出題編っぽいもの

第3話 【芳賀 美奈】の日記1

【1日目】


 ○月✕日


 さて、どうしたものか。

 スマホを取り上げられてしまった。

 代わりに、このノートを渡された。

 取り上げられた、と書いたけれど、それがこのゲームへの参加条件だったのだから仕方ない。

 お金が欲しかった。

 実家から離れられるだけのお金が。

 もっと言えば、一人暮らしをしつつ遊べるだけのお金がほしかった。

 こう書いてしまうと、きっと両親や祖父母は悲しむだろう。

 孫が金に執着する亡者になってしまったのだと、嘆くだろう。

 それでも良かった。

 1度でいいから、憧れた一人暮らしをしてみたかった。

 コツコツとやれる事は全部やって、お金を貯めてきた。

 アルバイト、動画投稿、本当に色々やってきた。

 元々働くことが向いて無いのか、アルバイトは苦痛で仕方なかった。

 その点、動画投稿は楽しかった。

 刺激的な動画を撮影して、投稿すればバズることが多かった。

 1度、大きな事故現場に遭遇したことがあって、これを投稿した時は本当に凄まじい再生回数を叩き出した。

 その時の広告収入は、アルバイトを仮に一年したときの金額より多かった。

 でも、全然目標額には程遠かった。

 一人暮らしをしつつ、かつ遊びつつ、大学に通う金額には程遠かった。

 今のまま、大学に行きながらアルバイトをするのは嫌だった。

 大変だし、遊べないからだ。

 もちろん、動画に関しては、叩かれたけれど気にしなかった。

 だってお金が欲しかったから。

 だから、このゲームへの招待状が来た時、とても嬉しかった。

 正直、何故この招待状が私の元に届いたのか、それは謎だった。

 詐欺かもしれない。

 そう疑わないではいられなかった。

 けれど、まとまった大金が手に入るかもしれない。

 その希望というか、狸の皮算用が私をこの島にまで来させてしまった。

 上手い話には裏がある。

 そんなのは重々承知だった。

 でも、心のどこかで思っていたのだ。

 私なら大丈夫。

 私ならこのゲームに参加して優勝できる。

 そして、その賞金を手にできる。

 そう、思っていたのだ。

 これを生存性バイアスというんだったか。

 それとも、正常性バイアスというんだったか。


 検索して確認したいけれど、スマホは手元にない。

 だからだろうか?

