第127話 チーム ウルフ1(フォースリーコン)



「ウルフ1-1ワンワンより1-2ワンツー。応答せよオーバー」ガッ


『ザザ……ザ…ザザ……』


「……だめか。‶クレイン〟とも繋がらない……磁場の影響だろうと思えるが、どの部隊とも通信不能だ」


 アメリカ海兵隊武装偵察部隊 (United States Marine Corps Force Reconnaissance)通称 『フォースリーコン』。コールサイン『ウルフ1』。

チームリーダー、アイルランド系白人『ラーナー大尉』。


 作戦部隊及び別働リーコン隊チーム、バルセロ中尉指揮下の『ウルフ2』チーム。そして、同チームでに通信を試みるが、いずれも応答は無い。


 アフガニスタンでのテロリスト殲滅作戦から、大想定外の悪魔生物討伐作戦に変容。敵拠点、鉱石採掘坑道の移動道中に怪音と地震から、黄昏色の重力嵐に巻き込まれ気絶。目覚めたら全く未知の異様な空間。全て理解不能な状況。


「あの‶雷神様〟に何かあるとは思えないが……。それより、ここは何なんだよ? ラーナー大尉。アフガンの古代遺跡か何かか…?エグイな……」


 驚愕と嫌悪感に満ちた表情で、周囲を見渡しながらラーナーに問うのは、祖先はインディアン。肌は褐色、鷲鼻が特徴。ネイティブアメリカン『ギブス曹長』。


「目が覚めたら同じ状況なんだ。俺が知る訳無いだろう、ギブス…。ここもテロリスト共の拠点の中なのか…?異様な光景だな……自然洞窟と古い建造物が融合したかのような印象だが、まるで……」


 自然洞窟に人工の手が加えられるのは、極々ありふれたインフラの一種。だがそこは、古代石造りの地下建造が、逆に‶鍾乳洞化〟したかのような空間。

 両端には、何処かに続く広めの通路が見える。数か所に松明篝火が置かれており、薄暗くも照らされた光景は、嫌悪感を抱く不気味で気色の悪い様相。


 広さは普通車両20台分の駐車場ほど。地面は不揃いの石が敷かれた「乱形石型」の石畳 。

 その各所には鍾乳洞に見られる、タケノコ状に伸びた石灰成分の岩石「石筍せきじゅん」が連なり、人工と自然両種の石柱が何本も天井と繋がり立っている。

 天井には「つらら石」やストロー状の「鍾乳管」。ベーコン状カーテンのような「幕状鍾乳石」などの「浮遊カルサイト(炭酸カルシウム)」が幾つも垂れ下がっている。


 周囲の壁は人工と自然が溶け合い融合したかのように、組積造壁に毛細血管のような「曲がり石ヘリクタイト」「石花アンソダイト」が複雑に絡み覆われていた。

 更に壁面から地面に掛け「洞窟珊瑚ケイブコーラル」「樹枝状石灰華ケイブポップコーン」「流れ石 フローストーン」などが形成され堆積たいせきしていた。  

 いずれも鍾乳洞を構成する石灰岩の類であるが、全てが赤黒く面妖。生体組織かの様な悍ましき光景。


「──巨大生物の、体内のようだな……」


 幾多の精神鍛錬の訓練を受け、耐性は十分備えていたつもりであったが、度重なる異常現象とこの状況に精神耐久度が大きく削られる──と、思われたが。


「ここは空気が淀んでいて、何だかとてもとても鼻がムズムズするね」

「さすが、ダドリー専任曹長!こんな状況にも関わらず、万全の鼻構えっすねー!」


「うるせーよ、ジミー! 何だよ『万全の鼻構え』って!それと専任曹長の鼻ムズは常時どこでもだろうが、病気だよそれ!」

「さすが、ダフィ一等軍曹!ピレッピレのピレ具合っすねー。やっぱ『歩くツッコミ』と云われるだけあるっすねー!」

「云われたことねーよ!「歩く」って、お前はツッコミを何だと思ってんだ?

