第4話 【芳賀 美奈】の日記2

 落ち着くために書かなきゃ。

 そして、犯人を見つけなきゃ。

 前、SNSで頭の中のことを時間決めて、手書きで書き出すと落ち着くって読んだことあるし。

 でも、どう書いたらいいんだろう??

 わからない。

 あぁ、スマホを使いたい。

 スマホさえ使えれば、今起きたことを本土に伝えられるのに。

 でも、それは出来なくなってしまった。

 というのも、通信するための機器が軒並み破壊されているのがわかったのだ。

 それが分かると、他の参加者から【クローズドサークル】だの【嵐の山荘】だの【孤島の殺人】だのという単語が出てきた。

 中にはガチで、ワクワクしてる人もいたし。

 なんなの、ほんと。

 皆、頭おかしいんじゃないの?!

 いや、落ち着け、落ち着くんだ、自分。

 動揺しすぎて、私達招待客は部屋に戻るよう言われて、私はその言葉に甘えてしまったのも事実だけど。

 だって、仕方ないじゃない。

 人があんな風に苦しんで死ぬところなんて、初めてみたんだし。


 とりあえず、夕食前後のことを思い出せるだけ思い出して書き出してみよう。

 うん、まずは出来ることからだ。


 まず、雑用係の男の子、名前はテルって呼ばれてたな。

 あのテル君が、執事さん、執事さんの方はコウサカさんだったなたしか。

 漢字わからないから、カタカナでいいや。

 コウサカさんの指示で、テル君が各部屋にいた他の参加者を呼びに来たのだ。

 夕食の準備が出来たから、食堂に来てくれと言われて、私はすぐに部屋を出た。

 そこで、残りの男性二人と遭遇した。

 一人は、自分の親と同じか少し上くらいの年齢、五十代から六十代くらいの男性。

 どこにでもいそうな男性だ。

 もう一人は、それより若い四十代くらいの男性で、前髪が少し後退しつつあった。

 名前は、五十代から六十代くらいの男性の方がオオタキさん。

 前髪が交代しつつある、四十代くらいの男性の方が、ワタべさんというらしい。


 二人と私は、それぞれ軽く会釈をした程度で、会話は交わさなかった。


 無言で私たちは、食堂に集まった。

 そこには執事のコウサカさんがいて、参加者を席に案内していた。

 と言っても、別に名札が置いてあるわけではなく、


「好きな席にどうぞ」


 と言うことだった。

 その際、なにやら封筒を渡された。

 いや、正確には封筒が並べられている小さなテーブルがあって、そこから好きに取ってくれと言われたのだ。


 白い、どこにでも売ってそうな封筒だった。

 宛名はなかった。

 糊付けで封をされていた。

 剥がして中身を確認しようかと思ったら、コウサカさんに、


「そのままお持ちください。

 封を先に解かれますと参加資格を失います」


 と言われた。

 とくに反発する理由もないので、私も他の参加者も言われた通りにした。

 その時は、これもゲームの一環なのだろう、となんとなく思った。

 結果的には想像通りだったのだけれど。

 私が封筒を選んで手に取ると、コウサカさんはそれを丁寧にシャッフルした。


 テーブルは円卓で、どこが上座かもわからなかった。

 だからか、集まった参加者は皆戸惑っていた。

 粕田さんと、そして、あの美女と視線があった。

 だからか、私はその二人の方へ近づいていった。

 美女が名乗ってくれた。

 彼女の名前は、由美さんというらしい。


「さて、なにが起こるのか??」


 名前を名乗ったあと、彼女は無邪気な笑顔を浮かべて、私と粕田さんに向かってそう言ってきた。


「孤島に集められた、見知らぬ老若男女。

 通信機器は使えず、次に船が来るのはこのイベントが終了したあと、つまり5日後だ。

 これだけお膳立てされていれば、殺人事件でもおこるんじゃないか?」


 粕田さんが冗談めかして、でも楽しそうにそう言った。

 私にはわけがわからなかった。

 どうして孤島、無人島に老若男女が集められただけで【殺人事件】なんていう、物騒な発想になるのか。

 本当に理解出来ない。

 しかもそれが起きてしまった。


「あら、それじゃ全員死んじゃうことになる」


 怖い怖い、と由美さんが全然怖がっていない声で茶化した。

 私にはよく分からない会話だった。

 その会話を聞いていたのだろう、オオタキさんは笑っていたし。

 前述した、【クローズドサークル】だのなんだのと言っていたのは、この三人だ。

 ワタべさんは、私と同じように不思議そうにしていた。

 そして、誰とはなしに席に着いたのだ。

 少しして、このゲームの主催者が姿を現した。

 おそらくこの島の中では、1番年上のように感じた。

 主催者の名前は、森谷貞太もりやていたというらしかった。

 そういえば、この名前にも、あの3人は反応していた。

 なにかあるのだろうか?

 まぁ、いい。

 これは、あとで確認できる。


 森谷氏がコウサカさんから封筒を受け取り、空いている席に座り、執事のコウサカさんと雑用係のテル君に目配せした。

 封筒を受け取る時に、コウサカさんが念押しとばかりに、


「しっかり混ぜてあります。私もテルも、もちろん他の参加者の方々も中身はわかりません」

 

 そう報告するのが聞こえた。

 シャッフルしたのは、中身がわからないようにするためだったらしい。


 2人が頷いて、おそらく厨房に引っ込んで、直ぐに出てきた。

 食事を台車、あれって台車でいいのかな?

