第139話 希少種


⦅KIRIRIYYYYYYYYYYYYYYYY!!!⦆

⦅GURUAAAAAAAAAAAAAAA!!!⦆


 人外に変異した二体による、超異種同士の混沌対戦カード。

    

【ラフレイダーギブスV S亡者ウッズ】


「なんすかこれ……」

「知るか」


 ラフレイダーギブスの武器は、蛇腹の長い首を振り回し、イカ足イソギンチャク状頭部の鈍器兼、兇悪な噛み付き。

 歪な薙刀と言うべきか、宿主の負傷箇所の修復強化により、長く硬く筋張った右腕と刃物の様な鋭利な手刀。

 胴体部から生えた3対、鉤爪付きの肢足の計八刀流。


 対する亡者ウッズは、右手に携えた災害時用手斧ファイヤーハチェットのみだが、脳内リミッターが外れ強化された身体能力と、堅固な筋肉筋と皮膚。

 これにより、通常の人間を遥かに超える機動性で立ち回る。

 

 ギブスは、鞭の様にしなりを利かせ、右腕薙刀を横薙ぎ。ウッズは、それを身体を仰け反らせ躱しながらの前蹴り。

 足技を使う大半の格闘技で使われる前蹴りだが、前進攻撃する相手を止めたり間合いを測るように蹴る、ストッピングキックとして使用されることがある。


 それが人外脚力により繰り出され、カウンターで大きくギブスのバランスを崩すが、対するも変異人外。肢足をわちゃわちゃ、うねる様な異様な動きで立ち直る。

 その間にウッズは間合いを詰め手斧ファイヤーハチェットを振るう。


 変容したものの、互いに元は兵士。身体に染み付いた武の欠片を見せ、致命の一撃を反らし躱し防御するも、2体の身体は至る所が切り刻まれ、ドス黒い血飛沫が飛び交う。


⦅KYARIRIYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!⦆

⦅HUNBARABAAAAAAAAAAAAAAA!!⦆


 通路内に響き渡る金切り大奇声と大絶叫。剣戟とも言える金属音。互いの身体同士、壁や床に激しくぶつかり合う衝撃音も加わり、建物自体が震動する。

 その壮絶な戦いを、ただ絶句。唯々ただただ見守る事しかできないでいる人間兵士たち。

 

「……うわ…エッグいっすね……」


 ジミーにおいては、ピッツを亡者変異直後にヘッドショットで、素早く仕留める事ができたが、今のウッズの様な段階であれば確実に瞬殺されていた事であろう。

 それが脳裏に過り、背筋に猛烈な戦慄が極寒の猛吹雪が如く吹きすさぶ。


「なんだか、鼻が酷くムズムズするね。ここ危険ね。とてもヤバイかも」


 エラー中であったダドリーの鼻感知センサーが、ようやく正常稼働。

 それは、差し迫る由々しき事態の反応。


「は? この場が非常に危険なのは一目瞭然だが、まだ他に何かあるってのか?」


 ざわ……ざわざわ…。と、クロエの危機感知もざわつく。


「ええ、ブルース大尉。ダドリー専任曹長の感知反応は確か。これだけ盛大に物音が発生すれば、周囲が活気づくのは必然かと思われますよね」

「外の奴らが騒ぎを聞きつけ、集まって来ると言う事か……」

「それもありますが、その前に重大な問題を見落としていますよ」

「重大な問題…? 」


「ええ、ギブス曹長に変異の種子を植え付けた‶元凶〟です」

「!!」


 突然の衝撃的な事態が、現在進行形で立て続けに起き、そもそもの存在を失念していたのだ。

 それは未だ姿を見せずに、このフロアの何処かに潜む最脅威。ギブスにパラネスを寄生させた‶パラシア成体〟の事である。


「おそらく、仮眠室にてギブス曹長が麻酔効果によって、深い眠りの最中に植え付けられたのでしょう。変異の兆候で急激に回復したのも、暗視能力が備わったのもそれが要因。それと、少々思い違いをしていました……」


「なるほど……それで、思い違いとは?」


「変異したギブス曹長ですが、あの身体の質量で、自重を超える兵士2.5人分を捕食できるとは、まず考えられませんよね」

「確かに…いくら変異したと言っても、あの身体から胃袋の許容量は大体の想像はつくな」


「その元凶存在ですが、ギブス曹長を捕食ではなく、変異させ共存を選択したのは、社畜として雇用する為でしょう。つまり、変異後にフット一等軍曹とハンド上等兵を襲わせ、食したのは雇用主の方。ギブス曹長が捕食したのは、ハック一等兵の上半身のみ」


 これまでに得た情報を基に、状況の様相が掴めたところで、2体の戦いに異変が生じた。2体共に、動きが静止画像の様に止まり、各所に負った裂傷からの血流だけが刻々と時を刻む。


