第51話 DMー1グランプリ
──そして、その時が訪れ、番組が生放送で始まった。
数多くの猛者たちを跳ね除け、その頂上に立つ、極限られた者たちよって繰り広げられる、まさに戦場のこの檜の大舞台。
ネタを詰め込み過ぎて、若干スベリぎみのコンビ。逆に見事にハマって、ドッカンドッカン、観覧者と日本全国のお茶の間に、笑いの坩堝を生み出していくコンビ。
各コンビの色とりどりの漫才ネタが、
「──では、次の登場はこのコンビです!どうぞ──!『風と雷』です!」
番組司会MCにより、登場を促されるトールとリディ。
ケセガンガンガンガンガンガンガンガーン! オオー! オオー! オオー!!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
「「「キャアアアアアアアアアアア!!」」」
登場出囃子のBGMと共に、番組舞台袖からゆったりと現れ出て、大きな拍手喝采と黄色い悲鳴で持て囃され、ステージ中央のスタンドマイクの許に並び立つトールとリディのコンビ。
観客席側から見て、左がリディで右がトールだ。
「こぉおんにちわぁ「やめろや、いきなり人の挨拶ネタをパクるな!」」ベシッ!!
「「「「ウハハハハハハハハハハ!!!」」」」
ネタに無いリディのアドリブだが、透かさずトールは、その後頭部をひっぱ叩く。観客の率直なこの反応を導き、出だしの掴みは、まずオーケイ。
両方ルックスがイケてるのだが、片や黒スーツに、片や美形ながらもラフなミリタリー姿。この統一感の無い絵面だけでも、観客の琴線が弄り回される。
「すません改めまして、クレインでーす!」
「ハーチェルです!」
「「二人揃って、風と雷でーす!」」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
「トール、鼻ほじれば、もっといいね」
若干の狂いは有ったものの、改めて挨拶をし直す二人に再び盛大な拍手が贈られ、何やら観覧者の中に、鼻をほじっている黒い珍妙な頭の奴が見える。
「あーまぁ、皆さん知っている人もいると思いますが、我々二人は元アメリカ軍人なんすよぉ。こいつはまず、そう見えないですけどねぇ」
「「「へええええええ!!」」」
知らなかった者が多くいたようで、驚きの反応が窺える。
「へえぇぇ」
「いや、お前の事だろ!なんで他人事みてぇな反応なんだよ!」ベシッ!!!
「「「「アハハハハハハハハハ!!」」」」
「やめろやそのドヤ顔、なんかむかつく!」
ウケた事に、テンションが高まったリディだが、もろにその表情が顔に出て、透かさずトールにつっこまれる。だが、これも計算の内だ。
「そんで二人とも、一応二つ名なんか付けら──「そう言えば、あなたの二つ名はいったい何だったかしら?」」
「かぶせんなや!最後までちゃんと聞けよ!」
「「「「アハハハハハハハ!!!」」」
「それで、クリリン」
「誰がクリリンだよ!わざとらしい言い間違いすんなよ!」
「ちっ」
「何で舌打ちした!?おま、なんつう悪りぃ顔してんだよ!」」
「「「「アハハハハハハハハハ!!!」」」」
「もう、話が進まないわね」
「お前のせいだろ!」
「それで、あなたの二つ名は何だったかしら?」
「あー、これ自分で言うのも、す──「クリリンのことかああぁぁぁぁぁ!!」」
「やかましい!!最後まで言わ──「太陽拳!!からの気円斬!!」」
「黙れ!邪魔すん──「もみじまんじゅう!!」」
「うるせーよ!何だよそれ、クリリン関係ねーだろ!!」
「「「「アハハハハハハハハハハ!!!」」」」
一応、軍人時代ネタを考え、ネタ合わせもしっかりやってきたのだが、リディの暴走。ほぼ即興のアドリブ状態だが、観客の反応は絶好調。
「まぁそんで、自分、雷神とか呼ばれてて──「怪人?」」
「うるせーよ!悪役種族か俺は!?──「隣人?」」
「それ普通に隣りのやつだろ!──「もみじまんじゅう!?」」
「やかましい!!それ、どこも掛かってねーじゃねーか!お前それ好きだなー!
