第17話え。幼女ちゃん……。

 すれ違いざまに散歩中のゾンビをハチの巣にしている。現在戦闘の真っただ中に何をしているかというと、あまりに弾をブチ込み過ぎてZP残弾が心元なくなって来たからである。


 大量のZPを消費して継戦能力はダントツに上がったものの決め手に欠ける。


 ストーカーも真っ青の追跡能力でどこにいても必ず見つけてきやがる、マンションの室内に隠れても身体を変形させて侵入してきやがる。

 巨人の手のひらがワームの口ように変形してギザギザの歯が迫って来た時は死ぬかと思いました。


 膂力はコンクリートの壁をぶち抜き、走力は車両を追い越す、変形して地の果てまでも追ってくる。


 一度キーの付いている車両で逃走を図るも、追いつかれて鷲掴みにされ、三時のおやつにされそうになったわ。


 弱点とまでとはいかないがポイントは口だな、明らかに射撃する時にはガードしている、うまく弾丸が入った時には苦しんでいるのを確認できている。


 ガード不可能の攻撃といえば。


「口内に自爆特攻。超近接射撃とかゲームじゃねえんから。筋肉の塊みたいな化け物だから一瞬でミンチ肉にされるわ」


 腹を決めるしかないか。



 近場の地上を走る鉄道まで奴を誘導する、稀に鉄道の地下を抜ける歩道があったはずだ。射撃で牽制しながらも移動、副腕にミサイルランチャーを装備する。巨大な拳を回避しつつの移動は、気が休まらない。


 前方に小さなトンネルを確認。喜びもすぐに終わる。


 トンネルに走り寄るも後方から殴り飛ばされ車両の側面に叩きつけられる。窓ガラスが頭に降り注ぎ。血の塊が口から噴き出す。


「ゲフッ。お前空気読めよ」


「■■■■ゥゥウ!」


 二打目を横に転がり回避、三手目で片足を掴まれる。そのまま口の中に持っていき捕食しようと行動する。


「ふッざッけんなよッ!」


 片足の爪を伸ばし奴の体表に突き刺す。辛うじて飲み込まれることを防ぐが左前腕が飲み込まれる。

 このままではまずいと思い全力で引き抜く。前腕がブチブチと引きちぎれ血液がシャワーのように噴き出す。

 痛みを意識しないように堪え、体表を踵で蹴り押す。その瞬間、奴から弾き飛ぶように距離を離すことに成功するが。


 前腕はちぎれ肘から先が無い、俺の腕を嬉しそうに咀嚼する奴は停止して味わっている。急いでトンネルに掛け込み出口に陣取る。


「いでぇ、畜生。絶対ぶっ殺してやる」


 しばらくするとトンネルの入り口に表れ、表情は分からないが愉悦の感情が奴から伝わってくる。


「舐めてやがる」


 現在使用できるありったけのZPで爆薬を購入、副腕に装備すると四角の銀のブロックのような状態に変化する、頭の悪い奴には中身が分かるまい。

 起爆装置を懐に隠し、右手にミサイルランチャーを構える。


 ぐちゃりぐちゃりと音を立て、奴の巨躯はトンネル一杯に体を押し付けながらミチミチとワームのように変形する。


 すぐさま砲撃、爆風が跳ね返ってくるが下半身の爪を地面に食い込ませ耐える。奴は口を閉じたが勢いは止まった、全身が焼け爛れながらも突撃する。


「うおぉぉぉぉおおおッ!」


 口が開いた瞬間に副腕ごと爆薬を叩き込む、奴は餌が自ら飛び込んできたのかとすぐさま口を閉じ咀嚼を開始しようとする。


「死なば諸共」


 隠していた起爆装置のスイッチを右手で押し。そこで意識が途絶えた。



 意識が芽生える、周囲は大量の瞳と大きな口、風景は青黒いマーブル色をしている。ここにいるのは久しぶりだな、体は動かせないが意識ははっきりしている。


 相変わらずこちらを見つめる瞳は気に入らない。大きな口がゆっくりと開き何かのヒトガタの残骸を吐き出す。残骸は内臓の無い胴体と辛うじて頭部が右半分が残っている。肋骨の中には銀色の小さな半球体に罅割れた青い宝石が埋め込まれている。


――まさか俺か?


 瞳たちは頷くように一度だけ瞼を閉じる。


――ははッ死んじまったか


 もう一度瞼を閉じる。


――そうか……まあ奴が殺せたならいいか。殺せたよな?


