第150話 カルダシェフ・スケール



 ヴィヨンヌ壁外北部の山岳地帯。


 険峻な山々が連なり、歪な植物が疎らに生えているもの、殆どが岩肌剥き出しの不毛地帯。その生態系も不毛と言うべきか毛が無く、辛うじて甲殻類、軟体類と判別できるもの、未知の分類種。

 どこぞの惑星生物なのであろう、いずれも温厚友好的ではない事は確か。


 そんな生物たちが蔓延る山々の中腹、小部屋程度の洞穴ほらあなの中──。


「オーイエア、カモンカモン、シェケナベイベー、バーロー、コンニャロー。亜空間通信ヴァルミアチェケナウべらんめぇ。聞こえやすか旦那ー? こ、こりらミ=ぎょ、あ、噛んじまったでやんすコンチクショー」


 昨晩のハ=ゴスとの戦闘で相当の負傷を負っていたが、大分回復に至った様子のミ=ゴ。早速、ヴェルハディスに通信を試みる。


『聞こえておる……。しばし通信が途絶えていたが、何か問題か?』


「てぇへんでやんす!これは、属長にも知らせねぇとでやんす!!」


 電磁波障害だらけのここ煉獄では、電波通信が困難。だが、その影響を受けない亜空間通信まで不通となると、通信相手ミ=ゴに何らかの異常事態が生じたのは明白。

 ヴェルハディスは、その消失すらも想定していたが、元気そうで何より。

 通信再開に至ったもの、何の事やら差し迫った状況。


『‶ヌガー=クトゥン〟にもだと……どう言う事だ?』


「へい、それがやしてねぇ。例の‶ファントム〟の行方を追って、セクター40に辿り着いたところ……‶奴〟が居たんでやんすよ!」


『奴……どの奴だ?』


 ヴェルハディスにとって「奴」との代名詞は有り有り過ぎて、見当がつかない。 


「ユゴス星にて、千年単位の周期で転生を繰り返し現れる‶ミ=ゴ属の厄災〟。代々、討伐に成功してるでやんすが、被害は相当でやんした。それが旦那の傘下に就く300年程前、ここ煉獄に現れ、多くの同胞が奴に喰われやしたが、属長が仕留めたとの事でやんす」


『その奴か…ヌガーが唯一苦戦をいられたと云うパラシアの王。それが転生周期から外れ、この時期に突如現れただと?確か──‶ハ=ゴス〟と云ったか』


 ようやく、知識情報にヒットし、状況が垣間見えるも不可解。


「へい。どう云うトチ狂った事かは知れやせんが、現れたのは事実。一回ぽっきりの隠し技でなんとか逃げ切れやしたが、あれはかなりヤベーでやんすよ。それと、奴が生まれた事による弊害も……」

『?』


「あっしら陣営勢力の駒であった、パラシアを含めたラフレイダー。繁殖増殖を続け、その数は約百万。元々はハ=ゴスの手下でやしたから、それがまるっと奴の手中にごっそり奪われでやんすよ。おまけに側近と思われるラフレイダー特異種二体が控えておりやした」


『……ふむ。これまで知能が低い野生動植物であったが、その狂暴性と繁殖力は、雑兵として十二分の価値を示していた。確かにその損失は多大であるが、危惧すべきに非ず。然程さほどの問題では無かろう』


「……まぁそうでやんすね。旦那自体は勿論、直属の不死者アンデッド軍を含めた、相当数のユニット数を取り揃えて、‶主格級〟ものきを連ねておりやしたねぇ」


 ヴェルハディスが完全復活となれば、地獄界&外なる勢力が、特別通販でお取り寄せが可能。更に煉獄版図が拡大を続け、超常極まる勢力に至るであろう事が、ミ=ゴの脳裏に算段募る。  


『まぁ、そう云う事だ。粗悪品を幾ら並べようと、純然たる逸品には些末な有象無象。問題はそのハ=ゴスだが、ドゥルナスの陣営を屠った‶ファントム〟とは、奴の事であったのか?』


