第43話 怒りのアフガン


『こいつら外道どもは、ここで……一般人を‶拷問処刑‶していたようだ』ガッ


「「「「!!!」」」」


 中は夥しい血の跡。複数の裸にされた無残な遺体が、乱雑に放置されていた。


 横たわる一人は男。身体中至る所に殴打された痕、両手を後ろで結束バンドで拘束され、指が全て切断されている。頭部は、ずた袋を被せられ、その遺体そばに切り離され転がっている。

 もう一人は女性。こちらは惨たらしく四肢が切断され、頭部には電動ドリルで穿たれたような穴が開いている。

 他二人は、おそらく兄弟であろう、子供の遺体。一人は頭部に複数の貫通銃創の痕。もう一人は頭部を切断されていた。


 更に、今まで気づかなかったが、建物そばの集落中央広場。そこには性別不明の二体の丸焦げ、焼死体が放置されていた。

 その遺体そばの地面には、炭化した木の杭らしき根本部分が見えている。

 おそらく、その木杭に縛られた状態で、生きたまま焼かれたのであろう。その焼死体は、苦悶の表情を浮かべた状態で、こと切れた様子が窺える。


 相当苦しんだであろう。何んの為に何をして彼ら彼女らは、このような惨たらしい目に合わなければならなかったのか……。


「……まぁ推測だが、テロ組織に不利な情報を米軍関係者に密告して、それがバレて、その家族ごと制裁が下されたってところだろうな…身柄の保護とかすればいいものを…惨い話だな…」


 そう、仮にでは無かったのだ。


 実際に、ここでおぞましい悪魔の所業が行われていたのである。


 今、目にしているものは氷山の一角。おそらく、このような事は頻繁に行われていた事が容易に想像できる。


 イナバから声を震わせながら、その胸くそ悪い事の状況を聞いた精鋭たちは、いずれも険しい表情と共に、激しい怒りを露わにしていた。


「こいつらの血は何色だ?」


 ──怒り心頭。


 怒髪天を衝く憤怒の強い怒りが、彼ら狂暴な猛獣たちの血に、激しい業火のほむらを焚きつけた。


 

 ──許すまじ。


『ジャッカル1-1より各自へ。ここからは音の事は気にせず、遠慮なく好きにしろ。徹底的に苦しめて、一匹残さず、因果応報と言う言葉の意味を、念入りに教えてやれ』ガッ


 ジャッカルチームのベアード少佐の令より、その鎖の手綱は切り離された。

 獣たちは、その凶悪で鋭利な牙と爪を開放すべく、フェイスマスクの中で獰猛な笑みを浮かべる。獣の中には、イゴーリ上級准尉の姿も見られ、鬼のような憤怒の表情。


 この建物担当のジャッカル、コヨーテ 4マンセル 2チーム8名は、各階入口前で、戦術無線でのGOサインを待ち構えている。

 中にいる外道たちは、何が可笑しいのか、下卑た胸クそな笑いを零し、今から降りかかる厄災の事など夢にも思っていない様子。



 ──そして、解き放たれる。


『喰らえ!!』


 ドン!!


 ガシャン!!ガシャン!!


 多少の音が出ても、もう関係ない。各チームは躊躇せずにドアを乱暴に蹴り開け、ガラス窓をぶち破り突入。


「(なっ!?なんだ!?)」


 ザシュザスザシュザス、ザシュシュシュ!ザシュ!!


「(んぎああああああああああああっ!!)」


 ザスザスザスザス!!ゴリュゴリュ!バシュー!!


「(ぐああああああ!!や、やめ!あぎゃぎゃああ!!)」


 ザシュ!!ドシュドシュ!!グボホッ!!


「(んがああ!あが!あが!あが!ぎゃあああああ!!)」


 突然、各ドアや窓から突入してきた黒い獣の群に、鬼畜テロリストたちは、対処する間もなく、ナイフで顔面、眼球、心臓、腹部など、至る所をめった刺しに切り刻まれ、次々と苦しみ悶え絶命。


 バギボギ!!ボゴ!!ゴリゴリ!!バキン!!


 ドドドドドドドドドドドドドドド!!!


