第12話作戦会議を始めようか。

 阿岸に現時点で使用可能な戦力を説明する、激戦区に向かうためには万全に装備を充実させなければいけない。

 戦闘中に弾切れなんて恐ろしいし最大限に安全を確保していきたい。

 現在できる最大限の装備一式を渡し、速射性を重視してクロスボウを装備してもらう。


 かなりの量の装備一式を購入。

 対集団用兵器としてグレネードランチャーや設置できる爆薬も移動した先で利用したい。ZPを稼ぐためにタイミングが合えば安全な高所から降り注ぐグレネード弾をお見舞いしてあげよう。

 もちろん救助優先だが。


残367ZP 残274SP


 出撃準備が整うと一息入れる。伽藍洞がらんどうとした最上階は風景がとても寂しい。

 ゆっくりとソファーに腰を沈み込ませ、両手を投げ出しまま口に咥えた煙草を吹かす、行儀は悪いが最高に快適だ。

 稀に灰が顔面に落ちてくるが誤差の範囲内としよう。


「あなた意外とだらしないのね」


「根は真面目だぞ。多分」


「どうだか。装備ありがとう心許なかったのよね」


「できる限り危険は減らしたいからな。油断はしない方がいい」


「それにしても緊張するわね。安全に行ける見込みだけれど怖いわね」


「そりゃ見るからにゾンビパラダイスだからな。逃走ルートの確保は一番大事だぞ? これ経験談な」


「動画を見たわよ。逃走ルートがなくて三階から飛び降りながら反撃するなんて頭がおかしいとしか思えなかったわ。同僚が殺されている点を除けば最高のアクション映画よ」

 

 少し空気が気まずくなるが彼女も最優先の目標を定めているのだろう。気にした様子はない。

 市街地へのインフラの供給を停止されているため薄暗くなる頃には周囲が見えなくなってしまう、街灯が無い風景は世界が闇に飲まれていくようだ。


「暗視装置を起動させたら行くぞ。無線の周波数はあっているか?」


 確認の為少し離れて無線を発報する。遅れてイヤホンに返事が返ってくる。


『こちら阿岸聞こえている どうぞ』


「そんなかしこまったやり取りじゃなくていいぞ、混線する訳でもないし」


『そうね。わかったわ』


 暗視装置を起動させると可視光線が増幅され視界が緑一色になる。いよいよ作戦開始だ。


「いくぞ」


 なるべく足音を立てずに地上階まで降りて行く。出入り口が見えるところまで進行すると視界内にはゾンビが徘徊している。エスカレーター脇に設置してある案内図を確認すると非常口が存在しているようだ。

 

「非常口行くぞ」


「了解」


 阿岸もやはり元軍人なのか作戦行動中は固くなるようだ、戦闘中には頼もしい限りだけどな。避難したときの状態のままなのか施錠されておらず、あっさりと外部に脱出することができた。


 暗闇で視認しずらいが遠目に高架が微かに見える。

 所々に放置された車両が見受けられるが人間の死体は無い、ゾンビがいる割には綺麗な印象だ。不思議に思いながらも視線の先にゾンビの集団を見つける。


 先行しているために手で停止の合図を送る、人差し指をゾンビの方向に向け四本指を表示する。簡素に陽動する旨を伝えゾンビにじわりじわりと接近する。

 音を立てて気を引きたいがあまり大きすぎてもマズイ。ビルの隙間に二人で身体を隠すと進行してきた方向に手ごろなペットボトルを投げる。理想は小石なのだが昨今の都会に石ころは落ちていないようだ。


 ゾンビの集団が食いつき全力疾走で音に向かっていく、目の前で通り過ぎたタイミングでするりとビルの隙間から抜け出し進行する。


 数回ほど同じ行動を繰り返し高架下に到着することができた、いつもは遠距離スナイプでチマチマやっていたが如何に市街地が危険か身を持って理解することができた。これだと大型の都市は魔窟だな。


「先行して登るから引き上げようか?」


「あらこんなところでレディ扱い? 大丈夫よ訓練を受けていたし」


「頼もしい限りだ」


 返しの付いたフックに頑丈な太めのワイヤーを括り付けたものを線路に向けて投擲する。視認できない為何度か投げなおして引っ掛けることに成功する。


「カラビナで固定してくる警戒して待っててくれ」


「はぁい」


 頑丈なグローブのお陰でグリップ力も最高だな、スルスルと辿り着きフックを外して大型のカラビナに付け替える。無線で合図をするとすぐさま阿岸が登ってきた。

 

