第16話身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。

 周囲を窺うも階層の高い遮蔽物はそこまで多くない最大でも五階建てくらいだな、指定特殊個体とやらの体長は遠目に見ても三階建ての住居くらいあるな。

 網膜デバイスをズーム表示で確認するとゴリラのような走り方で六腕、頭部に位置にはあるはずの顔が無く、ワームのような歯がビッシリと生えているのが見える。口のようなものが複数存在しており感覚器官が存在しているかすら怪しい。


「一直線に俺に向かって来てるじゃねえか、相当トサカにきてやがる。ありゃ長距離でも感知できる何かがあるな」


 弱点の推測ができない、息が必要なのかも分からないし心臓も脳の位置も特定しにくいだろう。すでにこんな世に居るか分からない神にでも祈りたくなる状況だ。


「生首幼女ちゃんを無理心中させるわけにもいかないしな。おいちゃんできるだけ頑張ってみるよ」


 ミサイルランチャーを[ロッカー+]から取り出し、すかさず砲撃。かなりの距離を飛んでいく。今度からゾンビ処理も楽になりそうだな。

 

 高所からの砲撃と違う感覚に感心してしまう。数瞬後命中。効果を確認する前に次々と砲撃する。距離のアドバンテージがあるうちに最大火力を叩き込まなくてはな。


 巨人は歩みを止めない。10m以上ある巨躯がさらに怒りを込めた雄たけびを上げ走り寄って来る、腕らしきものが一本欠損し黒い液体がドロドロと溢れ出ている。


「多少効果はあるようだな。胴体に対しては焼けただれてはいるが欠損が見られないな、急がないと距離が縮められてマズイ」


 あの巨躯に格闘戦で挑むなんてもってのほかだ?せめて高所から射撃したい、移動しつつもミサイルランチャーをバカスカ打ち込む。

 目標を追尾してくれているのでとにかく撃ち込むしかない。手持ちできる火器までしかアンロックされてないのは痛い。


 戦車とかアンロックしろよと思う。


 火器を収納し五階建てのマンションへ、下半身に力を入れ二階のベランダに向けジャンプする。ベランダの手すりを掴むと足を掛け再び階層の登っていく。


「バカとなんとやらは高い所がお好きと。攻撃は一方的に行うのが好きなんだよ、芋スナイパーを嘗めんな」


ガトリングガン250ZP×2


 残3354ZP


 目標はおよそ一キロ。見通しのいい国道で火線には困らない、手持ちの火器の中で最大の連射できる弾をお見舞いしてやる。


 両手に一丁ずつ出現するガトリングは黒光りしていてカッコいい。とても片手で持てる重量ではなく恐らく固定砲台するタイプなのだろう。

 [射撃管制Ⅰ]起動、手のひらのグローブを突き破り銀色の液体がトリガーと同化する。ガトリングに侵食した銀を血管のように張り巡らす。


「兵器人間ってかぁッ! 人を辞めた利点ってのを見せてやる」


[自動射撃開始][自動弾薬補給開始。ZPを使用します]


 レティクルを見つめ思念で照準を合わせるだけで腕が半自動的に補正していく。銃口から次々と火が吹き、断続的に音が鳴り続ける。

 自らの高笑いすらかき消され気分が高揚していく。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇッ!! くたばれッ! この糞ゾンビがァッ!」


 一発一発は肉にめり込む程度だが、毎分何千発もの弾丸は痛いらしい。防御でもしようとしているのか複数ある口は閉じられている。


「――■■■■■■ォォッ■■ァァッ!」


「ハーッハッハッッ! イッヒヒヒヒッィィィィイイ」


 どちらが悪役か分からない叫び声をまき散らし、弾丸を御馳走お注射してやる。苦し紛れに停車している車両を巨腕で鷲掴みこちらに振りかぶる。


「おいおいおいおいおいおい。やめろってばッ! いい子だからね? ゆっくりとおもちゃを床に置こうね? 今ならパパ許しちゃう」


 無常にも車両は投擲され放物線を描きこちらに飛んでくる。弾丸と違い回避することは余裕だ。数メートルほどスライドするように移動、真横を車両が風を切り通り過ぎる。


「バカめ、ノーコンピッチャーがッ! 当たらなければどうとでもないのだよッ! あ・て・て・み・な・さ・い」


 過去最高に全力で煽ると先程よりも投擲スピードが上がり、屋上が車のスクラップ置き場になりつつある。もちろん命中すれば即死だろう。


「まさか、おめー理解する脳あんのか? 頭もねえくせに、これがまさに脳無しってか」


 まだまだ距離が離れているにもかかわらず叫び声に反応している節がある。地獄耳を通り越している知覚に思考能力があるとマズイ。ちぎれた腕もすでに半分ほど再生し生えてきている。

