第77話 アハハハじゃなくって!
トールは、
「うん!!つまりは魔法だね!!」
「……あー…まぁそんなもんだ…」
そんなやり取りをしながら、プレート皿に他の食量の封を開けて盛り並べる。
内容は各NO.によってメニューが異なる。アクセサリーパックには、食塩などの調味料や間食用のガムやチョコに、食後用のコーヒー、砂糖、粉末ミルクやウエットティッシュなどが入っている。
「とりあえず、食事の前にはちゃんと手を綺麗にしないとな。このウエットティッシュでこうやって拭くんだ」
「「はあ~~い おとたま!」」
うむ、実にいい子らだ。そんな双子の素直で可愛らしい反応に、トールは自然と口元が緩んでくる。
トールのNO.8は、すでに食したエネルギーバー以外では、メインにマリナラソースのミートボール、ポテトグラタン、スナックブレッド、チーズスプレッド、粉末ジュース(グレープ味)のラインナップだ。
カレンのNO.18は、グリルドターキーのホワイトソース、ベジタブルクラッカーとピーナッツバター、黄桃のシロップ漬、チョコクッキー、チョコスポーツバー、粉末グレープジュース。
トアのNO.21は、チキンシチュー、クラッカーとチーズスプレッド、プレッツェル、パウンドケーキ(レモン味)ココアドリンクパウダー、の以上が各メニュー内容だ。
尚、このピーナッツバターがあまり評判がよろしくないようで、カレンのものには、トールのスナックブレッド&チーズスプレッドと交換する。
それから、約12分でレトルトパックの温めが終わり、各皿に盛りつける。暖かそうな湯気が立ち昇り、食欲を掻き立てる濃厚な匂いが周囲に漂い始めた。
双子らは、目を煌々と輝かせて涎が止まらないご様子だ。
そして、ドリンク類だが、飲料用のナイロン袋が付属しており、これに各ドリンク粉末と水を注ぎ溶かすのだが、グレープジュースの色具合が中々のもので、まるで輸血用の血液パックのようだ。
それと、これでは飲み辛いので、レトルトパックの包装&温めように使用した紙筒に入れて、ビジュアル面と飲みやすさの両方が解決される。
因みに、このMREレーションは製造年月日と保存状況に注意しないと、味に多大なる影響どころか、腹まで壊す始末に陥ることになる為に確認は非常に重要だ。
まだ真新しく、すでに肌寒い時期となっている為、保存状況の方は良好。ようやくの食事タイムだ。
本来であれば、クリスチャンであるトールは、食事前の主への感謝の祈りを捧げるところだが、今回は亡き母に教わったごく普通の日本式でキメる。
「はい、手を合わせてこう言う。いただきます!」
「「いたただだだきまぁぁぁぁっしゅ!!」」
「って、あーちょい待ちぃ!スプーンを使って食べるんだ…えっと、これな! 袋はこう破って取り出してだな…」
今までどんな暮らしをしていたのか、メイン食に直接手で触れようとしたところで、慌てて止めてスプーンの使い方や食べ方を教える。
「ん~~~~!おいちぃ!こんなの初めて食べたのー!!」
「うん!こっちは、ちょっとしょっぱいけどおいちぃよ!!」
「おー、そうか! そりゃ良かった!それ味付け濃いめだから、口に合うかどうかだったが……」
栄養もだが、塩分もかなり不足しているようなので、今の状態であれば丁度いいのかもしれない。
カレンのグリルドターキーは、日本の某有名食品会社製、レトルトホワイトシチューに、厚めの
トアのチキンシチューは、水気が少なめドロめなので、見た目は余りよろしくないが、状態が良ければまぁまぁな味だ。湾岸戦争時の酷いものでは「チキンのクソ煮」との言われようであったものだ。
トールの、マリナラソースのミートボールの『マリナラ』とは、イタリア語で「マリナーラ (船乗りの)」と言う意味で、トマトソース系のミートボール煮込みと言ったところだ。
それと、カレンとトアのチーズスプレッドだが、これをクラッカーやスナックブレッドに付けて食べると実に美味くて、二人とも実に満足気だ。
しかし、トールのピーナッツバターは、最近では甘くなったようではあるが、この時は塩気が強く、微妙と言うか余りいただけない味だ。これをベジタブルクラッカーに付けて食べる。
「……まぁ、あくまで携行食料だし贅沢は言えないな…」
そんな感じで、各メニューを分け合って互いに食べ比べをしたり、和気あいあい、あーだこーだと言い合いながら全て平らげた。
「「ごちとうたまでしたぁぁぁ!!」」
「はい、どーも。ごちそうさまでした。と!」
食事を終え、しっかりとした挨拶も覚えて、双子は生まれて初めてのジュースを満面の笑みで飲んでいるが、粉末ジュースなのでその大まかな味は想像できよう…。
「はぁぁぁぁぁ…この水、果物みたいな味がしておいちいね!トア」
「うん!おねたま! アジャポンサダパーみたいな味ですごくおいちいよ!」
「ええ~?それより、パッポソビリビリバンバンの味に似てないかなぁ?」
「あーそーかも!さすがおねたま!」
「……なんのこっちゃ」
地球に無い謎の名称のものに例えているようだが、大変ご満悦のようだ。顔色も良くなり体力、生命力がかなり回復したようなので、一先ずは良しとしよう。
トールは、コーヒーを啜りながら、そんな姿を穏やかな表情を浮かべ、今後の事を思案する。
僅かに間食用のチョコやガムなどがあるぐらいで、水は残り約1リットル。まずは食料と水の確保が最優先で必要だ。
そして、この子らが何故こんな所で幽閉されて、どのような目的でこの
