第43話ダンジョンへ突入

 高級ホテルの部屋の中に朝日が差してくる、眼をゆっくりとひらくと光が刺して眩しい。ベットは汚れてしわくちゃになり腕に水無瀬が張り付いている。

 ゆっくりと腕を離し朝のシャワーを浴びる。しばらくすると裸の水無瀬も風呂に入ってくるとピトリと背中にくっつき、あまりない胸を押し付けて来る。


「今何か余計な事考えただろ、顔に出てるぞ」


「おっと失礼、ほら体洗ってやるよ」


 ボディーソープを泡立て隅々まで洗ってやる、手で洗っているのだが肌の上を手の平が滑って移動していく。


「勝手に風呂入んなよな? 目が覚めていなかったから捨てられたかと思ったぜ」


「心配性だな、まあちゃんと捕まえておいてくれ。逃げることはないがな」


 二人での風呂をたっぷりと楽しんだ後、部屋で装備の確認をする。

 ダンジョン産と偽りボディースーツと銃器にコンバットスーツ一式も渡す。


「なんだこれッ! ピチピチじゃねえか!? これでスルのか?」


「いつまで脳内ピンクなんだ、それは対衝撃性に優れたスーツだ、アシスト機能も付いてる装備だぞ」


「ち、ちげーし。ピンクじゃねえよ! わかった、ありがたく着るよ」


 いそいそとボディスーツを着る水無瀬、やっぱこのスーツエロいよな、言いたい事はわかる。下着のライン丸見えだし若干尻に食い込んでるな。


『阿岸おかーさんに報告でぇす』


『びっくりしたわ』


 いきなりミコトちゃんに話しかけられて後ろめたくなったのは内緒ね。







 この防壁都市の端にある地区に一本だけ黒柱が立っていたらしい、現在では沈下しダンジョンが出現している、と。


 手元に出している高周波ソードを見ている、確かに切れ味はいいが鹵獲した装備とは比べ物にならないくらい劣化している、他にもブラスターやエネルギーキューブもあるが容量は少ない。人やゾンビに対して脅威になりえるかというと何とも言えない気分になる。確かにアサルトライフル入りも威力はあるのかもしれない、携行性にしても弾薬が嵩張らない、そう考えると意外とマシに見えてくるな。まあ高性能な方を持っているからゴミだが。


 ダンジョンらしき入り口にいくとかなり賑わっている、ハンターが列をなして並んでいる。最後尾に水無瀬と並び待機する。


「これ何のアトラクションだい?」


「知るかよ、遊園地じゃねえのは確かだよっ!」


 ノリが意外といいな、水無瀬。頭を撫でてやる。うむ、しおらしいじゃないか。


 前のハンターがICを渡しているのが見える、入場料を取るのか?


「次、1万ICだ」


「はいよ」


 軍人が不愛想にICを請求してくる、さっさと入りたいので素直払う。

 素直に1万IC払ったのがまずかったのか、もっと請求しようか迷っているのがテレキネシスで分かる。水無瀬を引いて入ろうとするのだが。


「待て、身分証を見せろ」


「あ゛? 1万IC貰っておいてなんだ軍人さんよ? 死ぬか大人しく通すか選べ」


 周りにたまたま仲間がいないと気付いたのか、俯き黙り込んで通される、恐らく帰りにでも襲撃されそうだな。SPをチマチマ稼がせてもらおう。







 水無瀬は先程のやり取りに不安を抱いたのか心配をしてくる。そりゃ治安維持の部隊に逆らえばどんなことになるのか想像できたのだろう?


「大丈夫なのか? 軍人の奴帰りにくるんじゃないのか?」


「大丈夫と言っても理解できないだろう。帰りを楽しみにしてるいい」


 消化不良な顔されてもな。


「なに、立派な軍人さんが多少減るだけだ。ここに住めないと思ったのか? 拠点は西州だぞ? 問題があってもちゃんと連れて行くぞ?」


 その言葉に少し安心したのかピトリとくっついてくる。現金な女だ。


 ダンジョンの内部は薄っすらと天井と床に一筋のラインがあり突き当りがとにかく多い、試しに吸収しようとするとできたのは良いがリソースを吸収できない。

 

 黒柱なのは間違いないが物理的に遮断されているのだろ。

 懐に安易に潜り込むのも危ないのだが、地中深くに潜られると探すのも吸収するのも難しい。対策を取られたのかどうか分からないが。いやらしいやり方をしてくる。ハザマも展開できないのが痛いな。

 

