第25話娘には甘くなるもの?

 ガードレールを乗り越えアスファルトの上に座り込む、衣服はビショビショに濡れて地面に水滴がしたたり落ちる。

 巨人程苦労はしなかったが、精神的にものすごく疲れた。ご苦労な事に疲労まで再現しなくともいいのに。地面に寝転がると程よく感じる疲労感が生きている事を実感させる。


[指定特別変異個体ゾンビの討伐を確認]

[おめでとうございやがれ]

[特別報酬が進呈されやがります]

[新しい武装がアンロックされます]


「っ!」


 額が熱くなり視界がぼやける、触れてみると目が塞がれる。眼など存在しないのに見ることができている。額を覆うたびに黒い塊で見えなくなる。これは眼か?


 額から手を離すと、俺の手の形に黒くなっている。握ったり開いたりしても黒い手と通常の皮膚の色が被って見える。見たくないと意識すると通常の手のひらだ。何かを見ているのだろうが分からない。ピントを合わすように意識するとはるか先まで視界が移動し気分が悪くなる。

 眼のオンオフが出来、意識すると視界が移動するようだ。グルグルと視界を移動したり上空にも移動することができた。たまに黒い塊があるような気がして意識を向けると先程の集落にまで視界が移動し複数体のゾンビを見つけることができた。


「ミコトちゃん何か変わった?」


『バリバリ変わってますともぉ! この眼があれば索敵が楽になりますよぉ~限界距離はあるみたいですけどぉ』


個体情報:コア【死人】シビト

ソウル:[見つめる眼Ⅰ]

ソフト:[格闘Ⅰ][射撃管制MIKOTOⅡ][殺人Ⅲ]

ハード:[基礎能力Ⅰ][筋力Ⅰ][変形同化Ⅰ][耐性Ⅰ][機械獣Ⅰ][お部屋Ⅰ]

タイトル:[指名手配][警羅官殺し][自衛軍人殺し][民間人殺し][盗賊殺し][ゾンビ絶対殺すマン][芋スナイパー][獣の系譜][鉄の心得][半流動体][射撃の死神]


残2075ZP 残49SP


「見つめる眼か、有効化アクティベートされたんだな。おいミコトちゃん、ふざけてMIKOTOって言ってたら本当に名称変更されてるぞ? しかもⅡにバージョンアップしてるし」


『ですでぇす。私へのごほうびですよぅ~射程距離がぐ~んと伸びて超ヤバですぅ』


「どれぐらい伸びたんだ?」


『通常だと地平線の見えるあたりですかねぇ? 射角が確保できる範囲デスデス。[見つめる眼Ⅰ]と連動すれば4km、5kmは、ほぼ百発百中ですよぅ。アンロックされた火器や重機を使えば射程は30kmでも命中させますよぅ』


「ぅわぁ、俺が近接、ミコトちゃんは超長距離射撃と綺麗に役割が分かれたな」

『まかせろですぅ、今度あの断崖絶壁で試射しましょうよぅ』


「分かった分かった。あと変わった所はタイトルか、これも射撃への補正かな。あの目玉怪物2000ZPか。苦労した割にはしけてんな」


『ですねぇ。一万くらいドーンと欲しいですねぇ。』


「お買い物やバージョンアップは帰ってからしようか、バギー壊れちゃったし走って帰らなきゃ」


 バギーは残念だが盗賊が乗っていたバギーが隠してあるはずだ、まだ残っていれば回収しに行くとするか。

 帰り道は下半身を強化して全力で走ってみる、踏み込むたびにアスファルトが弾け飛んでいく、これヤバいなバイクくらいなら追い越せそう。地面を破壊しながら。



 断崖絶壁に副腕をぶっ刺しながら上っていく。副腕に仕事をさせて俺はのんびりぶら下がっているだけだ。


「ミコトちゃんありがとう、制御の練習を兼ねているけど実際楽だよね、コレ」


『死人さんが幼女を扱き使うですぅ』


 俺は腕を組んで背景を楽しむ、エスカレーターのように背部の副腕がランスを壁に突き刺し蟻のように上る。


 飛び降りた山の頂上に辿り着くころには夕日が沈みかけている頃だった。

 野山を駆け下り眼下に要塞のような姉妹の家へ到着する、果たして気づいてくれるだろうか。

 鉄扉の前に着きノックするしばらく待つが反応が無い、これ来客する人に対する試練なのだろうか。インターホンが無いのは俺が時代遅れの人間なのか。


 仕方ない。しゃがみ込み足を強化する十分に筋肉を引き絞り、解き放つ。地面に反発し跳ね上がると10mほどの塀を乗り越え中庭に降り立つ、その瞬間警報が鳴り響き、隠してあったタレットが起動。こちらに照準を向ける。


