第122話 なんだべイェアアアアア!!
「……
ドゥルナスが告げる、それは死と破滅の宣告。
旅団、反乱者たちが見つめる中、ドゥルナスは濃密な赤と黒と紫色、斑模様
のヘドロオーラを放ちながら浮遊上昇し500mほど上空で制止。
「あんなら、空で何しよる気じゃのう…?」
「……分からんが、只ならぬ事であろう」
上空でヘドロオーラは複雑にうねり増幅し、流動球体状に変化した。
そこから右回転、左回転の異なる対流の幾つもの層となり、幾所で渦を巻き更に膨張を続ける。その直径が60mを超えたところで膨張が止まり硬質化。
その形状はまるで木星型ガス惑星のようであり、巨大生物の卵のようだ。
ピシッ……
外郭に亀裂が走る。次々と亀裂は連なりひび割れ、大小の欠片を地に降らす。
割れゆくその球体の中に見える巨大な何かの影。
──そして、それは生まれる。
⦅⦅⦅ケセガンガンGUNガンガンGUNガンガンGUNガンガンGUNガーン!!オオー!オオー!!オオー!ヨイショォオオオオ!!!ドゥゥモオオオオオオオ!!コォオンニィィチワアアアア!!ナァンダベYEAHAAAアアアアアア!!⦆⦆⦆
血肉色の空に多重に響き渡る産声。大地と大気が振動する大絶叫。
『『『「「「!!!!!!!!!!!!」」」』』』
「くっ、何たる大咆哮だ! 周囲一帯が震えている!」
「クソがぁ! ぶち
「どこかで聞いた出囃子と、何かの挨拶が色々と入り混じっているわね……」
上空で羽ばたき浮遊する巨躯。胴体部は50m以上。背には蝙蝠のような翼。
膨れ上がった
棘だらけの尾の先には、鉤爪が付いた掌のような形状。爬虫類のような長い首が3本3頭。右頭部は歪なドラゴン、左頭部は凶悪歪顔の大山羊。
そして中心の頭部は、反り返り歪に捻じれた二本角のTHE巨大ドゥルナス。
右額の二つ
『あの巨大な化け物は、何でござるか…姉上…?』
『……あんなものは知らぬ。今、この場で初めて生まれた存在であろう』
『新たなキメラでござりますかね。 それも魔王自らの身体を使い……』
「コレマデノ余裕ハ、コレガアッタカラカ……」
先ほどまでの滑稽極まる道化。魔王と称するには余りにも矮小であったがこの変容。その圧巻の巨大威容に驚愕する一同。
⦅⦅⦅ どうだべやぁ、オラのこの真の姿! かっけーべや! こいづはルルイエがら、にゃるるとぽぺ?……まぁいいべ。なんだべおめだづ、ばぁ小っけーなぁ! ゴミにしか見えねーべやなぁ!⦆⦆⦆
上空でイキリまくり
その合成素体は、悪竜と他惑星の蠍に似た厄災宇宙生物。そして大山羊型の
それらの強大な力を得る為に、ヴェルハディス秘蔵古文書と監修の
その古文書とは──。
【R'lyeh Text 《ルルイエ異本》】
「あれは、もはや魔王と言うよりは邪神。【ルルイエ異本】…おそらく〝
【クトゥルフ神々】所以の存在……」
邪神と呼ばれるその〝
無貌の神、大いなる使者、這い寄る混沌、ダークワン、悪心影、小さき這うもの、闇の魔神、暗黒神など、他にも異名は多数様々。千の化身、千の貌を持つ邪神。
その名は──。
【Nyarlathotep《ナイアルラトホテップ》】
『外なる神……。邪神の力を得た魔王……それと相まみえるとは、これは不味い状況でございますな』
⦅⦅⦅フヘホヒヒヒ!! ビビったがや? んでば、一づの抵抗する気も起ぎなぐしてやっから、まんず見でおげ──■■■■■⦆⦆⦆
ドゥルナスは、そう陽気に嘲りながら邪神言語詠唱。三つ頭の各角にバリバリと禍々しい赤、黒、紫色の超高圧電流を帯電。
そこからお試し披露と言わんばかりに、三色極雷を天空へと昇雷放出。
その極雷は、遥か上空の臓物のような雲と交わり、激しく轟く雷雲を造りだした。無数の龍が如く雲を駆ける稲妻は、遥か遠くに見える山脈上空に集束する。
そして、斑模様の雷光の御柱が、天から山々の中心へと
──ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
眩い閃光から僅かに遅れ極大爆轟音。そこから大爆風熱波が大津波の如く押し寄せる。
『黒鉄、弥宵、最大防御結界!! 』
