第152話 イルーニュ城


 ロドス内にて、米軍戦隊イナバレンジャーたちが戦力増強、新兵器開発テストで盛り上がる頃、他の冒険者たちはと言うと。


 敷地内にて戦闘訓練に励んでいたところ、その爆音騒ぎで駆け付ける者たち。

 昼前とあって、宿舎厨房で昼食調理に勤しんでいる者。

 それをBGMに、隣接する食堂で茶を啜りながら論じ合っている者。

 大浴場でサウナを満喫してる者など、いずれも平穏な様子。


 堅牢な砦住居を得られ、安全とそこそこの食料も確保。今後、長期滞在が予測される上で十分な生活環境が整い、昨日までの状況を考慮し、本日は休養日となったのだ。

 

 そんな中、宿舎屋上では──。


「……やはり、では、我が子らを見つけ出せぬか」


 そう気落ちしながら呟くは、神狼フェンリル女王のミゼーア。その金色に発光する相貌が見つめるは、真正面ながらも別視界。

 その遥か上空で飛翔する白頭鷲。それは、ミゼーアが使役する従魔のナヴィ。

 現在、ミゼーアとナヴィの視界がリンクし、上空から都市地上を探索中。

 その目的は、実の子カレンとトアの行方。


 目に付くものと言えば、至る所に徘徊する亡者、屍人らアンデッドのみ。

 その中を、ただ闇雲に巡っても疲弊するばかりで非効率。ゆえに、俯瞰的視点での捜索個所の割り出しを試みていたのだが、現時点で何ら動きは見えず。

 

「ならば、何処かの建物内か地下迷宮、もしくは都市外が考えられますねミゼーア様」

 

 そう絶対生存説を踏まえ返すは、エルフのメルヴィ。


 如何にフェンリルと言えど、まだ子供。この悪夢の生態系の中では、最悪の事態もやむを得ないところだが、ネガティブ思考は一切排除の意向。

 共に控えるミゼーア親衛隊の天氷狼スコルの阿狼、吽狼。冥狼ガルムの月影、灯影も同意の様子だ。


「カレンとトア様は、おそらく、朔夜ら他大狼たちと共にしておられるかと。

それと、この煉獄への転移は、我らだけと云う事も考えられますぞ」

「阿狼と同意でございます。案ずるより産むが易し。事態は我らの方が深刻で、御子息らは、平穏安寧のまま変わらずと思われますぞ」


「ふむ、阿狼と吽狼よ。楽観的な観点で語れば、それが最も快然たる善き事であるが、同じく流転の身の上とあらば、合流は必須ぞ。すべからく、その手を休めるには非ず」


 ミゼーアは、捜索の手を緩めるつもりは無く、変わらず続行の構えだ。

 

『『「「御意」」』』

「御身の赴くままに」

『小弟らも、御子息らは当然、姉上たちとの合流は渇望の想いでござる』

「私も、協力の手は惜しまない所存ですよミゼーア様」


「うむ。皆々に感謝するぞ」


 良き家臣に恵まれ、追随するエルフの友の言葉に、感銘の想いを抱くミゼーアであった。





 そして、休養日ながらも、安らうつもりが皆無の一部がここにも。


「これは、圧巻だな……」


 その光景に呆然とする人種ヒューマンの男。名は「フーゴ」。


「ああ、高さだけでも相当だぞ」


 そう返すは、犬面獣人の男「エド」。


「ヒュペルボリアでも、これほどの規模の城は見たことがないわねぇ」


 と、豹と人の中間顔の、豹獣人女性「ベルカ」。 


「アヴェロワーニュ健在当時は、中央集権国家だった事もあり、王族だけでなく貴族階級全てが、ここ‶イルーニュ城〟に集結していたらしい。行政執務と住居を兼ねた官邸、公邸、政府機関の総合センターの様なものなんだろうな」


 そう語るは、おちゃらけ性質ながらも状況をわきまえ、マジモードの元米海兵隊員からの異世界転生者、黒兎獣人テッド。


 いずれも、黒ずくめの軽鎧装備。A級シーカー斥候チーム四名。


 現在、彼らがいるのは、圧巻の威容を誇るイルーニュ城から少々離れた、城正面外観を一望できる建物屋根の上。その建物周囲の通りは、幾多の亡者、亡獣、屍人、屍獣の横行で大変賑わっている模様。