「驚いた。有言実行だな」


「当り前よ。頼りにしなさい」


「よろしくお願いするよ。現在地から四駅分程歩かなきゃならない。線路上にはあまりゾンビはいないと思うが駅を通過する際が危険だ、警戒していくぞ」


 線路上をコツコツと規則的に音が立ちながら歩いていく。市街地の箸なので高い建物はそこまで多くはない。トロッコみたいなものを用意したら早いんじゃないかと思うも騒音がもの凄いだろうなと思い感想だけに留めておく。

 人とのコミュニケーションは得意でもないし苦手な方だが、沈黙が続くと変に気を使ってしまい下手な会話を振ってしまう。


「家族無事だといいな」


「……そうね」


 地雷踏んだか? やはり絶望的に【コミュぢから】というものが備わってないらしい、パーリーピーポーにはなれません。


「ふふっ何そんなに慌ててるのよ? 気を使ってくれたのね。ありがとう」

 

 口元を覆うタイプのガスマスクに暗視装置、ヘルメット装備のゴリゴリ戦闘モード姿の人物からフフッと微笑まれても魅力は無いが、耳元だけは穏やかな空気を吹き込まれる。もちろん無言で手をフリフリと仰ぐ。


「災害発生から半月も経ってはいないけれどまだ生きていてくれる可能性を捨ててはいないわ。自衛軍に所属してる際もかなりの人が亡くなったのを見て来たわ」


 無言で会話を促す。ココは聞きに徹するのが味噌だとばっちゃが言ってた。


「初期は連絡が取れていたのよ? 市街地のインフラを停止させられて巻き添えに遭ったんだわ、周辺は割と閑散としているはずだけど食料の調達も難しいだろうし」


 コツコツと鳴る足音が気になる、駅にはまだ着かない。


「ああ、心配だわ。大丈夫かしら? ねえ、うちの子はねまだ五歳で可愛いのよこの前七五三でね」


 ああ、かあちゃんには敵わないや。



 視界内に駅構内を視認やはりゾンビが大量にいるな。少しずつ削るか、[ロッカー]から新調した大型のコンパウンドボウを出し射撃管制システムを起動。暗視装置越しにレティクルが表示される。ありがたい。


「阿岸。ここから数を減らす、見える範囲を殲滅したら徐々に接近し片づけていく。接近するゾンビや届く範囲にいる場合ドンドン矢をバラまいていけ」


「了解」


 やっぱ優秀だなコンパウンドボウ、筋力が増す度に少しずつ大型に変更して行っているしな。いつ[ロッカー]に入らなくなるかヒヤヒヤしてるよ。

 危なげなくゾンビを始末していく、倒れる際に多少集まるが同族に対する認識が強いのか食指もわかないようだ。構内を屈みながら前進していく。

 駅を無事通り過ぎることに成功すると再びゾンビの頭部に狙いを定めできるだけ殲滅する。


「それ。例のゾンビーポイントを集める為?」


「そうだな、集まりにくい場所や少数のゾンビはなるべく始末していきたいな」


「信じないわけじゃないけれど食料や兵器が購入できるんでしょ? 食料とかほんとに食べれる物なの?」


「食料は断言できないが、弾薬や防具は確保できるようにしておきたいからな」

「そうね。武装は大事だわ」


 納得いただいてよかった。次の駅も通過し三駅目で問題が発生した。視界に居る範囲だけでも数百ものゾンビが構内にいる。これは抜けることができないな。


「ここは地下鉄道が交差する駅だから特にゾンビが多いようね」


「これは予想外だったな一先ず下へ降りるぞ」


 高架下を念入りに確認して降下。フックとワイヤーは勿体無いがそのまま放置だ。ハブに当たる駅では商業ビルが併設されていることが多くそれに比例して人も多く集まる。それはつまり。


「嫌な感じね」


「駅を抜ければまた線路が利用できるのにな。やはり現場を見ないと状況は分からないものだな」


 見るからにゾンビが密集している、いや押し合いへし合い、こけている奴もいる。どんな現象だこれは。


「どこに集まっているんだ? あれは地下鉄の入り口?」


「怪物の大口に自らを捧げに言っているみたいね」


「……うん。ゲームではな良くある話なんだがゾンビが進化したり蟲毒のように食い合ってだな、巨大生物になったり、ワームのような怪物が出てきたりするんだよ」


「……これ今の内にミサイルか何かを打ち込んだ方がいいんじゃないかしら?」


「できたら苦労しねえよ」


 疲労感が凄まじい為に近くの高層ビルに避難する。どうにかして通過しなければな。

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