第4話息を吐くように殺したい時もある
路上にはゾンビと成り果ててしまったのか思ったよりも死体が少ない。
血痕の跡や割られた窓、煙が未だに燻っている車両の跡がある。
どこを見ているのか分からない瞳で、呆然と突っ立っているゾンビの脳天に剣鉈を振り下ろす。
――ゾンビーポイントを獲得しやがりました
殺してすぐに家屋の隙間に身体を隠す、他のゾンビの反応は無いようだ。
最初に殺そうとしたゾンビに叫び声を上げられ逃走する羽目になってしまったが、数体程のゾンビを始末することに成功する。
剣鉈に滴る黒い血液を無造作に適当な布で拭う、それでもなお刃先は欠けていてなまくらになっている。
数体仕留めるだけでここまで消耗するのか、ミスリルやアダマンタイトなど特殊な金属でも無いからな。
かつては幸せな光景が映っていただろう家屋の縁側に座り込み剣鉈をそっと置く。
隈なく確認したが室内には誰もいないようだ。
頂いた甘いお菓子に齧りつきながら網膜デバイスをで情報の確認する。
膨大な種類の武器に簡単なソートを繰り返す。
[遠距離][武器][清音性][ソート]
ショートボウ2ZP
ロングボウ2ZP
和弓2ZP
コンパウンドボウ2ZP
クロスボウ2ZP
スリングショット2ZP
竹矢1矢束ZP
カーボン矢束1ZP
ジュラルミン矢束1ZP
残5ZP
軽くソートしてもこんなに種類が出てくるのは嬉しいのだがいかんせん選びづらい、性能も記載されてないし。
現在災厄が起きていてもインフラはまだ生きているようなので自前のスマホで検索してみる。
射程や貫通力を鑑みてもコンパウンドボウかな、別にカッコイイから選んでるなんて思ってないからな?
コンパウンドボウとジュラルミン矢を選択、手の平に黒い粒子が集まり現れる。この演出何とかならないのかな? 体に悪そうな色してるし何を原材料にしてることやら。
ズシリと手に乗る重たい感覚これで命を奪うのかと考えると余計に重たく感じる。
矢は筒に二十本程入っている、剣鉈を鞘にしまい同じものをもう一本購入して二本差しにする。
これで残り1ZP。
余裕ができたら基礎能力や技能を覚えたいが如何せん必要ZPが基本千単位を超えるようで舐めてるとしか言いようがない。
お金が足りなくて世知辛いのはいつものことか。
「空を仰げばいい天気、下を見ると地獄だなこりゃ」
二階建ての家屋の屋根の上によじ登り付近を索敵する、一生懸命に屋根に登ってる時はもっとスマートにできないものかと思ったが今後に期待しよう。
今までは遠距離武器が無かったため使用していなかった[射撃管制Ⅰ]を使用する。購入前に試験運用したかったのだが実際の装備じゃないと使用感が分からなかったからな。
「射撃管制Ⅰシステム起動」
網膜投影されるレティクルが出現する、射線に合わせて赤いポイントが動いてるな。視覚内のターゲット補足にズーム機能までレティクルはゾンビの頭に捕捉されている、射撃自体の能力は無いためこのシステムに感謝するとしよう。
細く長い息をゆっくりと吐く、キュラキュラと弓を引き絞ることにより大きくはないが微かな機械音が鳴る。
解き放つことにより感じる快感に期待すると心が湧き躍る。
「フッフッフッ――――シッ!」
弦が張りの限界を超える間際にジュラルミン矢が解き放たれた。
空気を切り裂く一条の矢が進む姿はとても静かで美しい。
強化された目でギリギリ捕捉できたが比較的柔らかい部位であるゾンビの首筋に矢先がめり込んでいき――貫通。
骨には当たらなかったようだ。
「頭部を狙ったんだがね。締まらないのは俺らしいや」
二射、三射と立て続けに矢を放つ、ゾンビの頭部に当たると空になった矢筒がいっぱいになっていた。
◇
追加の矢を購入し付近に徘徊していたゾンビは粗方殲滅することができた、頭部に命中した矢は破損して使用することはできなかったが半分強程は再使用できそうだ。