 ここヴィヨンヌにて、一際、存在感を主張するイルーニュ城。

 幾多と高層尖塔が並び聳え建つ、ゴシック様式型の巨大城。 

 中世建築様式ながらも「フライングバットレス」と呼ばれる、アーチ型の飛梁とびばり補強により可能とした高層建築は、只々圧巻、壮観な在り様だ。


 歴史的観点も含め、現状探索調査対象として絶対的。所有者無き莫大なお宝が、手付かずの状態で眠っているのは確実。

 冒険者とあらば、当然これを放置するわけにはいかない。

 求めるは、財宝よりも伝説級レジェンダリー以上の超レア装備類。


 しかし、懸念すべきは、かの‶狂王〟。他にも、如何な脅威が潜んでいるかが不明ゆえに、迂闊に乗り込むわけにはいかない。

 てな訳で、パーティ総出で本格的な探索をする前に、彼らは休日返上で、先ずは下見の情報収集に訪れたのだ。


「けど、この大穴って……」


 豹人ベルカが問うは、城南東部に開く、直径100メートルはある大縦穴。

 見下ろせば、底まで光が届かず、どれ程の深さか計り知れない。

 確認できる範囲の絶壁には、所々に緑が茂り、幾つもの滝が遥か地の底へと流れ落ちていた。


「ヴィヨンヌをヒュペルボリアから消し去り、この煉獄に導いた痕跡だろうさ」

 

 明白納得なテッドの回答。同時に、それを行使した存在に、例えようも無い畏怖を抱く。


 そんな事はさて置き、優先すべきはイルーニュ城の方だが。


「あれは門衛か?でかいな……」

「巨人族だろうな。金甲冑で中身は見えないが、亡者化したたぐいのやつだろう」


 人種のフーゴの呟きに返す、犬獣人のエド。イルーニュ城正門にて不動泰然と構え立つ、体長4メートルはある人型が二体。共に巨斧槍グレートハルバードと巨大タワーシールドを持つ、全身黄金鎧の門衛番兵。そのオーラも尋常では無い。

 

「【アウリウム】製の鎧か…?あのサイズなら、売れば一生遊んで暮らせるぜ」

「ああ…まぁ、あれを倒して、ヒュペルボリアに帰れたならの話だがな……」


 エドが脳裏に描く、捕らぬ狸の皮算用。それをバッサリと両断するフーゴ。

 

【アウリウム】は、金貨幣にも使われる「金鉱石アウルム」と、その相場価格の十倍、鋼より硬く、魔鉱石よりも魔力伝導率が高い「ミスリル」との高性能、高価格レア合金メタル。

 加えて、それを武具として製造するには、洗練された高度な技術を要する為、職人の貴重性もあり、ヒュペルボリアでは国宝級とされている。

   

 その高級ハイソサエティ装備の二体は無傷。屍人では無く亡者との見解。

 屍人は動きが不規則。俗に云うゾンビそのもの。対して亡者は規則的。普通に歩く分には生者と変わらない。

 どちらにせよ、アンデッド種であることに変わりは無いが、自我を失いながらも、長きに渡り守護してきた堅牢鉄壁ぶりと忠義には、称賛を越え畏怖すら覚える。


「アウリウム装備の巨人アンデッド…進入するなら、別ルートが良さそうね……」

「ああ、あれは高レベルダンジョンボス級。しかも二体…門前で、いきなりのボスバトルは御免被りたいね。もヤバそうだしさハハン」


 ベルカの提言に同意のテッド。廃城であろうと部外者の入城は御法度、即成敗。

 ただでさえ厄介そうな相手な上に、その騒ぎで、周囲のアンデッドらに大群で攻め込まれたら堪ったものではない。

 城内攻略に備え、探索前のそんなリスクや消耗疲弊は、当然回避すべきであろう。

 

「それと、中層階にいるやつら……」


 ベルカが差し示す、城の中層階、複雑な外壁に沿った回廊部。

 その各所要点に、街を望むかのように立つ銀鎧の騎士たち。

 いずれも体長3m以上はある、巨人族の銀騎士。その手には、大型弩砲バリスタの様な大弓を携えている。


「あれは、CIWSシーウス的なもんかな?城に近づく脅威迎撃用人型兵器と云ったところか。ステルスモードじゃなかったら、ヤバかったね……」


 と、冷や汗もののテッド。CIWS(Close-in Weapon System)とは、多銃身機銃と小型の捕捉・追尾レーダーを組み合わせた、 軍艦艇に接近するミサイルを撃破するための近接防空防御システム。