「どうだダンジョンは?」


 水無瀬が聞いてくる、沈黙が嫌いなタイプなんだろうな。


「思ったよりSF要素が強いな、洞窟でゴブリンでも出て来るかと思ったよ」


 くくっと笑いながら返事をする。同じ風景ばかりで飽きそうになるがその都度水無瀬が喋りかけて来る。

 元々住んでいた場所が有ったり、両親が死んだり、普段どんな生活をしていた等。思った以上にヘヴィな人生を送っているようだった。


「水無瀬、そんなにつらい人生歩んできたならそろそろ腰でも落ち着けたらどうだ?」


「そ、それってもしかして……」


「止まれ」


 前方に何か蠢いているのが分かる、水無瀬後ろに庇い前方を注視する。


 見えて来たのは機械的な子供の身長くらいある蜘蛛の無人機ドローンだった、素早く接近し唐竹割りにブレイドを振り下ろす。重要機関を破壊されたのか機能が停止し床に崩れ落ちる。すかさず吸収し解析に回す。


「お、おい今のなんだ? 消えちまったぞ?」


「恐らく侵入者撃退用の無人機か何かじゃないか? たいした脅威じゃないが」


 しばらくすれば解析も終わるだろう。サンプルは多い方がいいしな。


 水無瀬に対しすっとぼけると、先に進み階段を発見する。なんというかさっきの無人機にしろ、通路や階段にしろ作りがやっつけ仕事のような感じが否めないんだよな。時間が進むにつれ学習したら恐ろしい事になりそうだな。


 拠点防衛用というよりも学習進化型のような感じがする、まだ一回層目だから答えを急いでも危ないか。


 階段も適当な作りで謎金属製で水分があるとかなり滑りやすい、ハンターでこけたひともいるんじゃなかろうか? おっと水無瀬が滑ってる。グリップ力の強いブーツなんだがボケの才能があるのかもしれない。


 通路の中ほどに唐突に壁に棚ができており、武骨な金属製の箱がいかにもな感じで置いてある。


「これあけてみよーぜ!」


「待て! 阿呆」


 水無瀬の腕を掴みギリギリで止まる。不満げな顔をしてるがさすがに注意する。


「どこに罠が仕掛けているか分からないんだ。注意して進んだり調べないと死ぬぞ? 開ける楽しみは俺も分かるが命には代えられないだろう? 俺がこれからも開けるが楽しさで開けてるわけじゃないぞ?」


「わかった、ごめんなさい」


 シュンと顔を伏せしょんぼりしている、言って分かる子で良かった。お詫びに頭を撫でるとすぐさま嬉しそうに喜ぶ。本当に反省してるのだろうか。


 金属の箱の中身は高周波ソード一応収納するが水無瀬に渡してるものの方が高品質だ。これは先が長そうだな。






 何度かの階段を降りると開けた場所に出る7、8mほどで二階のくらいの高さだな、円形に広がっており、あちこちにハンターが座り込み休息を取っている。今まで遭遇しなかったのは通路がランダム過ぎて会わなかったのだろう。一応通って来た道は記録しており繋ぎ合わせると円形の形をしている。休憩所みたいなものもあるんだな。


 身で隠しながら簡易な椅子を二脚出す、飲み物も用意し一先ず休憩をする。


「ほら、休憩するぞ。これでも飲んどきな」


「わかった、ありがとな。それにしても同じ風景ばっかで飽きるよな」


「そうだな、あまり面白い物じゃないな」


 実際黒柱はどこまで伸びているか分からなかったし、一定のラインで空間にめり込んでいたからな。どれだけの深さになっているか分からない。


「しばらく進んで何もなかったらいったん帰還するかな、他にも調べたいことがあるしな」


「そっか、その……一緒に居てもいいの?」


「ああ、心配するな。拠点に戻ってもちゃんと住む家あるぞ? 嫁と子供がいるけど」


「ええッ! 結婚してたのかよ! 騙された……」


「騙されたも何も言ってなかったからな。もちろん責任は取るつもりだぞ?」


「……はぁ、幸せな結婚生活……」


 それからしょんぼりしたままになってしまった。フォローしておくか。


「稼ぎは良い方なんだがな、出ることは多いがお金や物に困ることはないぞ?」


「……お金……甲斐性……ならいいや」


「まあ証明は後でもできるが何が一番優先したいんだ? それによって変わるぞ?」


「考えてなかった……安全だといいなって」


「最初にあった時があの状態だからな、泥をすすって生きてきたのだろう、体は売ってはいないが限界だったんだろ? ゆっくり休んで考える猶予はある将来の事考えてもいいんじゃないか?」


「わかった、ゆっくり考えてみる。ありがとう死人……」


 ピタッとくっついて離れなくなった。周りのハンターの目が厳しく感じるな。落ち着いたら上に上がろう。

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