第81話 BBQからのビックバン

 

「「キャハハハハハハハハハハハハハ!!!」」


 この最上級VIP用、地下シェルターと思われる居住エリアには、VIP家族が長期滞在でも楽しめるよう、様々な娯楽施設が置かれていた。

 そして現在、カレン、トアが大はしゃぎで楽しんでいるのは、その中のゲームレジャー施設だ。

 ここには、一般的なアーケードゲーム類の他にも、カジノ、ビリヤード、ボーリング場、各種アトラクション、屋内スポーツ施設等、避難施設にどんだけ金を掛けてるんだと言わんばかりに建造設置されている。


 その中でも、目玉アクティビティと思われるアトラクション、室内スカイダイビング。


「すごおおおい!見て見ておとたま、リディ!アタシ飛んでる飛んでるー!」

「アハハハハハハハ!たのしーこれ!回る回るー!」


 ここは直径4.5m、高さ約20mほどの円柱状ウインドトンネルになっており、左右にあるシリンダーの中に風を循環させ、猛烈な風力を作り出すことによって、疑似的スカイダイビングを楽しめるアトラクション施設である。

 周囲の壁にはクッション、床はトランポリンのようなネットが敷かれ、安全性も十分に確保されている。


「そう言えば、リーコンでの降下訓練で、高所からの実地の前にこんなので訓練していたな……実戦も含めて腐るほど経験してるから、もーうんざりだな……」

「そうね……。けど、子供たちはすごく楽しんでるようで良かったわね……」

「まぁ、そうだな……うん、実に良かったな」


 そう、しみじみと語りつつ次に満喫したのは、ここは王道、ゲーセンエリアだ。

取り分け双子が気に入り夢中になっているのは、ダンスなんちゃらレボなんちゃら。



「うっせーうっせーうっせーわー!って、あーミス、速い速い!この曲ムズイぃぃ!」

「へへん! トアはまだまだだね! ほら、ここでターン。うん、いい感じ!アタシはアンタを倒して全国に行くのー!」

「おねぇたま、上手ー!ボクも負けてられてられない!あなたから奪い取りますよ青学の柱ってやつを!」


 何故かダンスゲーム対決で、某テニス漫画の王子様のようなセリフが飛び交っている。


崩撃雲身双虎掌ほうげきうんしんそうこしょう!」

「フン。突っ張り!突っ張り!横張り手!千手張り手!!」

「だークソ!その相撲技、なんか腹立つなー!」

「フフ。あなたは八極拳キャラそのままで、芸が無いわね」

「うっせ! ったく、うっせーわ!! なら次は別のゲームのやつで勝負だ!」



「百烈張り手!スーパー頭突き!」

「ヨガファイア!ヨガテレポート!ヨガゲイル!って、あークソ!つか、なんでお前はこっちのゲームでも相撲キャラなんだよ! あー次だ次ー」


「閻魔突っ張り!閻魔張り手!百鬼夜行!」

「鬼哭剛掌破!って、またかよ!何だその相撲キャラ推しは!」


 トールとリディは格ゲーに夢中のようで、いずれも、この世界での現実をすっかりぽっかり忘れて、完全にオフモード。


「うおーし!ドラケンからのマイキー、同時にダブルゲットー!」

「やったぁぁぁぁぁ!」

「すごい、おとたまー!」

「フフフ、クレーンゲームは上手いようね。格ゲーはダメダメだけど、ヒヨってなかったみたいね。なんちゃらリベンジャーズってところかしら?」

「やかましい!この突っ張り女!」


 この時期の年代は201X年。どうやら、こちら側の地球世界では、流行りものの一部は時間軸に数年のズレがあるようだ……。


 この後にも、各アクティビティを満喫。その中、温室植物園エリア内をあーだこーだ語りながら観賞していると、ある建物を発見した。


「おおー!これはバーベキューができる施設か!?グリルコンロとかもあるじゃねーか!」

「こっちに炭も用意してあるわね。キングスフォードのチャコールブリケットよ。

これは確か、燃焼時間が長いハイブリット素材を使っているらしいわね」

「ハハハ!いいねぇ! 今夜はここで豪勢にバーベキューが楽しめるな!」


 植物園内のその一角には、柱と屋根だけのシンプルな木製造り、長方形東屋。中には丸太を加工し、繋ぎ合わせた長テーブルと長椅子が並んでいる。

 BBQコンロやテントなども用意され、緑を眺めながらのアウトドアを楽しめる空間となっていた。

 

「わぁぁぁぁぁぁい!!やったぁぁぁぁぁぁ!!」

「焼き焼きおにくぅぅぅぅ!!ヒ──ハ───!!」


 それから、解凍していた肉類、野菜類、食料倉庫から調味料に、調理場から食器類を拝借して東屋に運び入れた。

 因みに東屋傍には、下への連絡用バリアフリー、スロープ通路があった。その先には一階の調理場へと繋がっており、台車を使ってバーベキューに必要な食材や器具も、容易に運び入れられるようになっていた。


