第53話皇帝をしばく

[装甲強度、エネルギー効率上昇を確認]

[魔導ブースター点火、飛行速度上昇確認]

[魔力生成装置正常動作、機体制御安定]

[魔導兵器試射開始、着弾、目標誤差修正]

[試験終了]


 現在ハザマの試運転を行っている。夢の重力兵器はまだ理論が完成しておらず鋭意研究中だ。

 防御力と機動力の上昇、火器類のレパートリー増加は完了した。火力はビーム兵装と遜色ないが、属性を変更できるだけでも有効な攻撃方法になるだろう。

 火炎放射器などロマンだろう、爆発属性を付与したパイルバンカーもあるぞ。腕の後方に噴き出す爆炎などカッコいいだろう? え、効率が悪い? ミコトちゃんそんな事言わないで。


 研究開発に夢中になりZPがすっからかんだ、死の谷へいこう、と旅行みたいな言い方だがゾンビが居て欲しいと思ったのは初めてだな。

 財政担当のミコトちゃんもカンカンに怒っている、甲斐性なしではないぞ?


「エステリ、死の谷へ行くぞ。案内をしてくれるか?」


「もちろんです旦那様、あなたの望むままに」


 なぜか正式に婚姻することになったエステリちゃん、もちろん黒耳族の崇拝する神のいる教会で式を上げましたとも。

 

 神の固有名詞がなぜか翻訳されず、黒耳の神と呼んでいる。

 

 その時に着ていた純白ドレスが人気になり、領内の結婚式で流行っている。もちろんそれも含めてZP枯渇しているんだけどね。

 

 純白ドレスで誓いのキスを行うと、この領地にその習慣はなく盛大に盛り上がった、エステリちゃんは恥ずかしそうに俯き可愛かったけどな。







 現在ステルス状態で帝国上空を高度高めで飛行している。魔導装甲化で隠蔽も行えるが完璧ではない。

 腕のいい魔力感知できるものが居たら発見されてしまうため、高度を上げている。


「まさか魔導帝国の上空を通るとは思っていませんでした」


「そうか? 意外と繁栄しておるのだな帝国も」


 モニター越しながらも人が行きかう様子が伺える。数度の街を飛び抜いていき巨大な帝国の象徴である城が見えてくる。王国のものは見たことないが、かなりの大きさだな。

 生命線である道路も綺麗に整備されており主要道路は城を中心に放射状に広がっている。

 魔導車が行き交いトラックのようなものもある、街灯も本数が膨大で近代化されているようだ。


 ファンタジーみたいな異界といえ、ここまで発展していればすでに産業革命も起こっているな。精霊王国も進んではいるが兵器開発に生産性の上昇、人口ともに王国は厳しいな。他国との連合もまだ組んでいるとは言いずらい。


「厳しいのう」


「……そうですか。いえ、そうですね。初めて帝都を見ましたが人口、生産性共に負けています。悲しい事ですがこれが時代の流れなのですね」


 エステリちゃんには俺の世界の世界の流れ、戦争や兵器開発など様々な事をデバイスを持たせ勉強させてある。一緒に居る事が決まれば常識を学んでもらわないとね。


「城に一発撃ち込んでいくか?」


「いえ、また皇帝が生えて来るだけでしょう。王国は変わらねばならないのです。あの機体が作れるようになればいづれ勝利することも可能でしょう」


「そうか? エステルの思うままにしよう。この都市を蹂躙もできるが帝国も悪とは言えまい。侵略は悪だがこれも人類の成長期なのかもな」


「はい、もちろん王国への侵略は止めねばなりません。ですが私はもう旦那様の伴侶。分かっております」


「可愛い奴め。その侵略戦争は協力しよう、そんな悲しい顔するでないぞ」


「――はい。旦那様」


「エステリを悲しい顔にさえたのだ挨拶くらいはしておこう」


 機体のステルスを解除し城の城門に体当たりをかます副腕を生成し防壁を破壊しつくす。伝統的な防壁は瓦礫へと変わり防壁の守衛は逃げ惑う。死人はでていないが帝国の象徴が崩れ去っていく。


