第55話重力子砲展開

 全ての赤柱の端末を回収するまでに半月ほどかかってしまった。位置情報を常に把握をしていたのだがそれでも物量が凄まじいのだ。


 赤いキューブの機体も解析が進みハザマへの同化、回収を行っている。


 見るだけでウンザリしそうな数の刻印が刻まれた魔導リアクターを解析、融合化するのはスペックの上昇したミコトちゃんで疲れていたな。


 元の地球への座標アンカーもデータに残っていたので帰還する事には問題ないそうだ。その代わり膨大な魔力と出力が転移技術を使用することに必要なので動力源の開発待ちだ。


 最後の回収作業が終わるまでにエステリちゃんはニコニコと笑みを浮かべながらずっと俺の傍に寄り添っていた。


「旦那様は神認められ同化しました。すなわちこの世界の頂点です」

 心を読まれる能力はないはずだが……。


「ふふふ、私の旦那様は凄い方なのですよ……あのクソビッチめ、行き遅れなんぞ私に言いやがって……」


 意外な一面垣間見えたがそっとしておこう。


 回収も終わり帰還しようと考えていると、急に地鳴りが発生し周囲の壁面が狭まって来る。このままでは機体諸共圧壊してしまう。


『全力起動、ブースター吹かせッ!』


『我、頑張る。魔導ブースター緊急始動、出力安定せず』


『構わん、あとで治すッ! ミコト安全で最短ルート策定、早くッ!』


『嫁使いが荒いでぇす~』


 景色が凄まじい勢いで流れて行く、機体に壁面や瓦礫がたまに衝突するが構わない。改修途中のリアクターが悲鳴を上げる、限界を越えれば消滅の可能性もある。


 深刻そうな顔をしながらもエステルは邪魔にならないよう俺の服を握りしめている。こんなところで死んでられないな。


「エステリ、俺を信じろ」


「はい……旦那様」


 会話のさなかも操縦に集中する、大きな瓦礫を副腕のビームで打ち抜きながらも機体を飛ばしていく。

 どこで刺激されたのかマグマすらも壁面から噴き出し頭上から降ってくる。


「ッチ。温泉に入りに来たんじゃねえのによ」


『そのまま突入してください、耐えますぅ~』


 マグマに頭から突入するも機体損傷はない。徐々に機体内部の温度はあがっている。

 ハンガーにエステリを収納しても俺が死ねばどうなるか……最悪収納するしかないか。


 回避運動を繰り返しながら機体は上昇する。


『巨大質量岩来ます』


「撃ち抜けぇぇぇぇぇえッ!!」


 副腕展開、全門開けッ! 現在出せる全力の火力が大岩を粉砕する、薄っすらと明るい空が見えて来る。もう少しだ。


『リアクター損傷、速度低下します。改修中でエネルギーもれてますよぅ~』

『あと少しだハザマも耐えてくれ!』


『体痛い……頑張る父上……』


 ブースターの光が段々と消えて行く、重力に捕らわれ落下を開始する。


「壁を貫けッ! 上るぞ」


『補佐します』


 徒手で壁に穴をあけ這い上がる。大量のマグマが背後から湧きあがって来る、機体脚部がマグマに浸かった頃、ようやく地上に手が届いた。


「撤退、走るぞッ!」


 マグマの噴火に巻き込まれないよう高台へ駆け上がる、飛行機能が現在停止しているからだ。

 安全圏に逃れることができると大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。


 視線の先には死の谷からあふれ出す真っ赤な溶岩流、周囲の木々が燃え盛り黒煙を上げて行く。その勢いはとどまることを知らず溢れ、吹き出している。


「エステリ、一度空戦機に乗り換える上空から様子を見よう」


「分かりました」


 ハザマには悪いが修理の必要があるからな。懐かしい初期の空戦機に搭乗し、上空から地面に広がる光景を観察する。

 大陸を縦断する谷からは絶えずマグマが溢れ出て留まることをしらない。


「これ、いつ止まるんだ……」


「しばらく様子見が良いでしょうね。旦那様、無事の帰還おめでとうございます」

「ありがとうエステリ、けれど久しぶりに冷や汗がでたよ」


「ふふ、そうですか」







 半日程経過を観察していたが段々と噴出量は減り、停滞するようになる。海にでも流れているのだろうか。大惨事にはならないが生態系が色々変わりそうだな。




 機体修復を行うため、海辺に空戦機を着陸させ休養を取ることにした。


 回収作業に撤退と、かなり損耗させてしまった、改修作業を地上で行えばよかったのだがまさかあんな事態になるとは想像していなかったためだ。地上に問題はないと聞いていたが、確かに問題ない所が憎い。地殻変動の危険性くらい教えて欲しかったものだ。


 



