第51話魔法ってロマンだよな
アードルフ君が気を利かせてエステリちゃんと同じ部屋にしてくれたようだ。
領主的にはもっと仲を深めてもらい結婚してもオッケーと太鼓判まで押されてしまった、エステリちゃん俯いてもじもじしてるの最高に可愛かったわ。
ベランダに出て二人で夜空を眺めながらチビチビと飲む酒は格別だな。城の高い位置なので景色が遠くまで見える。
仄かな月明かりがダークエルフの肌を照らす、狩猟の女神のような健康的で美しいエステリちゃんがこの雰囲気に相まって魅力が溢れ出ている。
「竜人様は――」
「死人」《シビト》と呼んでくれ」
「死人様は私なぞ相手をしていいのでしょうか?」
「おぬし程魅力的な女性はそうおらぬ。それと『様』付けもいらぬぞ」
「ですが――」
「その口を閉じてしまおうかの」
「そんな……――あっ」
せっかくアードルフ君に後押しさせてもらったんだ、遠慮はしないよ。
普段から真面目で鬼教官の顔はなりを潜め手折られるのを待つばかり、そのギャップを想像すると込み上げてくる征服欲が顔を出す。
屈服させよと内なる者が囁くが、あわよくば普段の鬼教官の姿でいて欲しかったものだ。
◇
長く大きなテーブルを挟みアードルフ君を朝食と取る。傍らには幸せそうなエステリが控えている。軽めの食事は終わり、領主としてなにか赤柱について情報が無いか聞いている所だ。
「赤い柱に連なる話か、遺跡のようなものですか…………言っておりませんでしたが我らが精霊王国と敵対してる帝国というものがありまして、その辺境に死者の国に向かう谷があると聞いたことがあります。領地から毎年兵を出しているのですが帝国は大国でしてなかなか決着がつかないのですよ」
「うむ、火器類の支援を行うこともできるが……その魔石なるものを取引で出せぬか? 我の文化でな火薬なるものを使用する武器や兵器があるのだが」
「魔石ですか? 乗ってこられた魔導車や街頭、魔導銃にも使用されているんですが魔力を蓄積する媒体として魔石は戦需物資ですので難しいと思われます」
「では今後得られる魔石の少量で良い、あの機体でな陸戦機体なるものがあって燃料と共に小隊単位で提供しようぞ?」
「! でしたら影響のない範囲で取引させていただきたいです!」
「うむ、よかった。目障りな帝国とやらも泡を吹くに違いないの」
交渉はうまくいき倉庫にある魔石の何割かと回収された魔石の数%を提供する見返りに、訓練場に数十体の陸戦機と兵装を提供する。
◇
黒いキューブ状の機体の前に精鋭の士官達が整列し順次機体を展開、搭乗していく、その様は正に戦術機動部隊。大規模な作戦行動を可能にする巨人舞台になるだろう。
「燃料は戦闘機動でも数年は持つが一体は解析、開発に使ってくれ。いずれは魔石なるもので起動できると考えると夢が広がるの。技術の秘匿は厳重にな」
「はい、もちろん厳重に管理します。このエネルギーキューブなるもの内包される量は凄いものですね。蓄魔石の改良に繋がりそうです」
「我も魔法なるものを学びたいの。エステリに任せても良いか?」
「竜人様は魔法を使われないのですか?」
不思議そうな顔をされたので目の前で機体には及ばないが巨人化で7m程に、竜化で羽を生やし、機械化で副腕をすべて出す。
「どうだ? 魔法の反応はあったか?」
「――いえ。全く魔力も確認できませんでした。竜人様は違う理の中で生きておられるのですね」
膝を付いて頭を垂れてしまう。周囲の訓練中の兵士もだ。
「立つのだ、我にも知らぬことはある。ぜひ、うぬらの技術を学ばさせてくれ」
「はっ! 是非に」
教官はエステリちゃんがいいな。魔石の解析頼むよミコトちゃん。
『はいですぅ~』
『我、魔石装備欲しい』
『半分程残して吸収してみるか。最少は小さい奴からな?』
そういうなりコアへの吸収を開始する。――これは。そうかこれは情報イデアではない。全く違う理だ、精神的なエネルギーを生成する機関か、そしてそれを具現化し操作する。それが魔法か。魔方陣は理のエネルギーを変換する式を投影、指向性、攻撃力へ変換する為に開発された技術なのだろう。
すごいぞこれは、ドンドン魔石を吸収する度に生成量が増加していく。しかし発生させることはできても魔法を使えないようだ。指向性、攻撃性、属性ごとに式が違うのか。
手の中に消えて行く魔石をみてエステリちゃんは俺なら当然だとドヤ顔をしている、身内認定されてるようで嬉しいけど失望しないでくれよ?
