第128話 ムッシュムラムラ
ようやく味方部隊からの通信だが、その味方は
一刻を争う窮迫の事態に陥っている模様。
「──ウルフ1ー1よりハウンドゴルフ1、メーデー了解、交戦音を確認。至急応援に向かう!」
走りながら応答をするラーナー。敵は1個分隊で対処しきれない規模。
未知の状況、未知の脅威に孤立状態。それらと相対している味方の精神具合は、相当よろしくない事であろう。
命綱はボロボロ、踏ん張りどころの足場はスカスカ。これはかなり頂けない。
だが、応援が近場まで来ていると分かれば。
『おお!! やっと繋がったか、 直ぐ近くなんだな!? 了解ウルフ1-1──って、雷神がいるチームか!!オーバー!』
何度も通信を試みたのだろう、ようやくの応答と‶最強〟の応援部隊に、切れかかった命綱と踏ん張りどころの足場が大復活。後は僅かの時間、何とか耐え
「ゴルフ1、悪いが雷神は逸れてここにはいない! 兎に角合流するまで持ち堪えてくれ、ブレイクオーバー!」
『そうか……まぁいい、了解したウルフ1-1!応援が来るだけでも御の字だ!
あまり待てないが、待ってるぜ!ゴルフ1アウト』ガッ
トールが不在で多少落ち込んだようだが、気を取り直した様子。所属の違いは少々、同じ海兵隊。その実力は折り紙付きで十分に理解していた。
数は5名と少ないもの、フル武装の馴染み深い精鋭部隊の応援は大増援に値する。
通信を終え、ウルフ1チームは異形通路先、幅は約2mの石階段を快速で上る。
先頭ラーナー、ギブス、黒ブロッコリー、ハゲカスボケ、黒ツッコミの順。
現在この少数
班の場合の縦隊形は「ファイアチーム ファイル」と呼ばれる。限られた視界で使用し、コントロールが容易であるもの正面からの攻撃に対してが弱点。移動速度を優先する場合のフォーメーションである。
「なんだ? 造りは古いが近代的な地下室に……よく分からんが、既視感があるだけましだろう……」
築数十年と言ったところか、地下からの出入り口以外は天井と床、壁も木板。
欧米でよくあるタイプの家屋用地下室だが、至る所に夥しい血の痕。鉄錆と腐臭。
天井から何本もぶら下がるフック付きの錆びた鎖。どす黒く染まった木製テーブルと、作業台に並べられた何やらな悍ましい器具類。
まるで古いB級サイコホラー。スプラッター映画の拷問用地下室。
「うぅわ、エッグぅ。ここも違った意味でヤバイっすね……」
「構うな。それより先に進むぞ!」
今はそんな事など気にしてはいられない状況。奥に見えるは、幅の狭い高さ数m程の階段。その先、天井部に平行した木製扉。つまりは──。
「大尉、この上は間違いなく地上!戦闘音も直ぐそこだ!」
「明かりは見えないが夜か?……まぁいい、兎に角急ぐぞ!」
「「「イエッサー!!」」」
木製扉は鍵が掛かっておらず、直ぐさま外へと出られた。月の無い闇夜と思われるが、
まず出た先は、アメリカ式古い家屋とその庭先。手入れはされておらず、雑草が生い茂っている。周りの建物を見る限り、いずれも現代のものでは無い。オールドアメリカンな家屋と建物群。どこかの州の古い小さな田舎街の様相。
道路には60年代の車両が多数見られるが、赤錆に塗れタイヤは潰れ、走行不能の状態。至る所に歪な巨木が立ち、ひび割れたアスファルトに太い根を伸ばしていた。各建物にも血管の様に、黒い奇妙なつる草が張り巡らされていた。
人の営みを失ったゴーストタウン。長い年月放置され自然化したかの様な光景。
上空を見上げれば空は無い。数十メートル上に岩盤の天井が広範囲で広がり、街の周囲を岩壁が切り立ち囲っている。
つまりここは地上では無い。街一つ分の巨大な地下空間。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!
ババババババババババババババババババババババババ!!!
⦅⦅⦅⦅KISYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!⦆⦆⦆
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!!!
ビャチャビチャビチャビチャビャチャビチャビチャ!!!
