第14話大人の時間はこれからだ。

 柔らかく暖かい香りに包まれながら目を覚ますと腕の中には小柄な生物が。

 寝ぼけていたのか分からないが、しっかりと抱き締められているな。

 慌てて起きるのも悪いし、もう少し体温を感じているのも悪くない。


 窓から差し込む光の刺し加減を見ると昼を過ぎて居そうだ。

 眠気が覚めずにボンヤリと辺りを見回す。こんな狭い空間に様々な物が乱雑に置かれている。隅には購入したランチャー類と装備一式、食べ終わった鍋に、脱ぎ散らかされたスウェット。スウェット?


 たまにはいいかと腕の中にいる彼女の髪の毛を撫でる、俺の髪の毛の質と全然違うな。細くて柔らかく日の光を反射している。

 もちろん下着のみで、寝る時はあまり服を着たがらないのだろう。

 彼女の体勢はうつ伏せに抱き着いていて両手は俺の首元に回っている、腰は鍛えられているのか程よく締まっていて片手に収まるほど細い。

 髪の毛を撫でる行為がこんなにも落ち着くものなのかと感想を抱いていると阿岸の目が薄っすらと開き、おもわず髪を撫でるのを止めてしまう。


「あら。もう少し撫でてくれてもいいのよ?」


「ではそうしよう」


「ふふ……」


 少し殺伐とし過ぎた状況に疲れたいたのかもしれない、彼女の提案に乗ってしまう。

 首元に抱き着く腕の力が少し強くなり、密着度が上がっている。


「いつの間に一緒に寝ていたのか? まあ感触が大変嬉しいのだが」


「だって寝るとこソファーしかないじゃない。安全性も確保できていたしたまには男の腕の中に抱かれたいじゃない? 誰でもいいわけじゃないのよ?」


「それは光栄だ、このままでいいか?」


「いいわよ。ありがた~く抱き締めなさい」


 では。少し力を籠め抱き締める、彼女から小さな吐息が漏れるが気にしない。気にしないったら気にしない。これは伝説の【コミュぢから】というやつかもしれない。



 目一杯休んでしまい現在時刻は逢魔が時、夕日が沈む頃合いの事だ。眼下には昨日よりゾンビが増えている気がする。推測だが地下街が関係しているのか異常に集まって来ている。記念すべき祝砲はゾンビの密集地帯へミサイルランチャーを奢ってやろう。


「準備は良いか? 弾薬はドンドン出していくから気にせず撃ち続けててくれ。ゾンビに知能があるか分からないが体はなるべく隠しながら攻撃してくれ」


「分かったわ。途中で追加のグレネードランチャーを出すんでしょう? 楽しみにしてるわ」


「ああ、たっぷりと食らわせてやれ。作戦開始だ」


 強烈な一撃をゾンビ祭りのど真ん中に打ち込んだ。予想以上の爆発に驚くも弾を召喚、装填し即発射。


――ゾンビーポイントを獲得しやがりました


 電子音が機嫌がいいのが丸分かりだ、ゾンビをぶっ殺してやるから細やかながら応援してくれ。隣にいる阿岸も嬉しそうに虐殺してる。追加のグレネードランチャーをすかさず購入し傍に配置する。想像以上の速度でZPが溜まっていく。

 


 三時間程延々と撃ち続けていると肩が痛くなってくる、阿岸も体に負担が掛からない体制を維持しつつ射撃を繰り返している。

 グレネードランチャー用の焼夷弾を渡したのがマズかったのか集まるゾンビ共が盛大に燃え広がり、黒煙が凄くなってきている。風向きが追い風なのが幸いしこちら黒煙が吹いて来ない。

 火の粉が屋上まで舞い届きそうな勢いで赤々と燃え上がる。恐らく衛星からも確認できるだろう、ちょっと派手にやり過ぎたな。


残☆2540ZP


 機嫌がいいのを包み隠さなくなってるわコイツ。

 グレネードランチャーもミサイルランチャーも銃身が焼き付いてしまい予備を購入してもなお、これだけのZP取得量だ。さすがにガトリングガンは目立ち過ぎるので今回は未使用だ。

 砲撃でもある程度は大きな音が出るが阿鼻叫喚の大火事で騒音も糞もない。


 1000ZPだけでも逃走の成功率か継戦能力が欲しいな。技能を取るか? これだけZPがあるとドンドン欲が湧いてきそうだ。

 パパッと重力操作や空間操作なんて取得できたら良いのだけれど、身体機能由来の能力なら手に入るが都合良く能力取得とはいかないようだ。

 

[継戦][逃走][ソート]


[筋力Ⅰ]1000ZP

[再生Ⅰ]1000ZP

[機械化Ⅰ]1000ZP

[ESPⅠ]1000ZP

[粘菌属Ⅰ]1000ZP

[カメレオン]500ZP

[耐性Ⅰ]1000ZP

[擬態Ⅰ]1000ZP

[変形Ⅰ]1000ZP


 身体能力は上がっているが体力が上昇しているとは言いがたい。選択するべきは[再生Ⅰ]かな? 取得すると後戻りができないことは分かっているので[機械化Ⅰ]は深く考えてからにしよう。