「エステリ、魔方陣の式をあるだけ教えてくれぬか?」
◇
自らのコアに内包された魔力発生装置で通常より強力な魔法が離れるようだ。コアというリソースで拡張された器に収まる範囲内であれば出力装置を魔石を吸収することにより拡張できるということだな。ふははは、我勝利。段々と超越者ムーブが板についてきたな。
わんこそばのようにドンドン魔石を吸収するとついになくなってしまう。対人戦などに有効な火力程度にはなったが狭間に搭載される武装や、機体戦には全く足りない。
「魔石とやらはどうやって仕入れているのかの? できれば多くの魔石が欲しいのだが」
「でしたらよく襲撃してくる鬼族や獣族を討伐し胸部内にある魔石を回収するといいかと。基本生きている存在には魔石はありますゆえ。奴らの繁殖力は凄くとても困っております」
「ふむ、生息地の地図などはあるか? 殲滅し回収しようと思うのだが、手の届かぬ範囲で良いぞ? 付近の魔石の仕入れを邪魔する訳にはいかぬ」
「はッ! かしこまりました。すぐに用意させます」
うし、目につく範囲で回収を行い自己強化を行っていくか。今回の回収に過去回収しておいた蜘蛛型のドローンを改良したものを使用して魔石回収を行う。
核石も回収を面倒くさがり放置していたことも多かったからな。魔石と核石共に利用方法が見つかったため今後はドローンを多数投入してハンガーに回収する予定だ。
地図を持ってきたエステリちゃんとともにハザマに搭乗、共に魔石回収へと向かう。地理に詳しい為案内をしてもらう。
膝の上にエステリちゃんの安産型ヒップがのしかかり幸せな感触だ。座り心地がいいのか背中をぴたりと預けて来る。さすがに機体内で盛るとハザマとミコトに怒られるため我慢だ『あたりまえですぅ~』はいはい、すみません。
「エステリ、奴らは全滅させてもよいのかの?」
「もちろんです。いずれ他の地域から空白地帯にやってきますので遠慮などいりませぬ」
「うむ」
付近の鬼族のターゲティングは終了している。予想以上に多い、これは手を焼くわけだ。
『ミコトちゃんもハザマも好きなだけ撃っていいよ?』
『父上、魔法撃ってみていい?』
『もちろんだ、魔石を破壊しないように気を付けるんだぞ?』
『射撃補正まかせるでぇす。ハザマは出力制御おねがいでぇすね』
『殲滅開始だ』
ハザマの副腕を全て展開、手のひらには魔方陣が回転し、火、爆発属性が付与される、八門もの魔方陣から火矢がマシンガンのように断続的には立たれ辺り一面地獄絵図となる。
ゴブリンやオークの頭が破裂し、次々に地面に倒れ伏す。たまに爆発に巻き込まれ魔石まで破壊してしまう。
『出力調整が難しいな。魔力残量はどうだ?』
『なんとか安定してきたよ父上』
『射程も魔方陣に付与するデータが足りなかったですがぁ、今情報更新中ですぅ~。魔力残量はここ一帯の分なら持ちますぅ。あ、魔石回収ドローンハンガーより出すですよぅ~』
射撃の途中だがハンガー解放、蜘蛛型回収ドローン出撃。うじゃうじゃと地面に向けて放たれる大量のドローン。数百体はだしたな、もう少し増産するかな。
「――死人様はもう魔法をモノにされましたか。さすがでございます」
「うぬ、出力や射程の調整がまだ不慣れだがな」
頬を上気させながら寄り添ってくる、頭を撫でると押し付けすり寄って来る。
モニターに地面に倒れて行く亡骸と血液で阿鼻叫喚なのだがな。ドローンが胸を切り開き回収していく。あれ、洗浄機能ついてないよね? ハンガーが血だらけになる……。
『ミコトちゃん……魔力発生装置できたら洗浄機能つけようか……もしくはタンク増設するかして』
『でしたら。清掃ドローンつくりますよぅハンガーに数台設置しましょ~。私の劣化版シスターズはできましたけど研究開発がメインですしねぇ』
周囲の鬼族の殲滅は粗方終了したようだ、魔石の吸収を行い魔力が生成されるのを待つか。
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