「へい、あっしもそう思ったんでやすが、判断が微妙なところでやして……」

『他に懸念すべき判断材料があるのか?』


「へい。奴の厄災たる所以は他種族と遭遇すれば、はた迷惑にも即滅殺で捕食。

それが前代未聞で、捕食戦闘に及ぶ事無く対話をしていた‶一団〟がいたんでやんすよ」


『一団だと?……何者らだ?』


「ん~、その数は百少々程度でやんすが、かなり混沌としておりやして……。おそらくドゥルナスの下っ端だったはずの鬼族と獣種。それと、数日前にヒュペルボリアから、とっ捕まえていた狼ども。そして、奴と直接対話していたのは──‶地球人〟でやんす」


『地球人?どう云う事だ?あの脆弱劣等種族と何故に?』


「でやんすよねぇ。あっしはその時近づけず、話の内容の方は全く……」


 おそらく、エリア進入の時点ですでに感知捕捉されていたのであろう。

 探る前にハ=ゴスと即交戦状態に陥り、情報は得られずの状況。



『ふむ、その地球人だが……』


「何か分かったでやんすか旦那?」


 ヴェルハディスの思考では、これまでに得た各情報を照合し分析。

導き出した解答は。


『……昨日の貴様からの報告にあった、セクター46特区から抜け出たと云う地球人。断定はできぬがハ=ゴスと対話していたのは、その地球人ではないのか?』


「は?まさか……」


地獄ゲヘナの下級悪魔の群を屠り、フェンリルの仔らを救い出し、ドゥルナス拠点を含めた道中、一切合切の障害を全て消去。つまり‶ファントム〟とは、十中八九、その地球由来の特異体で間違い無かろうな』


「はぁ!?いやいやいや、わけが分からねぇでやんす!これまでの不可解状況を、まるっとひっくるめて、あの厄災すらも戦わずして対等と認めたのが、その地球人って事でやんすよねぇ?文明レベルが ‶タイプⅠ〟にすら及ばないヒヨッコ種族でやんすよ!」


 ミ=ゴ属が地球に干渉を始めたのは、化学等の技術革新が進んだ第二次産業革命の時期。約150年の間、地球生物の生体情報はすでに解析し、把握している。 

 ミ=ゴが知り得る地球人種は、各耐性値が極めて貧租。放射性物質による進化を促すも、遺伝子変異の一時的負荷にも耐えきれぬ、非常に脆い生体との認識。

 

 しかし、この煉獄にて、溶岩濁流の如し地下生態系を蹂躙し、踏破する地球人種が存在するとは一向に信じ難く、これまでの常識が覆され困惑するミ=ゴ。


『それは、貴様が実際に目にしてきたものであろう。私はその報告を、単に纏め上げただけだ』


「……そうでやしたねぇ。少々地球人を侮り過ぎたでやんす。原始レベルとは言え、惑星生態系を支配する80億規模の種族。その数値に置ける確率論から、特異体が現れても何らおかしくは無いでやんすねぇべらんめぇ」


『それと、貴様が言う【宇宙文明段階カルダシェフ・スケール】に置いて、嘗ての地球は‶タイプⅡ型〟に属していた。つまりは、惑星エネルギー及び、恒星エネルギーまで全て利用可能な人類種族であったのだ』


「は?マジでやんすか?いつの頃でやんすか?」


『有史以前の遥か古の頃だ。当時は、別星系へと有人進出もしている程であったが、地球と火星移民勢力とで‶惑星間大戦〟が勃発。結果は、互いに古代核兵器にて破滅。おそらく【反物質兵器】であろう、火星生態系は消滅し、砂と岩だけの星へ。地球は全滅は免れたもの、し猿の時代へまで退化』


「世界が分離って……」


『ヒュペルボリア。あの世界は、異なる理力にて発展したもの、‶元々は地球〟。

その分離した‶複体世界〟。故に、次元変動にて繋がり易く、生体の行き来が度々自然発生するのは必然。転移時の順応性も、その所以からであろう」

 

「順応性……魔力回路マナサーキットの発現でやんすかねぇ。地球の方でも過去に‶妖力〟なる理力があったと聞いておりやすから、潜在的に備わっていたとかの話でやんすか」


『然りだ。しかし、一旦の破滅から現代のレベルまで数十万年。未だ‶タイプⅠ〟にも至らず、実に愚かで嘆かわしい話だ』


 宇宙文明段階カルダシェフ・スケールタイプⅠ型は「惑星文明」とも呼ばれ、利用可能な惑星エネルギーを全て使用制限できる文明。


 タイプⅡ型は「恒星文明」とも呼ばれ、恒星系レベルのエネルギーを使用制限可能な文明。その消費エネルギーは4×10²⁶w。

 450,359,962,737,049,600,000,000,000,000,000,000,000,000wと、草が生える桁数字のエネルギー仕事量。

 日本数単位に於いては、兆を超え、京、垓、秭、穣、溝、澗、正の辺りで、

4百5十正3千潤うんたら。‶正〟単位だけに、まさにの天文学的数値。

 、知的生命文明の最上到達点であり限界領域。

 

