第120話 ジークフリート
「
襲い掛かる先陣キメラ2体。6mと7mサイズの体躯。
それに対しトールは脱力、ゆらゆらふらふらと歩き向かう。
バンバン!!
トールから二つの発砲音。左腰のヒップホルスターから瞬時に【コルトM45A1 CQB】を抜き、超高速早撃ち。
放たれた二発の【.45ACP弾】は付与無し通常弾。着弾した箇所は前脚。
巨体キメラにとって0・45インチの弾丸など豆粒同然と言えるが。
⦅⦅!?⦆⦆
先陣二体キメラの巨躯が、岩に
合気投げを弾丸にて行使。その二体の間をトールは悠々と歩き進む。
続く、四つの地に響く轟音。二体とも真っ二つに分かれていた。斬ったのだ。
見れば、トールの右手に持つカランビットナイフが、黄金光粒子の日本刀のような形状に変容していた。それは、高密度の聖オーラ刀。その銘は──。
──聖剣 グラム。
北欧神話【ジークフリート】に与えられた、古ノルド語で「怒り」を意味する
トールが排除した〝怒気オーラ〟は全てこの剣に聖浄化され収められている。
「フォースが共にあるようね……何あれ、ライトセイバー? どこのジェダイの騎士かしら」
左手には
バンバン!!
続く二体に発砲。ここで弾切れ、空マガジンをリリース。
コルトを持ちながら手首を軽く捻ると、薬指と小指の間に新たなマガジンが出現。タネは言えないが地球にあるショーマジック。
瞬時に放り、けん玉のように空中でマガジンセット。腰ベルト辺りでスライド、リロード完了。この一連の動作をゼロコンマ秒の間に左手のみで実行。
バン!!と、後続10m級に発砲。二体と僅かに遅れ、もう一体のキメラがワッショイ盛大、ド迫力に打ちあがり大前宙返り祭り。
通り過ぎ様に二体をグラムでぶった斬り、残り一体10m級はトールに向け落下。それにくるりと背を向け──。
「合気
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
静動 気の妙用合わせ業。【八極拳】体当たり極大発剄、極大波動。
10m巨躯のキメラはトールの背中に落ち、触れた瞬間に体内から噴火したかのように爆発。粉々となり血肉の雨が篠突く。
いずれのキメラも、この時点まで生き残った上位種。それが僅か数秒で一蹴。
射撃、剣術に体術が加わり、合気三刀流となる竜殺しの型。
『『『「「「…………」」」』』』
「フン、この場で敵に背中を向けるとは愚かよ」
オーディエンスたちが呆然とする中、ガリ夫はすでに動いていた。10m級キメラの爆散と共に血肉片に紛れ、現れた先はトールとの至近距離。トールの背中に振り下ろされる右爪剣。
バン!!
イーグルアイに死角無し。最標的である
──フン、そんな豆粒で何ができ──。
「な!? ぶるぁああ!!」
着弾したのは右腕の付け根、装甲の薄い内側。針の穴を通すかのような‶効く〟一点。今度はオーラ付与し、更にガリ夫の強化オーラに合気。気の流れに逆らわず、防衛ラインを突破。
ガリ夫は何かに衝突されたかのように、高速横回転しながら吹き飛ばされる。更に腕の付け根の皮膚が抉れ、鮮血が舞う。だが、空中でバランスを取り戻したガリ夫は着地と同時に即突撃。瞬時にトールと至近距離。
「このカス虫がぁ!!」
ヴォン!!バチン!!
電磁音のような振り音を奏でるトールの聖オーラ刀グラムと、ガリ夫の
ガリ夫は渾身の一撃であったが、トールの合気剣術のベクトル変換にて自らに返り身体が半回転し背を向ける。その背には三対六刀の背びれ剣と尾の連結剣。
ヴォン!バチバチバチヴォン!バンバン!!ヒュンヒュンバチバチヴォン!!バチン!!バン!!バチンヒュンヒュンバンバン!!ヴォン!ヒュンバチン!バン!!
近接射撃も交え、激しく繰り広げられる剣戟。発砲音にプラズマ衝撃音が響く中、ガリ夫の連結剣の速度が上がり音速を超え、
「クハハハ! どうしましたカス虫! 防戦一方ではないですか! 先ほどまでの軽口は何処へ行ったのでしょうか! このまま徐々に切り刻んであげましょう! 」
ようやくの優勢にイキりまくるガリ夫だが、トールの表情は至って変わらず冷然のまま。全集中状態が故にガリ夫の言葉は聞こえていない。
ここでコルトが
合気にて捌かれた衝撃波が、トールの後方地面を幾度と爆ぜさせる。
随所の合気転換にリズムが狂わされ、ガリ夫は苛立ちが募る中、連結剣が大きく弾かれ身体が半回転。再び向かい合う形となった。
「この!暮景
地面から多重円形状に突き出す無数の棘。この距離では回避不可能──否。
唯一のセーフティゾーンは、ガリ夫との直近接。そこへ瞬時に入り身。
同時にトールの左掌が、ガリ夫の胸に添えるように当てられた。
「な!?不味い!!」
「──
ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!
