第23話俺ってわりと抜けてるよな?
バギーが砂利道を走行し丘を駆け上っていく、右手には綺麗な海の風景が見える。丘というより人が来ないようなところに無理やり道を通した感じだな。人との接点が持たなくてもいいようになっている。もちろんガードレールなどはなく崖にバギーで突っ込んだら助からないだろう。
途中で砂利道が途切れ林の中を進んでいく、暫く進んでいると要塞……?
「なあ俺には要塞のようなものが見えるのだが間違いではないのか?」
「要塞じゃないよ? シェルターの代わりになるように防壁を築いたの、お母さんハンターでは有名だったからね。資金をつぎ込んだらしいの」
「阿岸すげえなあ。いい女だわ」
「お母さんのこと女呼ばわりされるのは気に入らないけど、お父さんなら仕方ないか。甲斐性なしだけどね」
「こう見えてお父さん強いんだぞ? 指名手配されそうだけど」
「……本当に家に入れていいか迷うわ。でもお母さんの話も聞きたいし取り敢えず我慢する」
娘ちゃんデバイスを操作すると家の正門らしき鉄扉が自動開く。外側に音を立て開いていきバギーが侵入していく。そこには日本家屋のような立派な作りをした二階建ての家がある。玄関脇にバギーを停車させ娘ちゃんが入っていく。
「お姉ちゃーんお父さんきたよー、甲斐性なしがきたよー」
「――あんたなに連れて来てるのよッ! 捨ててらっしゃいッ!」
『死人さんわたしがついてますよぉ? 元気出してくださいよぅ~?』
『まだ何も言ってないのだが』
玄関でぽつりと立っているとドタドタと足音を立てて娘ちゃん一号がやって来る。勢いよく顔面に拳を振るってきた、もちろん受け止める。
「固ったッ! 痛いっ! あんた何でできてんのよッ! 柔らかくなりなさいッ!」
「お姉ちゃんそれさすがにお父さん可哀そうだよ? 甲斐性なしだけど」
「とりあえず上がりなさい、洗いざらい吐いて貰うんだから」
ブーツを脱ぎ阿岸宅にお邪魔させてもらう。初めての家の薫りは緊張するものだな。和室に案内してもらうと仏壇が置いてあり阿岸の両親だろうか? 四人で写っている古ぼけた写真が備えてある。すかさず正座をし手を合わせる。
「……わかってんじゃない。一先そちらに座りなさい。
「うん、お父さん紅茶と緑茶どちらがいい? 割と貴重だけど、貴重なんだけどね?」
そう言われると悪いしかしない、あまり歓迎されてはいないか。ZPで緑茶と紅茶の葉を購入手のひらに現れる。
「これで入れてくれ、少しは甲斐性を見せないとお父さん死にそうだからな」
「――ッ!?」
「お父さんの甲斐性度が少しはあがったね」
娘ちゃん一号はあまりのことに驚いてるが、静里はキモが太いのか堂々としている。
「まあ、これの事もだがキチンと説明するからお茶入れてくれ、とりあえず紅茶が飲みたい気分かな?」
◇
「とりあえず全てを信じきれないけれど事情があったのは分かったわ、まさかお母さんとは二日しか一緒に居なかったのは驚いたわ。巨人と戦ったとか言ってたけどどれだけ一緒に居たかは言ってなかったもの。胸焼けするくらいいつも自慢話を聞かされていたわ」
「とりあえずお父さんが死んでいた事で育児放棄の疑惑は多少は薄りました。取り敢えず美味しいケーキを下さい」
「――お、おう。ほれ生クリームイチゴケーキのホールだ」
「ほんとそれ何度見ても信じられないわね? ZP? ゾンビぶっ殺してなんでも手に入るなんて夢のようなシステムじゃない」
「まだ最後に言ってなかった事がある。俺の目的だ」
「何よ、早く言いなさいよ」
信じてくれるか怪しいが説明しないといけないだろう。
「阿岸の――桜の蘇生だ」
「――あんた何いってんのか分かってんのッ! お母さんは死んだのッ! まだ私を苦しめるつもりッ!」
やはりそうだろう信じられないよな。
「だが生き返った俺はなんだ? 必要なものは大量のZPとSPという人を殺した時のポイントだ」
「ッ! ………………一先ず真実かどうか置いといて本当にできるんでしょうね?」
