第6話生命の値段は
十八人と呼んでいいのか十八匹なのかは置いといて
「いやああぁッ! かずくんがッかずくんが死んじゃったっ!」
全裸で血と精液濡れでズタボロの女子高生らしき女性が、首が半ばからちぎれかかり生首がだらりとぶら下がっている死体を抱き締めている。
たしかあれは眼鏡を掛けて真面目そうな制服を着ていた若者だな一撃で仕留めた覚えがある。
声を掛けようと近づくと怪物を見るような目でこちらを見ている。
「この人殺しぃいいいッ! 良くもカズ君を殺したなッ!」
「えぇ……どうしよこいつ」
武装していて明らかに敵の一味だったはずなのだがどういうことなのだろう?
かずくんとやらが脅されてなのか進んで協力していたのかは分からない。
言わんとすることは分かるが助けられておいてこれは無いだろう。被害にあい尚且つ友人か恋人が殺されては発狂するだろう、しばらく間を置くとする。
休憩室のドアを潜り状況を確認する、確か人質は六人、いや幼女こみで七人か女子高生らしきものは廊下で蹲っている。
幼女の母親と思わしき成人女性は嗚咽を吐きながら幼女を抱き締めている。残りの成人女性も各々震えながら呆然としている。血液に脳漿と脳味噌まみれに汚物がぶちまけられている。いやどうしよう。
比較的話を聞いてくれそうな大人しそうな女性に声を掛ける。
「あの大丈夫ですか?」
「ひぃ! こ、殺さないで!」
髪を振り乱し狂気的に土下座を開始してしまった、これはもうどうにもならねえな。
「聞け、そこの水道で身体を流し衣服を着ろ。話はそれからだ」
顎を動かし行けと合図すると、あの男達より恐ろしいのか震えながらも水道の冷たい水をばしゃばしゃ浴び始める。
おい幼女震えてるぞ。溜息を吐きながらも倉庫にタオルか何かないかと探しに行く、ハンドタオルが袋詰めで段ボールに入っていたのでそのまま休憩室に戻る。
髪から冷たい水を滴り落しながら並ぶ女性と幼女、そのうち女子高生らしき一匹は咽び泣きながら睨みつけてきているけどな。
「ほらタオル。最初に持っていた衣服を探すかロッカーにある制服でも着なよ? 外で待っているから」
着替えを促し退室する、介抱は俺には荷が重いかもしれない目の前で殺しまくったからな。微塵も後悔はしないが暴徒が増えつつある現在の状況をもう少しは考えて欲しいな。
これでゴミ置き場にある肉親かもしれない死体を発見したときにはどうなるか想像もしたくない。
ようやく少し落ちつく事ができたのでガスマスクを外し適当な椅子に座る。
懐に仕舞ってあった、お気に入りの煙草を口に咥えオイルライターで火を付ける。
ゆっくりと肺を煙で満たし、名残惜しくも吐き出していく。脳内麻薬分泌されていたのか興奮状態が落ち着き人間性を取り戻す。
胃液が躍り出そうになるも必死に飲み込む。
これか、これが[殺人Ⅲ]か。殺害しても微塵も躊躇しなかったのはバフなのかデバフなのか分からないな。
返り討ちにあうより助けることができて良かったと思うしかない。
なまじ制圧できても捕まえて置けやしないしゾンビの餌になるだけだ。
どこかの正義マンに捕まらないようにしよう。そうしよう。
アンロックされた項目を表示してみる、想像通り人のマークのアイコンが
蘇生100000ZP
蘇生1000SP
相変わらず不親切だ、条件が表示されていない。ゾンビでもいいのか死体でもいいのか分からない、人間を殺害すれば100:1とレートが全然違い過ぎる。
ゾンビをぶっ殺して欲しいけど人間でもいいよってか? 無差別に殺すつもりはないよ、クズだけだ。
他のアイコンも有効化されればSPの使い道が増えるかもしれないな、武器や食料に使えないし魂とか生贄とか関係しているのかもしれない。
