第66話 頭文字T
大地を揺るがす地響きと共に、木々が掻き分けられて揺れ動く。
事態は更に混沌さを増し、大きくうねり、渦を巻く。
その混沌は群を成し、木々の間から選り取り見取りのご馳走を前に、歓喜の大合唱。
『『『『『『ギャアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』』』』』』
いずれも、約10mはある獣脚肉食恐竜が6頭。
体色は藍色、緑、灰色、カーキ等、頭部から尾にかけて赤や深緑、青のまだらにヒョウ柄、虎柄と多種多様。
「うおおおお!!!あんだこいつら、Tレックスか!?ヤバイぞ、6頭もいやがる!!」
「これ多分『タルボサウルス』ね!Tレックスと同属系統で怖い奴ね!!」
そう語る、何故かその種を知る黒ブロッコリー。
タルボサウルスは「恐れさせるトカゲ」の意。白亜紀後期、約7000万年前にアジアに生息していた、ティラノサウルス科に属する獣脚種の肉食恐竜。
「厄介なのは、そいつらじゃねーんだよなぁ……」
「そうね。来るわよ」
「「「え?」」」
バキバキバキバキ!!!ドスウウウウウン!!!
それは、タルボサウルスより遥かに巨大。その巨躯で雑草でもかき分けるかのよう、木々をへし折りながら現れ出る。
目下目前一頭のタルボサウルスが振り返り、それと目が合った。
それは現れるなり否や、その一頭のタルボサウルスの胴体に齧り付く。
そこから豪快に振り回し、圧倒的な咬合力に耐えきれず、両断し千切れる。
更に、大量の鮮血と臓物を撒き散らしながら放り投げられ、木々がなぎ倒されていく。
「今度は‶モノホン〟のようだな…ったく、どこのおもしろパークだよ」
「フフ、しかももう一頭いるわね」
『ふん!全く持って
「「「Tレックス!!!!」」」
混沌なる戦場に、更に更に激しく戦乱の嵐が巻き起こり、ここに新たに参戦。
史実のサイズよりも巨大。非常に迷惑極まりない巨躯。
口部の大きさだけでも2m以上はありそうだ。
その恐るべき暴君は‶ティラノサウルス〟。通称『Tレックス』が2頭。
Tレックスは、約6800万年前から6600万年前、中世代白亜紀末期に北アメリカ大陸に生息した大型肉食、獣脚種の恐竜。
恐竜が登場する作品では、もはや欠かせないメインレギュラー。恐ろしくとも浪漫溢れる大人気生物だ。
しかし、それを楽しめるのはフィクション作品や、博物館の骨格標本や画像資料によるものだけ。
それが間近に傍におり、その眼で見据えられた時点で、フリーズ&失禁タイム案件。
その名前の由来は、古代ギリシャ語で『テュランノス』『暴君』の意味を持つことから『暴君竜』とも称されている。
史実においては、そのサイズは最大全長13mとされているが、今ここに存在しているものは優に20mを超えている。
テロリストを始めとして、敵の敵の敵は更にドでかい敵。
味方なんて事は絶対にあり得ない。
見渡す限りのメガ盛り料理を前に、暴風鼻息荒く、爆食いチャレンジ態勢。
食欲共にノリノリのガチフードファイター。
『『ギャアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオン❕!!』』
『『『『ギャアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』』』』
Tレックスの咆哮に、倍はあるサイズにも負けじとタルボサウルスらも呼応。
数では利があると言わんばかりに、怯むことなく立ち向かい、激しく争い始めた。
「「「「「「……………」」」」」」
「ハハハ!すげーすげー!おもしれーなこれ!!」
「はぁ、楽しんでいる場合じゃないでしょ?死ねばいいのに。それでどうする?あれに参加する?」
「あ?当然だろ! って、また死ね言うな!…つうか、てめー何ウズウズしてんだよ? お前が混じりてーだけだろ、この戦闘狂が!」
『これで、今夜の晩餐は十分な量を得られよう、トールにリディよ』
「まぁ、こんだけあれば、数日はもつだろうよ」
「けど、この量を運ぶの大変そうね。別働隊の子たちも呼んだ方がいいわね」
『おとたま、お腹すいたー!』と、子白神狼。
『アタシもすいたー!』と、子紅神狼。
「あーうっせー! 少し待ってろ、甘噛むな!」
