第151話 匠の業物



『何だと?』


 情報整理が纏まりかけたところで、何故かゴキブリ形態にて乱入し、ぶち壊すドゥルナス。


 事の発端である、地球人特異体。痕跡はあるもの実態は不明。

 その直接戦闘を交えた当事者が状況を語るも、話の筋が別方向へと流れ、言葉足らずも相まって、何が何やら混乱混迷が一気に膨張するサ=ブとヴェルハディス。


 何はともあれ、サ=ブは亜空通信をドゥルナス用に、パブリックモードに切り替える。


『ドゥルナスよ。無事で何よりだが、如何な状況であったのだ?』


「あいや~、ヴェルハディス様の声でねぇべがや~。サ=ブちゃんど通信中だったべがやな。オラさ、その何だが通信どが使えねぇがら、報告すんのに丁度いがった良かったべっちゃや フヘホヒヒ」


 そう言いながら、ゴキブリの姿でカサカサくるくると、はしゃぎ回るドゥルナス。

その絵面にウザいと思いつつも、サ=ブは問い詰める。


「ギュスターヴにられたって、つまり、拠点要塞カストラに侵入された挙句に、あの万単位の陣営がまるっと、奴に殲滅されたって事でやんすか!?」


 ドゥルナス拠点の正門扉は、頑強な上に幾重もの隠蔽術式が施されていた。

 だが状況を察するに、それら全てが掻い潜られ撃破されたと考えられる。


「は?んなわげ無ぇべだー。煉獄城トゥヌクダルスさ往ぐべって、急いでだっけ、あのイカれポンツに遭っつまって、速攻でらいだんだべ。【ショゴスロード】の因子ば取り込んでねがったら、ぽっくりぬ腐ってだべやなフヘホヒヒ」


「は? バーロー!それ自業自得なやつでやんすよねぇ? テンパってたのは分かりやすが、その前の状況が知りたいんでやすよ!」


 ドゥルナスは、何やらな状況に焦り捲って、逃走中にに見舞われた模様。ショゴスロードの細胞因子により、再生に至ったのは理解できるが、求める情報はそれ以前の話なのだが。


「いづの間にが、あの腐れ地球人ば拠点さ入り込んずまって、一緒にいだ、あったげめんけーすごくかわいいエルフさ嫁っこにすんべって、おしゃれ服さ選らんでだら、ホムンクルスが反乱さ起ごすたどがで、絶界トラファルガーさ行ったっけ、らづも無ぇすさまじいごどになっつまって、ヤベくて逃げだべやな」


「……全然、分からんでやんす」

 

 クセ強な口調に、端折り過ぎで纏まりも無く、説明が下手クソどころか全く話にならない。


「オラも、よぐ分がってねっけなフヘホヒヒ」 


「……」


 実状、ドゥルナスが戦場に着いた時には、すでに自陣営は壊滅状態。

 その戦況経緯の程は一切見ておらず。結局、肝心な部分は不明のままだ。


『……まぁいい、ドゥルナスとミ=ゴ3よ。一旦煉獄城トゥヌクダルスへ戻れ』


「分がったべや!トゥヌクダルスさ行ぐのは久々だっけ、ワグワグすっつぉな!」

「承知したでやんす!では、直ちに帰投するでやんす」


 そうして、ドゥルナスとサ=ブは、何の因果か別場面ながらも、共に命からがらの状況から生還を果たし、一旦仕切り直しの為、陣営本拠点である煉獄城へと帰還の途に就くのであった。






 そして、ヴィヨンヌ内、冒険者’S 要塞拠点ロドスでは──。


 その敷地内にある、石造りの平屋建物。扉や窓は開け晒しになっているもの、中は熱気と煙が漂っている。

 壁には、年季の入った武器類や甲冑、盾などが立てかけられ並び、何やらな道具類も多く見られる。奥には古い組積造の炉が置かれ、赤々と燃え滾っていた。

 

 いわゆる鍛冶工房のようで、室内にはドワーフ3名とイナバレンジャー6名。


 昨晩の宴にて、アサルトライフル強化の考案となり、構造を含めた各情報やら要望をドワーフたちに伝え、全員の銃器と弾薬を渡し、後はお任せ。


「は!?もう、試作モデルができたのか!?早やすぎだろドーレス!」


 通常、新型兵器開発には相当の時間を要するものだが、ファンタジーな匠たちは、早朝から作業に取り掛かり、正午前に試作の完成となったところだ。


「ブォホホ!余裕ったい。そんで、こげな具合でどげんかとね イナバ?」


 ドワーフリーダーのドーレスに差し出された、何やらなカスタムモデルのアサルトライフル。元は、FNハースタル社製「SCARーL」通称「Mk16」を一新、魔改造されたもの。

