番外編

第50話 風と雷


 20xx年、東京某キーテレビ局内、特設インタビュー用セットそば。


 そこで現在、何らかの撮影が行われ、誰かをインタビューするのであろう。

 まずは、茶髪ロングヘアー、女性レポーターの自己紹介から始まる。


「こぉんにぃちわぁぁぁあ!!うるせーな!って、自分でツッこんでますでのお馴染み。早見伊織でごぜぇだす!ます!どす!」


 明らかに、某ニシキなコイの挨拶ネタを、堂々とパクっている現在26歳。一見クールビューティの帰国子女。ぶっ壊れキャラの「早見伊織」。


 彼女は、某キー局のニューヨーク支局特派員として勤めていたが退職。

 現在は、バラエティ専門タレントとして活動。そのぶっ壊れ性能、天然キャラは多くの需要を得ており、かなりの人気を博している。


 彼女は、嘗て多数の犠牲者を生んだ「ニューヨーク怪異騒動事件」の当事者であり、現地報道レポーターであった。

 その勇猛果敢さとは相反し、ポンコツレポートぶりが逆にウケ、多くの支持を得てから現在の地位を獲得していたのだ。


「はいぃ!今年もやって参りますた!年に一度のお笑いの祭典。漫才の最高峰を決める大一番の舞台!ドリーム漫才、DMー1グランプリーの季節であーるるぅぅ!」


 某若本氏の語尾口調を模倣しつつ、自信に満ち溢れた冒頭挨拶を披露。

 

「ニューヨーク怪異騒動事件」当時は、英語圏生活が長かった為、日本語がかなり散らかっていたが、現在は、その散らかり具合を、逆にキャラ作りに有効活用するなど、中々のしたたかさを見せている。


「今年は‶異世界から〟の参加者も増え、史上最多の6666組からのエントリー!って、数字がクソやべぇな!という訳でして、その並みいる強敵たちを押し退け、勝ち上がって来た猛者たちが出揃い。今日、その頂点を決める、決勝の舞台が整いましたでやんす!!」


 どう言う事の流れなのか。すでに、異世界人の存在が周知されるどころか、むしろ大分溶け込み、居るのが当たり前の常識と化していた。


「そして、結成1年目の新人であるにも関わらず、この大舞台へと駆け上がりました現在人気爆上がり中! バズリ大量生産のコンボ、いや、ユンボのお二人です!それでは、その意気込みを、お二人に聞いてみましょう!人気お笑いコンビ『風と雷』でしゅ!!」


「コンビだろ!誰がユンボだ、そんな建設用の重機車両じゃねーよ!」


 早見の紹介により、番組ロゴが散りばめられた背景用ボード前に立つ、二人の男女。早速、早見の言い間違いボケにツッこむ男。


「おっと、流石ツッコミが早いですねぇ!では、まず男性の方から紹介しましょう!このツッコミ担当のクソラーメンの方は」

「なんだクソラーメンって? ただの不味いラーメンじゃねーか!人の紹介じゃねーだろ!」


「はい!ありがとうごぜぇます!このクソイケメンの方は、結成以前からアクション俳優としても人気活躍中。初見の猛獣からでも懐かれ体質! 動物番組でも引っ張りダコ!ご存じ‶クレイン〟さんでごわす!」

「どういう語尾だよ!」


 ここでも謎の流れ。何故か日本の芸能界デビューをしている黒スーツ姿の男は、

「トール」である。

 

 トールは、その類まれな運動性能を活かし、スタントマン無しで数々の危険なアクションをこなせて、そのビジュアルから多くのアクション映画、ドラマ出演で活躍。

 更に、飼育係さえ恐れる猛獣らと、いきなり絡み懐かれ、キレのあるツッコミから、各動物番組のオファーが絶えない。その人気ぶりは、老若男女動物問わず、かなりの支持を得ていた。


 当初は、と共にお笑い芸人になるべく、オーディションを受けていたはずが別のベクトルが働き、紆余曲折しながらも、ようやくコンビを結成。


「そして、その相方!う~んマンダム。相変わらずお美しいかぎりですねぇ!このクソ美貌の持ち主は、現在モデルでも活躍しており、数々の雑誌の表紙を飾っております。おまけに次期冬季五輪、フィギュアスケート金メダル筆頭候補である氷の妖精。ハイエルフ種族の‶リディ.ハーチェル〟さんでそん!」