 そろそろ屋上から逃走しようかと企んでいると、奴はタンクローリーを器用に回転させ遠心力を掛ける。


「ヘイグッボーイ。ステイステイ。そいつぁまずいよまずいよッ! だから辞めろってッ!」


 即座に射撃を停止し屋上から階下にダイビング、落下の最中に屋上にタンクローリーが激突、内部にたんまり液体燃料が詰まっていたのか爆発。炎上する。


 両手にガトリングを接続しているために受け身も取れずアスファルトに激突する、全身に激痛が走り暫く悶絶する。再生が行われているがすぐには戦線復帰できそうに無い。


「グウッ、ペッ。畜生め」


 思ったよりダメージがでかい複数個所骨折しているようだ高所からの落下に耐えれるほどの肉体強度はまだ得ていないらしい。死ぬよりましだが。


「肉体強度を当てにし過ぎたか? やっぱり詰めが甘いのが俺らしいや」


 声帯は無事らしく血を吐き出すと喋れるようになる。奴との距離が大分近くなってきている。このままでは一発殴られるだけでおしゃかになりそうだ。


「■■■■ォオォオォッ!!」


 うまくいったことが嬉しいのか奴は六腕を掲げはしゃいでいる。子供並みの知能はありそうだな。


 やるしかないか、網膜デバイスで身体改造のアイコンをタップ、項目を表示させる。


[筋力Ⅰ]1000ZP

[機械化Ⅰ]1000ZP

[ESPⅠ]1000ZP

[粘菌属Ⅰ]1000ZP

[カメレオン]500ZP

[耐性Ⅰ]1000ZP

[擬態Ⅰ]1000ZP

[変形Ⅰ]1000ZP


 [筋力Ⅰ][機械化Ⅰ][変形Ⅰ]を即座に選択、有効化。すでに全身ボロボロので痛みが追加されても良く分からない。

 おぼろげな意識の中、肩甲骨辺りに違和感が湧きあがり、前腕は機械化されていきズシリと重みを感じる、脊柱に熱された焼き鏝を押し付けられたように熱い。恐らく機械化された部位を支える為だろう。重量的に前腕に振り回されるしな。


 有機的な骨格に無機物が混じり強度と神経伝達が強化されている。機械骨格に生体ナノマシンで包み表皮はハニカム構造のメタル装甲ってか。


 肩甲骨に一本副腕が出来てやがる。[変形Ⅰ]の効果で有機物と無機物がスムーズに連携でき、下半身の獣部位とも相性は悪く無いようだ。


 掴んでいたガトリングも前腕と一体化しており意識一つで射撃が可能だ、副腕用にもう一丁ガトリングを購入。同化させる。


ガトリング250ZP


残104ZP


「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、いい言葉だよな」


 立ち上がるもすでに眼前に迫る巨人の拳タイタンフィスト。側転をして回避。六腕から繰り出される拳の嵐は止まらない。

 副腕のガトリングで牽制射撃を行う。増加された強靭でしなやかな筋肉が獣の動きを再現する。足の鉤爪が地面を捉え、急制動を可能にする。


 視神経が拳を捉えるきれる程度には強化され紙一重の回避を成功させる、これ以上の反射神経は[神経Ⅰ]の取得した際に期待だな。


 円を描くように巨人の周囲を周回しつつガトリングの重量と射撃の反動を利用しながら舞うように攻撃する。

 自前の走力は驚くほど上がってはいるが車両には敵わない、恐らく逃走しても奴に追いつかれるだろう。


 考え事をしていたのが悪手だったのか隠されていた巨人の腕が地面を薙ぐように振られる。


 巨体から繰り出される膂力は強烈で張り手で吹き飛ばされる、ダンプカーに正面衝突したような衝撃を食らわされ、ガードレールにぶち当たる。内臓を引っ繰り返されたような嘔吐感を感じる。


 強化されていなかったらこれだけでは済まなかったと実感する。振り下ろしが来たら即死かな。


「まったくやってらんないよな? お前もそう思わない?」


 巨人の返事はすべての口らしきものを開き涎を大量に零すことだった。

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