 [体力Ⅰ]という項目が無いということは、心肺持久力を上げるなら[筋肉Ⅰ]か[再生Ⅰ]で上がるのだろう。二つの項目が重複した時は超人になっているかもしれない。


 悩んだうえで[再生Ⅰ]選択。生存を最優先に考えた結果だ。購入したはずだが体に変化はなく、手の平に銀色の球体が現れる。

 またこのパターンかよ、考えてみれば普通の人間の身体じゃ再生しないわな。


 恐る恐る胸に球体をそっと当てる、やはりズブズブと浸食していっている。身体が燃えるように熱いが痛みは無い。

 熱が広がっていくうちに段々と理解していく、人間じゃなくなったと。


「死人? 大丈夫ですか?」


「あ、ああ大丈夫だ継戦能力を上げるために少し強化をな」


「強化? そんなこともできるのね本当に大丈夫なの?」


「問題ない。まだゾンビ共は集まっているのか?」


「相変わらず地下鉄に向かって行ってるわ。あなたの予想通り何かありそうね。休憩を挟みつつ継続しましょう」


 事態が急変することもなく淡々と燃やし尽くしていく。赤い炎がテラテラとビルに反射しとても綺麗だ。

 推測の域を出ないが、ゾンビを呼ぶ声を邪魔しないように地下鉄道への入り口はまだ爆破していない。

 

 ガスマスクをしていないと匂いや煤がものすごい事になる。そろそろ酸素ボンベも用意しておこう。

 時計の針は天辺を刺し、もう間もなく日付を超えるところだ。


「一度休憩しよう火の手が広がり過ぎるとまずい事になる。扉を封鎖して酸素ボンベも用意しておこう」


「了解」


 再び塔屋に戻る、まさか逃走することもなく一息つくことができるとは思わなかった。風が止み屋上まで煙が漂ってくる。

 ドアを簡易的に密閉し、もし煙が階下から登って来たなら移動だ。酸素濃度測定器と酸素ボンベも準備しておく。


 煤で汚れた装備を階段で解除し購入した冷たい水を頭から被る、高温で熱された全身がクールダウンする。水の容量が多く使用しやすいシャワーヘッドとポリタンクを購入している。

 乱雑にパンツ一枚で水を浴びていると装備を解除しながら阿岸がこちらにやって来る。防護されていない隙間が煤で汚れている。


「死ぬほど暑かったな、装備もすべて煤塗れだ」


「そうね、私も水を浴びて良いかしら?」


 現在、準戦闘状態だがここで気にして時間を無駄にするのも惜しい。唸れ俺の【コミュぢから】。


「わかった。装備を全て解除してくれ、頭からかけるから。これボディソープとシャンプーな」


「ありがと」


 そういうと阿岸は装備を全て解除しインナーも脱いでいく。スポーツブラを外し最後にショーツも脱ぎ捨て。


「待て、全裸は問題ないのか?」


「ふふ、現在は緊急事態。汗でべちょべちょのショーツは履きたくないわ。それに頑張ったご褒美に素敵な下着セットをプレゼントしてくれるんでしょう?」


「ああ、もちろんだ」


「なら問題ないわね。色は紫がいいわ。ちなみにサイズはFよ、スタイルには自信があるんだから」


 そう言うと阿岸は髪をシャンプーで泡立て気持ち良さそうに洗うと、煤の付いた身体をボディソープで隅々まで磨いていった。乳の下も腋の下も股の中も指で掻き分け丁寧に磨いていく。


 ポリタンクの水が途切れないように購入していく、持ち上げて水を浴びせているので眼前に阿岸の全てが見える。【心頭滅却すれば火もまた涼し】


 小柄ながらもメリハリのある体、乳頭の先は薄桃色で美しい。【心頭滅却】


 胸の谷間から流れる水流は割れた腹筋、下腹部の順に流れ落ち陰毛から滴り落ちる。【滅却】


 時々、こちらの胸元に乳頭を悪戯顔で押し当ててくる。全力で挑発されているらしい。【滅】


 身体が洗い終わったようだ、ギリギリで踏み止どまれて良かった。


「ありがと。今度はあなたね、ポリタンクをゆっくり持ち上げて? 私の身体で洗ってあげる」


――んっ



 小一時間の戦闘(仮)の後に行われたゾンビ殲滅戦は、風の向きが変わり射線を確保できたため再開された。

 後半戦は作業感が強く体力を消耗しないように淡々と処理をした。彼女は体力には自信があったようだが、小一時間の戦闘(仮)と後半の殲滅戦で疲れ果て先に睡眠を取っている。すいません。俺が悪いんや。


 現在までのリザルトは。


☆☆3754ZP☆☆

 

 歓喜・歓喜・大歓喜である。【星】付ければいいってもんやないぞ?

 [再生Ⅰ]の効果も大分判明した、細胞が新に入れ替わりナノマシン化しました。

 [Ⅰ]の段階では細胞全ての原子や素量子まで操作や変換ができていない。


 [獣の因子Ⅰ]とは相性が良く、反射で鱗を固くできたり、脚力強化も瞬時に展開できる。今後[機械化Ⅰ]やその他の因子を受け止める器が[再生]というものだろう。


 因子などを受け入れるキャパシティの限界はあるみたいだ。

 腕を吹っ飛ばされても残骸がある程度あれば、じわじわと繋がり、頭が吹っ飛んでも情報量が足りていれば再生するらしい。もちろん[Ⅰ]程度じゃ何十年と掛かるけどな。蒸発し消滅するような攻撃には要注意だな。


 様々な物を消費しエネルギーに変換する機構が心臓部に当たる銀色の球体。正六角形の[ロッカー+]と融合したらしく収納スペースが四畳半ぐらいの広さになっている。[ガレージ]と広さは変わらないらしいが拡張性が全く違うらしい。どうんな拡張が行われるか分からないがとにかくナノマシンさんすげえ。


 人間じゃなくなったけれども特に気にしてはいない、受容性が拡張され死ににくくなるだけだ。もちろん生殖行動もできるし睡眠も食事も摂取しないといけない。大事なのは俺が俺であるという認識だけだ。

 

 ならば何も問題ない。全てを受け入れ強くなりたい。

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