 トールの相方として紹介されたのは、普通にその尖った耳を表に出し、異世界出身のハイエルフとして周知されている。何故かデザート迷彩ミリタリーパンツに、カーキ色のTシャツ姿、軍人時代そのままの装いのリディである。


 リディは、その幻想そのものの容姿から、モデル業界から契約オファーが殺到。そこから各雑誌の撮影に、なんちゃらコレクション。日本だけに留まらず、米国、欧州にも出向き、日々大忙しで駆けずり回っているようだ。


 更にその合間に、フィギュアスケートにも取り組んでおり、前人未踏技を次々と量産して、世界中からその動向を注目されていた。

 その人気度は、こちらも老若男女問わず世界中にファンを獲得しており、世界レベルでの人気ぶり。


 この超異色の組み合わせが、いきなりのお笑いコンビを結成した事により、芸能界は大騒ぎとなった。しかも、その頂点を争うこの大舞台に上り詰めた事で、その注目度はクソぱねぇ状態である。


「それで、何やらお二人は熱愛の噂が囁かれていますが、その辺のところは、どうなっているんざましょ?爆発すればいいのに」

「うるせーよ!」

「実は、もうすでに一部分だけ爆発しちゃったとか!?」

「下品だなおい!!」


 早見の質問中の下世話ボケに、しっかりツッコミを刻んでいくトール。


 そして「ハハハハハハハハハハハ!!」と、撮影スタッフの笑い声。


「あー、そんなんじゃないっすよ。ただの腐れ縁の関係ってやつです」


「ほう、なるほどー!つまりは、腐れきったイカれた愛の関係であると?」

「どんな解釈だよ!んな、ズブズブの関係じゃねーよ!」


「ハハハハハハッハハッハハハ!!」と、スタッフの笑い声。


「……一部で爆発して腐る現象…それってVXガスのことかしら?化学兵器なら」

「黙れよ!お前まで物騒なイカれた解釈してんじゃねーよ!」


「ハハハハハハハッハッハハハハ!!」と、スタッフの笑い声。


 この段階で、すでに番組視聴者の方のお茶の間も温まり、本番への期待に胸を高めているようだ。


「はい、分かりもうしたでごわす!」

「今のやり取りで、何が分かったんだよ!そして語尾!」


「では、ハーチェルさん!決勝の意気込みを、番組ご覧の視聴者のクソヤローどもに」

「言い方!」

「お伝えできまそか でしょうか ますか そうすか!」

「散らかりすぎだろ!」


「ハハハハハハハハハハ!!」と、スタッフの笑い声。


 早見の散らかりの合間にツッコミが入りつつ、そのインタビューの問いはリディに向けられた。


「ん~~、やったるでー! で、いいのかしら? ん~もう一回? やったるでー!」

「二回も言うな!雑過ぎるだろ、その意気込みは!つか、ドヤ顔でこっちの顔を窺うなよ!」


「ハハッハハハッハッハ!!」と、スタッフの笑い声。


「……分かりました!では、クレインさんのコメントも伺ってみまそう!決勝に向けての今のお気持ちはどーよ?」

「聞き方!」


「あー、自分もこんなに早く、こんな大舞台で」

「もみじまんじゅうっ!!」

「うるせー!いいからそう言うのは、邪魔すんなよ!で、なんだっけ?あーそう、それでネタの方ですけど、大分練っ」

「タイガぁぁマスク!タイガぁぁステップ!」

「だーうるせー!だから、やめろや!わけの分からねぇ茶々を入れてくんなよ!」 


「アハハハハハハハハハハハ!!」と、スタッフの笑い声。


「なるほど!流石は激戦を、勝ち上がってきただけの事はありますね。全く緊張の色は見られず、すでに臨戦態勢は整っているご様子でやんす!」

「その語尾!」


 特に誰かを笑わせようと思っていなかった二人は、こんなやり取りを、軍人時代から腐るほど繰り返していた。下手にネタなどを考えずに、普段の日常会話を見せるだけで、十分イケるのではと思わせる、息の合いようである。


「ありがとうごぜぇした!頑張ってくだせい!」

「いつの時代だ!」

「以上『風と雷』のお二人でやんした!続きまして紹介するのは──」


 そうして、番組決勝前のインタビューを終え、消化不良のトールとなぜか満足気のリディは、背景ボードの脇にはけ、次の決勝出場コンビが、その場に緊張感露わに、ガクブルで立つのであった。




 ──そして、その時が訪れ、番組が生放送で始まった。

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