第22話育児放棄に金遣いが荒い、役満です?
部屋の中を重たい空気が支配する。
テーブルの向かい側にはハゲがいる、そしてこちら側にはクズ旦那がいる。
「……まあなんだ、クズはクズなりにいい所あるさ……」
「それ、慰めになってないよぉ……」
「で、どうすんだ? 嬢ちゃんの義父なのはわかったからある程度の警戒は解くがな、働き先とかどうすんだ? うちでもいいぞ?」
「ちっと問題ありでな、裏の装備流しても大丈夫か?」
「――おめえ、娘の為にまっとうな仕事してやれよ。罪状が嵩んじまうぞ? できるできないなら、できるだ。たまに遠征に行ってるから装備類なら秘密拠点に隠しておけるからな」
「アサルト40にグレネード2、ガトリング2、だ。弾薬はありったけ用意できる。もちろん嗜好品もな。好きなだけリストに書いてこい」
「――お前なにもんだ?アサルト40って……おいおい、まじやべえ奴じゃねえかよ。どうすんだよお前? 手配されちまうぞ?」
「情報早いな、検問でいきなり死刑だと言われたらそうなるだろう、身分証が無いものは野垂れ死ねとまで言われたんだぞ?」
「あー、ここ数年軍人の質が落ちてるって聞くわな、外から来たもんなんて聞いたことねえしな」
「運悪すぎだろ、ウチの嫁さんが作ったギルドなら全力で支援するぞ? 今の責任者はお前だろう? 俺は……こんなことができる」
『ミコトちゃん高そうなウイスキー注文してくれないかな?』
『ダメ旦那さんですぅ~育児放棄ですぅ~』
『ちょっと今いじめないで泣きそう。とにかく頼むよ?』
『はいですぅ』
テーブルの上に高級ウイスキーが出現する【山田十五年】と今は生産されているかわからないシングルモルトだ。ロックグラスと氷は細やかなサービスだ。
「おめえ童貞拗らせて、いや子供がいるか。魔法使いってやつか?」
「魔法使いではないが物資の供給には強いぞ? 何か欲しいものがあるのか?」
「カッコよくウイスキー出してもらってなんだが日本酒が好きなんだよぉ、俺の地元の日本酒なんだが――」
「分かった、これか?」
「オオッ! ありがてぇッ! もう十年以上飲んでねえからなッ!」
「喜んでもらって良かった取り敢えず飲もうか」
会議室で酒盛りを始めてしまう、こうして男同士で飲んだことなどほとんど無いからな。ロックでちびちび飲むの好きなんだよ、もちろん炭酸で割るのも悪くない。
「恐らく指名手配されるだろうから堂々とはできなくなるから、こっそり納品できる場所作れないか? 銃器はそうそう手に入らないが弾薬と装備、物資なら都合つけれる。まあこの魔法にも種があってな。ゾンビ共の生息地とか地図で出せるなら出してくれないか?」
「出入りが頻繁だとまずいか、後でデバイスを支給する、個人識別番号で辿られることは無いだろうが一応気をつけてくれ。ま、お前さんには関係ないだろうが」
「ありがとう、こんな怪しい支援っつーか信用していいのか? だいぶ殺しているぞ?」
「そりゃおめぇ、知り合い殺されたらぶっ殺しに行くが、世話になった姐さんの旦那だ。つかおめえ年齢どうなってんだ? どう見ても成人そこらにしか見えねえぞ?」
目の前で前腕をブレイド化させアピールする。協力関係を結べそうなので情多少報公開だ、もしばれても阿岸の為に生贄が増えてくれる。
「おめぇ……とんでもねえな」
「ゾンビ共を殺して殺して殺しまくったらな――ちなみに嫁さんの阿岸も知ってるぞ? 娘ちゃんは知らないだろうけど。10mほどの巨人とガチバトルかましてたからな」
「やっぱりか、酒の肴で姐さん聞いたことがある、旦那が別れ際にとんでもねえバケモンと戦いに行ってるって。嘘だと思ってたけどおめえマジだったのかよ」
