第24話対目玉お化け?

「副腕伸ばせッ! 衝撃を逸らすッ!」


『あいあいさぁ~』


 加速する思考の中で二本の副腕をランスモードにする、衝突の衝撃を少しでもずらすために地面ギリギリで発動させる。


「グッ!」


 副腕にも感覚はあり接続部に負荷がかかる、ギリリと捻じり切れる感覚が伝わってくる。地面を体が何度もバウンドするも強固な体が衝撃に耐えきる。

 砂埃を舞い上げ転がるもランスを突き刺し停止させる。


「…………はぁ。死ぬかと思った、こりゃ俺が悪い。ミコトちゃんごめんな自身のジャンプ力見誤っていたわ」


『私もわるいですよぉ、飛び過ぎないように言わなきゃいけなかったですぅ~』


「副腕、夜までに繋がるかな……」


『責任もってつなげておきますよぅ』


「よろしく頼むね」


 着地点にランスモードが捻じ切れ地面に突き刺さっている。まるで墓標だ。欠損部に押し当てるとじわじわと溶けるように繋がりつつある。しばらくすれば感覚も戻ってくるだろう。


 降りた先にある森を抜けは一時走り続ける、一応目印を覚えながらの走行だ。帰り道が分からなくなったらいけないからな。


 何度かのドローン操作で索敵をしつつ進行、遠目にダムが見える。


「実は俺結構な高さの山登ってたのかな?」


『ですよぅ? このままダムの向こうに降りると県境ですよぅ~。ここを左、いや東に向かうとあの検問所入口にもどりまぁす?』


「このあたりでも住めそうだよなゾンビいるかどうかは分からないけれどな」


『港に隣接する防壁都市は利便性を重視したんじゃないですかぁ? 正直ご飯がないですよぅ。』


 確かにどこでも食事が出せる俺が異常なのか。


 バギーを出して県境の方面に向かう、ダムを横目に走らせていく。巨大なダムは見ごたえがあり霧が出ている。平時ならドライブのコースにうってつけだろうな。


「こうしてのんびりドライブするのも悪くはないな、森林地帯は空気がいいし涼しい」


『こういう所にある屋台のホットドックはなぜ美味しいんですよねぇ~』


「なぜそんなことをしっているのか知らないが、確かにソロドライブで屋台のホットドック食べた時、美味しかった記憶があるな、なぁミコトちゃん。ホットドック食べよう」

 

 早速ハンドル片手にハムハム食べる、食事は必要ないが食べたい気分になった時に食べるのが一番だ。義務的の食事などいらぬ。


 ボロボロの青い標識に県境の表示が伺える、人口の多い都心部のダメージが大きいがこうした山間部はまだまだ残っていそうだな。


 しばらく道なりに進むと朽ち果てた村落が見える、畑らしきものには背丈のたかい雑草がはえ、辛うじて木造の家屋の残骸がちらほらと見えて来る。


『死人さん』


「分かってる。副腕の修復はどうだ?」


『いけますぅ~』


「まだ個体数が分からない、減音機サプレッサーを装備したスナイパーライフル用意してくれ」


 途中で見かけた神社らしき建物の階段までいきバギーを収納する。階段を何段も飛ばし駆け上がり高台から眼下を眺め[射撃管制MIKOTO起動ですよぅ~]

 

 まったく……。先程確認したゾンビにレティクルを合わせズームする。


「あれは背が小さいな、ゴブリンみたいな奴だな」


 十五年の眠りから目が覚めてからというものゾンビ共は奇形が増えているな。腕が太く長い奴や、顔のない腹に口があるやつなど。

 四肢らしきものは確認できるが頭がまんま眼球だな、どうやって食事するんだ? ゾンビ共の食性がよくわからないな、人間は防壁に籠っていて食べれないし共食いはあの巨人だけだもんな。

 それが分かれば頒布のしかたが良く分かるのだが。


「目標周辺に同様の個体を確認。1.2......35体だ」


『あいあい二丁スナイパーですぅ』


 副腕に銀に侵食されたスナイパーライフルが出てくる。俺は一丁だけだけどな。


「射撃に関してはミコトちゃんに負けるよ。俺のバックアップも頼む」


『狙いうっちゃうぜぃ~』


 目標のでかい瞳をロックオン、狙いやすくて助かる。発砲。銃口から火を噴き、薬莢が舞う。肩越しに二丁のライフルが迫り出し間断なく発砲している。狙いは精密で次々にゾンビの眼球をぶち抜く。