 こんなにも、ソワソワと落ち着かない。

 スマホが手元にあったなら、別にこういったことを書く気すら起きなかったことは簡単に想像出来る。

 多分、日記代わりに動画を撮影して投稿していた事だろう。


 とりあえず、この島に来てからのことを書いていこう。

 文書を、それも手書きでこんなに長く書いたのはいつぶりだろう。

 それも板書を書き写すんじゃなくて、自分自身の言葉で。

 島までは、一番近い漁港から漁師親子の船にのってきた。

 漁師親子にも話が通されていた。

 お父さんの方が六十代くらい、もう一人は遅くに出来た子供なのか、まだ十代くらい、私と同じか年下くらいに見えた。

 そういえば、少し情報の行き違いかあったらしい。

 私たちを送ってくれた漁師親子は、私たちのことを招待客ではなく、ゲームの参加者だと認識していた。

 いちいち訂正するのも面倒だったので、私は適当に相槌を打った。

 まぁ、間違いでもないのだけれど。

 それは、ほかの招待客も同じだった。

 招待客は、私を入れて五人。

 男性が三人、女性が私を含めて二人だ。


 島に着くと、執事服に身を包んだ老紳士が出迎えてくれた。

 その横には、雑用係なのだろうチビの男の子が立っていた。

 執事さんは、姿勢から何からピチッとしていた。

 男の子は、挨拶もそこそこに送ってくれた漁師親子となにかやり取りしていた。

 雑用係の男の子が持参したであろう水筒、そこからやはり持参したのだろう紙カップに液体を注いで渡していた。

 レモンティーという単語が聞こえたので、差し入れだったのだろう。

 冷えてて美味い、という漁師親子の声が背中に聞こえた。


 私たちは老執事に導かれ屋敷へと案内された。

 そうしてたどり着いたのは、洋館だった。

 着いてすぐに荷物チェックとゲームに関する説明がなされた。

 スマホなどの通信機器含む電子機器の所持は、ゲームの参加資格を失うと説明されたので、みんな泣く泣く執事に渡していた。

 隠し持っていて、あとから発覚した場合も、例えばそれが優勝者だったとしても賞金は取り消しになるらしい。

 ただ、私は持参したヘアドライヤー等の使用許可を求めた。

 あと、招待客の中で一番年配と思われる男性も、なにやら使用許可を求めていた。

 私のヘアドライヤーは許可された。

 男性の方は、許可されたかはわからない。


 そうそう、このゲームの内容自体も口外無用とのことだった。

 この説明に誰も反発しなかったのは、やはり私を含めた全員が金を欲しているからだろう。

 それに、宝くじの高額当選でも度々聞くけれど、大金が舞い込むとどこからとも無くその金の匂いを嗅ぎつけて、寄付を迫る団体があったり、突然親戚が増えたりするらしい。

 私だって、このゲームに招待されたことを誰にも話していなかった。

 家族に話せば、反対されることは目に見えていた。

 だから、泊まりがけの今回のゲームイベント参加については、大学の友人のサークルの手伝いで、合宿に同行するという嘘をでっち上げた。

 旅行代わりだと言ったら、あっさりだった。


 嘘をつかなければ、そうでもしなければ欲しいものは手に入らない。


 だから、私は嘘をついた。

 そして、ここにいる。

 私はお金が欲しいのだ。


 招待されてきたけれど、ゲームのルールに縛られるというのはなんとも滑稽な話だ。

 説明のあと、私たち参加者は滞在する部屋の鍵を渡され、夕食までの間は自由行動となった。

 主催者は、夕食事に顔を見せるらしい。

 でも、スマホもパソコンも無い、なんならテレビすらこの洋館には用意されていなかった。

 ラジオすら無いなんて、嘘でしょ。

 そんな場所で、どう楽しめと言うのだろうか。


 仕方ないので散歩に出た。

 島を適当に散策してみたけれど、娯楽なんて本当に何も無かった。

 その散歩の途中で、参加者の一人である男性と顔を合わせた。

 私より五つか六つ年上の男性だ。

 名前は、粕田かすたさん、と言うらしい。

 向こうも暇を持て余して、私と同じように散歩に出ていたらしい。

 適当に話をした。

 話題はやはり、このゲームに招待されたことに集中した。

 私も、彼も、何故招待されたのかわからなかったのだ。

 私も、彼も、お金がほしいこと、その一点に関しては共通していた。


「食事の時にでも、主催者から説明があるだろう。

 なければ聞けばいい」


 粕田さんは、どこか呑気にそんなことを口にした。

 洋館に戻ると、あの雑用係の少年が忙しそうに動き回っていた。

 ダメ元で雑誌かなにか、もしくはトランプのような物は無いかと聞いてみた。

 聞いてみるものだ、どうやらそういったアナログなゲームは用意されているようだった。

 談話室に用意しておくと言われた。

 あと、小さな図書室のような部屋もあるらしく、そこには小説も置いてあるとのことだった。

 しかし残念ながら、雑誌はおろか新聞すらもないらしい。

 小説は嫌いだ。

 文ばかりで眠くなる。

 しかし、雑誌はそういうことがないから、読みやすい。

 粕田さんは、図書室に興味を持ったらしい。

 雑用係の少年に、場所を聞いていた。

 なんなら一緒に行かないかと誘われたので、ついて行くことにした。

 図書室には鍵はかかっていなかった。

 出入り自由ということらしい。

 あと本の持ち出しも自由らしかった。

 そこには、なるほど図書室というだけあって主催者が集めたのだろう書籍が多数並んでいた。

 しかし、漫画はなく小説ばかりだった。

 漫画かなと思って手に取ったものは、いわゆるラノベだったりした。

 少し残念に思いつつ、それでも暇つぶしの道具はないよりはいいかなと考えて、面白そうなものをさがして借りてきた。

 図書室を出る時に、招待客の女性とすれ違った。

 船で乗り合わせた、とても美しい女性だ。

 モデルだと言われたら信じてしまいそうだ。

 そういえば、船では他の人と話さなかった。

 みんな、持参したスマホを見ていた。

 仲良くワイワイ、というわけにはいかないのだろう。

 世代が違うし。

 何よりも、私も粕田さんも、図書室ですれ違った女性も同じ目的のためにここに来たのだから。

 残りの2人もそうなのだ。

 その後、私は割り振られた自室に、粕田さんは談話室へとわかれた。

 そうして夕食までの時間を読書をして潰したのだった。

 面白いかなと思い借りてきた小説は、途中まで読み進めたものの、面白いかどうかはよくわからなかった。


 さて、夕食らしい。

 あの雑用係の男の子が、そう伝えに来た。

 続きは、またあとで書こう。



 どうして、どうして??

 なんで、こんなことになったんだろう??

 怖い、怖いよ。

 まさか、本当に人が死ぬなんて。

 逃げたいけれど、迎えの船は一週間後にしか来ない。

 落ち着こう。

 とにかく、落ち着こう。

 落ち着くためにこの日記を、いや記録を書こう。

 そして、整理しなくちゃ。

 人が、死んだ。

 夕食の時のことだ。

 人が、死んだのだ。

 それは、主催者だというロマンスグレーのおじ様だった。

 乾杯をしたあと、その酒を口に含んですぐに苦しみ出した。

 かと思ったら倒れた。

 みんな、フリだと思った。

 けれどフリじゃ無かった。

 執事の人と雑用係の男の子が慌てて駆けつけて、声を掛けたり色々していたけれど亡くなったのだ。

 落ち着け、落ち着くんだ。私。


 でも、もしも、夕食前に簡単にされたゲームの説明。


 あれが実行されたのだとしたら。

 もし、そうなら、私たちは【犯人】に本当に殺されてしまう。

 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしよう。


 死にたく、ない。


 だから、落ち着いて整理して早く犯人を見つけなきゃ。

 だって、私は【探偵役】を割り振られてしまったんだから。

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