「ああ、ヤバかったぞ。実際腕食われたからな。奴は車両を掴んでポンポコ投げて来るんだぜ? 最後にタンクローリー投げられたときはビビっちまったよ」
「そうか……死人よぅ。姐さんの死因知りてぇか?」
急に眉を顰め悔しそうな、後悔しているような顔をしている。もちろん答えはイエスだ。
「聞きたいな、娘ちゃんもなにか抱えていたしな」
「ああ、五年ほど前か。マザー討伐作戦に遠征に行くことになったんだ、そん時の事を話してやるよ」
それから長い事、夜が明けるまでギルドの創設から、色々な物語、娘ちゃんの成長に日記に、現在に至るまでの状況、西部防衛都市の現状、海外との貿易摩擦。
気付けば朝日に照らされていた、部屋の中は種瓶と食い物の残骸と、酔いつぶれたハゲ。
灰皿を用意してプカプカと煙を吐き出す、久しぶりに楽しかったな。ハゲの名前は
ギルド内部にも人が集まりだしたらしくガヤガヤと活気づき始めた、普通の人は今からは出勤時間だったり活動するタイミングだよな。根無し草だよな俺。
部屋の扉がドンドン叩かれ、勝手に開かれる。部屋に入って来たのはちっこい阿岸だった、目元は垂れ下がりほんわか優しい感じがする。姉はきつい感じがしたけれどな。
「お父さん……? お姉ちゃんから聞いてきたんだけど、なにこれ」
そりゃ酒と煙草の煙で充満していたらそんな表情になるわ。育児放棄した旦那が返って来て初めましての父親がこんなんじゃ俺でも引くわ。
「初めまして――娘よ。お母さんとの話を聞くか? そこまで長くはないけどな。会いにこれなかった真実と俺の状態をな」
「……うん。お母さんずっと待ってた。でもお父さんのことは悪くなんて言わなかったもん」
「けれどこの部屋ではな、おい。源三起きろ」
「んぅ……頭いてえ、おお、嬢ちゃん、おはようさん」
「おはようございます。ギルド長、でもこれは無いんじゃないんでしょうか?」
「ははは、すまねえな。商談が長引いちまってな、せっかくの再会だ今日は休んでゆっくり話をしてきな」
「分かりました……お父さん行くよ?」
「ああ。源三よろしく頼むぞ」
「まかせろや、また夜にでもこっそり来いよ。受付に言っておくからよ。それと一応きを付けておけ、手配が回るまでそう長くはない」
「娘を心配させない程度に頑張るさ」
フードを深くかぶり大きめの防塵ゴーグルを付ける。ガスマスクでは目立ちすぎるからな、ハンター装備としてはそこまでおかしくは無いだろう。
片付けはハゲ……源三がするだろう、そそくさと部屋を出る。
『ミコトちゃん後ZPどれくらい残ってる?』
『もう三十そこらしかないですよう~、金づかいの荒い旦那さんを持つとたいへんですぅ~』
『ミコトちゃんの好きなお洋服買ってあげるから』
『お財布はわたしも共有なんですよう、とりあえず騙されておくのも妻のつとめですぅ』
◇
ギルドの裏手にあるバギー置き場に行く、ハンターの必須アイテムとしてほとんどの物が所持しているらしい、荒れ果てた荒野みたいな場所を移動するには必要だしな。
「私たちの家は海辺の丘にあるから。お父さんは後ろに乗って、あと育児放棄された父親に対してどんな対応すればいいのか分からないの。冷たくしてもごめんね」
「もちろんだ、放棄するつもりはないと言っても信じてもらえないだろう、それも含めて説明するよ」
「家にお姉ちゃんいるからケンカしないでよね? 撃たれても知らないけど」
「――わかった」
娘とは怖くて強いものだな、お父さん撃たれるかもしれん。今更だが名前を聞いたら殺されるかな? 娘ちゃん娘ちゃん言ってたけど知らないんだ。阿岸も教えておいてくれよほんとに。
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