第148話 果報は寝て待つべし


 

「何なんだあれは…?あの極光業火に晒され無傷なのか……」


 遥か上空でその存在は、赤光の翼を広げ、眼下地上を威風堂々と睥睨。

 その姿は面妖ながらも「天上天下唯我独尊」と、格言するか如し威容。


「逆に、極光を放った方が消え失せてますけど、どう言う事ですかねぇ…?」


 レオバルトの問いに、リュミエルも問いで返し明解答は得られず。

 正体、経緯も含め、極限たる戦いの結果は不可解。ただ混迷が渦巻く未知の状況に、いずれも呆然唖然の冒険者’S。


「核攻撃を放ち、それに耐えうる生体って……いや、一旦消滅からの超速完全再生か…?そもそも──」

「無駄な考察はやめとけよ。どうせ明快な答えなんか、ここで出るわけねーだろ」


 異世界人ファンタジー勢が不明なら尚更、地球人勢の理解は全く及ばず。

 地球法則、概念諸々と別物。例え解明したところで、現時点の状況に何も利を得るすべは無し。


「まぁ、それは兎も角、これが煉獄の夜空か……」


「ああ…正に異次元世界。これは壮観だな……」 


 と、完全思考放棄のイナバとジョブスだが、視界に広がるは満天の夜空。

 これまで、空は厚い雲に覆われ窺えなかったが、今の戦いにて晴天模様と相成り、異次元たる夜空が初の解放、ご観覧可能となった。


 色とりどりの星々に見えるも、それは生命であったものの成れの果て。肉体と自我を失い、光球オーブ化した魂魄こんぱく体。


 オーブは、魂魄の核たる因果体の存在力によって、木の実サイズから惑星級まで大小様々無数。それらを取り巻くオーロラ、膨大幾重ものエネルギーの奔流。

 更に、次元の裂け目が至る所で不規則に開閉を繰り返し、動きに合わせて光陰が変化。その裂け目から、オーブが続々数多あまたと行き来していた。


 煉獄界の宇宙そらとは、生命の魂体が幾星霜の時を漂い、大いなる采配の導き手を唯ひたすら待つ、輪廻転生狭間の世界。 


「──と、聖天書に綴られていますが、この神話世界の在り様。実に壮大にして幻想的且つ、神秘的ですね……」


 聖女クラリスによる教え説きナレーションと共に、異世界ファンタジー人ですら、その壮麗な満天パノラマ光景に意識を奪われる。


 そんな、超自然絶景プラネタリウム鑑賞の中、上空の超生命体が動き出した。


「みゃー!こっち来たにゃらー!!」

「アカン!!すでに気付かれとったか!!」

「こげんば、拙いとね!!」

「おーの、まだ暴れ足りんちゅうがか!?」


「はぁ、ここの生態系事情はどうなってるもんやら、宴の締めに、これはエグ過ぎますよー!」


「愚痴ってる暇は無いぞ、リュミエル!総員、最大級戦闘態勢を執れ!!」


「クソッ!!アサルトライフルは置いてきちまったぞ!!」

「そんなもんあっても、あれには意味ないだろ!!」

「皆、死ぬのは初か? 俺は二度目か……」

「やめろやテッド!縁起でも無い!!」


「「ミゼーア様!!」」

「分かっておる、阿狼、吽狼。我らも最大級の尽力にて備えようぞ。月影、灯影、うぬらもだ」

『『「「御意!!」」』』


 総員臨戦態勢を執るべく、亜空収納アイテムボックス持ちの異世界人勢は瞬時にフル武装し、各々武器を構える。

 そのような収納ファンタジーを持ち得ない地球人勢は、お手上げ状態。

 唯一イナバだけは、対応するべく空手道息吹の呼吸にて蒼きオーラを纏う。


 そんな様相を、然も無いと言わんとばかりに、異形超生命体が悠々と降り立つ。


