第54話死の谷の調査

 ここが死の谷。死者の国へ向かう谷底か、ハザマに搭乗し大地を割く亀裂に降下中だ。ゆっくりと下降しているのだが未だ底が見えない、気温も少しずつ上昇しているようだ、もし飛行の魔法があっても帰って来れないだろう。


『現在深度は?』


『現在40kmを越えています、地球ではマントルに到達してもおかしくない距離ですよぅ~』


『ギリ外殻あたりか、下手にビーム打ってマグマ噴き出さないよな……』


『あまり刺激するのはよくないですねぇ~、一応障壁も展開すれば持ちますけどエネルギー消費が追いつかないですぅ~泳ぐとなればヤバいでぇすよ?』


『まだマグマは泳げないか、今後の課題だな』


『積層構造にした装甲一枚一枚すべてに耐火耐熱の刻印を増加させるでぇすね、工作機械増設して用意はしますぅ。エネルギーさえ解決できれば搭載できますよぅ』


 そろそろ機体のフレーム設計から取り掛からないと駄目みたいだな。


 



 そろそろ底が見えてもおかしくないと思うが、センサーに反応していないだと……。


『モニターに反応有り、センサーに反応はありません~』


『隠蔽魔法でもかかってるのか? あれは……』


 とうとう赤柱を発見した、両サイドの壁面に数メートル程の赤柱が突き出している。規則的な文様が薄い光を放ちながら鼓動のように明暗している。

 視界が届く範囲すべてに赤柱が壁面一杯に突き出している、一体何本あるんだこりゃ。


『接触して確認するか?』


『了解ですぅ~、一応障壁展開の準備してますぅ』


 ゆっくりと一本の柱に近づき接触する。これは…………。むしろ同化を歓迎されているだと?


『なぜかすんなり掌握したですぅ~一本だけですけど』


『吸収を行う。ハッチ開いてくれ』


 手のひらを直接同化させる。感情がイメージと共に流れ込んでくる。育み、見守る事、観察、喜び。


『こいつは、この世界を産み出し見守るだけの存在のようだ、それしか分からない。現にこの世界を現在は放置しているだけのようだ』


『■■■さんも赤柱のクエストだしてないですよねぇ~むしろ有益? とでもおもってますよねぇ』


『最深部に中枢があるはずだ。吸収するかはそれで決めよう』


 いきなり吸収して世界が滅びる何て最悪だからな。


「旦那様どうなされましたか? 先程から思い悩んでますが」


「ああ、これはこの世界に住む神に等しいのかもしれない。最深部に向かおうと思っている」


「仰せのままに」







 最深部に到達すると一面赤い結晶だ床も壁も何もかもが、だ。

 ゆっくりと、機体を地面に着地させる。


「綺麗ですね、なにか暖かいものを感じます」


「ああ、何か優しい感じが伝わって来るな」


 一際大きな柱が明暗してこちらを誘っている。同化したから分かるのだろうか。

 機体を降りて一人で向かうことにする。


「エステリ、機体で待っててくれ。大丈夫だとは思うがな」


「分かりました。無事をお祈りします」


 柱に手を当てると入り口がゆっくりと開き、人ひとりが通れるほどの通路が形成され、中は明るく照らされている。どうやら通路は中央演算室へと向かっているようだ。


 入り口を潜り中へ侵入していく、暫く進むと大きなホールに到着する。

 黒柱と同じくモノリスが存在しているがその大きさがとんでもないサイズだ。

 モノリスを見上げるも、どこまで伸びているか分からず。横の幅は50m程だ。


 モノリスの足元に機体が格納される際のキューブに似たものが据えられている。

 あれは機体のキューブなのか? サイズが一回り大きい。

 キューブに近寄り触れてみると認証登録が完了したと通知が飛んでくる。

 

 魔法文明を基礎に作成された機体らしいのだが詳細が全く分からない。これは解析に時間がかかる奴だな。


『演算装置はどうする? 会話とかできるのか?』


『意志みたいなのは確認できますねぇ~ちょっと待っててください。

接続確認、ログ解析、施行、施行、施行、ロード開始、解析、解析、解析』


 しばらく待機だな、脳内はもう忙しく少々熱を持ってしまっている。古くからの文明や人類を観察してきたのなら膨大な時間がかかるだろう。

 エステリちゃんを呼んだ方がいいのか?