 まずは、肉類の塊を切り分ける作業だ。これにはリディがまな板、包丁を使い、手際よく切り分けていく。非常に手慣れたものだ。


 この間にトールは、黒いドラム缶を横にしたような形状のBBQ用グリルコンロの蓋を開け、網の下に炭を入れ着火し、焼き台のセッティング。


 カレンとトアも仕込みを手伝い、BBQ用ステンレス鋼の串に一口大の牛肉、コーン、ピーマン、玉ねぎなどを刺して、定番串焼き素材を大皿に並べていく。


 本来のアメリカンスタイルであれば、肉の下ごしらえに予め一晩以上費やすところであるが、そんな時間は当然無く、下味に使用したのは、ヒマラヤ岩塩ピンクソルトに、スパイスシーズニング「テキサスBBQ」と「モントリオール・ステーキ」の銘柄。


「テキサスBBQシーズニング」は、濃厚でスモーキーなブレンド風味。トマト、チリ、ブラックペッパー、糖蜜、天然スモークフレーバーで作られている。


「モントリオール・ステーキ」は、食塩、黒コショウのスパイシーさが効いた複数のハーブがブレンドされたスパイス調味料。共に全米NO1シェアのスパイスメーカーの非常に人気の高い二種のシーズニングである。


 そして、用意されたのはソーセージ、ビーフ、ポーク、チキンなどの定番のもの。

 あばら周りの骨付きリブに、肩バラ肉、チキンの骨付きもも肉などで、その中には──。


「おい、その肉って…もしや……」

「フフフ、THEジャパニーズビーフよ!しかも、最高級A5ランクのなんと……

シャトーブリアンよ!」

「うおおおっ!!マジかよ!そのきめの細かい霜降り、まさに肉の宝石!やべーなそれ! そんな上等なもんが隠してあったのかよ!」

「ええ、冷凍庫の奥で、何か丁寧に包装されたものがあったから、開けてみたらこれが出てきたのよ」


「なにおとたまー?シャチョウ、エイリアン?」

「え?なにその、カチョウ、プレデターって?」

「それ、やべー重役の会社だなー。て、 違ぇよ!シャトーブリアン!普通ではめったに食えねークソ美味い肉の部位のことだよ。食ったことねーけど!」

「フフフ、本来であれば下のレストランホールで、VIPたち用にあつらえられる最高級ステーキ肉でしょうね」

「「たべたぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」」


 そして、一同が盛り上がる中、トールは各肉類をトングを使いグリル網に並べる。火の通りにくいものから加減を見て順次投入。半円柱形状の蓋を下ろし、ドラム缶形状のグリルの中でジュージューといぶされる。

 このBBQグリルコンロの蓋には温度計が付いている。適正温度の200℃を炭の量を調整してキープ。抜かりは無い。


 周囲には、炭火で焼かれた香ばしくスパイシーな肉の香りと煙が漂う。双子らは目を見開きキラキラと輝かせ、涎が滝のように流れ落ちる。

 BBQの醍醐味の一つとして、まず楽しむのはこのかぐわしい匂いを嗅ぎながらの食前の一杯だ。トールとリディはキンキンに冷えたクラフト瓶ビール。

カレンとトアには瓶コーラがあてがわれた。


「「「「かんぱ~~~~~~いち~~~~~す!!」」」」


「「「「ぷはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」」」」

「たまんねーな!これは、実にうましっ!」

「わあぁぁぁぁあ!これシュワシュワして、冷たくておいちー!」

「こんなの初めてだよー!このコーガンっての、おいしーね、おねたまー!」

「それ、イチモツの玉のことじゃねーか!コーラだよ!」


「フフフ、予想外にずいぶんとご機嫌なサバイバルね。これは、後で良くない事が起きなければいいけど……」

「やめろや!変なフラグを立てんな」


 そんなやり取りの中、トールは一旦グリルの蓋を開ける。下味にオリーブオイルとスパイスを纏わせていたチキンや肩バラ肉等に、ケチャップやソースに複数のスパイスをブレンドさせた、濃厚な味わいのクラシックBBQソースを刷毛はけを使い、表面に塗りたくって再び蓋を閉じる


 そして、そろそろ肉が十分に焼けただろうと、頃合いを見計らってグリル蓋を開けてみれば「肉の宝石箱や~~!」と、言わんばかりの光景。幾重にも折り重なった極上の香りが溢れかえり、視覚と臭覚と聴覚に激しく訴えかけてくる。