それと何だよピレ具合って!」


「なんだいダフィ? キミも鼻クソが欲しいなら早く言うのね。大事にするね」 

「いらねーよ! 希少価値ゼロどころかマイナス以下だよ!」

「俺がもらうっすよ」

「黙れハゲカス!」


「お前ら……緊迫感が台無しだよ」


 そんな状況下でも平常運転。米軍屈指のシリアスキラーが二名とツッコミ1名。

 このトリオユニットに、真面目に狼狽えていたのが間抜けにさえ思えて苦笑を浮かべるギブス。


 祖先は、アフリカ(ケニア南部からタンザニア北部地域)マサイ族の戦士。細身の長身198cm。サイドバックを刈り上げた独特のアフロヘアーから【黒ブロッコリー】の異名。鼻ほじりのスペシャリスト。鼻クソの伝導師『ダドリー専任曹長』。


 イングランド系白人。支離滅裂なカオスボケで、シリアスをことごとくぶち壊す

『ジミー・ホッパー二等軍曹』。


 祖父はジンバブエ人、アフリカ系黒人。同リーコン隊では、トールに続くツッコミニスト『ダフィ一等軍曹』。


「そう言えばダドリーは、あの‶歩く非常識〟とは新兵訓練パリスアイランドからの付き合いだったな。ダフィとジミーもの影響か……」


 良くも悪くもトールの存在は、意図せずとも関わった者に多くの影響を与えた。 

 すでに「常識なんざクソ喰らえ!」の一部の者にとっては、想定云々、その枠内外の隔たりは取っ払っている。異常だろうが何だろうが新たな情報として認識。

 後は一つずつそれの積み重ね。そうして人類は、未知を打ち消し続けて発展した。

 

「つうか、ここって‶異世界〟っすよねー」


「「は?」」


「これまでに起きた状況から、それが妥当ねジミー。しかもダーク系ね……」


 表情が一転。シリアスモードとなり、すでに答えの一つを導き出していたジミーとダドリー。寧ろ、それ以外考えられない。


「……ボケならツッコむところだが怪音と地震。そしてあの重力の波。それで、気が付いたら気味の悪いこの未知の空間……マジかよ」


「物語で云う『異世界転移』ってやつか……。現実的にあり得ないと言いたいところだが、そもそもあの怪物らも、それに関連するものと言えるよな」


 次いでダフィとギブスも状況証拠がこれだけ揃っていれば、否応無くそう判断せざるを得ない。


「しかし、この状況下で‶雷神様〟の加護が得られないのはキツイっすねー。あの化けモンらと、これから遭遇エンカウントする可能性が高いっすからねー」

「トールだけ居ないのは、何かしらの意図を感じるね。鼻をほじるにしても不利な状況ね」

「どう言う不利だよ! しかし、あの場にいた‶ワルキューレ〟やデブグルリカオンチームとも分断されちまったのは結構痛ぇな……」


 転移前のそのメンツが揃っていれば、余裕綽々の無双状態であったが、バッサリ分断され戦力が超大幅ダウン。相当不利な状況は確かだ。分断の理由は正にそれであろう。そう簡単に舐めプされては、運営側はたまったものじゃない。



「……まぁ何にせよ、ここで立ち往生していても無意味だ。装備の確認と軽く栄養補給後に動くぞ」

 

 この場であれこれ思案していても時間の無駄。それより、これから何を目的に何をすべきかが重要。


 現在の各装備、必要所持類はトールの初期装備状態と多少変わり、こちらは暗視ゴーグルN V Gと通信用ヘッドセット付きACHヘルメットと、戦闘グローブは着用したままのフル武装状態。


 その武装は、ラーナー、ギブス、ジミーが『M4A1アサルトライフル』。SOPMOD-II(Special Operations Peculiar Modification-II 特殊作戦用装備-2)仕様。

 キッド内容は、銃口には『サプレッサー』。銃身バレル部に『RIS II ハンドガードシステム』。これにより各アクセサリーの脱着を容易化。

 そこに『LA-5/PEQ(可視/赤外線レーザーサイト、赤外線イルミネーター)』及び『ウェポンライト』を装着。

 筒身が脱着しやすいよう短くカットされた『M203 グレネードランチャー』&専用照準器サイトを装着。洞窟内では使い処に要注意。


 光学照準器には、ドットサイトより投影部のレンズがクリアで明瞭な視界を得やすい『ホログラフィックサイト』と、その後部に暗視用熱検知『サーマルスコープ』。

『5.56x45mm NATO弾』銃本体に30発。3連マグポーチ3個にマガジン9で、計300発。『40x46mmグレネード弾』が本体に1発とポーチに2発所持で3発。


 ダフィは、アサルトライフルでありながら『分隊支援火器(軽機関銃)』『マークスマン・ライフル(500m程まで有効な射程と精度)』の特性をもつ、トールと同じ『M27 IAR』。『5.56x45mm NATO弾』を使用。