 





 ミコトちゃんが再起動したようだ、概要を窺うと地表に影響はないので同化吸収を行え、と。


『ミコトちゃんどれくらいで同化と解析できる?』


『これは数日かかりますよう~機体呼び寄せますねぇ~』


『わかった、エステリちゃん連れて来るわ』







「これがご神体ですか……なんと壮大な」


「ああ、古くから見守りすべての生物を生み出した神だ」


「神よ我らを作り感謝いたします」


 膝を付き祈りをささげるエステリちゃん、まあそんな気持ちにもなるよな。科学的なのか魔法的なのか未だに分からないがこの大地に住まうものの母だからな。


 ここまで神様然とする存在ならば俺でも敬意を抱く。地球の人類も何かしらの柱が生み出したのかもな、エステリちゃんと交配できるし恐らく妊娠もする。


 基礎というか金型が同じなんだよな。そうなると黒柱が歪んでいるというかなんというか。


 現在手を付かなくてもデータの吸収を行えている。モノリスが協力的なのだ、まるで全てを託すような。

 データの詳細も使い方もミコトちゃんが学んでいるらしい。


「エステル、この神と我は、いや俺は同化することになる、それともうエステリに尊大な言葉遣いは辞めるがいいか?」


「ええ、最近旦那様が少々無理をなさっているのは気づいてましたよ? ふふっ可愛いいとこもあるのですね」


 真面目で丁寧なダークエルフの嫁さんも最高に可愛いよ。


「そうか、その儀式には数日かかる。ハンガーに宿泊施設があるからそこで過ごそう」


「ええ、もちろん着いていきますとも」


 それから数日エステリとも少し砕けて過ごし爛れた生活を送ることになる。

 真面目で固い印象があったがものすごく尽くすタイプのようだ、異界に複数妻が居る事にも動じずむしろ当然とまで言い放っていた。頼もしい。そのまま阿岸と相談してほしいものだ。


『死人さんがエステリちゃんといちゃいちゃしてる間に解析おわりましたよぉ~、吸収はすぐにできますけど赤柱さんが話をしたいらしいですよ~』


『わかった、繋いでくれ』


[我、大地を作り、我、子を作り、我、見守り続けた、我、永い永い時過ごした、故、大丈夫、安心、我、眠る、我、託す。貴、自由に、貴、育み、貴、滅ぼし、貴、自由]


 これはイメージと共に言葉が感じることができている。一方的だが理解はできる。


[貴、力求める、我、機体渡す、我、共にある、貴、共に生きる、我、願う]


 わかった……俺と共に生きるといい。存在を残そう、新しい母なる家族よ。


『吸収同化開始します。[お部屋]に存在の固定を行いますリソース、SPすべて消費します。分解、構築、再構成、誕――、■■■による介入、存在に■■■が混入しました、再構築、誕生』


『まぁた■■■さんが悪いことしてる』


『人格形成に時間経過の必要あり再起動時に通知します』


 目の前のモノリスと赤いキューブが全て俺のコアに収納される、今までとは比べ物にならないくらい器が広がる、魔法技術、魔方陣の技術、魔の理。転移技術、重力制御。色々なものが駆け巡る。


個■■■:コ■[死人]シビト

ウル:[■■■見つ][魔の理]

[アー■マン]

邪悪なる■■■

■ZP ■■■


 おーい、仕事してくれ。だがなんとなくZPもSPもあるのが分かる。いやこれはすべてが一本化されたのか? リソースとも言い難い。魔力も情報イデアも元になる何かが俺の中にある。試しに飲み物を生成――できた。ZPらしきものは減っている感じがする。数値化できない。だいたいこれぐらいだなという感じはあるがな。だがこのZPは集め消費せねばならないという焦燥感を感じる。

 

 吸収は終わったが馴染むまで時間はかかりそうだ。

 お部屋にも赤さんが生成されるみたいだし。後は周囲にある小さな端末である赤柱を全て吸収せねばな。


 また骨が折れそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る