アイコンを非表示にして煙草を吸い終わると喫煙所らしき場所にあるの灰皿に吸殻を捨て休憩室に戻る。
女性たちの姿が見えない、違和感を感じていると後頭部に強烈な衝撃が襲い掛かる。床に倒れ込み顔面を強打してしまう。
「このッ! 人殺しッ! シネッシネッ!」
虚ろな意識の中、背中に衝撃が何度も何度も襲いかかる、目が霞んで良く見えないがどうやら複数人の女性が鈍器のようなもので俺を殴りつけているらしい。
そう複数人だ。甘かった、顔を見られたくないのでガスマスクを着けていたがで装備はすべて廊下に置いてきている。
だが伊達に身体を強化されていない、後頭部への一撃は効いたがしょせんは女性の腕力じゃ致命傷を与えられなかったのだろう。追撃をするも背後に滅多打ちするだけだ。
「後悔すんなよ」
うつ伏せに寝転んだ状態だがハンドアックスを召喚、あまり力の入る体勢じゃないが女子高生、いや糞の右足を薙ぎ払う。
「ぎゃあぁあっ痛いあっあっつあっ」
半分ほど千切れた右足からドバドバと鮮血が溢れ出す。ぎゃあぎゃあ喚き散らしているが小うるさいガキめ。
ふらつく意識の中ゆっくりと立ち上がる、鈍器を持ち怯えているのは五人か幼女の母親は殺さなくて済むな、それだけが唯一の救いか。
「おい、助けられたお礼が脳天直撃ハッピーはねえだろうが。どうなるか分かったうえでやっているんだろうな?」
「わ、私はそこの子に言われてッ! すいません! そんなつもりは」
「あんた人殺しでしょッ! やられる前にやらなきゃ殺されるわ」
確かに人殺しは行ったがその人殺しを殺そうとするのは人殺しにならないのだろうか?
人殺しというワードでゲシュタルト崩壊しそうだな。
「そんなつもりはもありませんって普通に殺人未遂だろうが、後頭部に一撃とか死んでるよ」
何か私がかわいそうだとかあんたが悪いとか意味の分からない論理をぎゃあぎゃあ騒ぎ出して止まらない。なんか悲しいなあ、これが警羅官の制服を着てあなたを助けに来ましたとか言えばうまく収まったのだろうがこんな格好じゃな。
――とりあえず死ねクソがッ!
◇
殺戮が終わって気持ちが落ち着いた頃には幼女の耳と目を塞ぎ抱き締めている母親だけが残っていた。
そこらのタオルで血液を拭い母親に話しかける、冷静でいられないだろう。
「おい、話は通じるか? 今後どうしたいのか聞きたいのだが? 殺したりはしないぞ、むしろ助けに来た積りなんだがな」
「は、はい。娘を助けてくれてありがとうございます。私の旦那が捕まっていたはずなのですが知りませんか? 外の状況も分かっているつもりです。避難所か自宅に帰宅しようと思うのですが……」
気まずい、旦那さん死んでますよなんてこの状況で伝えるのは。だが誤魔化してしまっても意味が無いだろう。
「旦那さんか分からないが裏手のごみ置き場に成人男性の死体が数体あった、確認してくるといい」
聞いた途端娘を抱えて走り出してしまう。そりゃそうだよな、最悪を通り越して発狂する状況だよな。
最愛の旦那も死んでいればそうなる。死にたくなるだろうな。いや。まずい。
「おい、どこだッ!」
休憩室を出て親子を探すも姿が見えない、ごみ捨て場にあるのは死体だけだ。裏口の扉の開きっぱなしになっている。
クソッやっぱりこうなったか。こんな終末世界に全力疾走キメてる世の中に希望なんてないよな。
廊下にある新しい剣鉈を腰に装備し破損したものは捨てて行く。ハンドアックスを用意したホルスターに突っ込み。コンパウンドボウを持ち背後に矢筒を背負う。
裏口の搬入口から外に出て探しに行く、いつの間には周囲は薄暗くなりいわゆる逢魔が時だ。
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