 砂浜にエステリちゃんと二人で海水浴を楽しむ、白のビキニがとてもよく似合っている、海水を弾く褐色の肌に白のビキニのコントラストが良く映える。

 泳ぐために激しく動くとたわわなお胸が弾み、お尻にビキニが食い込む。その度に指で何度も戻しているエステリちゃんを眺めていられるここはまさに天国だ。


 背が高く、腹筋は割れているのに対し四肢はそれほど逞しくない。むしろスラリと伸びる手足は美しく世の女性が羨む抜群のプロポーションである。


 日が暮れるころには焚火し、波の音をバックミュージックにゆっくりと酒を嗜む。火に照らされるエステリちゃんもグットだね。


「旦那様、修復が終わり次第如何なされるのですか?」


「そうだな、領主の所に顔を出したら異界に、いや地球に帰還するかな? ここの座標アンカーも記憶しているから帰って来られるしな」


「そうですか、両親はいないですが故郷に帰れるとなると少しは嬉しいです」


「里帰りも偶にはするから心配しないでね。あとは戦争の状態の確認をしようかな、現状どうなってるかが知りたいしね」


「煩わせてすみません……」


「いいのいいの、あの皇帝がどうしたのかを見なきゃね、戦争自体は否定しないけど」


「まだまだ未熟なのですねこの世界の人類は」


「いや、俺の世界でも良く戦争が起きるよ。人の本質は変わらない。貪欲に幸せと欲を追求する」


 煙草に焚火の火を付けるとゆっくりと肺に煙を落とす。吐かれた紫煙は儚く夜空へ消える。


 沈痛な面持ちで火を見つめるエステリにも何も言えない。俺にも守れる範囲というものがあるからだ。確かに戦争は止める力がある。だがそれは当事者の力で解決するしかない。大きな力に依存してしまうからだ。


 それを理解しているのかエステルは何も言ってこない。


 だが身内の顔を曇らせるくらいなら道理の方を破壊するさ。


「わがままを言うのも夫婦間の長持ちする秘訣らしいぞ? そんなに頼りないかな?」


「――いえ、その……助けてください」


「皇帝に言った手前、虐殺は建前上できないが止めることはできるぞ?」


「ありがとう、ございます……」


 ホロリと一筋の涙をながし、俯く。なんと美しいのだろう。そういう感性はおかしいと思っているのだがそうとしか言えない。


「まあ、飯でも食うぞ」







 リアクターの修復と適合されたハザマの調子はすこぶる良い。出力も反応も良すぎるくらいだ、機体は一回り大きくなり、髑髏フェイスには赤いラインが追加で施されている。

 念願の魔導リアクターもハザマに適合させることができエネルギー問題も解消した。転移技術は使用できるが重力兵器は危険すぎるためまだ試験運転をしていない。


 王国の国境付近まで飛行を続けると同時に索敵も行っている。帝国側からの飛行なので眼下には進行中の兵士たちで一杯だ。


「進行自体は止めれなかったのか止めなかったか分からないが。まあ皇帝が死んで直ぐじゃ軍も掌握は難しいか」


「ああ……戦争が続くのか……」


トラックらしき魔導車に兵員が詰められ、順次戦闘区域に送り込まれている。


 国境付近の砦には王国兵が魔導銃を構え防衛に徹している。動員数も兵器も帝国が圧倒的に上だ。このままでは打ち滅ぼされるだろう。


 どうするか、あれだけの魔導車に平気だと殲滅するしかないよな。取り敢えず状況を聞いてみるか。


 戦闘が開始される前に戦場のど真ん中にステルスを解除して降り立つ。一回り大きくなった銀の巨人の威圧感は相当な物だろう。一瞬戦場に沈黙が走る。


『なぜゆえに戦争を起こす? 帝国の責任者よ、出よ』


 兵士の間をざわめきが支配する、だがなかなか出てこない。喚き散らしている者がモニターに伺えるが一先ず待機する。


 話が終わったようだが急に射撃を敢行する。機体の障壁に弾かれ攻撃は一切通じない。


『もう一度問う、何故ゆえに戦争を行うのか?』


 返事は魔法の嵐だ、先程までよりも弾幕が厚い、こいつら正気か? 俺のことを報告を受けているはずだが信じなかったのかもしれないな。哀れな。


『再三の問いに返事は攻撃だと、恥を知れ。兵士どもよ残念だったな、来世の幸せを願う』


[出力最小に留め重力子砲展開、カウント始め]

[5.4.3.2.1.――]


『死ね』


[fire]発射


  軽薄な死の宣告が放たれたのち、発射音すら聞こない地獄の蓋が開かれる。


  極限まで圧縮された小さな黒い玉が兵士たちの居る中心へ射出される。

 周囲の経過時間さえ狂わせる死が突き進む。


 圧縮された粒子が臨界を迎え重力崩壊を起こす。全てを重力の檻へと落とす虚無の穴が展開。車両や兵士どもを全てのみ込む。


 中心へありとあらゆるものが吸い込まれ圧壊する、地面は削り取られ空気や光さえも捻じ曲げる。


 黒い玉が霧散し後に残るものは巨人に食われ、無残にも大きくへこんだクレーターだけだった。

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