第47話 奥義 二ノ型 口上泡車
「だぁ、クソ!また来やがった!今度は更に数が多いぞ!!」
「GO!GO!GO!GO!撃て撃て!!弾数の事もあるからな!無駄弾は減らして、確実に当てていけよ!!」
「ハハ!クソ虫が幾ら沸いてきたところで結果は同じだろ!」
「フォーメーションは崩すな!そのまま確実に各個撃破しろ!」
「かーこいつらか!!動いてるところは更にきめぇな!!」
「動きがトリッキーだから気を付けろよ!落ち着いてやれば、仕留めるのはそう難しくはない!!」
ダッダダッダダダダダダダダダ!!!
そうこうしている内に、わらわらと新たに現れ出た、十体以上のキモ生物集団。
その壁や天井を、昆虫が如くぬるぬる動き回る異様さは、まさに恐怖そのもの。
4本腕の一対の手は、歪ながらも人の手に近い5本指であるが、もう一対の手は4本の長い鉤爪。二本脚の形は人に近いが、関節の可動域が昆虫のようで、酷く異様な動きをしている。
その足の形自体は、少し長めの人のものと変わらないが、足の両脇からムカデのような幾多の鉤足が生えており、それらを駆使して壁や天井を、立体的に自由な動きを可能としている。
身体は赤黒く酷く筋張っており、生物らしからぬ硬質な質感。背骨がごつごつと浮き出ている。
頭部は、旧式タイプの軍用ヘルメット宛らの形状。眼らしきものは見当たらず、超音波を発し、コウモリのようなソナー能力にて空間状況を知覚。
口は昆虫のような横開きと、内側に人の口のような縦開きの二重構造の形状。
歯の形も人に近いが、長めの金属のような質感。
ダダダダダダッダダダダ!!!!
この異様な状況にも、冷静に受け止めているデブグルチームは、ティア1の序列に恥じない勇猛果敢さを見せる。
前列4人がしゃがみ、後列が立って撃つ、2列の「Fireteam Line 横隊」フォーメーションにて、洞窟形状に合わせた前方への隙間の無い射界形成。
「フフ、流石ね…それじゃあ、皆の負担を少し楽にしてあげるわ」
そう小声で呟き、詠唱を唱え始めるリディ。
「──術式メインルーチン起動展開。及び術式陣隠蔽術発動、プロトコルコード エレメンタル」
すると、天然の
周囲に風が吹き始め、精鋭たちの方へ集まる。
「ん?…なんだこの風は…?まぁいいか。今はそれどころではない!」
突然、坑道洞窟内のこんな奥地で、風が吹き始めた事に疑問に思う精鋭たちだが、そんなことを気にしている状況ではない。
「インタプリタ実行 顕現ソースコード シルフェ。カテゴリー リーンフォースメント 対象8…発動レベル1【
詠唱終了と共に、精鋭たちが持つ「MK18」銃口付近に風が集束。高速螺旋回転を始めた。
ヒュィィイイイン──ダウン!!ダウン!!ダウン!!
「ギャイ!!」ビチャ!!
「ギギヒッ!!」グシュ!!
「ギョア!!」ボシュ!!