 

「見た目だけならファンタジーって言うより、まるっきりSF──

って、軽っ!!」


 SCARーLの重量はロングバレル型で約3.5kg。ショート型は3.04kg。

 だが、それよりも明らかに軽い。


「金属なのは分かるが、地球のものでは無いのは確かだな……」

「これでモンスターハンティングとは、クールじゃねーか!」

「返り血が濃硫酸だったら、ホットだろな……」

「軽い上に、コンパクトで取り回しが利きそうだが、威力はどうなんだ?」

「ああ、正にそれだよ。口径は5.56mmのままの様だが、ファンタジー仕様なら相当なものを期待していいんだよな?」

 

 と、イナバからジョブスや他のメンツに手渡され、各々の感想意見が投じられる中、イナバがふと気になったのは。


弾倉マガジンは、パッと見で約18×18。真四角薄型のボックスマガジンと言ったところか。装填数は、どれぐらいなんだ?」


 通常、5.56mm弾 30発 STANAGマガジンのサイズは、約18×6.5×2.2cm。

 その横幅が約2.7倍に拡大し、大幅な装填増量が見込めると窺えるが。


「300発ばい」


「「「は!?マジか!?」」」


「確かに、軽量化と装填数の増量を要望し、【ケースレス弾】の100連と言う話だったが、300連って!?」

 

「ブォホホホ!要望上乗せば、ドワーフ職人の性分やけんね。マガジンには、一列10発、そん下に各30発ずつったい」


 ケースレス弾とは、薬莢を廃し雷管、発射薬、発射体をユニットとしてまとめた弾薬の一種。重量軽減及び経費削減に加えて、空薬莢の排出を省くことにより、構造のシンプル化や、連射性の向上を目的として開発されたが、暴発等色々と問題点がある為、量産採用には至らなかったものだ。

 しかし、魔力運用により問題云々は、まるっと解決。実用可能仕様と相成ったのだ。


「なるほど…しかし、300連とは思えないほどの軽さだな」


 5.56x45mm NATO弾の全長は57.40 mm、重さ12g 。45mm とは薬莢の長さで、正確には 44.70 mm 。300発所持なら3.6㎏。銃本体と合わせれば7㎏程にもなる。

 しかし、弾頭部分だけの長さなら約20mm、重さ4g。300発所持で1.2㎏。

 

「そげん、地球の単位で言う15ミリまで削っとるとね」


 15mmとなると、3g計算で900g。つまり、4分の1まで軽減されたのだが、ドーレスは更に重ねて語る。


「そん銃本体と弾丸ば、【魔鉱石マナライト】が含まれとるとね。魔鉱石を織り込んだ武具ば、‶装備重量軽減〟効果もあるけん、相当軽くなっとるはずばい」


 5.56mm弾も含め、通常アサルトライフルに使用される弾丸は、主に「フルメタルジャケット弾」。

 これは、弾芯である鉛を「ギルディング.メタル」と呼ばれる銅と亜鉛の合金で覆ったものだが、この魔改造弾丸は、魔鉱石と亜鉛の合金メタルで覆われている。


 ドーレス曰く【魔鉱石マナライト】は、魔力伝導率が高く強度もそこそこ。魔力や各強化付与など、魔術式装備類、工芸関連製造には必要不可欠。

 採掘量が多くレア度は低いが、生活用品から戦闘用具まで、ヒュペルボリアでは非常に重宝されている鉱石資源との事。


「なるほど……その辺りは、ガッツリファンタジーって事だな……まぁ、超軽量は有難いとして、とりあえず、スペックの確認をしたいところなんだが」


 地球物理理論で云えば、質量変化は運動エネルギー量に関わる部分。

 銃弾威力ならば「マズルエネルギー」と呼ばれ、速度と質量が増すほどエネルギー量が増加。

 質量減少で威力が増すには、速度上昇が必然であるが、ここでの要点は「魔力」。

 地球理論に無い法則理力がゆえ、全くの未知数。果たして、どの程度のものなのかと言った話だが。


「そげんことなら、外で標的ば用意するとね」


 刮目相待と、一同は工房建物外に出で、いざ実証見聞。

 ドーレスは、土精霊術テラスピルギアにて厚さ50センチ程はある、カッチカチの岩壁ロックウォールを三層、精製顕現。


 地球と異世界のコラボ兵器。その試射実験テストを行うのはイナバ。

 それを見守る地球人たちは、期待と高揚が絡み合い、妙な緊張感が漂っている。

 

 イナバは、標的である岩壁に向け、ライフルを構え全集中。

 トリガーに掛けられた指が動き出す。


 ギョババババババババババババ!!