 ズシャ ズシャ ズシャ ズシャ……。


 通路先、左に折れ曲った方角から重くねっとりとした不快な音が、纏わりつく様に周囲に響く。人とも獣とも異なる、明らかな生体何らかの足音。


「話は聞いていたよ、お二方。この不気味な足音は、ギブスを社畜とさせた雇用主のものじゃないのか?ダドリーの反応もこいつからだろ?」

「うん、ラーナー大尉、それね。とてもヤバイのがいるね」


 その足音は曲がり角すぐ傍まで達し、ついに姿を現す。


「「「「!!!!!!!!!!!」」」」


「なんだこいつ……ピッツ伍長の話のやつとは、姿形が全く別物だぞ……」

「これ、絶対アカンやつっすよね……」






 その頃、地下迷宮をぐるぐる浮遊飛行で迷走中のミ=ゴ。

 

「もう、何だかちょいちょい岩が降ってきたり、岩槍が飛んできたり、同じところを堂々巡りでうっとぉしぃでやんすね、てやんでいバーロー」


 黒鉄と弥宵が仕掛けた術に翻弄され、ブツブツと独り言ちが止まらない様子。


「いい加減、腹が減ったでやんすー。久々に‶パラシア〟のステーキが食いたくなってきやしたねぇ。あれは元々ユゴス星由来の活のいい山菜肉。昔のミ=ゴたちが繁殖させたみたいでやんすが、胞子が纏わりついて調理がめんどうでやんすよねぇ。

下手すると身体から生えてきて、えらい事になるでやんすよ」


 パラシアの所以は『暗黒ユゴス星』の生物。並々ならぬ奇天烈生態。正に寄生生物映画の金字塔「遊星からの物体X」を彷彿させる。


「セクター40の方でも繁殖してるみたいでやんすが、通常種なら地球人たちの銃でも狩れる弱々。代わりにラフレイダーとなって駒になってもらうでやんすよ。まぁ、一部はパラシアかラフレイダーの餌でやんすがねぇ べらんめえ。しかし──」


 ミ=ゴは一時飛行を止め、触手を螺旋状に束ねた顔部を歪ませ、訝し気に語る。


「最も厄介なのが稀に生まれる‶上位希少種パラシアロード〟。知能が発達している上に強靭で俊敏、兇悪狂暴、食欲旺盛、地球人の銃など玩具でやんすよ。まぁ、生まれていればの話。以前現れた時は、下っ端も喰われやしたからねぇ てやんでいバーローこんちくしょい!俗名は確か──」