気に入ってんのか!?」
「「「「アハハハハハハハハハハハ!!!」」」」
今回のネタの戦術は、話の途中でのボケのかぶせ芸。このかぶせ技は、入りのタイミングが肝である。
「だから、そのドヤ顔やめろや!ったく、そんでお前の二つ名は何だっけ?」
「フフ、聞きたいのね、この欲しがり屋さんは」
「うぜーよ!なんか腹立つな!」
「そんなに聞きたいんなら、跪いて半笑いで3回回って何かしなさい!このたわけが!」
「何かってなんだよ!?たわけはお前だよ!見返りの要求が雑過ぎだろが!!」
「「「「アハハハハハハハハハハハハハ!!!」」」」
「もう、お話にならないわね」
「お前のせいだよ!!」
「全く嘆かわしいわね」
「こっちのセリフだよ!」
「男塾塾生の名が泣くわよ!」
「知らねーっつの!どこの塾だよ!んなところ行っ──「わしが男じゅちゅ、じゅくちゅ長の江田ららじみゃ──」」
「ちゃんと言えや、噛みすぎだろ!」バチィン!!
「「「「アハハハハハハハハハハハハ!!!」」」」
この計算なのか天然なのか。未だに掴めてない暴走ボケエルフに、必死に食らいつき、際どいステアリング操作と、アクセルワークが要求されるトール。
しかし、それがしっかり反映され、がっつり客の心を鷲掴みにしたようだ。
打てば響くレスポンスに、二人のテンションも爆走。そのアクセルペダルをベタ踏みしてゆく。
だが、ネタの制限時間も考慮せねばならず、冷静さを失ってはいけない。
「それで、なんの話をしていたのかしら?」
「お前の散らかし過ぎで、わけわかめだよ!」
「そうそう、男塾名物の話だったわよね」
「してねーよ!お前の二つ名の話だろうが!」
「そうだったかしら?あなた死ねばいいのに」
「やかましい!いきなり怖ぇよ、このサイコパス娘は!!」
「「「「アハハハハハハハハハハハハ!!!」」」」
「あーもういいよ。俺から言うっ、だーっ!って、いきなり目を突いてくるな!
危ねぇだろ!」
「なんか付いてたみたいだから」
「目だよ!それ俺の目だから!付いてただけに突いてみたとか、シャレにならねーから!だから、ドヤ顔すんな!なんか腹立つなー!」
「「「「アハハハハハハハハハハハ!!!」」」」
「あーそれで、こいつの二つ名はワルキューレって呼ば──「誰が『ワロス』かしら?草でも生やしているのかしら?」」
「だから、かぶせてくんな!『ワ』しか合ってねーじゃねーか!文字数も全然だし、どういう耳してんだよ!!」
その問いにリディは、その尖った耳を指して。
「こういう耳よ。どういう目をしているのかしら?やっぱり突いた方が──「やめろや!」」
「安心してください!この耳尖ってますから!」
「何の安心だよ!逆に危ねーよ!!人のネタ、アレンジすんなよ!」
「「「「アハハハハハハハハハハハ!!!」」」」
「まぁ、それで軍隊時代の訓練で地味にしんどいのが、早朝まだ暗いうちからの行進訓練で、延々と──「男塾名物、直進行軍!!」」
「だーっうるせー!!だから、かぶせてくんなっ──「男子たるもの曲がることは許されない!!」」
「やかましい!!ずっと周って曲がってたよ!!」
「「「「アハハハハハハハハハハハハ!!!」」」」
「あれは、大変だったわね。障害物があっても迂回することも許されず、民家があれば壁を破壊して徹底的に──」
「集団で民家破壊ってお前、それ確実にテロ組織じゃねーか!SWATチーム出動案件だよ!!ってか、やれやれとすんなや!!」
「「「「アハハハハハハハハハハハハ!!!!」」」
「もう埒が明かないわね、全く」
「俺のセリフだよ!結局二つ名の話と行進訓っ──「男塾名物、油風呂!!」」
「黙れよ!もーいいから、そう言うのは──「この油加減は不屈の根性が試される!」」
「やかましい!一々お前は、かぶ──「もみじまんじゅう!!」」
「やめろや!それ、どんだけだよ!!──「タイガあぁぁマスク!!」」
「わけ分かんねーよ!!」
「「「「アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」」」」
そろそろ制限時間も押し迫り、この辺が落としどころ。さてどうする?