その非道な行いは兎も角、幸いにもあっさりと解かれた、あの物理法則を超えた魔法陣の未知なる力。
更に、このような領域で、他者を寄せ付けぬ訳の分からぬ施設の建築か、もしくは、すでに在った廃施設の有効利用か。おそらく後者であろうと思えるが、予測できる範疇を超えて大いに混迷するばかり。しかし、状況的に
──その存在の力は、かなりヤベぇ。俺の力を遥かに陵駕するもの。
さっき
「…クソ…厄介だな…」
「おとたま、どうしたの? おなかが痛いの?」
「おとたま、クソがしたいの? 見ててあげるからYOUここでしちゃいなよ」
「違ぇよ!誰だよそのキャラ!? やめろや! 手を添えるな!」
どこぞの今は亡き、某元芸能事務所社長の口調混じりで、黒ブロッコリーのような小ボケをかますトアにツッコミを入れつつ、この幼い双子に、険しい顔を見せていた事を反省。一旦思考の海に潜るのを止め、穏やかな表情を取り戻すトール。
とりあえずの情報を得る為に、この双子に事の経緯を聞きたいところだが、
語るに非常に辛い状況であれば、それは
しかし、躊躇している場合では無い状況。致し方無く、その事について尋ねることにした。
「…あーお前らにちぃと聞きたい事があるんだが…いいか?」
「ん? いいよ!なんでも聞いてよ おとたま!」
「いいよいいよ!聞いて聞いて! それは、持続可能性の概念形成の歴史のことかな? それを基に、昨今各国のアジェンダ等で提唱される今後の解決すべき問題の論議のことだね!おとたま!」
「何の話だよ! どっからそんな知識を得た!? あー!んなことじゃなくってっ!」
満面の笑みで、謎な知的ボケをぶちかますトアに、ツッコミ気質が火を噴くトールだが、ここでシリアスをぶち壊されてたまるか!と、必死に話の筋を取り戻そうとするも…。
──POP-UP(捕捉範囲内に突如ユニット出現)
そこへ脳内レーダーにいきなりの反応。
──DR BERRY SHORT(判定範囲 至近距離)
──IFF ID ……(敵味方識別)
「何か楽しそうね。珍妙な声がするから辿って来てみたけど、託児所を開いて保父さんにでも転職したのかしら?」
「「「!!!!!!」」」
──CHICKS(判定 友軍)
「だーっ!?リディかよ! おまっ、どっから沸いたんだよ!? 全く気を感じなかったぞ!!」
突然、一同の虚を突く声を掛けられ、即座に立ち上がる。出入口の方を振り返って見れば、今のトールに取っては状況を打開する最強の援軍。一人連合空母打撃群のリディであった。
リディはトールと同様に、ACHヘルメットをアフガン洞窟にいた時に放り捨てていたので、その美しい白銀色の髪を露わにしている。
しかし、至近距離に至るまでトールのパッシブ レーダーにも反応を示さず、突如現れたことに混迷の意を声を大に唱える。
「ん、単に消していただけよ。あなたは垂れ流しみたいね。下半身がゆるゆるなのかしら?この状況を理解しているのかしら?死ねばいいのに」
「やかましい! それより良かった!お前無事だったんだな!ここでお前のご登場は実にありがてぇ!ハハハハ!!」
などと、リディの謎なステルス能力の事はさて置き、この異常な状況下での仲間との合流。大いに笑い喜びながらトールは感極まってリディに抱き着き、強めのアメリカンハグ。思わず携えていたMk18を落としてしまう。
リディは、昨日からの打てば響くトールとの軽口の言い合いを気に入り、まずの挨拶の皮肉弾を撃ち込んだところ、予想外の反応に直立不動でフリーズ。伸びた指先が反り返り、成すがままにそれを受け入れてしまった。
他の男であれば触れられる前に、確実に蹴散らしているところだ。
だが、普段のクールさは何処かへと飛び去り、この他意の無い純粋に喜ぶトールの抱擁に、あわあわと狼狽え顔が真っ赤っかに彩られていく。
リディが最初に転移した場所は、実はトールが最初にいた部屋の反対側の通路の先。同様の造りの小部屋で監禁状態であったものの、難なく
そして、最初に脳裏に思い浮かべたのはトールであり、最もその安否と行方先を危惧し、仲間の中で最も合流を望んだ人物。
戦力的な意味合いもあるが、何よりトールの存在は、リディの中ではすでに重要な位置に置かれていた。この反応もそう言った想いから窺い見える、極々自然な
因みに、この時トールはすでに悪魔らを殲滅した後。トールが僅かに残した痕跡や戦闘跡を追って、ここまで辿り着いたという訳だが、のんびり偶然を装って軽口を叩いたものの、内心ではかなり必死であったようで汗だくだ。
「アハハハハハ!おとたま、アタシも混ざるのー!!」
「ボクもボクも!!てか、誰この人? おとたまの彼女!?」
この二人の絵図で安心できる人物と察し、何かのスイッチが入った双子。尻尾をガン振りで勢いよく二人にしがみつき、その
「なっ何この獣人の子供たちは!? ちょ、ちょっと離れ…あら可愛いらしいわね…いやいや、あなたたち!!暑苦しいから離れなさいって!!」
「「「アハハハハハハハハハ!!!」」」
「アハハハじゃなくって! トール!あなたもいつまでっ…フフフフハハハ!!止めなさい!!誰よ!?
ボケ気質のリディであったが、この状況に必死とツッコミに回る。慌てふためきつつも満更でも無いといった表情。常に盤石であった冷静沈着さを、何処かへと放り投げてしまったようだ。
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