「必ず蘇生をする。世間一般では外法だが俺はそう思わない、大切なものの為なら人だって殺す。理解されなくていい、お前たちの為にゾンビを殺したり人を殺すんじゃない。俺が会いたいから外法に手を染める」
しばらく沈黙が和室に漂う姉は深く思い悩み妹は、平然としている。
「わかったわ、私だってお母さんに会いたいもの、【あなたが会いたいから人を殺す】んでしょう? 私たちに背負わせないためとはいえ少しは父親らしい事を言うのね」
「私はお母さんが生き返るなら他はどうなってもいいもん、クズな軍人ドンドン殺して欲しいし。あの人たちいつも態度でかいんだよ?」
まああれだけ強調したら気づくよな。健やかに暮らして欲しかったからな。
「これで俺の言えることはすべて言ったな。最後に一ついいか? 娘である静里の名前は先程聞いたから分かったが娘ちゃんの名前を阿岸にも誰にも聞いていない。最初は聞く前にあんな事があったしな」
のっけから泣いたし最後は部屋から出て行ったしな。
「あんた……………
「お父さんのプレゼント楽しみにしてますよ?」
姉妹揃って現金だな。姉は思慮深く妹はキモが太いと。
「わかった。ベットでもソファーでも欲しいものは何でも言え」
「なんか違う意味のパパに見えて来たわ。実際パパだけど」
「私は遠慮しないもんね! お姫様みたいなベットが欲しいっ!」
「後で部屋に設置するな。とにかくZPがないと物資に弾薬といったものが補給できないからこの場所からゾンビの出現する場所に行く方法ないか?」
実はお財布が大ピンチだ。
「そうね防壁越えは違法だけどお父さんには関係ないものね、裏の森を抜けて行くと山があるの、断崖絶壁になっていて天然の防壁代わりになっているのよ」
「ギルドにハザードマップがあるから明日にでもコピーしてくるね」
「静里頼んだ、それと俺のことは死人と呼んでくれ、手配が回ってから関係性を疑われるとまずいからな」
「……わかったわ。別行動の方がいいんでしょ? 最後の家族なんだからここに帰ってきなさいよ?」
なんだかんだ優しいよな朱里は。
「もちろんだ、ちょっとルートを開拓してくる。夜には帰って来るから」
「気を付けなさいよね」
「行ってらっしゃい死人さん」
◇
鉄扉をくぐると姉妹が見送りをしてくれる、律儀な事だ。やがて扉が閉まり森へ歩みを進める。
「待てよ。これ帰りはどうすれば開くんだ?」
『お父さんはしまらないですねぇ~』
「まあいい、とりあえず行くぞ」
下半身を強化、獣道すら存在しない険しい森の中を駆け抜ける。俺の獣の性質のせいか快適に走行することができている。どこでも生存できそうだな実際。
段々と勾配がきつくなってきており獣の足爪も展開している、木々をくぐり抜け頂上を目指す。森の中にいると故郷に帰ってきた気持ちになる、獣性増し過ぎだな。
「まだこんな自然も残っているんだな、荒れ果て汚染されている所は草すら生えていなかったもんな」
『そう考えるとあのお家良い場所に建てたんですねぇ~』
「そうだな、図々しく居座る気持ちにはなれないができる事なら協力したいよな」
『いい子たちでしたしねぇ私の娘ちゃんにもなるでぇすか?』
「そ、うなのか? わからないが。そういえばミコトちゃんの事言っていないが良かったのか?」
『ですでぇす。心の中くらいひとりじめでぇすよ~? 女心の分からない旦那さんですねぇ~』
しばらくすると森を抜け眼下には崖が見えて来る。これは思っていたよりも高い位置にいるな、何か大きな地殻変動でも起きたのか? 断崖絶壁が奥まで続いている。
「景色は一流だな、これからここを落下することを考えなければな」
『死人さんのスーパーボディなら大丈夫でぇす。そのまま地面に激突したら欠損しますけど、ガリガリ崖に沿って減速しましょ~』
「体は平気でも心が痛いんだよ」
そう言うなり崖から飛び降りる。凄まじい勢いで地面が近づいていく。
『死人さん』
「なんだッ!?」
『副腕伸ばしたんですけど届かないでぇす』
「うっそだろおいッ!」
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