回収も大変だが安全性が極めて高いこの戦法を取って行こう、射撃の技能を取得できた時が楽しみだ。[射撃管制Ⅰ]があるにもかかわらず命中率が悪いのは素人なのだからだろう、矢を放つ際の手振れが酷いのだろう静の心構えなどないので数で対抗しよう。
射撃ポイントになった家屋を離れ食料の調達に向かう、近場にあるのはマイナーなスーパーしかない。ゾンビは腐るほど徘徊しているので未だに移動するのは極めて難しいと思う、追々考えて行かねばな。
ネットニュースに乗っている情報は極めて遅く外出しないで下さいと一辺倒、自衛軍の火器使用について、憲法がうんぬんかんぬん言ってている、それどころじゃないだろうに呆れたことだ。
ツブヤイターの方が情報取得に役に立っているので検索、感染や暴動は比較的都心部からじわじわと広がっているようだ、現在の住居は本州でもなく市街地でも無い為ゾンビもまだ少ない。
矢筒とコンポジットボウを背中に背負い、剣鉈を腰に装備したゾンビ絶対ぶっ殺すマンスタイルでコソコソと静かな道を歩いていく、ちらほらとマンションや一軒家などの室内からは漏れ出る微かな明かりはまだまだ生存者がいる証だな。
現在、治安維持機構がマヒしているのか警羅官や自衛軍などの姿は見えない、交番の警察官一人二人ではどうにもできないために逃げ延びた人などを避難所で立てこもっているのだろう。
目的地であるスーパーに辿り着き遠目に店内を確認してみる明かりはついているが窓ガラスが割れ入り口には車が数台並べられてバリケードと化している、恐らく食料の確保と共に拠点を確保しようした集団がいたのだろう、武器や食料が無ければ自分でもしていただろう。
もう少し近づき確認してみる、入り口に二人警備しているな、武器なのか知らないがキャンプ用のハンドアックスやスコップが立て掛けられている。
警羅官が持つ拳銃などのは無いようだゾンビ映画みたいにそんなに沢山落ちてるわけでもないしね。
「やめてッ! いやああああッ助けて!」
助けを求める女性らしき叫び声が店内から響いてくる、確認の為スーパー裏側の家屋の屋根に登り屋上へ飛び移る、簡単なパルクールはできるのだよ。入口付近の際にへ近寄り耳を澄ませて確認する。
「早く警備変わってくんねーかな、リアル女子高生とかたまんねえよな」
「ばっかお前どうせならロリ一択だろ? おとうさーんって泣きわめく顔最高だったな」
――死ね
噴き出るような殺意が体から漲る。
腰の剣鉈に手を伸ばしグリップを強く握るとスラリと鞘から抜き放つ、ゲスの片割れの頭頂部へと狙いを定め降下、着地前に重力を加算された剣鉈は頭蓋を破壊し脳漿をぶちまける、足に痺れが残るがもう一匹を視界に納める。
呆然としているが甘い死にさらせ。
頭蓋を破壊した剣鉈が抜けないため右手の剣鉈を水平に薙ぎ、目標の首筋に狙いを定める。急いで始末しようとしたために勢いが足りない、首の半ばまでめり込んだがまだ死んでいない。
「ヴぉぇ、けぇぇ」
人の出す声とは思えない呻き声が聞こえる、貴様にはお似合いだ。首筋から剣鉈を引き抜き噴き出す血液、早漏だな。
膝から崩れ落ちこちらを見つめたまま蹲る、顔面を踏みつけ固定する剣鉈を持ち上げ畑を耕すように振り下ろす。
残りの首肉が引きちぎれ脊椎をも断つ、小汚い生首を蹴り飛ばし剣鉈を回収する。血糊でべっとりだが致し方ない、鞘に納めながら店内を窺う。呻き声では気づかなかったようで安心する、ゲスはまだまだいるからな。ピコリと電子音が鳴る視界内にログが表示されている。
――ソウルポイントを獲得しやがりました。
――新しい項目がアンロックされやがりました
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