それは、昨日地下施設の防壁扉を破壊した【劈掛拳】超極大発剄技。ガリ夫は瞬時に危機感知し後方へ跳ぶ。
だが、その波動衝撃波は防ぎきれず、大波にさらわれたかのように回転しながら吹き飛び、地面叩きつけられ転がりまくる。
ようやく止まり、立ち上がろうとしたもの崩れ膝をつき、血反吐を吐き散らす。
更に身体の幾所に亀裂が入り、背びれ剣の4本が砕け落ちた。
直撃を
『『『「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」』』』
「おお!! 何たる凄まじき威力!ついに、あのガリ夫に深手の大傷を負わせたか 勇者よ!!」
この待ちわびた悲願の光景に、沸き立つオーディエンス。反乱勢リーダー インペリアルゴブリン王子 サウルからも歓喜の称賛がトールに贈られる。
だが、この会心の絵図は幸運が重なり得た偶然の賜物でも、合気により刹那の流れから手繰り寄せた渇望の一手でも無い。
これは、幾重と複雑に計算され必然的に起こり得たもの。
トールのガリ夫攻略は、開戦前から始まっていたのだ。
当初ガリ夫との対話時、ウザ口を塞ぐために放ったハンドガンによるシンプルな発砲。これには銃弾への反応、対応所作の観測。同時に脅威度判定の過小化。
つまりは、銃弾威力に対しての誤認識、ミスリードが目的。
三発発砲により、僅かな動きであったが三度のアクションデータサンプルを入手。この時、脳内では超高速演算処理にて各シュミレーションが執り行われていた。
更に、今日これまでの戦いとキメラたちの未知なる能力。ガリ夫自身の反乱勢との不足分の戦闘データ。それらを統合し、予測シュミレーションでの繰り返しトライ&エラー。そこから直接実戦にての検証。大凡の最大能力値と可能行動パターンを算出。
すべからく全てが整い、この異次元における戦術的対応と、ガリ夫攻略の連立方程式が確立した。後は実行するのみ。
「ぶるぅはぁ!!図に乗るなカス虫──
近接戦を避けてか、ガリ夫の連結剣の結合が解かれ、桜の花弁のような薄刃が舞い散り、トールに向け一斉に襲い掛かる。
それをトールは、グラムを風車のように超速回転させ
大ダメージにより精彩さを欠くガリ夫とは真逆に、トールの業はこの極限の中、更に磨かれ洗練される。じわじわとガリ夫の戦術の手が封じられていく。
ならばと、極めつけの最終の一手をガリ夫は投じる。
「もう容赦はせぬ!!全て滅びろ──
ガリ夫のオーラが頭上にて、六つ頭の痩獅子に具現化。全ての獅子頭がトールに向け開口し、魔方陣が出現。周囲から
トールの後方離れた位置で見守っていた、旅団と亜人戦士たちは。
「
「コノママデハ、我ラ全テ消滅スル!」
「全員退避だぁああああああ!!」
『黒鉄、弥宵!! 最大防御結界を展開!!」
『『御意!!』』
「落ち着きなさい」
一同が慌てる中、冷静沈着リディが一喝、場を諌める。見れば、最前線で矢面に独り立つトールは泰然自若、不動のまま静動の呼吸を緩やかに続ける。
合気道開祖の教えに斯くある【気の妙用】による呼吸力。
この呼吸の変化なるものは、宇宙遍在の根元の気と気結びし、さらに生結びし、そして緒結びすることによって宇宙化する。 呼吸の微妙なる変化は五体に喰い込み、深く喰い入ることによって、五体のはたらきを活性化し、活発に神変万化の動きをおのずからうながすこととなる。
かくして、五体の五臓六腑ははじめて熱と光と力が生じ結ばれることとなり、己れの五体は己れの心意のまま心身一如、宇宙と一体化して作動する。
この境地〝無限なる業を産み出す合気〟を──。
──【武産合気】と称している。
そして、放たれる範囲殲滅極太レーザー砲撃。
ゴオオオオオオオオオオ──バイン!!