「「「!!!!」」」
「な!?急に音が…銃弾の威力が!?」
今まで一体仕留めるのにも、そこそこの弾数を要した怪物らが、1発1発ごとに着弾箇所が大きく弾け飛び、容易に致命していく。
硬質頭部も爆ぜさせながら、体内をのたうち回り貫通。更に後続の次なる個体に弾丸は襲い掛かる。
余りの威力上昇に怪物を貫通後、地面や壁、天井を大きく抉り、崩落の危険も注意しなければならない。
「……助かるんだが、いったい何がどうなってんだ!?」
「何だかわからねーけど、これで弾数がかなり節約できる!オラオラオラオラオラ!もっと来いやー!!」
「ヒャッハー!!こいつは爽快だぜ!FPS気分だな!!」
「あーたたたたたたたたたたた!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!ヒ──ハ──!!!」
「貧弱貧弱ぅぅ!!このビチグソどもがぁぁ!!」
「フフ、楽しそうで良かったわね…私も叫んだ方がいいのかしら?…ヒヒヒハハハ…ダメだわ。難しいわね…」
精鋭たちが持つ「MK18」の威力は、対物ライフルをも超える「アサルト ウインドレールガン」と化し、次々と怪物らを屠っていく。
ジョジョにコンバットハイに至った精鋭たち。その快楽に酔いしれ、世紀末救世主ヒャッハー。カーニバル&フェスティバル状態。
「ギャギャギャギャギャイイ!!!」
怪物らも、一応知能があるようだ。次々と容易に屠られていく仲間の状況に、流石に不味いと思ったのか、リーダーと思われる個体の一声と共に引き始めた。
「奴ら引いたのか…?」
「……そうみたいだな。奴らビビったようだな」
「ハッ!チキン野郎が、見た目だけのこけ脅しだな、ビチグソどもめ!」
「はい雑魚乙ぅぅぅ!」
「お前らはもう、すでに死んでいる」
「屁のつっぱりはいらんですよ!」
「フッ。またつまらぬものを撃ってしまった……」
「あ~~ばよ!とっつぁあぁあああああん!!」
「「「ウエ~~イ!! ヘイっ!!ちぇっちぇっ、こりぃぃ、ちぇっこりぃぃぃ!!」」」
「ん~~んマンダム!」
リカオンチームは、リディの謎な助力の事などつゆ知らずに、何やらなキメ台詞でイキリまくる。
横並びに肩を組合いながら、そこにノリノリのリディも加わり、昔のヒップダンスを披露するなど、各々勝利に沸き立つティア1 精鋭らであった。
「どこのチームだ!? 歌っている奴らがいるぞ! 遊んでいるのか!?」
そして同時刻。デルタフォース「ジャッカル1」チームも怪物たちとの激しい戦闘を行っていた。
ダダダダダダダダダダダダダ!!!!
『ンギャオ!!ギャイギャイ!!』
「イゴーリ、そっち行ったぞ!!天井の奴に気をつけろ!!」
ダダダダダダ!!
その声に反応し、天井を素早く駆ける一体にイゴーリは「Mk16」の5.56mm弾を撃ちまくるが、仕留め切れずに飛び掛かってきた。
その一体は、空中で半回転。鋭く大きい4本爪をイゴーリに向け振り下ろす。
「ふん!!手の込んだトリックを!!」
バキ!!!バン!!!
イゴーリは、その爪撃を身体を横に、紙一重で躱し、剛腕によるカウンター。
頭部にチョッピングライトでの拳打を打ち込み、その一体を地面に激しく叩き落とす。
ドン!!!グシャ!!
そして、身体を起こしかけたその一体の硬い頭部を、今度は剛脚で踏み潰す。
脳漿が飛び散り、息の根が完全に止まる。
「笑止!!テロリストどもめ!そんなしょうもない子供騙しのコスプレで、このイゴーリ様を惑わそうなど片腹痛いわ!!カーッカコカコカカカカカ!!」
怪物の存在を、未だに認めてない超強固な偏見の塊。イゴーリのクセ強めな高笑いと共にこちらの戦闘が終わり、無事に勝利を迎えた。
「あー、他も大丈夫そうだな。しかし、あのサイコパス娘……また、なんか妙な事をしやがったな……」
各チームやリディらの状況を、朧気ながらも感知していたトールは、洞窟要塞入口付近で訝し気についぞ呟く。
「なんか、変化でもあったんすか?」
「……いや、まぁとりあえずの脅威は、駆除できたみたいだよ」
「「「おおおおー!!」」」
その状況はよく分からないが、トールの謎管制システムにより、一先ずの危険は去ったと知り、部下たちは笑顔を取り戻す。
ピガッ
『ブッシュドッグ1 アンノウン排除! 被害は軽傷程度。戦死者ゼロ!』ガッ
『ジャッカル1 この場の脅威は排除完了!皆無事だ!』ガッ
『グレイフォックス1だ!チーム3もチーム2と合流により、無事にアンノウンを駆除!引き続き警戒を続ける』ガッ
『リカオン1だ!こちらもチーム2が合流し排除に成功。一旦弾薬の補給が必要』ガッ
