第79話 カモン!イエアアアアアア!!


『そういえばリディって……‶ハイエルフ〟なんだね!』



「は?」


 突然の、藪からゲリラ的。我が耳を疑うトアの言葉に、トールは口をあんぐりと呆然。リディは、引きつった半笑いの表情でフリーズ。


「な、何んの事だよ!?ハイエルフ!?エルフって、ファンタジーとかに出てくる耳の尖った森人種族だよな!?おまえって…」


「……はぁ、やれやれね。まさかこの子に先にバラされるとは……。まぁ、エルフ族は森の護り神である【フェンリル】とは、古くからの共存関係を築いてきたから、匂いや雰囲気で悟られてもしょうがない話だわね。──隠蔽術式リリース」


 リディはそう語りながら、地球人になり澄ます為に施していた、隠蔽用の常時発動魔術式を解除。微かな破砕音と共に、エルフの特徴でもある尖った耳が露わになった。

 更に、雰囲気や纏うオーラの質も変化。それは人と言うよりは、精霊に近い畏怖すら感じる神秘的なオーラであった。これまで施されていた術式には、スピリチュアルな感性を持つ者らからも、完全に意識を遮断する効果も備えられていた。


「マジかよ……。なんか知んねーけどすげーな…ひざまずいて拝んだ方がいいのか?」

「それは、やめなさい!」


『エルフ族は、よく果物とか持ってきてくれたから雰囲気ですぐわかったよ!!

ねぇ、おねたま!』

『うん!それとその髪は、ハイエルフの人たちの色だから、リディはエルフのお姫様だってこともすぐわかったのー!』


「はっ? お姫様!?ハイエルフってのは、エルフの上位種族か何かだったよな?

その白銀色の髪はハイエルフの証ってわけか?」

「まぁそんなところね。ハイエルフは通常のエルフ族より、非常に身体能力や魔力が高く長命。数も希少で妖精や精霊に近いと言う事から、代々王族としてエルフ種族を統治していたってわけよ」


「やっぱ、跪いて3回回ってなんかした方がいいのか…?」

「うるさい!やめなさい!」


 次から次へと語られる常識外の情報量の多さに加えて、ついに明かされたリディの素性。多少驚き混乱したものの、トールはその脳稼働率を活かし、思考回路の加速、各情報を超高速演算処理にて整理してゆく。