「GYHAHAHAHAHA!!ソウタカブルナ。今ハ、干戈カンカヲ交エル時デハ非ズ」


「「「は?」」」


「我ハ、パラシアロード‶クトゥラスルス・ハスター・ゴス第八世〟通称ハ『ハ=ゴス』トノ呼バレ」


 突如、冒険者たちの許へと飛来。めらつく、背の赤色オーラ翼を大きく広げ、威風堂々、揚々と名乗りを挙げるハ=ゴス。

 頭部の多数触手をうねらせ、猛放つ圧巻の威圧感。見るからに対話不能、戦闘回避は不可確定と、誰しも想じていたところであったが、この大肩透かし。


「パラシア?どの様な種族か分かり得ませんが、その王とは……」


 初聞の種族名に思案し、そう呟くリュミエルだが、解答は得られるはずも無く。

 分かっている事と言えば、一種族の頂点であり、間違いなく──。


不滅者イモータル。然るに、規格外E X級であろう事は自明よのう」


「「「「………」」」」


 一同無言ながらも、ミゼーアの言葉に同感と頷く。

 その脅威レベルは最上級。戦略兵器クラスにして『勇者』『魔王』と同格存在。

 

「俺は、このレイドパーティの総指揮をしている『レオバルト』。それで、戦闘目的でなければ如何な了見だ?ハ=ゴス王とやらよ」


 多少困惑しつつも、一切怯む事無く毅然と応じるレオバルト。

 二つ名は『紅蓮の獅子クリムゾンレオ』。獅子の様な金髪長髪を靡かせる、2m越えのライオンマッチョ。

 冒険者ランクはSS級であるもの、ほぼほぼEX級レベル。現在、冒険者ギルドにて精査協議中。今回のミッション依頼抜擢は、その最終基準。

 つまりは、時期‶勇者〟判定試験を兼ねたもの。


 故に、人類種としての風貌、戦闘力、威厳、風格は超一級。 

 こちらとて負けじと放つ、烈火の如し重威圧オーラ。


「GYHAH!ソウ仰々シクモ身構エルナ、大シタ事デハ無イ。貴様ラ‶同胞〟トノ不戦ヲ協約スルガ故、只ノ挨拶程度ダ」


「「「!!!」」」


「同胞だと? それは、何者だ?不戦協約とはどう言う事だ? 」


「フン、ココデ全テヲ語ル義理ハ無イ。イズレ、此処ニ訪レルハ必然。諸々ノ経緯ハ彼奴キャツラニ聞ケ」


「「「は?」」」


「我モセワシイ身ノ上。コレ以上ノ問答ニ応ジルツモリハ無イ。時ガ来レバ然ルニ、貴様ラトモ相対マミエヨウゾ。

ソレマデ、生キテイレバノ話ダガナGYHAHAHAHAHA!」


「「「な!?」」」 


 慣れ合う気は更々無しと、返答を遮断。重要点だけを一方的にばら撒き、後は知った事かと高嗤い。他の云々は、お仲間同士でどうぞご勝手にと、後々に丸投げ。

 

「デハ、サラバダ──否、ココデ腑抜ケラレテハ意ニ反スル。兼言ノ一ツデモ残スベキカ」

 

 ハ=ゴスは、挨拶もそこそこに、空中浮遊にてきびすを返す。早々の撤収かと思いきや一旦留まり──。


「──斯ク告ゲル。汝ラハ行ク行ク、決シテ逃レラレヌ兇嵐烈火ノ暴渦ニ晒サレヨウ。其ノ因果渦中ニテ、己ガ存在意義ヲ示スベキハ、純然タル‶力〟ノミ。非ナレバ、忘却流転ノ宇宙ソラニ帰スデアロウ事ハ然リ。シカト抗イ通セ!」


 ハ=ゴスは、そう厳粛と託宣を告げ、オーラ翼を一羽ばたき。瞬く間に、何処かへと飛び去って行った。


「「「ふぅぃいいいいいい……」」」


 実に重々しい空気が晴れ渡り、一同盛大に息を吐く。実際、対話ながらも総臨戦態勢であったが為、各オーラにて重力変化が生じていたが解消。


「つまり俺たちは、これから相当な戦いに巻き込まれるのは確実。それに対する力が無ければ、あの宇宙に彷徨う魂体オーブの仲間入り。って、解釈でいいんだよなレオバルト?」

