第7話たまには人助けもいいかもよ
薄暗い闇をなるべく足音を立てず速やかに走っていく、娘がいる為そこまで遠くに行っていないはずだ。
なんで縁も所縁もない親子に必死に探してるのだろうか。
恐らく助けたのにもったいないとか可哀そうとかそんなところだろう、こんな世の中を健気に生きて欲しいなどとは思わない。
だが子供は別だろう、物事を分かるまでには育てて欲しいとは思う多少は助力もしよう、殺人者から受け取るかは別だろうがな。
余計な妄想を考えてるうちに、遠くにゾンビが群がっているのが伺える少しでも救いがあれば。
姿が近くに見えゾンビ共に攻撃を仕掛けようとしたときに無情にもビープ音が鳴る。
――感染者を殺しやがれ下さい
追い打ちに次ぐ追い打ちにもう涙すら出ない、まだ二人共と決まったわけではない。身を隠しつつ矢を引き絞りゾンビの頭を貫いていく。
――ゾンビーポイントを獲得しやがりました
――ゾンビーポイントを獲得しやがりました
――ゾンビーポイントを獲得しやがりました
――ゾンビーポイントを獲得しやがりました
射貫く最中に母親らしきものもいたが知ったこっちゃない、巻き添えにされた子供が不幸だ。十数体のゾンビを始末し終えるころには。ビープ音すらならなくなっていた。
もしや生きているのかと薄い期待を抱きつつも近づいていく。
ゾンビの死体が散乱するそこには四肢と頭をもがれた幼女の変わり果てた姿だった。貪り食われていなかったのがよかったのか悪かったのか分からない。
ここで哀れみ、救うこともいずれはできるのだろう。最初に手を下した幼女の救いを求め握りしめた小さな手はとても暖かかった。あの幼女だけを救うと決めた。俺の手はそこまで広くはない。
救助するまではうまくいった、殺人に慣れ息を吐くように殺していった。それでありがとうとでも声を掛けてくれれば少しは救われただろうに結果は全滅だ。救い恐れられ裏切られ報われない。心に穴が開きそうだ。
トボトボとスーパーに戻っていく、周囲は暗闇に包まれ明かりもない。家屋やマンションに引きこもっている人たちは電気を消して隠れているのだろうか?
普段よりもなお暗い、搬入口から侵入すると数体のゾンビがいたので無感情に淡々と射殺していく。
大きめのバックとカゴ複数に日持ちしそうな缶詰と飲料、生活必需品を詰めて行く。
太いゴムバンドで縛り担いで帰路へと付く、もう何も考えたくない。
ようやく落ち着く我が家のアパートに辿り着くことができた、なぜか大冒険をしてきた気分だがドキドキワクワクなどない。血煙と脳漿が舞っただけだ。
おかえりと言ってくれる人もおらず迎えてくれる人は冷蔵庫の幼女の生首だけだ。
話しかけてしまうといつか俺も狂っていきそうだ。終末世界よ。アンハッピーバースデイ。
◇
深い深い暗闇に漂っている、自分がどこにいるかも分からない、藻掻こうとするも四肢もなく声も出ない、ただココに居る事だけはわかる。
狂いそうだ、せめて気を利かせて明るいパステルカラーの背景にしてくれてはどうだろうか。急に風景が青と黒のぐちゃぐちゃに混ざりあったマーブル色に変化してく。違う。そうじゃない。
雑に背景色をブレンドされもうなんと表現した方がいいのかわからない。
ミチミチと肉を捻り千切る音が空間に響き渡り、いくつもの亀裂が入ってくる、罅からは血のような赤い液体が滴り落ちてくる。
まるで涙を流しているようだ。
亀裂が開き大きな瞳が無数にこちらを見ている、精神耐性が無い人はSAN値直送だな。
強気に俺がガンを飛ばしていると、ひときわ大きな亀裂が開き、歯並びの悪い口が口角をあげ満面の笑みの形に変わる。
俺が強気なのが微笑ましいのだろうか? あれ。俺って一人称いつから使っていたっけ? 自分、もしくは私だったよな。
まあいい俺は俺だこちらをずっと見つめる瞳にもニヤニヤ笑う口も気に入らねえ。
――とりあえず死ね
◇
自らの吐くアルコール臭と血で薄汚れたパーカーの異臭で目が覚めてしまった。そういえば昨夜やけ酒をしてそのまま眠りこけてしまったようだ。