⦅⦅⦅PYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!⦆⦆⦆
「クソがっ!どんだけいんだよ、こいつら!?」
「知らねーよ!とにかく撃ちまくれ!!」
「背後に回すなよ!!囲まれたら終わりだ!!」
「これ以上、仲間をこのクソどもに喰わせて堪るか!!」
「ちっ、200連がもう撃ち切ったのかよ。リロード!!フォローを頼む!! 」
「誰か
「予備分はバックパックの中だ!!取り出す暇が無ぇよ!!」
「
「交戦音を確認したと言っていた!!到着まで、もう間も無くだろう!!」
ゴーストタウンならぬ魔界タウン。幅10m以上はある、ひび割れ荒れた車道。
異形の群との激戦。海兵隊分隊チーム コールサイン「ハウンド・ゴルフ」。
現在のアメリカ海兵隊、基本分隊編成は12名から変更され15名。
だが、現時点で見られるのは9名。察するに明らかであろう6名の犠牲。
その異形とは、約2.5m程の四足歩行。ネコ科、イヌ科の猛獣型。
体毛は無くゴツゴツと筋張っており、象の様なグレー色の皮膚。頭部は触手だらけのイソギンチャク形状。その中央にヤツメウナギの様な円口部。
更にヒト型も混じり、胴体脇腹から飛び出た昆虫の肢の様な3対の鋭い爪。首はムカデの胴体の様な形状。長く伸びうねうね。その先は鋏の無いカニの様な頭部。
カニ形状の裏側は、びっしりと棘牙が生え揃ったオサガメの様な口部。胴体、首、頭部の各種幾多の肢爪がわちゃわちゃと、実にキモい仕様。
それらが群れを成し、次々と襲い掛かって来る。一応銃弾は通じるようで、着弾箇所に流血も見られる。弱点は、威嚇時と捕食しようと開いた口部。そこにぶち込み仕留められているが、兎に角数が多い。
辛うじて維持している戦線も、一人でも欠ければ一気に瓦解する紙一重の状況。
リロードの時間ですら惜しまれる状況で、バックパックから
現在ハウンド・ゴルフ海兵隊チームのメイン武装は『M4カービン』『M16A2』アサルトライフル。
【M16】は、ベトナム戦争時に『ユージン・ストーナー』により開発された小銃。正式名『Rifle, Caliber 5.56mm, M16』。『ブラックライフル』の異名を持つ、アメリカ軍主力小銃である。
この小銃は、複数のメーカーによって製造され、
『M16A2』は陸軍と海兵隊で採用され、モデルナンバー645。
920が『M4カービン』。リーコン隊の『M4A2』が、モデルナンバー921となっている。
尚、この
仲間を6名失ったハウンド・ゴルフチーム。後退しつつの現在の
この
「おいおいおいおい、マジか!? なんかでけーのが来たぞ!!」
荒れ狂う異形の波の中、新たな大型の異形生物が現れた。ドスンドスンと銃弾の嵐の中を構わず突き進み攻め入って来る。
「クソっ、ヤベーぞ!!銃が利かねー!!」
「ありゃ‶熊型〟か!? グリズリーどころじゃないだろ!!」
新たに異形勢に現れたのは体毛の無い熊型。超ド級 鬼熊マッチョ。そのサイズは約8m。頭部は頭胴長。前方に突出した花の蕾様な形状。
その口部が開花するかの様に上下左右に開けば、棘状の鋭く尖った歯が無数。
何層にも並び生えた肉食猛獣花。
それが仁王立ちし、顔面花満開にて──。
⦅BYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!⦆
⦅⦅⦅PYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!⦆⦆⦆
耳をつんざく、
この群のボスであろう、他の異形らも呼応する。
「これは、本格的的にまずい状況だな……」
「こいつら、皆アレに寄生され変容した化け物って事だよな……ニックの様に……」
異形たちの首の付け根には、いずれも皮膚が裂けた様な傷跡。元はまともな見てくれの獣や人だったのであろう。だが、何かに寄生され、胴体からこれらの異形頭部が生え、新たに
現にその犠牲者が、海兵隊員にも発生していたようだ。
これは鬼畜死にゲー仕様。勿論セーブもコンティニューも無い、絶体絶命
──そこに。
ポン!!と、筒を叩くかの様な大気の圧縮音に似た音。その直後。
ズォオオオオオン!!
「「「!!!!!」」」
「グレネードランチャーか!?」
ポン!!──ドオオオオオン!!
熊型異形の頭部が爆発し上半身が半壊。しぶとくまだ動きを見せたが、更に2発目で完全に仕留めた。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
これにテンション爆盛り上がりのハウンド・ゴルフチーム。
更に続く幾重もの大銃声。
タタタタタタタタタッタタタッタタタッタッタタタッタタタタタ!!!
ダダダダダダダッダダダダッダダッダダダッダダダダダッダッダダ!!
ババッバッババババババババババババババババババッバババッババ!!
「待たせたな!!」
「やっと来たか、クソったれの狼ども!待ってたぜ──って、何か増えてるじゃねーか!!」
ラーナーが率いるウルフ1チームの応援到着。ようやくの他部隊との合流と相成った。だが、ウルフ1チームは5名であったはずが現在‶10名〟。
「‶レイダー〟か!! 海兵隊のコマンドチームまで駆け付けてくれたか!!マジの大増援じゃねーか、助かったぜー!!」
「ああ、丁度そこで『ディンゴ4』と合流したんだが、同じように近場にいたようだ!」
アメリカ海兵隊特殊作戦コマンド (United States Marine Corps Forces Special Operations Command : U.S.
海兵隊におけるアメリカ特殊作戦軍傘下の組織部隊。
アメリカ特殊作戦軍US SOCOM設立後、海兵隊の特殊作戦はリーコン隊が担当していたが『9.11事件』後、対テロ増強に新たに海兵隊部門で2006年に創設されたのがこの「マリーン・レイダース」である。
コールサイン『ディンゴ4』。今回の作戦でレイダースは、一個中隊‶20〟名を投入している。レイダースの一個小隊は5名。海兵隊の1個小隊は約50名。つまりは、海兵隊の10倍に値する。リーコン隊もこれに相当する。
海兵隊約100名分の戦力がここに集結。正にの大増援だ。
「助かったかどうかは、生き残ってからの話だろう。とりあえずはこいつら潰すぞ!」
「ハハ、おっしゃる通りだ了解! 弾数にも制限がある。無駄弾は抑え、適格に弱点を狙え!!」
「「「「イエッサー!!」」」」」
「鼻がとてもとてもムズムズ、ムラムラするね」
「我慢するっす、専任曹長。ここはガチモードでおしゃーっす」
シリアスキラーの面々は、さすがにこの命が掛かった状況下で場を
「ボケ無しかよ!」
と、黒ツッコミもムッシュムラムラ。
ボケれるのは余裕の現れ。激戦場でボケてこそのシリアスキラーの神髄。
この極地でボケれるのは強者のみ。全てを屈服させボケたければ──。
嗚呼、強く在れ。
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