第8話正義を掲げても世知辛い世の中だね
避難所を視界に収めつつも援護し、付近のマンションの共用部から射る。
昼間のニュースで救助の情報が流れたために全国でかなりの犠牲者が出たはずだろう。
治安維持部隊に援護させつつ避難誘導を行えばよかったのに。
こんな一地方の個人による援護で助けられる人数なんてたかが知れている。
他人に救われた事で、いつか救われた人が優しい心で他の人を救って欲しいと思う――願望だけどな。
夕日が差して来てから避難民の数は少なくなってきた。
いつもより遠距離からの攻撃で矢もかなりの量を消費してしまったと思う。近接武器は消耗無しだが今までで最大戦果かもしれない。
視界の隅には112ZPと三桁を越えた数字が見える。恐らくアイコンから火器が購入できるはずだ。
網膜デバイスで火器カタログを眺めながら煙草を吹かしているといると、共用部廊下に自衛軍人と警羅官が、階段とエレベーターを防ぎつつ迫って来た。
慌ててガスマスクを被り顔が分からないようにする。あちらさんからは不審な動作に見えたのか一斉に拳銃を構えてこちらに向ける。え、なんで?
「武器を捨てろッ! 君には殺人の容疑がかかっている、両手を頭の後ろに上げて跪けッ!」
「その弓を使って殺していたんだろう? なんて奴だ!」
なんだこれ、相変わらず爪が甘いなあ俺。取り敢えず撃たれたくないので、ゆっくりと弓矢とハンドアックスだけのろのろと床に置きながら会話を試みてみる。
「ゾンビを殺して避難民を援護していたのが何か悪いんですか? 一切悪い事はしていないんですが?」
「家族を殺されたと訴えている人が多くいるッ! 嘘を言うんじゃない!」
「ちゃんと確認したんですか? 銃をおろして――」
「早く跪け!」
聞く耳は無さそう。
こんな世の中で逮捕とか村八分以上の八つ当たりされそうだな。
普通こんな人数で拳銃向けてこないよ。そろりと破裂手榴弾を右手に召喚、ゆっくりと左手の指でピンに指を掛け示威行動をとる。
「よせ! ゆっくりと降ろすんだ! 家族が悲しむぞ!」
「なんでその銃口をゾンビに向けないんですかあなた達は? 本気で無能なんですか? せめて話し合いから始めるなら確認のしようがあったでしょうに」
パンッと乾いた音がした。右の太ももから殴られたような痛みがする、こいつら会話する気すらねえな、もういいや死ね。
そして装備ドロップしろ。ピンを引き抜くと同時に手すりからと飛び降りる。プレゼントは手榴弾な。ほれ受け取れ。
空中から唖然とする奴らに手榴弾を投擲する。
三階の手摺から落下するも自転車置き場の天井に着地する、屋根の鋼板はべこべこに凹んでしまったが。
気になる太もものケガも表面で弾かれ貫通はしていないようだ、性能が低い弾薬で良かった。遅れて炸裂音、共用部の密集地帯で破裂したので死人が出ているかもな。
「犯人が逃げたぞッ! 自転車置き場だ! 射殺して構わん!」
やっこさん相当トサカに来ている模様、俺だってトサカに来てんだよボケ。鉛玉のプレゼントがとてもとても嬉しかったのでお返しも鉛玉だよね。急ぎでソートする。
[信頼性][拡張性][値段][ハンドガン]
網膜にハンドガンの名前が表示される。
[グロッキュ18]をすかさず召喚、射撃管制システム起動。発砲。
三回の発砲音と共に二人警羅官の後頭部から脳漿が炸裂する、残り一発は自衛軍の胸部だな。ヘルメット被ってるし。
カヒュと自前のヘルメットから擦過音が、クソ上から狙って来てやがる。自転車置き場の天井から地面に飛び降り前転、止まり際に簡単に狙いを定め連射。全弾打ち切る。
「待てえぇッ! この殺人鬼が!」
「逃げても無駄だぞ!」
拳銃バカスカ撃って来てるのに殺人鬼はねえんじゃないでしょうか。
マンションの角を曲がり生垣に身を隠す、もちろん逃走しやすそうなルートも視認して確認する。
さっき召喚する際に見たカスタムオプションがかなり充実していたみたいなんだよな、じっくり見たかったものだ。
装弾数を上げる弾薬込みのロングマガジン五つに
射程を考えるとコンパウンドボウの方が長いが連射性と集団戦にはハンドガンがいいな。角から半身を乗り出しすかさず連射、面白いようにパタパタ倒れて行く。1ZPをたんまり奢ってやるよ。
二、三回繰り返すとさすがに突撃してこなくなったようだ。一応防弾装備をしているらしく致命傷にならず呻き声が響き渡る。
ロングマガジンをウエストバックに抜きやすいようにたんまり補給して周囲を窺うと、倒れているのは十人程、射撃管制でズームをして索敵すると車の影に隠れているのが五人。
救助するために応援を呼んでいるようだ、まずいなあ。
心元ない残り2ZPで破片手榴弾を召喚、すかさずピンと抜き投擲する。タイミングをずらしたため、残りの連中の頭上で炸裂、ギリだったかな。
ダッシュで駆け寄り蠢く自衛軍人の握りしめている拳銃を蹴り飛ばし眼球に発砲、残る四人も始末する。
救助を懇願していた十人そこらの同僚さんも仲良くあの世に送ってあげる。
弾薬の数が心もとないが二十丁以上のハンドガンと弾薬をたんまりリュックに回収させて頂いた。
自衛軍のトラックの中も物色していると、無線から空しくも救助要請の可否と安否を確認する声が聞こえてくる。
「応援部隊がそちらに向かっています! 応答願いますッ!」
物言わぬ死体の代わりに無線のスイッチを入れ返事をする、どうやら俺はかなり腹を立てていたみたいだ。
「あんたの同僚はあの世で今頃ハッピーバースデイを歌っているようだよ? おめでとう」
「――探し出して必ず殺してやる」
無造作に残りの弾丸を無線に撃ち込んだ。
◇
ひいこら帰宅し重たいリュックを床に置く、さすがに疲れているようだ。装備を解除し軽くシャワーを浴びる。
「あ、言ってなかった。ただいま。そしておやすみなさい」
今日も生首は黙して語らない。
◇
睡眠が十分とれたのか幾分気持ちも楽に起床することができた、購入した装備の点検に鹵獲したハンドガンと弾丸のサイズも調べなきゃな。
昨日の時点でアサルトライフルやマシンガン撃たれていたら死んでいたよね。逃走経路と安全は確保しないとな。
強力な火器が出てこなかったのはまだゾンビに対する判断を決めかねているのかも知れない、ハンドガンは簡単な自衛ができる携行火器のつもりなのかもしれない。
入手したハンドガンから弾薬を抜き整備しながらもスマホでハンドガンについて勉強してみる。
弾丸のサイズは同じで威力が警羅官のリボルバーの方がやや低いと言われてると。自衛軍装備のFSB10っていうハンドガンもかっこいいね。
これからは自己強化の為にゾンビ狩りを本格的に始めなきゃいけないからな。
せっかくハンドガン手に入れたけれどアサシンキルで堅実に行こう。
ここの地区だけでもかなりの人数が住んでいたはずだから虱潰しにゾンビを殲滅するかな。
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