玄関にも侵入されないよう防御すらしていなかったようだ。もう少し気を引き締めて行こう、死んだら元も子もない。
やけに外が騒がしい、スマホを確かめる現在の時間は昼を過ぎているらしい。
テレビを見ながら、ツブヤイターやネットニュースを検索していく。
「危険地域より救出成功、避難所より順次救助活動が行われる模様?」
テレビのテロップに簡素な文が表示されている、救助するよりも駆除しないととんでもないことになるぞ。
都市部や市街地に何人いると思ってるんだよ。
やけに騒がしいと思ったら一斉に避難所に移動したことによりゾンビと交戦状態になってるな、ろくに武器も持たないくせに。
ゾンビを人扱いするかしないかで、ストップがかかったのだろう、ゾンビ相手に正当防衛じゃ間に合わないのに。
一先ず防御用に巻き付けていたガムテープはがし風呂に入るとするか、パーカーも血が固まり不快な匂いを放っている。
衣服を全部ゴミ袋に放り込みシャワーを厚めに調整して頭から浴びる、後頭部を殴られたり血しぶき浴びたりかなり汚れてたんだな。
排水溝に赤黒い血塊が渦を巻いて排水溝へ流れて行く。髪も体も何度も何度も洗ってようやく綺麗にすることができた、たった一日でよくここまで汚れたよな感心するくらいだ。
網膜デバイスで購入画面を表示させ防具を検索していく。
[防具][各部位]
軍用プロテクタセット4ZP
西洋鎧セット10ZP
武者鎧セット10ZP
剣道防具セット2ZP
ヘルメット各種1ZP
グローブ各種1ZP
ブーツ各種1ZP
対刃インナー各種1ZP
残43ZP 残23SP
鎧なんて着て歩けねえよ、なんだよ剣道の防具って。確かに耐久性はあるけれど敏捷性や清音性だな、次回から検索ワードにも気を付けよう。もちろん防弾防刃のプロテクタをだな、四肢に胴と首を保護してくれている。
少しは歩きにくくなるけどな。ヘルメット、ブーツ、グローブもマットブラックで統一。森の中で歩くわけじゃないし暗闇で活動しやすいようにしよう。
剣鉈も二本購入し矢も補充しておく、大きめのウエストバックを装備して準備完了だ。
残32ZP 残23SP
まあこんなもんだろう初期の時に比べZPでの購入がただのネット通販になりつつあるな。
100ZPオーバーのハンドガンが遠いな、技能強化も最低1000ZPだからな。
◇
ガスマスクを被り玄関を静かに出て行くメインウェポンはもちろん清音性重視のコンパウンドボウだ避難所に移動しつつアサシンキルを行い避難民の援護をするつもりだ。
家屋の上からガスマスクが矢を射る光景はあまり見られないようにしないとな。
早速逃げ惑う避難民がいたようだ、すかさずゾンビの下半身辺りを狙い矢をばら撒くうまく足に命中し転倒したゾンビの頭を狙いとどめを刺していく。
――ゾンビーポイントを獲得しやがりました
この通知後でリザルトしてくんねえかな、本気で視界の邪魔になる。
次々に矢を射っていると倒れたゾンビを不審に思いこちらがバレる時もあるが大きく手を振って移動しろと合図を送る。
ペコペコと頭を下げ走り去っていく。ああしてお礼をくれるのは本当に嬉しいな、ちょっと心が暖まったので援護を頑張りますか。
大型のワゴンにぎっしり人が詰め込まれて走ってくるバンパーや窓にゾンビが取りついている、こちらに直線に走行してきているので射線が安定している。
よく狙いを定め射る。命中。運転手は不思議に思っているが気にせず避難してしまってほしい。
やや小走りで近所の小学校への道のりに居るゾンビを殲滅していく。
中には間に合わなかった人や感染者もいた、集団で移動していなかったため感染者を殺してもバレなかったが見つかったら大変だったな。
遠目に小学校の校門が見える。入れそうなところは厳重にバリケードがしてある、入場する為には梯子を降ろしてもらうしかないようだ。
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