「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!すごぉぉぉぉい!!」」

「おーっし、いい感じだ!お前ら、各自皿を持ってここに並べー!」

「「は~~~~~~い!!やった──────っ!!」」


 各自大き目の取り皿に、各極上に焼かれた肉類、串焼き等を盛りつけられ、転ばぬよう慎重かつ速やかにテーブルの方へと運び、ついに訪れた食の時。


「はい!手を合わせて、揃ってー!」

「「「「いただきま~~~~~~す!!」」」」


「ん~~~~~~~~!おいち~~~~~!」

「うわああああああああん!おいしすぎるよ~~~!」

「泣くなトア、感動しすぎだろ!ってマジうましっ!」

「このソースは絶妙ね……。亜空間収納アイテムボックスにけっこう入れる物が増えそうね……」

「あんだってー? それよりシャトーブリアン焼くぞー!これは焼き過ぎないよう、ちゃんと見ておかないとなだな……」

「やったぁ───っ!ブリブリバタリアンだー!」

「プレデタバタリアン!食べた~~~~い!」


「あーうるせー!落ち着けお前ら、今焼いてるから。それと、変な混じった呼称で呼ぶなや!」


『シャトーブリアン!』とは、牛ヒレ肉の中でも、中央部の最も肉質のきめ細かい、部位ステーキの意味。その部位は大腰筋、腰椎の内側辺りの希少な部分の肉である。

 そのお値段は、最高級ともなれば日本円で100g辺り、7000円から15000円が相場。牛一頭から取れるのは、500gから800gとかなり希少であるからこそのこのお値段。

 

 因みに、某有名ステーキ店では200gまでのメニューしかない。

 だが、グリル網の上には300gサイズのステーキ肉に切り分けられたものが8枚も並んでいる。一人につき600g。

 

 そして、程よくミディアムレアに焼かれた極上ステーキが、各自の皿に2枚ずつ並べられていく。


 これには、ソースなどの余計な味付けは不要、ミネラルを多く含んだ岩塩と黒コショウだけで十分。

 否!それがベストだ。この極上、素材本来の肉のうま味を最大限に味わう至高の調味料スプレマシー



 ──さぁ、いざ実食の刻。



 まず、その畏れ多い至高の一片を一口。一同は微かに震え躊躇いつつも、優しく労わるように口の中に入れ、ゆっくりと噛み締める。



「「「「……………………」」」」


 それは、噛んだ瞬間に儚く舌の上で溶けてしまった……。


 しかし、その刹那に濃厚で凝縮されたうま味のエクセルギーが、舌咽神経を通じて大脳味覚野で膨れ上がり核爆発。それが誘爆し更なる大爆発を生み出していく。

 幾星霜いくせいそうの無限永久とこしえとも思えるその意識領域世界に、爆発衝撃波が瞬時に広がり眩い輝きとなって、全てを覆い尽くした。


 炭火の効果により、遠赤外線の熱で表面は香ばしくパリっと、中はとろりと柔らかい。うま味が凝縮、閉じ込められた肉汁の何たる豊潤、何ともとろけるジューシー具合。

 尚且つ炭火の煙でいぶされた風味が、うま味成分を何乗にも引き立たせている。


 それは、夢幻にして幽玄。嘗て味わったことのない味覚意識の大革命。うま味の開闢かいびゃく脳内宇宙大爆発ビックバン



「「「「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」」」」


 自然と一同のその双眸に滂沱の涙が溢れ、大瀑布のように激しく流れ落ちる。

その濁流は、植物園一帯の木々や植物を薙ぎ倒し、壁を破壊。1階ロビーに滝のように流れ、その水飛沫に荘厳とした虹のアーチが描かれる。

(これは演出上のイメージです)


「「「「う~~~~~ま~~~~~い~~~~~~ぞ~~~~~~~!!」」」」


 そこから、某ミスター味なんちゃらアニメ版の味皇のように咆哮。口から陽電子粒子ビーム砲を上空に向け放つ。天井は消滅、地上に抜け、遥か天空まで光の御柱みはしらが荘厳とそびえ立つ。その天上から豊饒の女神が、慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、いざ舞い降りてきた。(演出によるイメージです)


「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」」

「泣くな、カレン、トア。その涙を噛み締めろ!」

「フフフ、あなたも、号泣してるんじゃないの?」

「おまえもだろ!ったく、……あー、クソうめーなコノヤロー!」


 それから、残りのシャトーブリアンを、その最高級A5ランクまで育ててくれた畜産農家の方々と、この恵みに導き与えてくれた神に感謝の祈りを捧げ乍ら、時折口から咆哮とビームを放ちつつ全て平らげたのであった。


 10kg以上あった肉類全てが、一同の各腹の中に収められた。そして、締めのデザートがテーブルの上に、神々しい光を纏い、翼をはためかせて緩やかに舞い降りた。(イメージです)


 冷凍庫には多種のジェラートが保存されており、ここに用意したものは、イタリアン高級ジェラートバニラの、業務用容器2リットルサイズ。

 リディは、それを各皿にアイスクリームディッシャーで豪快に盛り付ける。


「「「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」」」

「つめた~~い!あま~~~い!おいち~~~~~!」

「うっ、うぅ…う、これは濃厚、シルキーかつミルキー。おいちすぎる…これは、エグすぎるうまさ…」

「カレン、おま、また泣くのかよ。感動しすぎだろ!」



「フフフ。みんなご満悦のようね。最後の晩餐にならなければいいけど…」

「やめろや!」

 

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