 まぁ、正式名称わからないし台車でいいや。

 食事を台車で運んできてくれた。

 それを配膳していく。

 その時に乾杯酒を注ぐグラスを選ばせられた。

 珍しいなと思いつつ、適当にグラスを選んだ。

 このとき、オオタキさんがグラスを受け取る時に手を滑らせて、グラスが割れるというハプニングが起きた。

 すぐにテル君が代わりのグラスを持ってきて、割れたものは片付けていた。

 その間に、森谷さんがこれから行われるゲームについて説明してくれた。


 それによると、各自が選んだ封筒にはそれぞれ役割と行動が書かれているらしい。

 なんでも、森谷さんは推理小説が好きらしく、シナリオを自作したらしい。

 参加者はそのシナリオ、というより指示にそった行動をする。

 という話だった。

 その時はざっくりとした説明だった。

 役割は、【被害者】【探偵】【犯人】とあるらしかった。

 ただ、これはあくまで役である。

 勝利条件は、被害者役は探偵役と一緒に推理が可能、そして探偵より先に犯人を当てれば勝利。

 探偵役は、犯人を当てること。

 犯人役は、ばれないように、捕まらないようにすること。

 参加者は、このシナリオの犯人を当てることが目的、だったはずなのだ。

 だと言うのに、実際に被害者が出てしまった。


「ゲームの更に細かい説明は、食事のあとにしましょう。」


 この一言で、直ぐに乾杯となった。

 そして、全員がほぼ同時に乾杯酒を口にした。


 こうして、食事が始まるはずだった。


 森谷さんが喉を抑えて、呻き声をあげたかと思うと苦しみ出した。

 床に倒れ、転げ回ってすぐに動かなくなった。

 みんな驚いて、動けなかった。

 その中で、すぐに動いたのは執事のコウサカさんだった。

 森谷さんの口に指を突っ込んで、飲み込んだものを吐き出させようとしていたように見えた。

 でも、程なくして亡くなってしまった。

 詳しくはないけれど、こういう場合は心肺停止状態というらしい。

 お医者さんじゃないと、死亡と断定できないらしい。


 すぐに、乾杯酒に毒が入っていたんじゃないかという話になった。

 けれど、森谷さん以外誰も苦しんでいなかった。

 乾杯酒は、私たちの目の前で同じ瓶からそれぞれ注がれた。

 だから、彼の使った食器、グラスに毒が塗られていたんじゃないかという話になった。

 これだろう。

 でも、わからない。


 そう、わからないことがある。


 亡くなった森谷さん。

 彼もまた、ゲームの参加者だったのだ。

 つまり、あの封筒を持っていた。

 粕田さんと由美さんが、もしかして、と異口同音につぶやいて、その封筒の中を確認するように言った。

 こんな時に何を言い出すのだろうか、と不思議だった。

 コウサカさんが、言われた通りに彼の所持していた封筒をあけると、そこには【第一の被害者】と書かれた紙が入っていたのだった。

 そして、【毒殺】と書かれた紙も入っていた。

 中身は誰にもわからないように混ぜられていた。

 けれど、この犯行はまるで最初から中身がわかっていたかのようにピンポイントで行われたのだ。


 そんなことができるのだろうか??


 封筒は参加者がそれぞれ自分で選んだのだ。

 それも、その都度コウサカさんが混ぜていた。

 ましてや、森谷さんは一番最後にそれを手にした。

 不正は出来なかったと、思う。


 そこで、参加者が慌てて中身を確認しだした。

 そして、お互いに紙を見せあった。

 すると、不思議なことに、参加者の【犯人役】いなかったのだ。

 先に書いたように、私も慌てて封筒の中身を確認した。

 書かれていたのは、【探偵】という文字。

 そして、行動は、【事件が起きたら、それを探偵すること】だった。


 文章に違和感を覚えた。

 探偵をする、とはどういうことだろう?

 探偵とは、職業名ではないのだろうか??

 あぁ、ダメだ思った以上に頭が混乱している。

 恐らく自覚している以上に、自分はパニックになっているのだろう。


 あの後。

 森谷さんが毒殺された後。

 私は、粕田さんや由美さんに気遣われ、部屋でやすんでいるように言われた。

 なんなら、由美さんが一緒にいようと提案してくれた。

 だから、いま、私は割り振られた部屋で由美さんと過ごしている。

 由美さんも、私と同じように渡されたノートになにやら熱心にガリガリと書き込んでいた。


 こうして手書きをしたのが良かったのか、少しだけ気分は落ち着いたように思う。

 由美さんが書き終わるのを待って、さっきの毒殺について聞いてみよう。

 ちなみに、彼女の封筒には【第四の被害者】と書かれた紙が入っていた。



メモ代わりに、招待客全員の封筒の中身を書いておこう。



私――【探偵】


由美さん――【第四の被害者】


粕田さん――【第二の被害者】


オオタキさん――【第二の被害者】


ワタべさん――【第三の被害者】


第二の被害者が二つあった。

そういえば、他にも封筒が残っていた気がする。

と、なると他にも役割が被っていたのだろうか??

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