 チンッと石畳に響く薬莢の音とZPの獲得音がリズムよく奏でられ、俺が数体仕留めるころには目標のゾンビは全滅していた。


「俺の撃墜スコアしょっぱいんだけど」


『あたりまえですぅ、思考加速できればあとは銃の性能の問題で、ラグなく仕留めれるですよぅ?』


「そうだった、照準も思いのままだよな。これは俺の意識の問題だな。ミコトちゃんならシームレスに狙えるけれど、俺の人間的感覚が邪魔してるのか」


『それは捨てちゃだめですよう? 【生きている】証ですぅ。たとえミスしても私がいますぅ。二人で一人ですよぅ~?』


「ふふっ。頼もしいな。これからもミコトちゃんの判断で武装の切り替えや射撃を頼む。本気で頼りにしてるよ」


『死人さんがでれたですぅ。嫁ポイントげっとだぜぃ~』


 他にゾンビ共がいないことを確認し階段を降りようとした時、背後から地響きが聞こえて来た。

 後方の朽ちた神社の屋根がはるか上空に吹き飛び、辺り一面に木材の破片が飛び散る、建物ぎりぎりに収まるサイズの見たこともない怪物が登場する。




――ミッションを発令しやがります

――指定特殊変異個体ゾンビを殲滅せよ




『死人さんってクリティカルに運が悪いって言われた事ありませんこと?』


「ミコト、口調がお嬢様みたいにおかしくなってるぞ。まあ自覚はあるな」


『私はお嬢様ですよぅ~』


「ミコト。敵の情報が少ない。離れ過ぎずに撤退だ。警告音が鳴るギリギリまで逃げるぞ」


『あいあい』


 装備していたライフルを収納。助走をつけ階段の一番上から飛び上がる。後方に流れる景色を認識しながら、後ろの怪物を視界に納める。

 でかい目玉だ。申し訳程度に手足が合計で六本生えている。なんかビームでも撃ってきそうだな。ッ回避ッ!


 副腕を纏め一本のランスモードにし、振り子のように薙ぐ、質量増加と遠心力を利用し姿勢を空中制御する、頬のすぐそばを数瞬だけ通過し舞った髪の毛先を焼くも、何とか回避に成功する。


『あと少しビームが太かったら頭消滅してましたよぅ』


「地面に着地後即座にバギー出してくれ。運転するから牽制射撃頼むッ!」


 着地後すぐにバギーが出現しエンジンを掛ける、アクセルを吹かし全力で走らせる。『右に回避!』ハンドルを切る。ミラーで怪物を確認すると足が増え、ムカデのように蠢きながら追ってくる。恐らく最初に殺した、瞳のでかいゾンビが奴の眷属なのだろう。子供を殺され怒っ『回避左!』。怒ったのだろう。ミコトちゃん遠慮が無いのは頼もしい限りで。先程からガトリングの薬莢が頭にカンカン落ちてきていても気にしてなんかいないんだからね?


『ガトリングの効果無し、瞳の目の前で光の膜みたいなのが展開されてますぅ。その代わりビームの収束と発射が遅れているので効果が全くないとはいいきれないですよぅ』


「光が収束か、どうやってやってんだろうな。原理は分からないが対策は思い付いた」


 ひたすら蛇行運転しながら回避している。発射角をミコトちゃんが判断しなきゃ蒸発してるなこりゃ。


暫くギリギリの綱渡りを続けながらダムが見えて来る、ハンドルをダムに突っ込む形でハンドルを切り。固定する。


『このままではダムに突っ込むでぇすよう?』


「それでいいッ! そのまま射撃しつつガトリング両腕に出してくれッ!」


 両腕にガトリングが現れ同化、四門もの火砲が瞳の怪物に向かう。耳がおかしくなるほどの射撃音に目を覆うほどのマズルフラッシュが咲き乱れる。


「そのまま撃ち続けろッ!」


『あいあい~』


 薬莢が化け物に向かって降り注ぐも気にせず殺しに来る。いい、そのままだ。バギーはガードレールにぶつかり体が宙に投げ出される。


「着水ギリギリまで撃てッ!」 


『何をするか分かったですよぅ』


 思考を意図的に加速させる、空中射撃の反動によりゆるく回転する、水面にははっきりと俺の顔が映り込み、焦っているのが分かる。怪物もガードレールをぶち抜き共にダムの中へと落下していく。


「収納たのむッ」


 射撃が止むとビームを収束しこちらを狙って来ている、間もなく発射されるだろう。命中すれば消滅だ。発射されればな。


「ゴボッガボ『副腕をランスモード』」


『ぶっさしてやるですぅ』


 怪物は発射の直前に着水しビームが上手く収束しないのだろう、霧散し膜のような防御壁は展開できていない。じたばたと藻掻いている怪物に展開した副腕のランスを突き刺し。俺の両腕の手刀を突き刺す。


『『ランスモードッ!!!!』』


 手刀がランス状に変化し怪物の体内を突き進む。苦しいのだろう最後の足搔きとばかりに手足が触手のようになり攻撃の邪魔をしてくる。


『ブレイドモードッ!!』


 怪物の体内でランスがブレードに形態変化し黒い体液が水中に零れだす。足を獣の爪に変化させ錨のように突き刺すとブレードで切り開き、全ての腕のランスモードで再びくし刺しにする。何度も何度も動かなくなるまでくし刺しにすると水中の視界が全て黒い液体になっていた。しぶとく蠢いてた眼球の活動は停止しゆっくりとダムの底に沈んでいった。

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