『『御意!!』』
『『『──冥遁
瞬時に朔夜の号令と共に、黒鉄、弥宵とで
旅団、亜人戦士、魔獣たち味方陣営全てを、半円状に囲う漆黒のドームを展開し、
その核爆発の如き衝撃波を防いだ。
遠く爆心地には巨大なキノコ雲。周囲の山々は消滅、広範囲の大クレーター。
⦅⦅⦅なんだべイェアアアアアアアア!!カモンしぇげなべいべーだべだー!!まんずすげー、自分でもたまげだべやー!!フヘフヘ、フヘホヒヒヒヒヒ!!⦆⦆⦆
『『『「「「………………」」」』』』
「……こがー
「ガリ夫ノ砲撃ナド、コレニ比ベタラ極細ノ針程度」
「まさに邪神、何たる破壊力だ。こんなものを喰らったら一溜りも無いであろう……ガリ夫が神と崇めていたのはこれか……」
『これは、世界終焉を齎す破滅の雷光。
「嘗て見たことの無い圧倒的な
まさに邪導、邪神の力ね……」
『しかも、あの高さで飛ばれては、某らのような地上戦型では手が出せぬでござる』
『地上に降りてきたところで、あの面妖にして巨城の如き体躯。近接戦にしても遠距離術にしても、見るからに難攻不落の在りようでござりまするな……』
意気揚々と狂歓喜するドゥルナスとは完全真逆。その終末の光景と圧巻の超体に、一同一様、戦意を薙ぎ払われ絶望感が襲う。一時の勝利は希望と共に遥か過去に追いやられ、黄昏時の仄暗い夕闇が全てを蝕んでいく。── 一部以外は。
『おとたま、またクソエグイこと考えているのー!』
『あの感じはきっとそーだね、おねたま!』
「フフ、だんだんと分かってきたわね。彼が無言の時は、頭の中では忙しく騒がしい状況ね」
その一部とは、当然旅団内での初期エンジョイパーティ4柱であり、特にその一柱。リディと双子が察した通り、その脳内では──。
(──x線、γ線……原子励起──バリオン──ψ(x1,x2)=φ(x1)X(x2)-φ(x2)X(x1)…複数のフェルミ粒子の系─全波動関数──20ギガワット超──おける熱平衡状態──電磁、重力相互作用──陽子過多……β+崩壊…
などとサードアイ、イーグルアイ管制システムフル稼働。電磁波波長検知、各エネルギー計測情報から、何やらな超速演算解析が執り行われていた。
「ハハ!」
『『『『「「「!!!!!!」」」』』』』
⦅⦅⦅んあ? 何笑ってんだ地球人? 余りの絶望に、ついに頭さ狂ったが?⦆⦆⦆
この状況ではSAN値が全損してもおかしくない。しかし、ここまでトールの数々の奇跡を目にした旅団の面々。すでにトールを【勇者】との認識している反乱勢にとっては、ただの零し笑いが絶望を吹き払う希望の光明に見えた。
「何か見えたのかしら? トール」
「あー、いや今のあれ【荷電粒子砲】じゃね?と思ってなー。ファンタジーよりSFだろ? ハハハ!つうか、あれ核エネルギーだぞ。有害汚物ばらまいてんじゃねーよなぁ 猛毒だぞーハハハ!」
『『『「「「なんのことだよ!!」」」』』』
「と言うか、そこ笑うところかしら……フフ、けれど今ので、皆の
地球科学理論兵器を知らぬ者にとっては意味不明と、トールは総ツッコミされる。だが「絶望などクソ喰らえ!」と、言わんばかりの悠然とした佇まいは、昏い闇を照らす曙光の明かりと成り得た。
『あれを見ても、大樹の如き不動の自然体。相手が邪神であろうと団長には、恐れるに至らずでございますか』
「ほう、ならば我らは勇者の指し示す道筋を辿ればいいだけであるな!」
消えかかっていた闘志に再び
⦅⦅⦅なんだや、腹立づなぁ! 折角オラさの力を見せで、おめだづ全員土下座させっぺど思ってだっけばぁ、まだイギがり始めだべっちゃあ! んでば、しゃあねー直接やっぺがなー⦆⦆⦆
邪神と化したドゥルナス。上空から下卑た貌で見下し、その強大な矛先がついに旅団と反乱勢に向けられた。三つ頭の右頭部、歪悪竜の顎が開口、紫光粒子が大気から集まり出し集束していく。
「トア!いけるか?」
『イエサッサー!!──
即時のトールのGO令に、トアは明快呼応。勢いよく跳躍し、空中で
『おとたまアタシもー!!』
「あー、カレンもかよ。イケんなら征ってこい!」
『ラジャーサッサー!!──