 視力5.0を誇るダフィにとっては、遠距離スナイパーライフルとしても運用できよう。


 トールはリロード簡易化の為に『STANAG マガジン30発』であったが、こちらは『ベータC-マグ(ドラムマガジン)100発』仕様。銃本体に1と、特大サイズの『LBT(London Bridge Trading)マグポーチ』が3個に各1個ずつ。計400発。


 黒ブロッコリーは『M240 汎用機関銃(12.5㎏)』の軽量型、海兵隊仕様

『M240G』。軽量型でも11.6㎏はある。

『7.62mm弾』LMG(ライトマシンガン軽機関銃)用100連ボックスマガジン。本体1個に『LBT SAW(分隊支援火器)用マグポーチ』が4つで、計500発。

 

 結構な総重量所持であるが、その血筋はマサイの戦士。細身ながらも、そのスペックとフィジカルは相当なもの。因みに黒ブリッコリーの視力は‶8.0〟。

 と、アフリカ系二人は高視力の為、高性能のスコープは不要とのことだ。


 余談だが、本元のマサイ族では視力10.0に達している者もいる。

 最高記録はタンザニアのハッザ族に‶11.0〟と云うえげつない者がいる。


 サイドアームは、いずれもリーコン隊標準配備の『コルトM45A1 CQB』。『.45ACP弾』を各計49発。近接戦闘C Q C用にカランビットナイフと、戦闘以外でもサバイバル多目的使用にストレートエッジナイフ。それと『M67破片手榴弾アップル』と『M84スタングレネード』を各一個ずつ所持。

 


「よし、準備はいいな。出発するぞ」


「「「イエッサー!」」」


 その空間を後にし、生物体内のような通路を進み始めたウルフ1チーム。

 通路は灯りの無い真っ暗闇。ACHヘルメットに取り付けられ、カブトムシの角のように上げられていたNVGを下げる。

 更に、ウエポンライトを肉眼では見えない『IR(赤外線)ライトモード』でON。暗視界幅を広げる。

 

 まずの目的は、はぐれた仲間1名の捜索及び、他部隊との合流。そして地上への脱出。この間におそらく、未知の脅威との戦闘回避は不可であろう事を覚悟する。


 その逸れた1名はと言うと、エンジョイプレイ。どこぞでファンタジーな大部隊を、わいわい築いているとも露知らずに、決死の強行軍を決意する一行であった。

 

 通路を進み始め、早速目に入る‶何か〟の残骸。‶何か〟が争い合い、捕食行動と大量の血痕跡。腐乱し、かなりの悪臭を放っていた。

 その残骸に群がる、よく分からん小虫。と、言っても20cmはあるフナムシに似た多足の甲殻類。長い触覚と尾脚を含めれば60cm以上。

 地球のフナムシと同様に死骸の掃除役なのであろう。一行が近づくとササーっと高速で、壁の割れ目や穴へと一目散に逃げ失せた。

 

「なんかでかいシー ローチフナムシみたいなのが…くさっ、何の死骸すかね これ…?」

「知るか、ほっとけ」

 

 調査探索では無いのだから、一々考察は不必要。無駄な時間は生存率にも関わって来る。目的に関係も脅威でも無い情報は全スルー方針。

 フォースリーコンは元々、斥候偵察部隊。情報収集は必要関連のみ。効率よく速やかに遂行される事が求められる。


 謎死骸が至るところに転がり、謎なキモ蟲があちらこちらでカサカサ這いずり回るも、幸い脅威との遭遇エンカウントは無く、右や左へ直感を頼りに進む事30分程。

 

 ピガッ


『メーデー、メーデー、メーデー!こちらハウンド・ゴルフ1!不明敵アンノウン交戦エンゲージ

応援要請を求むオーバー!』


「「「「!!!!!」」」」


「ハウンド!? 海兵隊部隊か!」


 有効範囲は狭いが通信は繋がるようだ。ようやくの味方部隊からの通信が緊急救難メーデー(3回繰り返し規定)。何らかとの交戦で危機的状況。



 タタタタタタタタタタ……


「銃声が聞こえる!この近くだ大尉!!」

「この先に階段が見えるね。銃声はその上からね!!」


「よし、早急に応援に向かうぞ!タフな戦いになりそうだから覚悟しとけよ!!」


「「「「イエッサー!!」」」」


 敵は不明だがテロリストでは無い事は明らか。つまりは人間では無い。未知の地での未知の敵。

 分かっている事は、嘗て無い激戦になる事は確かであろう。一行は取り急ぎ猛ダッシュ。


「──ウルフ1ー1よりハウンドゴルフ1、メーデー了解、交戦音を確認。至急応援に向かう!」



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