第153話 キックオフ


 ピチャリ ピチャリ……


 非常に浅い、僅かな水の流れを踏み締め、水路トンネルの暗闇からにじみ出る様に‶其れ〟は姿を現した。


 ボロボロの外套を纏った、体長3m近い人型、巨躯の男。その右手に持ち引きずるは、刀身約160cm、幅30cm。柄も含めて2mはある巨大剣。

 

「あれは、もしや……」


「ああ、間違いない……‶ギュスターヴ〟だよ」


 彼は、その巨躯ながらも巨人族では無く、人種族ヒューマン


 長い無造作の白髪に、放射状の剣を模した装飾の王冠。壮年代後期と思える容貌だが、肌は筋張った灰色。相貌は瞳部分が無く青白く発光。鼻下から顎に掛けて長い髭が垂れ下がっている。


 そして、ボロ外套と同様に傷だらけの黒き鎧甲冑。


 文献によれば、ギュスターヴの鎧は、自らで討伐した厄災悪竜の素材で造られた、伝説級レジェンダリーを越える幻想級ファンタジアとの事。

 それに歴戦幾多を物語る、無数の傷痕が刻まれていた。


 何より圧倒的なのは、波濤はとうが如し豪然と纏う、周囲空間が歪む程の超圧オーラ。

 

 ヒュペルボリア史上、最強勇者を誇るギュスターヴ。

 魔力を持ち得ぬも、究極の対魔法アンチマギア魔法術ギアコード式無効化キャンセラー】スキルと、比類なき武力で全て制した特異体ユニーク


 そして、ヒュペルボリアから煉獄。次元を跨ぎ幾億千万と蹂躙するも、刃こぼれどころか傷一つ無い巨大剣。無属性ながらも、聖剣であり魔剣。


 ──聖魔大剣 魔導殺しギアブレイカーウルスラグナ。

 

 嘗て、ギュスターヴが掲げる正義と共に、相対してきた全ての障害を屠った剣であったが、今や大義の欠片も無く、無慈悲に暴威を振るうだけの殺戮兵器。


 現在、その災厄暴威に悪魔すら怖れおののき、地下迷宮下層から地上にまで追い立てられ、大量に逃げまどっている様相。 


「えげつないな……」

「ああ、身体が勝手に震えてくるぜ……耐性が無ければ目にするだけでも拙いな」


 その地獄の魔界絵図に小刻みに身体を震わせ、呻くように語る、ヒューマンのフーゴと犬獣人エド。


 「威圧スキル。あれだけの数の悪魔が逃げ出す程のね……」


 豹獣人ベルカが察するは、上位存在が戦闘時に自然発動パッシブ【威圧】スキル。

 それも、最上位クラス。


 彼らシーカーチームとギュスターヴとの相対距離は約120m。

 直接ではないもの威圧範囲。恐怖を始めとする各弱体化デバフ効果が、身体を汚染していく。真正面近接とあれば、身動きすらままならないであろう。

 

 ヒュペルボリアでの悪魔種の脅威度は、大小差はあるが、いずれも厄災級。

 存在の確認は最高難度ダンジョンか、禁忌術式召喚によるものだけで、非常に稀であり少数。

 だが現在、眼下に大群をなす悪魔たちは、上位厄災級にあたる歴戦種の数々。

 一体でも確認されれば、勇者パーティ出動案件必須たる脅威度。


 「ハハハ、これは参ったね……」


 その上位厄災が、まさかの恐慌状態。小ネズミの群かの様に、必死に逃げまどう光景に、おちゃらけキャラも何処かへと逃げ去り、乾き笑いしか零せずのテッド。


 そうこうと困惑する中、周囲のアンデッドたちまで集まり、悪魔たちと大群同士でワーワーギャーギャーと交戦開始。

 交戦と言っても、歴戦の悪魔戦士相手に、元民衆アンデッドでは太刀打ちできず。  

 次々と蹴散らされるも尋常では無い数。濁流の様に続々と押し寄せて来る。


 水路とそれに沿った路地とで、しっちゃかめっちゃか大混乱の絵図が描かれる中、足止めを喰らった悪魔の群の最後尾にギュスターヴが接触エンゲージ


「跪きもせず、許しも得ずに、王に背を向けるか下郎ども……」


 ボソリと呟くその言葉から一拍。十数体の悪魔が瞬時に粉々。


{{{{{クァwセdrftgyフジコlpウンチョコチョコチョコPイyyy}}}}}


 そこから開演する蹂躙劇。演奏楽曲は『不浄なる断末魔の輪舞曲ロンド』。


 これに、逃避不可と覚悟決めた歴戦悪魔たちは、己の存在意義を賭け応戦。

 獄炎の如し漆黒オーラを全開放。幾多と折り重なる、瘴気衝撃波がギュスターヴに放たれた。


「謀反であるか、許すまじ。すなわち極刑……」


 ウルスラグナの神速一閃。衝撃波動が全て消滅。

 

 悪魔たちは、これに怯むこと無く、そこから全方向包囲からの斬、打、突、圧、鎖、鋏、棘、触手、剛腕膂力、敏捷超速、多種幾多の波状、激烈猛攻。


「無意味ぞ……」


 ウルスラグナが僅かに揺らめくと、一切触れる事すら敵わず、全てが粉々。

 そして、穏やかな春風の中を散歩でもするかの様に、悠々と歩き出す。

 

 歩めばそこに道ができるイノキイズムと言わんばかりに、行く手の悪魔たちが破砕、粉砕。周囲にドス黒い血肉の雨が篠突く。


 更にそこへ、絨毯爆撃かの様な空爆。それはイルーニュ城の中層、外回廊に控える銀騎士たちの、砲撃が如し大弓矢による火力支援。

 

{{{{{ブルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!}}}}}


 英雄凱旋パレードさながら、喝采と支援を受け、猛進するギュスターヴ。


 歴戦を誇る悪魔種と言えど、混乱パニック状態では烏合の衆。袋小路のネズミ。

 理解が及ぶ間も無く、敵地の包囲攻撃に一網打尽。あえなく殲滅の途に就くであった。

 

 そして、全ての屍人、屍獣、亡者、亡獣が王の帰還に跪き平伏す。


「良きに計らえ……」


 

 知性無きアンデッドたちの、そんな異様な光景に呆然とするシーカーチーム。

 そして、同時に疑問が浮き上がる。


「なんか喋っているようだが、奴は亡者なんだよな…?」


「屍人もだが、下級アンデッド種は本能的部分以外でも、生前に培われた強い思いが残ると聞いたことがあるが、あれは……」


 これまで遭遇した亡者は、奇妙に喚き散らすのみであったが、ギュスターヴは、明確な言語を発しているどころか知性すら感じる。


「つまりは、亡者の上位種ってところか」


「あの感じだと、ロード級と云うべきところね。上級ヴァンパイアの様な高度な知性とは言い難いけど、それなりの知性を持ち得ているのは確かだわ」


「何にせよ、脅威度に関しては最上位厄災クラス‶破滅級カタストロフィ〟辺りか…まぁくれぐれも、標的認定ロックオンされない事を祈るばかりだねハハン」


 シーカーチーム当初の目的であった、イルーニュ城 探索下見の情報収集は、予期せぬ混沌展開。危うく、最悪進入口に入り込むところであったが、寸でのところで回避できたことに、ほっと胸を撫で下ろしたところ──。


「あっ」

「ヤバっ!」

「こっち見てる!」

「アカーン!!」

 

 ほぼ同時の反応。ギュスターヴがおもむろに振り返り、確実にシーカーチームの存在をガッツリ捉えた様子。


「全員退却!!」


 瞬時にチーム一丸、建物の屋根伝いに全力猛逃走。


「間者か……即刻、死罪に処す……」


{{{{{グルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!}}}}}


 ギュスターヴ即座の発令に、無数のアンデッドが湧き立ち大呼応。

 凪の海原に突然の嵐。大きく荒振り、小舟を攫いに白波を立てうねるかの様に大群が動き出した。


「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!」

「クソッ!!この距離で、隠密スキルハイディングが看破されたか!!」

「【魔法術ギアコード式無効化 キャンセラー】効果よ!すっかり忘れていたわ!」


 ギュスターヴのスキルにより、隠密術式効果が掻き消され、所在が悟られてしまい獲物認定ロックオン

 ケツに火が付いたかの様に、大群勢は狂気に駆られ、暴走追跡モード。

 周辺路地は、瞬く間に埋め尽くされ、敏捷型の人型、獣型は建物壁をぬるぬる這い上がり、続々と包囲網を拡大。


「チクショー、油断し過ぎたか!!可能な限り、隠密に徹するべきだったな!!」

「今更、落ち度を悔いてもしょうがない!一旦分かれ、追手包囲網を分散させよう!!」


「「「了解!!」」」


 このまま直で拠点に退避すれば、下位アンデッド種だけならまだしも、超厄災ごと引き連れ込む事になり兼ねない。

 それだけは避けねばと、テッドの指揮により四人は、拠点と別方向の四方に分かれ、捕捉包囲網からの退避に全尽力投入。

 

 ドオン!ドオン!ドオン!ドオン!ドオン!