 それは、ミ=ゴの下級種すらも捕食されたと云う、クトゥルフ神話にも記されていない兇悪希少種。



「ハ=ゴス」





 同時刻、トールたち幻浪旅団一行は──。


 地下迷宮を散々歩き回り、ようやく野営地にとオアシスに到着。段差の目下には、彩鮮やか多種多様な大量のラフレイダー。

 その中にはラフレシアに似た頭部に、うねうねと草色の植物胴体を揺らす菌類肉食動植物‶パラシア〟が入り混じっていた。


「あー、とりあえず掃除するかー」


「まぁ、そう言う事になるなトールよ」

「そがぃはええ。さっさとぶち回したるけぇのう」

『メシの前に腐れ肥溜めの掃除かいボケ。しゃーない、チン気一本残さずパンパンやなチンカス共』

『おとたま、すごくお腹がクソすいたのー、アタシが一気に纏めて腐れクソ虫共を消し炭にしていい?』

『おねたま、ボクも手伝うよー!速攻でビチグソどもを皆殺しにしようよ!』

『カレン様、トア様 言い方!ああ、悪影響が……』


「待って皆! 何か変よ」


 あれこれ暴言が飛び交う中、リディが異変に気付き一行を抑えた。

 見れば、何かに反応したのか、ビチグソ共が一斉にわーぎゃー喚きながら、一つの通路に殺到し、何処かへと引き払っていく。


「あー、どう云う事だ? あの通路の先になんかあるのかサウル?」


「むう。あの通路先は確か、いつ築かれたのか分からぬが‶奇妙な地下街〟があったな」

「奇妙な地下街? どんなだそれ?」

「どんなと言われても困るな……。ヴィヨンヌの建築様式とは異なる廃墟が建て並ぶ街並みだ。ラフレイダーたちの住処となっており、特に利も無い些末な所だよ」


「リディ、どう思う?」

「何となく想像はつくわね……」

「同感だ。見た限りあいつらは単純思考。挙ってわーわーお祭り騒ぎとなると、食料配給ってところだろう? 問題はその食料が何なのかって事だよな?」

「ええ、つまりは可能性が高いわね」

「それも同感だ。──とりあえず、皆に軽く飯を出してくれ。ちと、歩き食いで悪いがその地下街に向かうぞ」


 これまでの道中、如何なる存在が現れようとも、気怠そうであったトールの表情が鋭利に研ぎ澄まされ、その只ならぬ様子に、一行たちにも緊迫感が走り抜ける。


『その感じ、昨日朔夜たちを見つける前の時みたいなのー』

『それ、仲間がいるかもって事だよねーおとたまー!』

『ほう、それは一大事! 同胞の危機とあらば、何を置いても最優先でございますよ団長!』

『そういう事ならば、迅速に馳せ参ぜねばならぬでござるよ』

『これは、我ら忍狼の力の発揮どころでございまするな兄上!』


『なんやねん団長、おもろそうやん。歩き喰いやなんてしょーもない。同じ喰うなら、そない用事、ちゃちゃっと済ませよってからの方がええやろ、ドアホ』

「ナーヴノ言ウ通リ。飯ガ最モ美味イノハ、戦ノ後デアロウ」


「フフ、皆やる気満々の様子ね。と言う訳で食事は後回しでいいそうよ団長閣下」


「ああ『腹が減っては戦はできぬ』なんて、どこぞの生ヌルい呑気なやつの言葉。

野生世界じゃ、戦えなかったら死を意味する。空腹時が最も獰猛で、本能が最大限に活性化する時だったな」

『話は纏まったでござるな。早速、それがしの背に乗られよ団長!』

『リディ殿は、私の背に乗るでござりまする。急ぐでありまするよ!』


「ありがとう、弥宵。また背中を借りるわね。では、号令をどうぞ団長」


「オーケイ。おーし幻浪旅団総員に達する!今夜も盛大に大宴会を実地する!

だが、その前に──」


 リディの超特大、業務用亜空間収納アイテムボックスには、ドゥルナス拠点で確保した食料も酒類もまるっと収められている。

 戦意も食欲も万全。いずれの相貌も獰猛な光を宿し、燃え盛る狩猟本能へとたきぎをくべる。


「──狩りの時間だ!!」


『『『「「「イエッサー!!」」」』』』

『『『『『ガルゥ!!!』』』』』





 そして、非常に危機的状況、海兵隊員は全滅。残されたフォースリーコンとマリーンレイダース混成部隊の米兵士たち7名は──。


「あの生体は、どう云う状態だよ……ヤベーとしか言いようがねぇな」


 その姿は、ピッツ伍長から聞いていた様相とは別物のパラシア。


 体長2mは超えて二足歩行。全身赤黒く、体脂肪皆無の硬質な筋肉筋。

 左右不揃いの両腕の前腕部には、赤く鋭利な結晶石の様なものが、歪な形状で連ね、両手の長さも形も左右非対称な鉤爪。

 両足は獣の後脚の様な俊敏性を思わせ、腕と同様に赤い結晶石の様なものが所々に生えている。

 頭部から首回りに掛けてタコ足の様な触手と、花びらか魚類のヒレかを織り交ぜた形容し難い形状。その中央には大きな口部。細く長い鋭利な棘の様な牙が生え揃い、長く伸びた触手舌をうねうねさせている。


 それは、パラシアの上位希少種パラシアロード。


 ──ハ=ゴス。


 王の出陣とあって、ラフレイダーギブスは、騎士の様にうやうやしく片膝をつき平伏している。片や亡者ウッズは、圧倒的な威圧で身動きできずにフリーズ状態。


 シュン


 それは一瞬の出来事。刹那の斬撃。


 先ほどまで、人外たる狂瀾怒濤の戦いを見せたウッズが、呆気なく無残に乱切りぶつ切りにてバラバラ。ハ=ゴスは、その骨付き肉片を無造作に口に入れ、バリボリぐちゃぐちゃと咀嚼。


「今の見えたか…ダフィ?お前視力5.0もあったよな…?」

「いや、全く……。あれが揺らめいたと思ったら、ウッズがバラバラ……」

「ワタシも、8.0あるけど見えなかったね……」


同士討ちフレンドリーファイア防止で、ハンドガンと近接武器に持ち替え、アサルトライフルを置いてきたが……どっちにしろ無駄か」

「なんすか、この死にゲーの無理ゲーは……絶対クリア不可のクソゲーっすよね」


 ──絶望。


 そんな言葉が、いずれの脳裏にも過り、口々から虚しく零れだす。

 

 だが、ただ一人だけ冷然と事を見据える者が、緩やかに歩み進む。


「クロエ…?」


「はぁ…仕方がありません。ここは私が手を打つしか、選択肢は残されていない様ですね」




  ────△▼△▼△▼△▼△▼△▼────


ここまで拝読ありがとうございます<m(__)m>


パラシアの画像を作成しました。


通常種は、成長過程込みでこちら

https://kakuyomu.jp/users/mobheishix3/news/16817330666719921456


希少種ハ=ゴス画像はこちらです

https://kakuyomu.jp/users/mobheishix3/news/16817330666719933108


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