この光景の反応でも人外らと人間とでは正反対。その圧倒的な絵図の迫力に言葉を失い
そして、この人外の軍団は、他にもまだいるような事を匂わすリディの言葉。
一旦始まれば、どこまでも続くこの果てなき戦いの
常時、生死が
喰われる者、捕食する者が明確にシンプルに分かれる無秩序であり、それが秩序でもある完全野生世界。
──全ての闘争に勝利し、生き抜き天地をも喰らえ。
それが、この世界に息づく者たちに与えられたアイデンティティ。
どう生きたかで、その生の果てに
ディストピアでありユートピア。常に決戦。常時ラグナロク。
その大舞台をどう飾るか「己の存在意義を、我にいざ示せよ」と常に問われる、この世界を監視する管理者たる神々が娯楽然、悦に浸る箱庭劇場。
──その魂の輝きを示せた者には、確たる褒章の世界で、生きる価値のある生を満勉無く与えようぞ。
そう、これが『THE煉獄』 血の彩りに塗れたカオスワールド。
果てなき試練と救済が得られる憩いの終焉世界──。
だが、まだこれは序の口お試しの体験版で、製品版ではない。
その
──さあ、この美しき闘争の楽園を
「「「「…………」」」」
『…………』
「ん~~これはクソヤバイね、オシッコちびりそうね……」
「もう無茶苦茶じゃねーか。なんだこの死にゲー世界は……」
「あは~ん!あれどうするんすか?リーダーにワルキューレ先生!?」
首の皮一枚で辛うじて救われたものの、そこからの嵐の様な急展開の数々に呆然フリーズしたままのドールガールズ。もはや、そっちのけの赤虎チョロ助。
そして、アンドリューサルクスの背の上と、その足元で慄きの言葉を発する、ブロッコリー&ジミー&ダフィ。
「ハハハ!映画のやつより、かなりでけーな!ありゃ喰い応えがありそうだな!」
「それで、誰がどれを相手にするリーダー?」
「いやいやいやいや、俺は勘弁っすからね!怪我人だし、あんなクソヤバな、と言うか、喰われてクソになって森の肥やしになるのがオチっすからねぇ」
『誰も貴様などのチンカス程度の戦力など期待はせぬぞ。黙っておれ、薄らハゲ』
「あは~ん、女王様は実に辛辣~~薄らハゲしーっ!!」
闘争と食欲に沸き立つ戦闘狂らと、ジミーのヘタレ文句に対して辛辣な言葉で殴り飛ばす神狼の女王。
『おとたま、お腹すいたの!早くあれ食べよー!』と、子紅神狼。
『おとたま、ボクも手伝うよ!とっととデストロイしちゃおうよ!』と、子白神狼。
「だーうるせー!だから落ち着けお前ら、分かったから腕を甘噛むな!」
身体は小さくとも(2m)やはり神狼の子。一切怖じ気づく事も無く戦意と食欲高らかにトールにせがみつき甘噛む。
「あーキャロル。悪いけどその大剣、ちと、取ってくんねーかな?」
「え?」
トールは、何を言っているのだろう?ドールガールズらの傍で、地面に突き刺さっている大剣は、無骨で分厚く長い金属製。見た目だけでも相当の質量があることが窺える。普通の人間が持ち得るには、相当の筋力が必要だと見て取れる。
「いやいやいやいや、これどんだけの重さなのよ!?こんなところでそんなボケはやめてよね!!」
掌を顔の前で左右にパタパタ振りながら、トールの無茶振りに苦言を叫ぶキャロル。
「大丈夫だって。せいぜい150kgくらいだろう?いいから試しに持ってみろよ」
「いやいやいや!150kgって、何言ってるの…ってあれ?」
キャロルがその大剣の柄を掴み、自分の身長より長いので、斜めに傾けてから地面から抜きに掛かれば、あっさりと抜けて持ち上がった。
「「「えええええええ!?」」」
「あーお前、
「え?…ああ、ほい」
ブン!! ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!
自分でも理解できずに、キャロルは呆けたままその大剣を放り投げた。物騒な回転音を発しながら飛んでゆき、華麗に柄の部分をキャッチするトール。
「サンキュー!」
そして、キャロルへ感謝の言葉を述べてから、恐竜大決戦の戦場の方へと
「キャロル…今のって……」
「リミッターって…」
「おめでとうございますキャロル! あなたも‶人外への道〟に一歩足を踏み入れたようです!!」
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