トールが眩い終末の光に包まれようとする瞬間、合気転換にてレーザー砲撃のベクトル操作。
その極太レーザーは、後方遥か上空へと向かい浮遊岩に衝突し──。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
血肉色の空に
花言葉は〝神託〟。それを裁きと言う形で告げられる者は──。
『『『「「「…………」」」』』』
「ば、ばかな……有りえぬ」
一同が唖然呆然とする中、上空を見上げフリーズするガリ夫の傍に立つトール。
もう必要としないのか、グラムは収められ両手ともに素手の状態。
「!!」
ガリ夫は我に返り、咄嗟に左爪剣を横薙ぎ一閃。トールは軽く入り身、無造作にその左手首を掴み取る。そして──。
ブチっ!と、膂力のみで乱雑に前腕部をもぎ取り、ポイと放り捨てる。同時にガリ夫の
「ぶるぐるぅあああ!!我が腕がぁあああああああああ!!」
生まれついての超越者故に、これまで味わったことの無い激痛。内臓損傷の痛みも加わり、盛大に喚き叫ぶガリ夫。その様子を冷淡とただ見つめるトール。
『『『「「「…………」」」』』』
「……どうやら、あの砲撃で
「きさまぁあああ!!許さん!!我が尊体をぉおお、テケリリイrryy!!」
すでに冷静さを損失したガリ夫は、怒りに任せ闇雲に右爪剣を振るうが、トールにあっさりと掴まれ、グルンと合気投げで地に叩き伏せられた。そこから足で胴体を踏み押さえつけ──。
ブチブチ!と、無造作に右腕をもぎ取り、無表情でポイと放り捨てる。
「うぎょょるゅいhふrテケリテケリリリリリィィyy!!」
ガリ夫は
「あー、それがバルセロたち地球人……てめーが戯れで
「くぉのカス虫!!殺す殺す殺すコロスコロロ、テケリリテケリり!!!」
「うっせ」
ドオオオオオオオオオオオオオオン!!
発狂し喚き散らすガリ夫をトールは蹴飛ばし、しっちゃかめっちゃか、激しく
転がりまくる。ようやく止まったところは、旅団、亜人戦士たちの手前付近。
『『『「「「…………」」」』』』
「俺の分はもういい。そいつをどうするか煮るなり焼くなり、後は好きにしてくれ」
言葉を失い呆然としていた一同に、我が舞い戻り、状況を理解する。
『『『「「「ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」』』』
一斉に勝ち鬨の咆哮が響き渡る。そして生き残った他の反乱勢も集まり怒気オーラを放ち、ガリ夫を囲う。
『『『『グルグルグルグルグルグルグルグルグルグル』』』』
「き、貴様ら何をするつもりだ!? 我は神の眷属、無礼は許さぬ!ひれ伏し従え!! 即刻あのカス虫を殺すのだ!! 」
「じゃかーしわ、クソボケ!! まず、そがー舌から引き抜くけぇのう」
「オマエノ 下ラナイ戯言モ、コレデ最期ダ」
「万死の無念を、ようやく晴らせる時が来た。ガリガリ・ガリ夫、覚悟せよ!」
『喰らうに値しない毒物。こう細くては潰し甲斐も無いでございますな』
この期に及んで戯言を宣うガリ夫に呆れながらも、各々の想い募る。そして──。
ドン!!ドォン!!ドゴンバキン!!ドッスンドススン!!ボゴ!!バキ!!
ザシュドシュバキボキドンドングチャバシュンドチャゴチュドバゴチャ!!
「わえsrdtfyぐひじょkplテケリリリテケテケリリyyyy!!!」
ビチャ……。
これまでの悪逆非道がその身にまるっと返り、凄惨にして無残。ガリ夫の身体は徹底的に潰され、細かく微塵に切り刻まれ、血は地に吸い尽くされ、ほぼ何も残っていない。
『『『「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」』』』
『『『『ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』』』
サウル、ゲバル、ゾイゼたちの僅かに生き残った傷だらけの亜人戦士たちは、空を仰ぎ滂沱の涙を流し、魔獣らと共に歓喜極まる
それに連なる旅団大狼たちに加え、グリフォン、ヒッポグリフらも重ね輪唱し謳う。
戦場を見渡せば、僅かながらも残存キメラたちの小競り合い程度で、ほぼ壊滅状態。最早完全勝利と言っていいだろう。
しかし、一同共々何か重要なことを忘れている様子だが……。
「ばぁ、なんだべこいづは~? どうなってんだべや? ガリ夫どごさ居んのや~?」
「あー、何だあのちんちくりんの道化は?」
「珍妙な生類ね。ここで飼っているペットか何かかしら?」
「「「ドゥルナス!!──遅っそ!!」」」
「「は?」」
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