 各自、建物屋根上を駆け跳び逃走必死の最中さなか、 目前経路、周辺が次々と爆破砕。

 見ずとも理解するは、イルーニュ城防衛システム‶銀灰騎士ミスリルナイツ〟。

 その防衛圏内の不明運動体4に、システムは終末段階ターミナルフェイズへ移行、即座の迎撃態勢。次々と大弓砲撃矢パトリオットを発射。

 建物上部を大きく損壊させ、勢い余って自陣ユニットであるアンデッドたちにも被害が及ぶも、そんなの関係ねーはい!オッパッピー!と怒涛の連射矢砲撃。


「追手が減るのはいいけど、こっちも拙いわね!」

「クソっ!この距離と移動速度で、正確に狙ってきやがる!!」

「この腐れ野郎ども、邪魔だ!!どけどけ!!」

「だぁっ!あぶ、あぶ、あぶ、ヤバ、ヤバ、ヤバ!!ハハン、アハン!!」


身体強化フィジカルフォース】&【敏捷強化アクセルレイド】にて身体能力の底上げ、全速回避。

 辛うじて躱しきるも、爆散した瓦礫破片が飛び交い、雨粒の様に身体を打ち続ける。その渦中、さえぎるアンデッドを蹴散らしながら猪突猛進。


 そんなこんなでシーカーチームは、砲撃矢とアンデッドの大群包囲網の中を掻い潜り、必死の逃走劇を抜け出す。


「ラビットより各‶アサフィス〟へ、応答せよ」


 ラビットは、テッド。「曖昧アサフィス」は、シーカーチームのコールサイン。


 何とか危機的状況を抜け出し、家屋廃墟に身を潜めるテッドは、イヤホン型、魔力通信機器アーティファクトにて、先ずのチーム安否確認。


「パンサーよりラビット。オールクリア」と、応答の豹獣人ベルカ。

「シェパード、問題無し」と、犬獣人のエド。

「どすこいコマンド―、何とか生きてるよ」と、ヒューマンのフーゴ。


 全員、傷だらけながらも無事な様で一安心。尚、各コールサインを決めたのはテッド(適当に)。一部、意味不明ながらも本人は気に入っているそうだ。


「オーライ。とりあえずは、各自警戒しつつロドスへ帰還してくれ」


「「「了解」」」


 そうして、危機的状況を逃れ、帰還の途に就く一行であった。


 


 だが、しかし──。


 帰還途中、彼らが呆然と目に映るは、夥しい数のアンデッドの大群勢。

 その暴嵐災禍の濁流は収まることなく、一方向へと流れていた。


 大群中央で悠々と闊歩する、一頭の紅蓮馬。ごつい馬鎧バーディングを纏った戦車の如し巨大馬。それに追従する黄金銀鎧アウリウムの巨騎士6体と、純灰銀鎧ハイミスリルの巨騎士6体。


 そして、紅蓮の巨大馬に禍々しくも悠然と跨るは──‶ギュスターヴ〟。


「拙い!この方向は……」

 

 すでに‶フットボール〟はキックオフ。

 事態は望まぬ方向へと定められ、不可逆的につつがなく進み辿る。

 

 大統領緊急カバン。別名「Nuclear football (核のフットボール)」。

 現在、そのブリーフケース型のカバンが開けられたキックオフのと同様の事が起きていた。


 それを意味するのは‶核兵器使用〟と同義。

 

 放たれた戦略兵器が向かう軌道先、着弾点は──。


「「「ロドス!!」」」

 

 

 

  ────△▼△▼△▼△▼△▼△▼────


ギュスターヴのイメージ画像はこちら↓↓↓

尚、ウルスラグナはイメージ通りにはならず、別の機会に作成します(-ω-)/


https://kakuyomu.jp/users/mobheishix3/news/16818093076646918619





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