流石は屈指の精鋭部隊と言ったところか。次々と挙がる戦勝報告に、各部隊の兵士たちは、ほっと胸を撫で下ろす。
「ふうぅ……一先ずは無事に事を収めたようだな。だが、油断はできんな…とりあえずは仕切り直しだ」
前線指揮車両内、コンロン中佐は一息をつき、これからの作戦を模索し始める。場合によっては、撤退も考慮しなければならない。
まだ、脅威は完全に去ったわけではない。今戦っていたのは、単なる前哨部隊。
本隊は、その下にいるに違いない。これからが本戦だ。
「よし!!まずは、今の戦闘によって弾薬を消費したチームらを、補給や負傷手当ての為、一旦外に上げさせろ!海兵隊の弾薬補給用、兵站チームの用意!それと、各チーム編成の変更だ!4人1チームから6人編成に切り替えさせ、他の準備ができるまで、その場で警戒待機! 各チームが離れすぎないよう、全隊に通達せよ!」
「「「イエッサー」」」
コンロン中佐の指揮により、司令部各官は、各段取りに取り急ぎかかる。
事は大きく様相を変え、テロリストの排除からモンスター駆除へと切り替わり、作戦の行く末が混迷と化す。
皮肉にも【アリの巣コロリ作戦】は、その作戦名通り。見た目的には別物だが、アリが如き生体駆除作戦へとなり替わった。
そして、夜が明け始めた頃。空はどんよりと重い雲に覆われ薄暗い中、仕切り直しの準備を終えた部隊が、各進入ポイント前に勢揃い。
坑道洞窟内にも、いくつかのチームが今度は6マンセル編成で待機。次なる戦闘に備え、意識を集中し士気を高めている。
標的の異様な姿、動きにも慣れた。もう戸惑うことは無い。ただ屠るのみ。
遭遇していない者も、打ち合わせの間にタブレット端末による録画映像で、情報は把握済み。
さぁ、モンスター討伐に向けた、ダンジョンレイドバトルの開始と征こうか。
「米特殊部隊VS未知の地下モンスター」どこぞのB級映画にありそうなタイトルだが、これは現実の戦い。
では、始めよう。
「ブルルルルルルル!!なーなー! よよよヨガ、あ、だめだもう一度! ハッ!ハッ!!もういっちょハッ!!波動拳!波動拳!昇竜拳!竜巻旋風脚!!よーし、いい感じだぞ!いざファイっ!!」
何やら、指揮車両内から謎なルーティーンが聞こえている。
その者にとっては、大事な事なので好きにさせておこう。
真なる合戦開始の陣鐘を打つべく、今度は万全。コンロン中佐の口上が、改めて告げられる。
『さぁ、準備はいいかぁ、ロックアーティストたちよ!!野外フェスの時間だ!
穴倉ホール会場にいるオーディエンスたちに、その魂を震わす音色と歌声で、二度と立ち上がれないよう、ハートの芯まで痺れさせてやれ!!』
今度は明瞭。口の両端に泡を溜めながら、コンロン中佐は、饒舌なライブパフォーマンスの如く、作戦全部隊の士気を煽り高めてゆく。
『刻むぜビート!震えるぞハート!燃え尽きるほどヒ──ト!!さぁ、ロックンロールだ!シャウトをキメろ!その熱い想いを、存分に響き聴かせてくれ!!』
これぞ、ボーマンイズムの門外不出の奥義の一つ。水の呼吸二ノ型【
──そして、一拍おいてからの。
『
コンロン中佐は、ジョジョなキメ台詞を入れつつ、エックスなハイトーンボイスによるシャウト。精鋭たちは二度目の突入を、士気高らかに開始する。
ここで、あのXな名曲の胸熱な伴奏が流れるか、もしくは「紅」繋がりで、あの超絶ヒットアニメのOP曲、イントロが流れれば最高極まるが、そんな演出はここではあり得ない。
──完璧だ!俺はキメたぞ!やったぜ母ちゃん、明日はホームランだ!!
今度は噛まずによく言えた!頑張った! 名誉挽回を果たしたコンロン中佐は、目を血走らせ見開き、鼻息荒く口泡ぐじゅぐじゅ。ドヤ顔のトランス顔で、ご満悦のご様子だ。
傍にいた各情報官らも「よくやった!感動した!」と、感涙。何度も無言で頷き、感無量。感慨に浸っているようであった。
そして、嵐吹くこのアフガンの地が兵士たちを抱き、獲物を紅色に染めるべく、次々と突入していく、ロックアーティストたる精鋭コマンド部隊。
──だがしかし、ここで更なる異変が生じ始める。
ボオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
空は、血を帯びたような赤黒い雲に覆われ、ロック否定派と言わんばかりに、鈍く重い不気味な音色が、大きく鳴り響く。
アフガニスタン北東 山岳地帯の一帯に、天使のラッパが吹き鳴らされたのだ。
アポカリプティックサウンド【終末の音】が……。
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