「……なるほどな。それで、やたら異世界の話に詳しかったわけか。地球へは、

『逆異世界転移』ってわけだな」

「そういう事ね。理解力が高くて助かるわ」

「で、お前はどんな感じで地球に転移してきたんだ?」


「どんな感じの転移って……ん~~、普通の感じじゃないかしら…?」

「何だよ普通って? 転移自体普通じゃねーからな!」


「ん~~と言っても、森で狩りをしていたところ、突然空間が歪み、ゲートが開いて吸い込まれた…ってな感じだけど、どう?」


「どうって!……あーまぁ…普通のパターンだよな……。フィクションの話であればだけど…ってか、俺らの転移パターンの方がド派手だったよな。ハハハハハ!!」

「笑ってる場合じゃないでしょ!状況を理解しているのかしら?死ねばいいのに」

「やかましい!まぁ、つまりは俺らの祭り以外で、こいつらの世界でも同じような現象で、祭りに招待されたってことだよな?」

「そのようね。ねぇカレン、トア。あなたたちがこの場所に転移した時って、もしや黄昏色のような、光の流れに巻きこまれたんじゃないかしら?」


『え? そ、そう、そうなのー!!森の中を走っていたら、突然、変な音と地面が揺れて、それから夕陽みたいな色の光がいっぱいあふれて…それで気付いたら…ここに…?』

『うん、おねたまの他にも仲間がいっぱいいたんだけど、どうなったのかな…』


「仲間? 他にもフェンリルがいたのか!?」

「いえ、フェンリルはハイエルフ以上に希少よ。おそらく『ダイアウルフ』の群ね。女王には会ったことはあるけど、この子たちが生まれる前の事ね。はて?父親は……」


『え!?リディは、お母たまに会ったことがあるの!?』

「え、ええ、一度だけ挨拶に伺っただけよ。非常に美しく聡明で気高く、尊厳に満ちたお方だったわね」

『へぇー、すごいや!すると、リディはあのエルフの国の王女様だったんだね!』


「…あー、結構お前ら近い関係だったんだな…。『ダイアウルフ』って、昔アメリカ大陸に生息していた絶滅した狼だったか…?」

「おそらく、ゲートによって一部の生態系が行き来したと考えられるわね」


「まーとりあえずは、そのイカれハゲ野郎の計画の一部はぶち壊せたわけだな。

いや、まだそいつの腹の中か…。これだけ盛大なお祭りの主催者だ、何かしらのサプライズな余興は幾つも用意してんだろうよ」

「だと思うわね。まず、死んだ時点で力を抜き取られて、即その兵隊の仲間入り。

おそらく、そう言った術式が、この辺り一帯に施されると思うわ」


「あー、だからこんな悪趣味な箱庭をシコシコ造って、したり顔で放置プレイってわけか…一々本人が出張る必要がねーからな」

「ええ。この主犯の胸クソ術者は、呑気にその各所の農場経営、監視もせずに、余裕綽々よゆうしゃくしゃくで青写真でも描いてるのかしら…? まぁそのおかげで、こちらは自由に動き放題ってわけね」

「そう言えば、視られてるって感じはしねーよな。視るまでもねー、クソ虫以下だと思っているようだな。まぁ、ナメてくれてて結果オーライってところか」


 そう互いの意見を投じ、各情報を整理、把握、予測しつつパイプ型通路を歩み進んで行くと、下方向への階段に突き当った。十数メートルほどその階段を下ると、入口と同様、角ばったコンクリート造りの開けた空間に行き当たった。

 

 そこには、入口と同様のシェルター用、鉄製扉が設置されているが、ここは封鎖されずに解放状態となっている。どうやら、この施設の居住区域と思われる目的エリアに辿り着いたようだ。

 


「マジか!何だここ!? どこぞのリゾートホテルかよ!」


 扉の中は通路よりも明るく、天井も含め、各所に備えられた暖色系の照明で照らされている。赴きのある雰囲気で非常に広く、突き当りまで凡そ50m、幅は約10m、高さは20m以上。天井はアーチ状の西洋式。吹き抜け2階タイプの開放的な造りとなっている。

 床は合成樹脂の木目調。左側の壁沿いには、ゆったりと座れる椅子やソファーが並ぶ。右手前には、インフォメーションサービスカウンター。その奥には、バーカウンター。

 他にも各所に木材が使用されており、この閉鎖的な施設内でもストレスを感じさせない為の演出が施されていた。


『何ここー!?こんな広い人族のお家、ボク初めて見たよぉ!!』

『どこかのお城の中なのかなー?なんかすごいのー!何なのここ!?』


「一応、地球の建築様式のようだけど…やはりここは、政府や権力者とその家族が長期間居住できる、核戦争に備えたシェルター施設じゃないかしら…? つまりここは、地下である事はほぼ間違いないわね。ほら見てよ。各所に英語の文字が使われているわ」


「ってことは、ここってやっぱ地球って言うか、アメリカのどこかじゃねーのか?

政府用じゃなくても、ラスベガスかフロリダ辺りの大富豪が建造した巨大シェルターってことも考えられるな。人の気配はねーから、今は活用されてないって事だろ?

世界的に見れば、一応平時下だからな。この上じゃ、のんびりバカンスかカジノで、賑わってる可能性もあるよな」


 世界に置ける多くの核シェルターは地下に設置されており、数千人規模から一般家庭用の小型のものなど多く存在している。

 その普及率はスイス、イスラエルは100%、ノルウェー98%、アメリカ82%、ロシア78%。以上がトップ普及率5カ国である。


 因みに、核攻撃を2回も被っている唯一の核被爆国である日本は?と言うと……


  ──0.02%!!


 しかも、周辺には北朝鮮、ロシア、中国などの核保有国に囲まれているにも関わらず、その普及率は雀のなんちゃら、蚊のスカシっ屁程度の在りよう。軍事力ランキングでは、日本は現在8位。

 