「ふぅぅ…しょうがないわね」
「しょうがないのは、こっちだよ!!」
「黙りなさい。そろそろ見せた方がいいかしら?」
「あ?なんだよ急に真面目な顔をしてよ」
「私がエルフで、魔法が使えるのは周知の事よね?」
「んん?あーまぁ、そう思うけど、それがどうした?」
今までの雰囲気から一転。リディは真剣な表情で語りだし、次に何を言い出すのかと、審査員、観覧者、番組視聴者らは期待に胸を躍らす。
「私たちは、この業界では日が浅いわよね?」
「まー、そうなるな。それで?」
「だから、私たちの事をよく知ってもらう為にも、ここで魔法を使わせてもらうわ。しかも、究極のものよ」
「うおい!何をやらかす気だ!?シャレにならねーことはやめとけよ!」
「ここにいる人たちは、あの言葉知っているかしら? ‶滅びの言葉〟全ての終わりを齎す言葉よ」
「は!?あのアニメのやつか?天空の城のやつか?」
「そうよ。実際に魔法を使える私が、魔力を込めてあの言葉を唱えたら、どうなると思う?」
「は!?知らねーよ!まさか本当に「じゃあ言うわよ」」
「聞けよ!!」
そして、リディは破滅を齎すその全ての終わりの言葉を告げる。
──その言葉は。
「ワロス!!」
「やかましい!もーいい加減にしろ!」
「「「「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」」」」
「「「「ワアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!
「うわあああああん!!お母ぁさあぁぁぁぁぁぁん!!爆発するよぉぉぉぉぉ!!」
「鼻ほじれば、もっとよかったね!」
「笑止!!カ──ッカコカコカコカカカカカカカコカコ!!かーっつ!!」
そうして、盛大な笑いと拍手と共に、若干妙なのが観覧者に混じっていたようだが、最高峰の舞台での二人のネタ披露が、大盛況で終わりを迎えた。
その後に、審査員長 大物人気コンビ、ブギタウンの松永人吉。通称まっさんから大変お褒めの言葉を頂き、ご満悦のドヤ顔リディである。
「次の登場が最終組となりますが、こちらもかなりの異色のコンビ!
『ドワーフとジミーホッパー』のお二人です!」
ケセガンガンガンガンガンガンガーン!! オオー! オオー! オオー!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
「どうもっすー!!巨大なイチモツでお馴染みの──「やめなはれ!お前さんのウンコチンチンの話をするのは!」」ベチィィン!
「「「「アハハハハハハハ!!!」」」」
──そして、カオスなコンビのネタが終わり、後は結果発表を待つだけ。
この初の大舞台で、新人芸人の二人が、史上初の快挙を勝ち取ることができるのか、緊張の一瞬である。
「審査員の集計が終わりました!それでは、結果発表──!!エントリー数史上最多の6666組!この漫才頂上決戦の頂点を勝ち取ったのは、このコンビ!!」
いよいよ告げられる、その漫才最高峰、頂点のコンビの名は?
「20xx年、今年のDMー1グランプリ、優勝者は──!!」
「──おい!」
「……ん?」
「おーコラっ、リディ、いつまで寝腐ってんだよ!もうじき着くぞ!つか、なんで半笑いなんだよ。どんだけおもしれー夢見てんだ!」
「んー…、もう到着…?」
リディは、大分寝入ってしまったようで、トールに起こされて状況を思い返す。
辺りを見渡せば、そこは兵員輸送用航空機「MV-228オプスレイ」兵員室の中。
機体に沿った、向かい合う並びの座席の一つで、リディはガッツリ爆睡していた。
その状況は「ニューヨーク怪異騒動事件」の直後。ギルドからの依頼で、次なる目的地のメキシコに向かう途中であったのを、リディは、まだ虚ろながらも思い出した。
「……なんか楽しい夢を見ていたようだけど、全く思い出せないわね」
「は?呑気か!どんな夢だよ!」
「………ん~~…」
リディは、トールの問いから、その夢の内容を何とか思い出そうと、記憶の海を泳ぎ、僅か小さな破片を手繰り寄せる。
「油風呂?」
「なんのことだよ!!」
番外編 完
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