんまりとした家だ。

 小さくとも庭はあり、花壇の手入れもされている。死の谷へ向かう前にご近所さんにお願いをしていたのだ。


「国境の戦争の状況もすぐには伝わらないし明日にでも挨拶に行くか」


「ええ、私もご近所さんと兵舎に挨拶に行きます」


 いつ戻るか分からないがエステリが遠くへ行くのだ挨拶は必要だな。





 


「そうでしたか。国境での出来事は真偽不明で伝わっております。帝国軍が銀の巨人に滅ぼされた、と」


「ああ、皇帝を殺してなお止まらぬからな。殲滅した。警告はしたのだがな」


「いえ、助かりました。全軍とは言いませんが戦力の低下は免れないかと」


「エステリの顔色が陰っていたのでな。助力したまでよ」


「して、異界へ帰還なされるとか。またこの地へ参られるのですか?」


「エステリの故郷だからな。頻繁ではないが帰ってくるつもりだ。その際に取引できるよう物資は用意するぞ」


「ありがとうございます。ぜひお待ちしております」


 領主であるアードルフ君は深々と頭を下げ見送りをしてくれる。最後まで愛想が良かったな、今度来た時はお土産を豪華にするとしよう。


 ともにいたエステリちゃんと兵舎へやって来ると歓迎された、嫁に行ったことも知っているのでお見送りは盛大だ。

 その中で行き遅れ発言をしたと思わしき女兵士に、エステリちゃんが物凄いドヤ顔で自慢していたのは可愛かったな。

 

「もう挨拶は良いのか?」


 少し寂しそうに兵舎を眺めるエステリに声を掛ける。


「ええ、最期ではないので。行きましょう旦那様」


 機体へ二人で登場し空へ舞い上がる。


 この異界へ来た地点へと飛行を開始する、その座標から転移することで消費されるエネルギーが少なくて済むらしい。

 こちらに来ていた中民軍は見当たらないな、恐らく鬼族や何かにやられた可能性は高いだろう。


 地球の転移地点は軍の真っただ中なので戦闘になる可能性があるので心構えだけしておこう。


『転移準備開始する』


『了解、転移準備開始、エネルギー充填完了、いつでも行けます』


『転移』


 視界がぐにゃりと歪んだ瞬間には赤柱の付近に浮かんでいた、眼下には軍が駐留しており、ステルス化によりこちらに気づいていない。


『ミコトちゃんこの赤柱も吸収するよ』


『わかりましたぁ~準備は良いですよう~機体での接触開始してください~』


 機体からの吸収は効率が悪いがこの柱なら問題ない。機体が触れたところからドンドン吸収されていく。大本がコアの内部に存在するからな、黒柱じゃ破壊しかできない。


 吸収が終わると久しぶりのゾンビ狩りへ向かうZPがすでにないに等しい、本職を外れてしまっていたが大幅な戦力強化になったので良しとしよう。


『ミコトちゃん索敵お願い』


『あいあいさぁ~。あれ範囲内に新たに黒柱が発生してますぅ~激やばでぇす』

『すぐに発進、地中に埋まっていないならこっちのものだ』


 すぐさまに一番近いポイントの黒柱に到着、同化を試みるも制圧できない。


『どういうことだッ! どこかに潜入できるところはないか?』


『まるでこちらの侵入プロセスがばれてますよぉ~、目標ゾンビ排出ぅ? 大量に未確認ゾンビが黒柱を中心にひろがってますぅ』


 柱の至る所に開口部が開きうじゃうじゃと奇形のゾンビが出て来る、顔は存在せず大きな口に歯茎が剥き出しで四肢は人間の手だ。スカベンジャーとがしゃ髑髏を混ぜたような容姿をしている。