「ちょっと、何言ってるか分からないけど、あれは、ハイミスリル装備の弓兵アーチャーね。

隠密スキルも、範囲距離によっては看破され、捕捉の危険があるわ……」


 ハイミスリルは、純度の高いミスリル。こちらも相当な高級装備。

 その放つ魔力矢マナアローの威力は、戦艦主砲級が予測される。


「地上路で近づくのは拙いか……正門突破は却下として、どこか手薄な通用口を探すしかないな」

「まぁ、こんだけの規模なら出入口は、大小幾らでもあんだろうよ。その全てに、あんなデカ物どもを揃えるのは、無理があるだろうしな」

「その辺りの地下経路や、隠し通路はかなり有りそうね。ぱっと見だけでも、怪しい箇所があちらこちらに見えるわ。」


 シーカースキルの一部として、索敵に罠や隠し通路の感知看破が挙げられる。

 上級ならばその技能は、より優れたものであろう。

 

「ハハン、あの水路はバレバレだね。確実に城内に繋がっているだろう」

「「「当然」」」


 最善と思われる進入ポイントは、一同一致の見解。幾多とある水路の中、城方面に向かう水路トンネル入り口の一つ。周辺道路のアンデッドたちの横行も少なく、隠密スキルを使えばサクッと往けそうだ。


「では、早速、調査と往こうか」

「「「了解」」」


 推測であるもの城内進入口であるのは、ほぼ確定との判断。テッドの号令にて、いざイルーニュ城へと潜入開始。


「いや、待て」

「「「って、おい!」」」


 発進直後に即ブレーキング。危うく、屋根から転げ落ちそうになり、テッドに総ツッコミ。だが、テッドは何かを感知したのか、険しい表情でガチの様子。

 

「何か聞こえないか?目的水路の方だ」


「は?何かって何よ?別に……ん?」


 ゴゴゴゴゴ……


 テッドが示す水路トンネル内から、僅かながらも地響きにも似た轟音が、ベルカの聴覚を震わす。


「確かに聞こえるぜ……」

「ああ、俺にも聞こえる…なんの音だ?」


 犬獣人エドも同様。聴覚が優れた獣人メンツだけではなく、人種ヒューマンのフーゴも感じ取ったようで、音源はかなり近くに迫っている様子。

 

 一同に緊迫感が走る中、それは姿を露わにした。


「なんだあれ……?」


 水路トンネルから抜け出し現れたのは、日本戦国時代の甲冑姿の人型。

しかし、四足歩行。よく見れば、その甲冑は昆虫の様な生体質。


「屍人でも、亡者の類でも無いわね……」

「これまでに、見たことが無い種だな……」

「おいおい、まだ出て来るぞ!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 

 水路トンネルから、ワーギャーと雪崩出る甲冑姿の異形。

 二足、四足、六足、八足歩行とその姿は様々。

 日本戦国型だけではなく、中華、欧州、古代ギリシャ&ローマ、バイキング型、バンデッド型等、世界の各甲冑が生体化した異形の大群。

 いずれも、ドス黒い瘴気を纏っている。


「ここのギルドの記録文献に記されていたな……あれは悪魔種だよ」


「「「!!!!!」」」

 

 それらは、嘗て人種の戦士であった者たち。だが、死後に地獄堕ちし悪魔化した類のもの。

 

 ──地獄低位界悪魔目 下級悪魔科 変異ヒト属【イビルウォーリア】

  及び【イビルナイト】【イビルアサシン】【イビルバーバリアン】。 

 

 更に細かい分類、型式名称は割愛するが、中世以前の年期の入った悪魔たちだ。 


「悪魔の群集暴走スタンピードってこと?」

「地下下層から、ヴィヨンヌを支配に攻め込んできたのか?」

「いや、どちらかと言うと、何かから逃げている様に見えるが……」

「悪魔の群が?いったい、何から?」

「分からないが、悪魔が逃げ出すほどのイカれた奴だろ……」


 そうこうと困惑する中、テッドが無言で注視するのは水路トンネル。


 ガガガガガ……


 何か重いものを引きずる音が響いてきた。


「そのイカれた奴が出て来るぞ」


 テッドの言葉から僅か。トンネルの暗闇からにじみ出る様に‶其れ〟は姿を現した。


 ボロボロの外套を纏った、体長3m近い人型、巨躯の男。その右手に持ち引きずるは、刀身160cm、幅30cm。柄も含めて2mはある巨大剣。

 

「あれは、もしや……」


「ああ、間違いない……‶ギュスターヴ〟だよ」




  ────△▼△▼△▼△▼△▼△▼────


 イルーニュ城のイメージ画像はこちら↓↓↓


https://kakuyomu.jp/users/mobheishix3/news/16818093075144995755






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