第8話 【粕田 実】の雑記2
しかし、なにもしないのもモヤモヤしてしまう。
だからこうして、ペンを走らせている。
考え、推理していれば、少なくとも他のネガティブなことを考えなくて済むからだ。
ついでだ。
誰にみられるわけじゃない。
だから、あのコウサカが殺害された現場についてもう少し考えてみよう。
あの密室を作るには、さっき書いたような方法もある。
他にも方法がある。
たとえば、事前にマスターキーを複数作っておけばいい。
それなら、少々大変だろうが1人で犯行は可能だ。
コウサカを殺害後、犯人は封筒と鍵を置いて部屋を出て、所持しているもうひとつのマスターキーで鍵を掛ければいい。
そう、これなら犯行は1人でも可能なはずだ。
ではなぜ、わざわざ密室を作り上げたのか?
そして、なぜ、わざわざ保管されているマスターキーを盗んだのか?
盗んだままだったのか?
そんな疑問が出てくる。
コウサカを殺害した動機もわからないままだ。
妄想することはできる。
マスターキーが盗まれたことを考えるなら、犯人は事前にマスターキーを作っておく、などという準備はしていなかったとも考えられる。
でも、それだと単独犯での、密室についての推理が成り立たなくなる。
そうなると、やはりワタべが脅されるかなにかして、協力したのだろうと思う。
コウサカを殺害した犯人が内部犯だった場合、ワタベが鍵を所持するに至った経緯を知っているわけだ。
けれど、もし、ワタべ以外が鍵を所有することになっていたら、犯人はどうしていたのだろうか??
他にも疑問は残る。
コウサカと犯人が争った形跡が無かったのだ。
犯人がどうやってコウサカを殺したのか?
これがわからないと、なんとも言えない。
就寝中に襲われたのか、それとも起きていたのか?
就寝中に襲われたのなら、抵抗出来なかったとしても不思議じゃないと思う。
コウサカが起きていたとするなら、では何故争うことなく、むざむざ殺されたのか?
そもそも何故、密室になどしたのだろうか??
あの現場を密室にするメリットはなんだ??
それに、なぜ、わざわざ顔を耕した?
死体を作る、そして損壊する。
手間だ。
殺すだけじゃなく、わざわざ損壊させるというのは、物凄く、手間がかかる。
それを惜しまずに行った理由は、なんだ??
書けば書くほど、考えれば考えるほど分からなくなる。
もしかして、複雑に、難しく考えすぎているのだろうか??
気分転換をしたい。
散歩にでも行きたい。
けれど、危険だ。
しかし、ここには、娯楽が少なすぎる。
インターネットができない、だから動画も見れない。
記事も読めない。
新聞の配達すらない。
まるで外界から隔離された異世界のようだ。
心を休めてくれるのは、今や高級品となりつつある煙草くらいだ。
でも、ここには分煙、禁煙というのは無いらしく、携帯灰皿さえあればどこで吸っても見咎められることはない。
これはいいことだ。
あとは、好きな本を読める事だろうか。
この洋館の図書室には、古典文学からわりと最近のラノベまで揃えてあった。
読書は苦ではない。
むしろ好きだ。
娯楽は少ないと書いたが、そういえばボードゲームやトランプなどのアナログゲームなら置いてあった。
とはいえ、チェスや将棋はルールを知らない。
囲碁も同様だ。
トランプだって、ポーカーのルールを知らない。
自分が出来るとしたら、ババ抜き、ジジ抜き、七並べ、神経衰弱くらいだろうか。
あぁ、スピードと大貧民ならルールを覚えてる。
そういえば、豚のしっぽ、なんてのもあったな。
懐かしい。
花札も役が覚えらなくて、知らないし。
ここには無いが、麻雀もよくわからない。
サラリーマンはみんな出来る、という先入観があったけれどそれは東京とかあっちに住む人達の嗜みなのかもしれない。
少なくとも、自分の周囲でそれらをやってる人はいなかった。
ミステリ作品に出てくる連中は、上流階級の者が多いからかそういったゲームへの嗜みがあった。
というか、そういう作品に登場するキャラって、教養とかもしっかりしてるんだよな。
刑事ものや、一部の社会派ミステリだと庶民が登場するけれど、古典的なミステリ作品、所謂【館】系の話だと上流階級か上流よりの中流階級の人間が多かったりするし。
まぁ、これは自分の読むものが偏ってるからかもしれない。
つらつらとまぁ、取り留めもないことをよくもここまで書いたものだ。
我ながら呆れてしまう。
煙草を一本吸ったら、一度洋館の外に出てみよう。
玄関から少し出るくらいなら、問題ないだろう。
それこそ玄関を背後にしておけば、仮に外で襲われたとしてもすぐ洋館のなかに逃げられる。