 さぁ、これをどう捉えるかは、あなた次第という事と言えよう……。


「確かにその可能性もあるけど…そう楽観視するには、判断材料が足りないわね…

施設まるごとの転移、もしくはその情報のコピー&ペーストで近い過去に、ここに何らかの力で建造されたことも考えられるわ…」

「……あー、その手の未知な云々の力は分からねーけど、外をうろついてれば。そのうち勝手に情報が入ってくるだろうよ。まぁ、考えるより感じろってことだな」

「フフフ。それはブルース・リーの名言ね」


 あーだこーだと、とやかく語っていても埒が明かないと、トールとリディは一旦

考察の海を泳ぎまくるの止める。双子らは辛抱たまらん状態だ。


『おとたまー!早く探検しよー!』

『探検!探検!探検!!』

「あーうるせー。分かったから甘噛みするな、引っ張るなー!とりあえず水と食い物を探すぞー」

『『やったぁぁぁぁぁぁー!!』』


『あたし、お肉がいいのー!!ヒーハー!!』

『ボクもー!! にーく!にーく!エブリバディ!にーく!にーく!イェスっ!!』

「フフフ。賑やかでいいわねぇ」


 電源が稼働していると言う事は、水道も稼働しているであろう。この手の施設なら常時、長期保存可能な食料も大量に確保している可能性が高い。

 情報も重要ではあるが、食料と水の確保が最優先で必須事項。取り分けその探索に乗り出す。目指すは、食事用ホール及び調理場。


 その場所は、考えられるとしてこのロビー内のどこかであろう。歩きながら見回せば、真正面の突き当りに両開きの高級木製扉が見えた。そこに当たりをつけ、開けてみればビンゴ。


「おおー!まるで、どこぞの高級ホテルレストランみてーだな」


 そこは、とても避難シェルター内の食事場所とは思えぬほど広く、豪奢な造りとなっていた。一昔前のクラッシックな雰囲気が漂う、高級ラグジュアリーホテルのレストランのような絢爛けんらんぶりだ。

 

 見渡せば5.6人ほどの席がある円形テーブルが幾つも並び、いずれも赤のシルク生地のテーブルクロスが掛けられている。ぱっと見、百人以上は同時に食事ができそうな規模のレストランホールだ。 


『すごーい!!ここって何をするところなのおとたまー?』

「あーカレン、ここは大勢でメシを食うところだな」

『へぇぇぇぇ!!すごいやー!ものすごくいっぱいの人が一緒に食べれそうだねぇ!リディのもこんな感じなの?』

「…おしり?……お城の事ね…。まぁ似たようなものよ、トア」

 

 そして、右手側の方に目を向ければ、おそらく調理場への出入り口と思われる通路が見えた。


「やっぱそうか。ここは厨房だな。で、水は出るのか?……お!ちゃんと出るじゃねーか!こりゃラッキーだな!」


 調理場内の水道蛇口の付け根にあるコックを捻れば、最初はゴボゴボ鳴っていたものの、幸いにもその後に通常の水流が確認ができ、まずの水の確保はこれで安泰となった。


「こっちは食料倉庫のようね。……フフフ、大量にあるわよ!おまけに奥に冷凍庫があるわね。これは期待できそうよ!」


 調理場奥には、ドア取手の無いスイング式扉がある。開ければそこはかなり広めの食糧庫で、何列もの棚が置かれていた。内容は小麦粉、砂糖、塩、米袋など穀物類に調味料の袋、缶詰類、プラスチック製タンクや円柱型容器に入った醤油や味噌。他にも香辛料、酢類、料理酒など各調味料も大概揃っている。更に奥には、冷凍庫と思われる扉も見える。


「マジか!!冷凍保存の食料と言えばもうアレしかねーだろ!!」

『なになにー?おとたまー!もしかしてお肉ー!?』

『ホントホントー!?お肉食べれるのー!?』


「あーうっせ!待ってろ、今確認するから甘噛みするな!」


 電気が稼働していると言う事は、当然冷凍庫も稼働している。期待値MAXでステンレス製扉を開ければ、中から極低温の冷気の流れが感じられ肌を引き締める。


「…ハハ…ハハハハハハ!!あるぞあるぞー!!肉に肉に肉に肉ー!!んで、魚!魚!魚!おまけに野菜類にデザート類もあるぞ!!こりゃクソ最高だなー!!」


『『やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』』

「フフフ、これはツイてるわね」


「よーし!とりあえず、晩飯用に幾つか解凍しとくかー!」

『『ヒ──────ハ───────っ!!』』


「フフフ、みんな大喜びね。私も…ヒヒヒハハハ…だめね。難しいわ」


 これにて、ライフラインの最重要必須事項であった水と食料は、予想以上の大収穫。一同は、大盛り上がりのテンション爆クソ上がり。


「よ──っし!次は寝る場所だー!目指すはVIPの中のVIP部屋だ!これは、

かなり期待できんぞー!」

『『イエス!イエス!!カモン!カモン!イエアアアアアア!!』』


 それから、意気揚々と一旦ロビーに出て、上階への階段を見つけて上る。

 探索をし続け、有るわ有るわと高級スイートルームの数々。実際に金額が発生すれば、その宿泊料は1泊うん十万からうん百万の、眼から屁が出るほどの価格が予想。


 因みに世界ランキング1位、スイスのジュネーブにある「ホテル・プレジデント・ウィルソン」のスイートルームの宿泊料は1泊、日本円で約915万円……。


「お──っし!いい感じの寝る場所ゲットだぜーっ!!この部屋に決めたー!!」


『『ブラボ──────────────!!』』

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