 瞼が閉じる。 


――じゃあ終わらせてくれ、疲れちまったよ。


 反応が無い。


――まだゾンビを殺せってか? だが死んじまっただろ?


 反応が無い。


――はぁ、会話にならねえ。


[指定特別個体ゾンビの討伐を確認]

[おめでとうございやがれ]

[特別報酬が進呈されやがります]


 眼前の俺であった残骸がドロドロに溶け混ざり合わさる。


[所有SPソウルポイントをすべて使用します]


 周囲に浮かんでいた瞳から眼球が一つ飛び出してくると残骸に溶け込んでいく、そして口から吐き出された玉虫色の幼女の生首が俺の残骸を美味しそうに咀嚼する。


[ゾンビをぶっ殺しやがれ下さいデェス!]


 夢うつつが終わる。



 酷く喉が渇く、視界を開くと微かな光がのぞく。これは――瓦礫の中に埋もれているのだろうか?


 四肢の感覚はある、腕と足に力を込めて動かしていくと少しずつだが瓦礫を掻き分けることができた。光に向かい腕を振るい弾き飛ばしていく、光が大きくなり最後の瓦礫を蹴り飛ばす。


「何これ?」


 見渡す限り焼け野原である、あまりの衝撃に呆然としてしまう。廃墟は焼け跡が酷く、コンクリートが剥き出しになっている。所々民家があったと思われる位置には基礎が剥き出しになっている。

 アスファルトは砕け、たまに骨らしきものが見受けられる。

 空気は淀んでいて少し息苦しさを感じる。雑草すら生えておらず虚無感しか抱けない。


 爆発に巻き込まれたため装備は全て喪失し、全裸で徘徊する。先程から額と背中がムズムズするが、呆然と徘徊する。


「どうしよう」


 先程から網膜デバイスが作動していない、生身の人間に戻った感じだ。水もなく食べ物も服も無い。


 民家の基礎に座り込み風景を眺める。気温は仄かに暖かく空気は悪いが風の温度が気持ちいい。全裸でなければ日向ぼっこでもしたい感じだ。


 小一時間程のんびりしていると景色が切り替わり狭いボロアパートの一室に居た。


「これは、俺のアパートじゃねえか。転移とか手に入れたの?」


 返事は返ってこない。窓を開けようとしても動かず、玄関も開かない。どうしようもないので冷蔵庫に飲食できるものが無いか調べてみる。


 冷蔵庫の扉を開け物色すると生首幼女(仮)が目を開いてニコニコとこちらを見つめていた。


「お久しぶりです」


「え、生首幼女ちゃん?」


「そうですよぉ~、起きるの遅いじゃないですか! 寂しかったんですよ~」


「なんで生きてるの? ってか喋れるんだ」


「ひどいですよぉ~、正確には生きてはいないんですけどねぇ~」


 ふわりと冷蔵庫の中から浮かび上がり俺の胸に飛び込んでくる。両手でつかんでいると心外とばかりに怒り出す。


「レディへの久しぶりの再会には抱き締めて頭を撫でるのが基本ですよぉ~!」


「ごめんね。ほら撫でてあげるから」


「良きにはからえですぅ~」


 満足していただいたところで説明を受ける。全く理解できないからな。


「ここはぁいわゆる仮想世界ですねぇ~、死人さんの肉体や色んなものがぐっちゃんぐっちゃんのべったんべったんに混ざり合ったせいかぁ私もくっついちゃったのです、でもお陰で賢くなれたし色んな事ができるのですよぉ~」


「うん、良く分からないことが良く分かった。話ができるようになっただけでも嬉しいよ」


「私もですよぉ~、ちなみに身体を復元してもエネルギーが無かったので起きるのが遅くなったのですよ? さっきから太陽のエネルギーを蓄えてようやく、この場所も体もあくてぃべーと? したのですよー」


「まるで光合成みたいだな」


「ですです。睡眠や食事も特に必要としないのですよ~お得です。死人さんが良く使用していた情報の閲覧や購入もココで出来ちゃうのです! ちなみに現実の世界は時間が進んでいないのですっ! すごいでしょ~」


 先程から凄い事を聞いているが生首幼女のドヤ顔が可愛い、俺ロリコンじゃないはずなんだがな。

 つまり脳内で高速で情報処理ができているということだな。まるで電脳みたいだな。


「ですです電脳みたいなものですよ? ちなみに考えている事は筒抜けですぅ、可愛いなんて嬉しいですねぇ?」


「せめて口頭でのやり取りに限定してくれ、恥ずかしい」


「わかったですう。死人さんにも閲覧できるので試してみて下さい~」

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