 聞き慣れない発射音と共に、フルオート連射撃。分厚い岩壁の一層が瞬時に粉々。二層目も貫通し大穴だらけ。三層目は、ロドス防壁への被害を防ぐ為であったが、抉れまくりボコボコの状態。


「「「うおおおおおおおお!!ぃヤッバっ!!」」」


「20mm機関砲クラス…貫通力はそれ以上か……」


魔力波動衝撃マナインパルスによる発射方式ばい。そげんば弾丸にも付与され加速。速度衝撃に魔力衝撃波が加わり、貫通力と破壊力が増しよるけんね」


「つまり、【パルスライフル】ってことか……同士討ちフレンドリーファイアには細心の注意だな……」


「その点ば心配なかとね。味方に向けよると、トリガーばロックしよるたい」


「IFF(敵味方識別)機能まであるのか…すごいな」

 

 一同、その高性能に感嘆する中、ドーレスは、5m程の岩山を精製。


「セレクトレバーば二つあるとね。一方ばセミオートに切り替え、もう一方を『モードⅡ』に切り替え、撃つばい」


「は?……ああ、このレバーか」


 銃の左側、グリップ上にあるセレクトレバーが二つ。一方は通常アサルトライフルにある、安全セーフティ単射セミオート連射フルオート、三点バーストの切り替えレバー。その左にⅠ、Ⅱ、Ⅲと数表示のある、謎なセレクトレバー。現在は『Ⅰ』の位置だ。


 ドーレスの言う通り、モードⅡに切り替え、岩山に撃ってみる。

 今度は貫通はしないもの、着弾点の抉れた穴から炎が激しく吹き出し、燃え広がる。


「「「!!!!」」」


「な!?徹甲焼夷弾か!!」


 徹甲焼夷弾は、徹甲弾と焼夷弾を合わせたもので、標的の装甲を貫き、内部で燃焼を起こし焼夷効果を齎す。


「ブォホホホ!火精霊術式イグニスピルギアの貫通火炎弾ったい。イナバのオーラば流し込めば、更に効果が上がり、炸裂するけんね」


「徹甲炸裂焼夷弾ってことか……」


「そんで、次ば『モードⅢ』に切り替えるとね」


 異世界職人たる匠の御業に驚嘆しつつ、セレクトレバーを『Ⅲ』に切り替え撃つと──。


「「「!!!!!」」」


 岩山が盛大に爆発粉砕。


榴弾グレネードか!!弾丸はそのままで、異なる被弾パターンに変えられるというのか……エグイな」


「ブォホホホ!まだ試作品やけん、更に改良や他に要望ばありよるんなら、聞いちゃってんない」


「マジか……つうか、ドワーフのスペックの方が、何よりヤバいな……」

 

「ブォホホホホ!もっと褒めとぉよかとね!」

「「ブォハハハハハ!!」」


 超匠ドワーフたちは、誇らしげに高笑い。そして、爆音騒ぎを聞きつけ、何や何やと他冒険者たちが集まってきた。


「ロックオン誘導式……クラスター弾とかも……」


 イナバはブツブツと、何やらな考案中の様子。

 

「イナバ中尉、基本はこれでイケると思うが、ネーミングの方はどうする?」


 単にアサルトライフルと呼ぶには、もはや別物兵器。ジョブスのその問いに、すでに思案し決めていたのか、イナバは一拍間を置いてから答え返す。


「──MPRマナパルスライフル。このモデルなら『MMKー16』。弾丸の方は『5.56×15mmMAP弾』でどうだ?」


 MAPは、マナパルス アーマー ピアーシングの略。云わば【魔徹甲弾】。


「決まりだな!」




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マナパルスライフル「MMK-16」の何となくなイメージ画像はこちら↓↓↓


https://kakuyomu.jp/users/mobheishix3/news/16818093074987923762






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