 ビームで射撃を行っているが殲滅速度が追いつかないし半径50km以内の全ての黒柱がゾンビを吐き出している。


『重力子砲撃つぞ、準備でき次第発砲してくれ』


『エネルギー充填完了、発射します』


 黒柱に命中すると大きく抉れるものの、地中に埋まった柱の箇所からゾンビが湧き出て来る、二発目、三発目と打ち続けることにより、ようやく停止する。


 後に残ったものは巨大なそこの見えぬクレーターだけが残っている。次第に地面が陥没していき崩壊が始まる。


『これは地球に滅べと言っているようなものだな、黒柱を発見次第消滅させる。ルートできているか?』


『できてますよぅ~、順次殲滅行動にうつりますぅ~』


『これ撃つの楽しい、父上』


『そうか、まだまだあるからな黒柱が』


 西州にある黒柱だけでも三桁は言っていたのでこの中民国の広さでどこまでの地域に黒柱が発生しているかはわからない。再び人類の危機という奴かもしれない。







 この付近の黒柱の殲滅が終わり次に移ろうとしているときにゾンビの集団が防壁都市へ向かっているのが確認される。


『ビームをとにかく撃ち込んでくれ、王氏が心配だ』


『はいさぁ~』


 飛行速度を上昇させ都市に向かう、地平線を埋め尽くすゾンビの群れは止めようがない。仕方なく重力子砲を撃つも、取りこぼしが出ている。


「クソッあまりにも多すぎる」


「旦那様、私が空戦機で出ます、レクチャーを受けていますので飛行と射撃ならなんとか」


「――わかった一度降りるぞ、機体を出す。地上に降りないよう注意してくれエステリ」


 ハンガーに収容されているデフォルトの空戦機を引き出しエステリが搭乗する、つたない飛行だが打ち漏らしが減っている。


 都市の上空に到達したころにはすでに内部にゾンビが侵入し市民を襲っている。


「マーキング頼む、できるだけ減らすぞ」


『ほんとゾンビはろくでもないですねぇ~』


 副腕を全て展開、指先から複数のビームを射出する。

 燃え上がる都市の上空から降り注ぐ光雨と、火災を消火する為の雨を魔方陣を展開することにより降らせる。

 

 都市の防壁上に友軍反応が出ているのが確認できる。あれは、王親子の機体か。


「王氏、聞こえるか死人だ状況を報告せよ」


『死人様ッ! お帰りになってたんですね』


『死人さんですか、避難が完了していません。同化援護を』


「了解、口調は雑でいい避難経路を口頭でいい支持してくれ。エステリこちらで援護を」


『了解しました』

 

 四機の火力が有れば段々とゾンビの圧も衰えて来る、防壁外のゾンビは俺が殲滅し、内部の残党を三機で処理を行ってる。







 周囲はゾンビの残骸だらけで地面が見えていない、肉の焼けるようなにおいが先程から漂ってきている。都市の死者も膨大で数えるのが億劫になるほどだ。


「状況終了、各員報告せよ」


『王です、周囲のゾンビは殲滅いたしました。現在防御力の高い拠点で周囲を警戒しております』


『鈴です、同じく警戒中。えっと先程から異国の言葉で喋られてる方も一緒におられますが?』


『死人様、すみません会話ができないです』


「そうか失念してたな、後日翻訳機を作る、それまで待っていてくれ。王氏そちらに向かう」


 拠点らしき頑丈な建物に期待を駐機状態にしハッチから降りる。そこには悪人面をした初老の王氏と理知的美人のメガネをかけた鈴が出迎えてくれた。

 エステリは機体に搭乗したままで警戒をしている。


「久しいな王氏、鈴、ちょっと異界に行っていたのだが今回は災難だったな」


「異界へ、またすごいことをしますな、ここ数日ゾンビの大群が突然現れてずっと防衛線だったのですよ」


「それにしても会いたかったです、私の愛しい人」


 そういうなり、俺の胸元へ鈴が飛び込んでくる。難なく受け取り熱いキスを交わす。親の前で。


「おほんおほんッ! 娘と仲がよいのは歓迎ですが中へどうぞ」


「うふ、後でたっぷり相手してね死人さん」


「もちろんだ、エステリすまない。警戒だけ頼む。埋め合わせするから」


 そういうと機体で気にするなと手を振られる。できる嫁だな。

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