第58話 ごきげんよう、お早うございます
アメリカ陸軍、女性特殊部隊CSTに対する 白亜紀の凶悪小型肉食恐竜、ヴェロキ・ラプトルの群。
ここに、非公式で行われる史上初、地球生物史 最古の特殊部隊と、現代の特殊部隊の戦いが、人知れず開始するのであった。
CSTは、米軍の特殊部隊の3段階序列、下位のティア3に当たるが、ただ一人ティア1以上の稀な存在がいた。
それは、アメリカ国籍を持つ合衆国軍、日本人初の女性特殊部隊員、早見伊織だ。
多くの謎に包まれており、今までその能力を隠して来た彼女だが、その真価を発揮する場が、今この場以外に他にあろうものか。
臨戦態勢に入ったラプトル部隊。リーダー前方に護衛として立ちはだかる親衛隊3体。他の個体らは左右に広がる。すでに銃の特性を学んだようで、いつでも躱せるよう小刻みに反復横跳びを繰り返している。
「何んかイラっときますねぇ。私たちをテロリストらと同じと思って、ナメてますよね。特にあのクソモヒ官!」
ラプトルリーダーは彼女たちを見下し、獲物をどう仕留めるか模索しているのが見て取れる。
他のラプトルらも狂暴な笑みを浮かべ、リーダーの攻撃開始の号令待ち。殺意露わに「早く喰わせろ!」と言わんばかりに、焦れているようにも見える。
「で、どうするイオリ? 奴らきっと、こっちの攻めを見てから動き出すつもりよ!」
「フフン、ナメているなら好都合。三流戦闘員とはレベルが違うって事を、存分に教えてやりましょう! それと文明の利器と言うものをね」
そう言いながら、伊織はボディアーマーからそれを外し取り出した。
「フフッ、なるほど! さすがに奴らもそれは学習してないようだからね」
そのある物を見て、軽く頷きながらチームらは理解を示した。
「んじゃぁ、投げまーす! 目と耳塞いでいてくださいねー!」
伊織がその安全ピンを外し、ラプトルらが散開している中心に投げられたのは。
──フラッシュバン M84スタングレネード。
大きな音が出てしまうが、今は手段を選んでる場合ではない。その投擲後から即座にチームらは全員、目を伏せ耳を塞ぐ。
『『『『???』』』』
獲物が何か放り投げてきたようだが「なんやこれ?」と、ラプトル部隊らは、その地面に転がっているものをガッツリ凝視。
「太陽拳!!」
バアアアアアアアアアアアアアン!!!!
起爆と同時に180デジベルの爆音と、100万カンデラ以上の強烈な眩い閃光が放たれ、ラプトルらの視覚と聴覚を一時的に麻痺させる。
『『『クア!クイ!クウ!クエ!クオォッ!!』』』
ラプトルらは、方向感覚を失いメダパニ状態。いずれもクルクルと頭上に星が回り、よろよろのタイガーステップを踏んでいる。
ダン!!
「では、尋常に!いざ【
さあ、先制の戦術は上々と地面を強く蹴りだす。何やら唱しながら、5mはある段差を難なく飛び降り、ラプトルリーダーに向かって爆速で駆ける伊織。
伊織のその眼は、蒼く発光し光の糸を帯び始める。
「ん!? 何それ!? ってか、んな場合じゃない! よしっ戦闘開始!! このクソ爬虫類どもを駆逐するよ!!」
「「「了解!!!」」」
『グオォ!!ブエッ!!ブェッ!!ブオォッ!!』
親衛隊の背後だったおかげで、フラッシュバンの直撃を免れたラプトルリーダーだが、完全には緩和できず、ふらつきながらもキャロルと同時に戦闘開始。
タタタタタタタタタタタタタタタタ!!!
『ブェエッ!!』
『ギエエエ!!』
『ブフウッ!!』
「ハハハ!指揮官だけ、イキっててもしょうがないだろよ!!」
ラプトル兵隊たちは、ガッツリメダパニ状態。訓練用の標的さながら、弾が当たり放題、入れ食い状態。
「その指揮官も、まだふらついているし!」
「楽観視も程々にね!とりあえず、他の兵隊が気を取り戻す前に、一匹でも多く仕留めるよ!」
「「「了解!!」」」
タタタ!!タタタ!!タタタ!!
そして、伊織も走りながら、前に塞がるラプトルらの頭部を
「あと、邪魔な残りは、この3匹だけですかね!」
ブルルと首を振り、ようやく正気を取り戻した3頭の親衛隊。突然、目の前に現れた伊織に驚きの表情だが、すぐさま喰らいつくべく頭部を弓引く3頭。
トン!!
ガブゥッ!!
横並びの3頭が、伊織を噛みつきに掛かったが、視界から消え去り空振り。
「どこや?」と見回し、現れ立つは真ん中一頭の頭頂部。
タタタ!!タタタ!!
トン!!
透かさず伊織は、左右2頭の頭部に素早くキルバースト。足場にしていた残り1頭の頭部を踏み台にして跳ぶ。
タタタ!!
そこから前宙回転、逆さの状態。その頭部にキルスリーバースト。
「「「!!!!!」」」
「マジか!? 何なんだあいつのあの動き!!」
「ハハハ!! マジで、クレインやワルキューレの領域に達しているわ!」
「なるほど。 つまり彼女も、人外ってわけだね」
「そうなると、イオリにも二つ名が必要じゃない?」
「北欧神話をなぞるなら、差し詰め【フレイヤ】ってところかな?」
「それ、いいかもね。 けどまだ仮ってところじゃね?」
「「「【フレイヤ(仮)】」」」
「ん!? なんか珍妙な怖気が背筋に…まぁそれより……」
何か良からぬ気配を感じた伊織。だがそんな事より、目の前には最重要標的。
地球最古の特殊部隊。その指揮官であるクソモヒ官は、目を見開き、困惑と慄きの表情を露わにしていた。
『ブオゥエ!!』
──何だこいつは!? 先ほどの貧弱な獲物とは、種が異なるのか!?
少々変わった見てくれに、妙な飛び道具。最初は戸惑ったもの、直線的な攻撃のみ。パターンさえ分かってしまえば、躱すことは容易い。
その身体の皮膚、肉も柔らかい上に動きも遅い。こんな脆弱な生き物が、よく今まで生きて来られたものだと、ラプトルリーダーは感心さえしていた。
先ほどの
──何か、大きな音と眩い光。部下たちがその場から動く事もできずに、次々と屠られていく。そして、その小動物の一匹が、何故に目の前にいる!?
「フフン!! ごきげんよう! そして、お早うございます! って、これただの挨拶!! そして、さようならでしたね!……むぅ、グダグダですね。チッキショーーー!!」
そう、それでいいのだ。それが早見伊織クオリティなのだ。
タタタ!!
──だが、その妙な道具の性能は分かっている。その向けられた方向から、少々ズレればいいだけの話。
「む、この至近距離で躱した!?」
ラプトルリーダーは、多少想定外であったもの冷静さを取り戻し、その表情が凶悪なものへと変容する。
──まぁ、いい。こいつだけでも殺し、拠点に持ち帰り、新たに部隊を整えてから残りの獲物の臓物を引きずり出してやろうぞ。
不甲斐ない部下たちの死骸に、軽蔑と嫌悪の眼を向けながらラプトルリーダーは、この場に一旦見切りをつけ、伊織を仕留めてから一先ずの撤退を模索していた。
そんな中、伊織は何を思ったか、MK16をポイっとラプトルリーダーの許へと放り投げた。
『!?』
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