空に解き放たれた
ドオン!!と、音速の壁を瞬時に超え、獄炎の
『我らも続くぞー!!』
『『『おう!!』』』
と、グリフォン2体、ヒッポグリフ2体の空中部隊が、
フェンリル、グリフォン、ヒッポグリフ混成、超高機動 幻想飛行隊がここに新結成。音速は秒速にして340.29 m/s以上。ドゥルナスが浮遊する高度など瞬で到達。
そして、ドゥルナスの竜頭部から放たれようとする紫光粒子ブレス。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
ブレスが放たれる瞬間、竜頭部の顎下から
竜頭部は大きく仰け反り、強制的に顎が閉ざされたことにより、口腔内にてブレス爆発、放射は防がれた。
⦅⦅⦅なぬや?⦆⦆⦆
『むう、まだまだだね』
竜頭部を破壊し、氷結させるつもりの全力特攻であったが全くの無傷どころか、凍結すらされない。鋭利に並ぶ牙の隙間から黒煙を立ち上らせながらも、何食わぬ表情に苦言を漏らすトア。
と言うのも、この素体となった悪竜は通常現世の種では無い。強種であるのは当然曰く
⦅⦅⦅ばぁ弱えー。効かねーなやフヘホヒヒ!⦆⦆⦆
ならばとトアに続き、
その瞬間、左頭部
敵も獄炎を使うのであれば、カレンとの相性が悪い。下級悪魔と違い大悪魔にとっては、獄炎も獄氷も生まれ故郷の極自然環境。通じないのは当然と言えよう。
⦅⦅⦅フヘホヒヒ!!甘めぇなやー!⦆⦆⦆
『ちっくそー!ダメだったのー!』
そこから、ドゥルナス三つ頭の各角が三色の帯電を始め、反撃の攻勢を見せたところに、幾つもの竜巻が翼付近に発生しバランスを崩す。更に無数の風刃が次々とドゥルナスの各頭部を攻め入る。それは、グリフォン、ヒッポグリフの風魔術攻撃。
そこに、トア機から獄氷アイスサイドワインダー、アイススパローミサイルが続々と発射。カレンの獄炎翼からも無数のヘルファイア クラスター爆撃。
⦅⦅⦅
100m超えの超体躯に10mにも満たない飛翔体との空の戦い。戦いの場は更に高度を上げ、上空1万フィート(3048m)での激しい大空戦。
だが、ドゥルナスにとってはハエ蚊が飛び交うような感覚。然程もダメージは受けてはいないが、至る所のむず痒と
地上に落とす為に翼を。視覚と意識を攪乱する為に各頭部を狙うが、その巨大さに相まった堅牢な外殻皮膚の上に、
弱点と思えるドゥルナス頭部には、幾重もの
トアたち飛行隊に於いては、超音速高機動によりドゥルナスの攻撃を回避できてはいるが、決め手を得られず、辛うじて翻弄させることぐらいが関の山。
その激しい上空での戦いを、地上で見守る旅団と反乱者たち。地に落ちてくれれば地上戦に持ち込めるのだが、いかんせんその兆しも一向に見込めない状況に、もどかしさだけが募る。
例え地上戦に至ったとしても、この陣営最高火力を誇るカレンとトアの攻撃が然程も効いていないとなると他の決め手は薄く、いずれ力尽き全滅の一途を辿る道しか見えてこない──否。
暗闇に隠れたもう一筋の道筋が、ぼんやりと薄明りを灯し見え始めたのであった。
その希望の兆しとも言える薄明りの光源に、一同の視線が集中する。
「ねぇトール。ここからの手は、当然考えているんでしょうね? 呑気に眺めてないでとっととちゃっちゃとしなさい」
「あー、その前に俺のボディアーマーどこだっけ? 通信機が必要なんだが……。まぁいいや。で、朔夜、上の部隊にもうちょい高度を下げるよう伝えてくれ」
「え? あ、はい承知いたしました」
戸惑いながらも、トールの指示通りに朔夜はカレンとトアに、ドゥルナスを低空域に誘導する旨を念話にて伝える。
「勇者よ何をする気だ? 貴殿の力を疑うわけではないが、あれを地上に近づけたところで、あのように難攻不落。有効な手が全く見えぬが……」
「あーとりあえず、あのバカ道化を小汚ねー丸裸にひん剥いてやるから、後は適当にボコってくれ」
『『『『「「「は!?」」」』』』』
リヒャルト・ワーグナー四部作の
その完結曲【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます