第123話 イノセントワールド
「あーとりあえず、あのバカ道化を小汚ねー丸裸にひん剥いてやるから、後は適当にボコってくれ」
『『『「「「は!?」」」』』』
またこの男は、とんでもない事をほざきやがると、一同一致の
上空では獄炎、獄氷、獄雷が激しく飛び交う、邪神化ドゥルナスVSフェンリル、グリフォン、ヒッポグリフ
空中要塞が如きドゥルナスの獄雷、ブレス、魔術ガトリングなどの対空猛攻撃に対して、地球の航空機では不可能な
朔夜の念話を介したトールの指示通りに、飛行隊はドゥルナスを巧みに誘導し、飛行高度が下がってきている。
『魔王を低空域に誘導するだけでよろしいのでございますか団長? つまりは、奴が飛行している状態で地上から丸裸…弱体化させると…?」
「いやいやいやいや、何をどうしたらそんな事になるのだ!?」
「わりゃー、ふざけとるんかい! 何を言うよるんじゃあ!?」
「まさか、コルトの・45弾の合気技で、あのサイズをひっくり返すとか馬鹿げた事は考えていないわよね?」
『有リエナイ。ソレデ、アノ巨躯ト能力ヲ抑エルノハ無理ガアル」
「あーうっせ。あのバカ道化の致命的な弱点をぶった切るだけだよ」
『『『「「「は!? 」」」』』』
またまたこの男は何をほざく? と、益々混迷の渦にくるくるズブズブと沈み込む一同であった。
「つうか、何よりあの高さからあんなバカ質量のもんが落ちたら、それだけでも俺ら消滅しちまうぞー」
『『『「「「…………」」」』』』
ドゥルナスの飛行高度を下げさせた最大の理由は、まさにそれである。
その体躯から推測する質量は約10万トン。上空1万フィート 3048mから自由落下した際のエネルギーは、2兆9890億6692万ジュール。
因みに広島型原爆の爆発エネルギーは、55兆ジュール。ドゥルナスの飛行高度が更に上がれば、自由落下衝撃はそのエネルギーを遥かに超える。
ドゥルナスは100mを超えるサイズ。その超巨体から齎される単純なパワーだけでも大脅威。更に核攻撃レベルの極大魔術に、物理攻撃には勿論、獄炎獄氷魔術さえも撥ね退ける耐久力。加えて飛行可能となれば、正に全局面対応 空中大要塞。
攻守共に万全盤石。THE難攻不落。
これに弱点があるなど、まず考えられない極限極地仕様。
だが、リディだけは思考を巡らし、邪神化したドゥルナスを構成する素体の性質。トールの今日これまでの戦闘行動と、その性質を踏まえ照らし合わせる。
「攻守の要とも言えるあの厄介な性能を持つ二つの頭部……
──【
「彼は、究極の【
『な!? 武の真意だけではなく、団長はそのようなことも……』
トールは額から胸に掛けて十字を切り、黒Tシャツの上から胸のラテンクロスのタトゥに掌を当てると
「──悪しき者は胎を出た時から、そむき去り、生れ出た時から、あやまちを犯し、偽りを語る」
ティイイイイイイン……と、涼やかな音色が一帯に心地よく響き渡る。
「彼らはへびの毒のような毒をもち、魔法使または巧みに呪文を唱える者の声を聞かない耳をふさぐ耳しいまむしのようである 」
上空での戦域は大分下降し、聖波動の波がその空域に到達する。
『『!?』』
『これは、おとたまの……トア!!』
『うん、おねたま! 皆、もう少しだけ頑張るよぉ!!』
『『『了解!!』』』
⦅⦅⦅あ? なんだべこの波動の波は? んなごどよりこいづらぁ!!⦆⦆⦆
トールの聖波動を感じたカレンとトアは、同時にその意思が伝わり、ドゥルナスの意識を引き付ける為に、より一層の奮戦に尽力を注ぐ。それに応えるグリフォンとヒッポグリフたち。
「神よ、彼らの口の歯を折ってください。主よ、若いししの牙を抜き砕いてください。彼らを流れゆく水のように消え去らせ、踏み倒される若草のように衰えさせてください」
ティィイイイイン……その音色が奏でられる度に、聖波動が強さを増していく。
「これは、聖属性の波動…? 本来、我々には毒のはずだが……。
しかし、何とも心地よい暖かさだ……」
そう語るサウルのようなゴブリン、オーク、オーガ種、魔獣らの多くは、聖天の神に反する穢れし魔の存在。当然、彼らにとって聖属性は相いれない、猛毒の波動であるはずが、真逆の現象が反乱勢たちに起きていた。
「また溶けてどろどろになるかたつむりのように、時ならず生れた日を見ぬ子のようにしてください。 あなたがたの釜がまだいばらの熱を感じない前に青いのも、燃えているのも共につむじ風に吹き払われるように彼らを吹き払ってください 」
波紋の波は幾重にも重なり、そして、ついにドゥルナスの巨体に異変が起こり始めた。その高度は数十メートル台まで下降していた。
⦅⦅⦅おろぉ!? あででででで!!熱、熱、あつつつつつつつ!!なにやこいづは!?この波動のせいがや!? どっから……あのゴミ地球人がらがー!!⦆⦆⦆
『な!! カレン様とトア様のあれ程の攻撃受け、無傷であった奴の巨躯が!!』
ドゥルナスの左右頭部。
「正しい者は復讐を見て喜び、その足を悪しき者の血で洗うであろう。
そして人々は言うであろう、まことに正しい者には報いがある。まことに地にさばきを行われる神があると」
旧約聖書 詩編 第58編。
⦅⦅⦅ぶるらああああ!!!クソっこのぉおお!! オラの翼がぁああ!!だめだやバランスが保てねーべや!!⦆⦆⦆
ドオオオオオオオオオオオン!!
『『『「「「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」』』』
「おおー!!ついに、邪神が地に堕ちたぞぉおおお!!」
⦅⦅GYRUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!⦆⦆
邪神ドゥルナスは、飛行能力を失い地に堕ち悶え苦しむ。
更に重ねて──。
「イエスは答えられた。よくよくあなたに言っておく。だれでも、水と霊とから生れなければ、神の国にはいることはできない」
⦅⦅⦅もう、そいづさやめろや!! オラさの究極の身体がぁぁああ!!⦆⦆⦆
二つの大悪魔頭部は、黒煙を上げ焼け爛れ内部発火。黄金色の業火に包まれる。
「肉から生れる者は肉であり、霊から生れる者は霊である。
あなたがたは新しく生れなければならないと、わたしが言ったからとて、不思議に思うには及ばない。風は思いのままに吹く。あなたはその音を聞くが、それがどこからきて、どこへ行くかは知らない。霊から生れる者もみな、それと同じである」
「こがぃは、聖波動の効果かのう? 毒のはずやが、ワシん傷が、
「オレモダ、左腕ト右角ハ失ッタママダガ
気づけば、反乱勢の亜人と魔獣らの傷が回復し、戸惑いながらも英気が漲ってくる。エルダーオーガ ゾイゼの推測は半分が正解。
トールを通じその恩恵が齎された理由もあるが、彼らと相反していた神と、トールが信仰する神とでは、全くの別次元の神であるからだ。
「それは彼を信じる者が、すべて永遠の命を得るためである。神はそのひとり子を賜わったほどに、この世を愛して下さった。それは御子を信じる者がひとりも滅びないで、永遠の命を得るためである」
「神が御子を世に使わされたのは、世を裁くためではなく、御子によって、この世が救われるためである」
ヨハネ福音書 第3章。
36節の一部節を抜粋し、その言は綴られ終止する。
「エイメン」
──【
ガラァアアアアン、ガラァアアアアアン、ガラァアアアアアアン
⦅⦅⦅⦅אדון הכל יכול לשלוט הַלְלוּיָה הַלְלוּיָה הַלְלוּיָה הַלְלוּיָה הַלְלוּיָה⦆⦆⦆⦆
(ハレルヤ 全能の主 統べりたまえり)
天空に幾重にも響き渡る聖鐘の
それは範囲領域完全浄化
──【
上空臓物のような血肉色の曇天は、黄金色の斜光が差す黄昏色に彩られ、更に戦場に散らばる幾多キメラの屍骸が崩壊し塵化。
囚われていたその無数の魂たちが、解放されたことに歓喜するかのように空を舞い踊る。その中を
この神秘的で荘厳とした光景にいずれも呆然と魅入られている。
『これはいったい……これまでとは別世界…天上世界の如き景色でございますな』
「これは【
⦅⦅⦅うぎゃGYAAギョぐAAAアアアアアアアアアアあああああ!!!⦆⦆⦆
この
完全版なだけあって、大悪魔にも極大効果を示したのであったが、現在のレベルでは外なる邪導所以の繋がりまで絶つことには至らず。本体ドゥルナス合成の蠍型厄災宇宙生物の巨躯は、依然健在のままだ。
「あー、お前らいつまでもぼーっとしない。戦える奴は、はい仕事仕事ー!」
トールはパンパンと手を鳴らし、意識が天上世界を彷徨っている一同を現実地上へと引き戻す。悪魔頭部は消滅。厄介極まる地獄所以の力と飛行能力を失い
⦅
翼と二つの頭部を焼かれ、失った想像できぬ超痛よりも、更によく分からん理由で激オコ状態のドゥルナス。
「フフ、もう力の温存は必要は無さそうね。皆、この祭りの締めは盛大に盛り上げましょう」
『ようやく、全力での攻め処でございますな! 黒鉄、弥宵!! ここは我ら忍狼の真価を見せるべき時であろう! 大狼たちよ!さぁ尋常に大物狩りを謳歌しようぞ!
いざついて参れ!!」
『『御意!!』』
『『『『ワオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』』』』
「勇者が見事に道を指し示してくれたぞ!! ようやくの悲願、怨嗟の根源を断ち切る時!! 戦える者は我に続けぇ!! 同志たちよ いざ攻め征こうぞぉおお!!」
『『『「「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」』』』
⦅
ドゥルナスは、左蝕肢の巨大な
『ナメているのは貴様であろう。この期に及んで、未だに体躯の差を戦力の差と履き違えておるのか虚けめ。分からせてやれ黒鉄、弥宵!』
『『御意!! ──火遁 百王華!!』』
ドゥルナス手前の空間に現れる、幾つもの花の蕾のような火球。
挟角が振り下ろされ、火蕾に触れた瞬間に起爆、誘爆、大爆発。
絢爛に咲き乱れる百花の王 牡丹の
⦅ぬあっ!? 弾かれたべや!! だぁクソ!あででで、熱っつうべや!!⦆
それは、地球の戦車装甲にも使用されている【爆発反応装甲】と同効果。爆発による被弾防御。近接であればそれは攻撃にも転ずる。
実際に装甲として使用されたものは、大量の爆風と金属片をまき散らし、随伴する味方歩兵を殺傷する大迷惑な仕様で、現在はあまり運用されていない。
この間に旅団大狼たちは二手に分かれ、ドゥルナスの左右後方に散開し展開。
巨大怪獣相手に真正面に纏まっていたらアカンと、反乱勢も散らばりながら旅団に追従する。
ドゥルナスが左右いずれかに方向を変えるも、それに合わせ超速で移動。とにかく真正面を避け、意識を一か所に集中させない布陣に徹する。
⦅このちょこまかと!!
『フン、その言葉を半分返そうウスノロめ──冥遁 破軍
迅速朔夜の忍狼忍術。ドゥルナスの下地表に映る巨大な影から次々と朔夜と同体が飛び出しその数、朔夜本体を含め16体。それはTHE影分身の術。
そこから16体の朔夜が、ドゥルナスの巨体背の上を超速で駆け巡る。
⦅なぬや? 子虫が増えだべなぁどっから湧いできたべや?
ドゥルナスは、その朔夜群を振り払おうと巨躯を揺さぶるが、気付けば左挟角、鋏型 前腕部の関節に、一周巻かれた腕輪のように16体の朔夜が噛みつく。
その前腕部は、黒鉄と弥宵の忍術に焼かれ未だに燻っている。
『──十六夜
キュイィイイインガガガガガガガガガガガガガガ……
腕輪状態の十六夜朔夜が超速回転。電動ノコギリのような大音響。
⦅ぎゃああああAAAAA!!あでででDDDDDDDDやめ…!!!⦆
ブツン…ドスゥン!!!と、切断された音と、その後に地に響く落下衝撃音。
そしてドゥルナス絶叫悲鳴が織りなし奏でる大不協和音。
『弱体化に加え、爆発衝撃のエネルギーにより耐久度の低下。後は切り落とすだけの楽な調理作業であったな』
大翼と二つの悪魔頭部に続き、徐々に戦術の手を失っていくドゥルナス。
正に「攻撃こそ最大の防御」の言葉が当てはまる。
某ハンティングゲームでは、クリア報酬素材にも係ってくるので非常に大事だ。
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