注意するのは左右と前方だけでいい。
洋館の周囲には、砂利と雑草があって足音をさせずに玄関に近づくのは、たとえ忍者だろうと無理だ。
コウサカの件から、洋館の中を1度全員で確認したがどこにも、犯人と思われる人物の痕跡はなかった。
念の為、裏口や、その他使用していない部屋の出入口に空き缶などで作ったブービートラップなどを仕掛けておいた。
それと、そういった仕掛けが施せなかった場所には、小さく紙を切ってドアに挟んでおいた。
もしも、窓を使って外から犯人が侵入した場合の用心だ。
因みに、空き缶を用いてのブービートラップは他の者たちにも知らせてあるが、後者の紙の仕掛けに関しては、高倉由美に気づかれたくらいで、他の者は誰も知らないはずだ。
あとでそれらをチェックしておこう。
後者の仕掛けを施した部屋は、普通に考えれば自分たちのような招待客は、利用しない部屋ばかりだ。
テル少年にも、必要のない部屋には近づくなと言ってある。
コウサカ殺しの犯人が潜んでいるかもしれないから、と言い含めてあるし、なにかしら行動する場合は二人以上で動くことと決めてある。
よくあるミステリやホラーだと、単独行動が命取りになるからだ。
ワタべが殺人犯かもしれない、という疑惑は残ったままだけれど、誰も彼と一緒にいるのは嫌、とは言わなかった。
疑惑はあくまで疑惑でしかなく、それもコウサカ殺しの犯人はマスターキーを所持している可能性が高い。
となれば、ワタべへの疑惑も少し薄れているのかもしれない。
自分へのメモとして、これも書いておこう。
コウサカ殺し前後と、それが発覚してからの、我々の動きだ。
『一日目(昨日)』
・PM18:30~21:00過ぎ頃まで
森谷が毒殺されて、コウサカにその疑いが掛けられ、彼を監禁する
森谷の死体に目くらましのシーツをかけ、食堂の隅みに安置し、さらにテル少年がどこからか衝立を持ってきたので、それで見えないようにした
コウサカ監禁の際、毛布とミネラルウォーターを一緒に運び入れた
コウサカの生存が確認されたのは、21:00過ぎ頃が最後
・21:00過ぎ~22:30
コウサカ監禁後、鍵の所在をテル少年に確認する
マスターキーの紛失、盗難に気づく
ジャンケンにて、ワタベが鍵を預かる
その後、各部屋にて就寝
テル少年は使用人室にある、仮眠部屋を使用
『二日目(今日)』
・AM5:00~6:00頃
テル少年が、コウサカの様子を見るため起床
鍵を所有していたワタべの部屋へ向かう
その後、コウサカを監禁していた部屋まで共に行き、死体を発見する
ワタべとテル少年が叫び声を上げ、それに気づいたオオタキが一番に駆けつける
オオタキの指示で、ワタワタオタオタしていたテル少年は、この粕田を呼びに来た
オオタキという人物は、もともと睡眠時間が短くAM4:00頃には起きていたらしい
これは、本人も歳のせいと言っている
その時間には目を覚ましていたが、とくにやることも無かったので図書室から持ってきていた本を読んでいたらしい
そこから悲鳴が聞こえるまでの約一時間、とくに気になるような物音はしなかったらしい
・AM6:00~現在10:00まで
毒の混入の恐れがない、未開封の缶詰やレトルト食品を食べつつ、昨日から今日まで起こった二つの殺人事件について話し合う
※これについては、簡単にメモをとってあるから、次にまとめることにしよう
こんなところか
こうして書いてみると、なるほどコウサカが殺されたのは、ざっとだけれど21:00過ぎ頃~4:00の間ということになる
人一人を殺して、その顔を損壊する時間はあったということだ
そして22:30~23:00に我々は解散し、就寝したから
その際、監禁部屋の施錠のチェックもしている
その時は、とくに異常はなかった
不自然に開いている窓も無かったし、壊されている場所もなかった
監禁部屋は、客室と食堂の中間にあった
なので、仮に怪しい足音などがあったとしても我々招待客では気づくかどうかといったところか
そもそも、我々が呼ばれた理由はなんだ??
あの密室で見つかった封筒
その中にあったメッセージがやはり関係しているのか??
あのメッセージには、【罪人には死を。挑戦者には謎を】と書かれていた
つまり、我々全員に何かしら罪があるということだ
そもそも、脅迫めいた招待状にもそう書いてあった
なんだ?
大事な事だから二回言いましたってか??
というか、挑戦者って誰のことだ、いや、なんのことだ??
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