「ふ、ふえええぇええ」


『それ私のせりふですぅどーするんですかぁ! 当たっても大丈夫と思いますけどぉ』


 幸いアサルトライフル程度の威力なので当たっても痛くないが回避の練習に持ってこいかもしれない、後方を確認しながら被害が広がらないように練習する。


 しばらく遊んでいると急に射撃が停止する。


「お父さーん、なにしてるのーッ! 死ぬよーッ!」


 静里がこちらに走り寄って来る。


「いやな、扉が開かなくて、飛びあがって入ってきたら撃たれてさ」


「そりゃ撃たれるよ! デバイスで玄関に認識させれば許可を……お父さんデバイスまだないんだっけ?」


「ああ、持ってないぞ? なんだ鉄扉の所で何かしなければいけなかったのか? インターホンないし」


「インターホンなんてそんな時代錯誤の物はないよ? みんな大体デバイスでICインターナショナルクレジットや鍵の代わりの暗号キー使ってるもん」


「そ、そうか。お父さん古い人間だから分からなかったんだよごめんね」


「後でちゃんと教えてあげるからちゃんと聞いてよね? あ、今使用した弾薬ちゃんと補充してよね?」


 俺相当田舎者なのかな、しょんぼりするわぁ。


『わ、私知ってますよぉっ都会っ子ですもんっヒューヒューッ』


『まだそれする人いるんだな。だが常識は学んだ方がいいな十五年分』



 テーブルの上には色々なお菓子セットにジュースを購入し並べられている。静里は嬉しそうにお菓子を貪り食っている。


「でねでね、電核石が内蔵されててね充電ほぼしなくても一年くらいは持つんだよ。バッテリーが開発されていろいろなモジュールにも変化があって主に耐久力と小型化にを目指すように開発が進んでいったんだ。強力なレールガンや自動迎撃ドローンもあるんだよ」


 静里結構詳しいんだな、理系女子というやつなのか?


「う、うん。それなのにどうして生存権が広がらないのかい?」


「小型のゾンビは対抗できるんだけどマザーってのが一杯いてレールガンバンバン当ててもすぐに再生しちゃうんだって防壁ができるまでは相当悲惨だったらしいよ?」


「あー、巨人みたいな奴か?」


「お父さんの言っている巨人はまだいないみたいだよ? そんなの来たら防壁破壊されてみんな死んじゃってるよ? なんかバリアみたいなの張って目玉のお化けだったりワームみたいな怪物もいるんだって」


「そういえばさっき目玉お化け倒してきたぞ?」


「え、背がちっちゃい奴なら見たことあるかな」


「いや、7mくらいあったぞ? ちょっと待ってくれ」

 

 お部屋に入りミコトちゃんに尋ねてみる。


『ミコトちゃんもしかしてだけど目玉お化けの核石回収してる?』


『もちろんですよぉ~ドロップアイテムは回収するのはてっそくですぅ~。これぞ内助の功? ですでぇす』


 さすが妻ちゃん助かるよなホントに。


「これなんだが」


 目玉怪物の核石を取り出し見せてみる、色は黄色でやや透明感があるな。磨けば置物としては優秀だな。


「うわ、おっきい~、マザー級の核石が展示されてる時期があって、見た事あるんだけどそれよりもでっかいよお父さんっ!」


「そうか、いる? 使わないからいらないんだけど」


「駄目だよちゃんと取って置かなきゃ、すっごいお金になるよこれ! でもマザー級の討伐なんてここ数年聞いたことないから見つかったら不味いかもね」


「そうか…………もう少し小さな核石取って来るね」


「お金なら大丈夫だよ? お姉ちゃんとハンター業で大分稼いでいるから」


 静里にはたくさんZPでたくさんお買い物してあげよう。

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