 それすらを超えるタイプⅢ型では「銀河文明」と呼ばれ、銀河全体の規模でエネルギーを制御。限界のある肉体から解脱した、エネルギー生命意識体の文明。

 つまりは、この段階から世に云われる「神々」所以たる高次元領域。


 更にその上、タイプⅣ型となると複数の銀河群、大銀河団以上の範囲を制御。

事実上観測し得る、宇宙全体を支配可能とした上位神の領域。「宇宙文明」と称すべきであろう。


 そして、タイプⅤ型は宇宙全体制御、宇宙創造、多元宇宙制御。森羅万象、概念、ありとあらゆるものを破壊と再生が可能。すなわち‶全知全能〟。

 各宗教における、超次元たる‶創造神〟の領域はこの段階。その呼ばれは──。


 Ωオメガ文明。


 と、脳内思考で語るヴェルハディス。そんな途方も無い話はさて置き。


「なるほど。古代の地球は、ユゴス星と同レベルの文明水準でやんしたか……ならば、その特異体とやらは……」


『元来、古の地球人には「神」と称される多くの強者が存在していた。しかし、長き時を経て、脅威の減少と共に劣化が進み、現在のぬるま湯の様な世界と、貧弱な種族へとなり果ててしまったのだ』


「確かに地球の神々は、元々人間であったものが多いと、地球駐留中のミ=ゴ2

‶ジ=ロウ〟兄貴から聞いていたでやんす」


『ぬるい世界と言っても、兵士とあらば、烈火の如し死地に身を晒す事は数多あまた

その渦中、因果律のふるいに掛けられ、嘗ての古き力に目覚めた者。それが、この煉獄の果て無き劫火にも、留まる事無く猛進を続け抗い、この短期間にて超然に至る存在──』


「なるほど……見た目は、あれれ~な地球人でも、中身は人外バーロー存在。

その‶幻影ファントム〟の姿だけは、何とか確認できやしたけど一瞬。推し測るには全くの未知数。しかし、かなりの脅威である事は確実で……ん?」


 そうした勢力争いの構図が徐々に描かれる中、ミ=ゴが何やらな反応を感知。


『どうした、ミ=ゴ3?』 


 カサ カサ カサ カサカサ……


「ふん、只のゴキブリでやんすね……」


 ミ=ゴが現在、一時的に退避していた数メートル範囲の洞穴。その僅かな横穴から這いずり出て来た一匹の蟲。体長1m程のでかい‶クロゴキブリ〟。 


「──フヘホヒヒ。なんだべ、‶サ=ブちゃん〟でねぇべすかぁ!こんなどごで、

ばぁ、まんず奇遇だべっちゃあ」


「ドゥルナス!?」


『ドゥルナスだと?』


 そのゴキブリの頭部が、まさかのドゥルナス。そして、ここで明らかになるミ=ゴの固有名「サ=ブ」。


「てやんでぇ、バーロー!生きてやがったでやんすか!」

「いんや、一回死んだでばや、参ったべ。瞬殺だったべっちゃ」


「は?まさかあの地球人にでやんすか……」


「何ほでねーイカれたごど、かだってけや。あんなミソっかすに誰が死に腐るがや。オラがらいだのは、‶ギュスターヴ〟だべや」


「は?」


『何だと?』


 

 情報整理が纏まりかけたところで、乱入しぶち壊すドゥルナス。

 当事者が状況を語るも、言葉足らずで何が何やら、混乱混迷が一気に膨張するサ=ブとヴェルハディス。



  ────△▼△▼△▼△▼△▼△▼────


 ミ=ゴ属のサ=ブの画像はこちら↓↓↓

https://kakuyomu.jp/users/mobheishix3/news/16818093074175973384


AI作成にて若干イメージが異なりましたが、妥協して最も近いものを選出しました('ω')ノ

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