 銀の副腕を持つ巨人は殴り、踏みつぶし、破壊していく。兵士達は恐れ慄くだけで反撃も来ない。


「どうだエステリ、少しは気分も晴れるのではないか?」


「ふふふっ旦那様お茶目なんですね……ああ、でも胸がすく思いです。こんな幸せでいいのでしょうか?」


「もちろんだとも。おや、大量に兵士がやってきているな。挨拶してくる、機体内で待機しておれ。エステリ」


 ハッチを開き機体を上空へ待機させる。魔法で障壁を多重展開、最大巨人化し副腕展開、竜人化も象徴するすべてを出す。


城の破壊された城壁の上に立つと周囲に聞こえる咆哮を展開する。


「人を殺し踏みつけ己が覇道を行く者達よ、ひざまずき、平伏へいふくし、こうべを垂れよ、己が所業を思い起こすのならばすぐに行動せよ」


 慌てふためく大量の兵士たち、いつまでも跪かないので重力魔法陣を展開。

 死なない程度に周囲の人間は地に縛り付けられる。


「己が侵略により踏みつけた民の気持ちが良く分かるだろう? 感謝せよ。して責任者とやらは出てこぬのか? 一刻30分程待とう。過ぎれば滅べ」


 そういうなり瓦礫の上に横になる、肘を突き顎に手を当てる。なぜか超越者ムーブで楽しくなってきたわ。

 でかい図体で横になっていると眠くなってくるな、障壁と重力を展開したまま居眠りをする。






 なにか俺を呼ぶ声が聞こえて来る『寝坊ですよぅ~皇帝さんきてますよぉ~』まじか。


 目を開けると苦しそうな顔で眼前に跪く見た目は豪華な衣装を着た偉そうな爺さんがいる、周囲にも似た顔をした息子のような人物もいるようだ。何で苦しそうなのかをふと考えていると。あ、重力魔方陣展開したままだったわ。内心焦りながらも解除する。


 そ知らぬ振りをしていると皇帝? 一番偉そうな髭の長い白髪爺さんが喋りかけて来る。


「巨神竜様のお呼びと馳せ参じました、怒っておられましたが何か不都合がございましたでしょうか?」


 身体を起こし起き上がると皇帝の目線も上がる、首が痛くなりそうだな。地面よりESPで身体を浮かし、副腕を阿修羅のよおうに展開する口から炎を天に向かい吹けば偉そうに見えるだろう。吹いた瞬間絶望顔に皆が変化したがな。


「問う。なぜ侵略するか?」


「…………我が帝国が舵をとれば人類の発展に向かうと存じ上げます」


「鬼族や多種多様な外敵が居てもか?」


「左様でございます。戦争とは発展を促す物、人類の悲願でございます」


「一理あると認める。人類の発展に争いは必要。その思いに嘘偽りはないな? 我欲はないと申すか?」


 ESPで皇帝の感情、内心を読む。


「もちろんでございますとも、決して我欲はございません」


 嘘だ。世界は己が支配すべきと考えている。支配欲、征服欲、野心の塊だな。


「……後継者も同じか? 前に出よ」


 金髪の背が高く眼鏡を掛けている青年が出て来る。理知的で宰相タイプかな?


「…………皇帝のおっしゃる通りでございます」


 嘘だ、何度も侵略を止め内政重視で政治を動かしているようだ。


「……皇帝、我を謀るか?」


「そんなことは滅相もございませんッ! 嘘は言いませんとも!」


「我が心を読めぬとも? そこな青年どうなのだ?」


 皇帝が顔を伏せものすごい汗を掻いている。


「…………私は侵略に反対し内政に力をと訴えましたが…………」


「キサマッ! 嘘をい――ぐうううう」


 皇帝にちょいきつめの重力で地に伏せさせる。言いザマだな。


「真を言う青年よ。この愚物はどうする? 裁けるのか?」


「………………いえ」


 そりゃ皇帝殺せとは言えないよな、だがこいつが後継者になれば意外とうまくいきそうだな、帝国が強くなるけどまあそれはそれだ。


「皇帝再度問う、野心はないのか?」


「も、ももももちろんでございます! ええ、ええ!」


「もうよい、その薄汚い顔と口を見せるでない」


 青年の隣にいる皇帝に巨大な拳振り下ろす。最後の呆然とした顔は見ものだったな。ぐちゃぐちゃにミンチになった隣には震える次期皇帝がいる。



「さて次期皇帝、いや皇帝よ。汝がまつりごとは何のために行う?」


「もちろん、民の幸せの為に努力し、皆が最大幸福の為に全力をもって」


 嘘はない、だが侵略もやむなしとは思っているな。


「侵略、征服も拡大する人民や意見の違いでも起こるものだ。するなとも言わぬ、ある程度の命に対する配慮と決まりごとがあるのであれば容認する。生命に対する残虐な行いは容認できぬ」


「はっ! 確かにそうでしょう。我が世代では起こさぬよう言明します」


「次世代まではどうしても……か、まあ時代の流れには誰も逆らえぬよ、さて」


 大きな腕を振ると重力が解除され皇帝の目の前にはありとあらゆる種類の宝石、希少金属類の財宝の山が積み上げられる。驚きの余り固まっているが。


「城壁の修理代とは言わぬが詫びの品だ。うまく使えよ。皇帝その誓いを忘れるなかれ、さすれば恒久にわたり己が名を打ち立てることに繋がるやもしれぬ、名を遺すなら誇りある名を遺せ」


「はッ! この命に代えましても!」


「うむうむ、良き皇帝になれ。ではな」


 そう云い捨てると上空へ舞い上がり機体内に戻る。エステリちゃんも見ていたようで苦笑いをしている。


「戦争止まるやもな」


「そうですね。カッコ良かったですよ旦那様」


「よせ、照れるではないか」


 さて、寄り道はここまでにしようか。

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