「まぁ、そんなところであろうなイナバよ」

「正に『死ぬとお星様になる』ってやつか……」


「そないな事か…あんクソボケ、仰々し過ぎて何言うとるか、よう分からんがな」

「ガイガーの脳みそは、殆ど筋肉に喰われた豆粒にゃから仕方ないにゃらら」

「やかましわい、ネイリー!」

「まぁ気を抜かず、頑張れってことさ ハハン」

「んな、フレンドリーじゃねーだろ テッド 」

「ジョブスは特に頑張らないとね、ハハン」

「うるせーよ!」

 

 脅威が去り、早速始まるガヤ応酬。テッドは軽口ながらも、地球人勢の課題問題を指摘する。基本システムD N Aのアップグレードは済んでいるが、イナバ以外、運用活用アプリの方が未だ得られず初期状態。異世界人側でも、更なるアップデートが必要。


 しかし、暗闇の中を手探り状態の彼らに、僅かながらも灯りが投じられ、道が示されたのだ。

 それが波乱渦巻く苛烈極まる道であっても、これまでの経緯から百も承知。

 その指針を示すべく情報が得られるのであらば、大きな前進と言えよう。

 

「いずれにせよ、ハ=ゴスの言葉が真実であらば、其の同胞らとは、この状況の分水嶺たる存在らである事は確かよのう」


「そうですねミゼーア様。これは吉報と判断しても宜しいのでは?」

「楽観は早計ぞ、メルヴィよ。吉凶の判断は、実際に相見えてからであろう。

しかし、もしやであるが──」


 泰然の構えに見えつつも、ミゼーアが想うは唯一、行方知れずの我が子たち。

 その観点からついぞ浮かぶ、楽観希望願望。言い掛けるも、その渇望たる想いの言葉をねじ伏せ押し留めるのであった。


 各々、様々な思いが交差するも、今は思案を巡らす時では無い。

「果報は寝て待て」との言葉の通り、今すべき事は唯一つ。


「よーし、宴はこれにて終了!!明日みょうにちに備え、各自十分な休息を執り行うべし!以上、解散!!」


「おーの、まっことダレたちや疲れたよ。もう寝るぜよ」


 


 そして、地下の方では──。


『『『ガルグラアアアゴルアアアギュロロロロロロロピャラララ』』』


 地下街、町外れ、森の中に響き渡る大勢の獣たちによる多重合奏アンサンブル


「……こんな状況で、皆よく寝られるな。しかも、歩哨も立てずに呑気なものだ」

「眠れる何とかってやつですよ。ブルース大尉も、とっとと寝ておかないと昼間、へばりますよ」


 そう言い残し、クロエは速攻で寝息を立てる。


「速やっ!…ったく、まぁ、それはそうなんだが……」


 休める時に休むのも兵士の仕事。そうと言っても、今日を振りかえれば、想像超える余りにも異常な事態の数々と同時に、多くの仲間と部下を失った。

 その中には──。


「バルセロまでもか……」


 フォースリーコン別働隊、コールサイン「ウルフ2」チームリーダー「バルセロ中尉」。ブルースとは同期であり親友の一人。

 その親友は極めて悲惨な憂きめに遭い、あげくにチーム諸共キメラ化。その葬られた経緯を先程知り、未だ悲痛に苛まれていた。


 同じく同期親友であるラーナーは、背を向け表情は見えないが、微かに震えていた。察するに、同様の思いで眠れないのが痛いほど伝わる。

 彼の場合、苦楽を共にした他の戦友であり部下までも戦死とは程遠い、悍ましき境遇に見舞われたのだ。計り知れない想いも多々ありえよう。


 そして、おちゃらけトリオは同じ状況とは言え、相当な心体疲労からであろう、グースカ、ピーピー。一部、鼻に指を突っ込んだまま、いすれも爆睡中。


「フッ、こうして呑気に寝られるのも、あいつのおかげか……」


 その視線の先には、獣人化したカレン、トアと共に、仔狼たちとモフモフまみれで眠るトールの姿。

 そんな光景に、自然と心痛が和らぎ、ようやくの就寝に至るブルース。


 そんなこんなで、大波乱の煉獄生活の一日が、目まぐるしくも穏やかに幕を下ろすのであった。


 明日の更なる激動の戦いに備えて──。



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