「オラオラオラオラオラオラオラ!!貧弱貧弱ぅぅぅっ!!」


「(あいや!!いががあぐ!あべしいぃぃぃ!!)」

「(ぶふぉぉ!あおぼふほ!!ひでぶぅぅぅ!!)」


 イゴーリは、徒手による剛腕で、獲物の腕や首をへし折り、殴打連打で顔面陥没。脳が押し潰された、歪な変死体を造りだしていた。


「カーッカコカコカカカ!!笑止!この腐れ外道どもめ!その数々の非道な行いは死しても償いきれん!後の分は、たっぷりと地獄でその罪を贖え!」


 二階ではイナバの姿もあり、こちらも徒手による攻撃。多少は『気』を使えるようで、その『気』による技を見せる。


「せいやあっ!!──ちぇすとおおおおおおおお!!」


 飛び上がって起きた敵兵の水月へと【裏当て】を放つ。臓器を大きく損傷させられ、その強烈な激痛に悶え、下がった後頭部首元に手刀にて頚椎をへし折り、二撃で絶命させた。


 否、正確には三撃。空手道の奥義である【裏当て】は、一撃目を軽く当て、同じ個所に、強力なニ撃目を瞬時に撃つという技である。

 イナバはそれに『気』を練り込み、トールのようにとまででは無いが、それに近い【浸透剄】の【発剄技】に至っていた。


 そうして、地獄の猟犬ケルベロスと化した獣たちにより、悪鬼羅刹 鬼畜らの阿鼻叫喚、地獄絵図が描かれていった。



「クリアだ。喰い残しは無いな? 皆お疲れ様!」


 そして、この前哨敵拠点、全ての脅威が駆逐され、完全制圧が成された。


「ジャッカル1-1よりドッグハウス。オブジェ4オールクリア。LZポイントアルファ確保オーバー」ガッ


『こちらドッグハウス。ジャッカル、コヨーテ共にご苦労。すでにこちらも移動を始め、間もなく合流する。追加のチームもHQを立ち、ヘリにてそちらへと向かっている。全て到着するまで、ジャッカルとコヨーテは、そのまま警戒は怠らずに待機せよ!ブレイクオーバー』ガッ


「ラジャー。ジャッカル1-1アウト」ガッ


 ベアード少佐により、戦術通信にて前線司令部へと作戦クリア報告。そこから基地司令部へとも連絡がなされ、順調に作戦は進められた。



 その後、続々と後続の部隊が、各車両やヘリにて到着。


 海兵隊らはこの地を一時的な前線司令拠点とすべく慌ただしく動き、各建物の掃除や、各物資の搬入に当たっている。


 前線司令部における各通信やモニター設備は、元々指揮車両である「ストライカーCV型」に搭載されている為、集落の建物は、武器、弾薬等など、各物資の臨時の倉庫代わり及び、兵士らの待機場所や救護施設として運用使用。


 先行作戦部隊の不測の事態に備えていた、海兵隊特殊作戦部隊「マリーンレイダース」も、次なる作戦フェイズに向け、各チェックを念入りに行っていた。


 兵員輸送用ヘリ「UH-1Yヴェノム」や「CH-47チヌーク」からは、「グリーンベレー」「ネイビーシールズ」「デブグル」「CST女性特殊部隊」など、名だたる精鋭部隊が次々と到着。

 それから、各チームの指揮官が集まり、配置場所や進入ルート、連携の再確認の打ち合わせをしている。


 その中には【ワルキューレ】『戦闘狂サイコパス娘』こと、リディの姿も見られ、他のチームリーダーの打ち合わせ内容を、無言で頷きながら確認している。


 そうして、前線司令拠点が築かれ、周辺車道には各車両、兵員輸送ヘリが、所狭しと並んでいる。その周囲を、約300名もの米兵士たちが駆け回り、物々しい雰囲気が刻々とこの場を満たしていった。


 尚、敵兵の各遺体は、黒いシートに包まれ、この集落の隅の空き地に埋葬されている。

 例え敵であったとしても、従軍聖職者によって祈りが捧げられて、質素ながらも、しっかり葬られている光景が見られる。


 どこぞの大国の法治国家ならぬ、蛮行も、それら行為による遺体も、国家とはえらい違いだ。


 そして、制裁を受けたと思われる家族の遺体は、一旦基地に移送され、身元調査の上で、然るべき墓地にて丁重に埋葬される予定だ。



 ピガッ


『ウルフ1-1よりドッグハウス。現在ラストオブジェを確認、オールグリーン

オーバー』ガッ


 作戦フェイズ2終了後に、即座に最終目標ポイントへ向かい、敵拠点周辺の偵察を行っていたリーコン隊 コールサイン「ウルフ」。状況は良好のようだ。


「ウルフチームより通信入りました!オールグリーン。状況オーケイです!コンロン中佐!」


 その報告を受けた司令通信担当士官により、指揮車両の外に出ていた前線司令のコンロン中佐へと通達される。中佐の前には、各隊の指揮官が集められていた。


「よし!舞台は整ったぞ!それでは、これより本作戦は最終フェイズへと移行する!各隊、各配置場所へと速やかに移動を開始せよ!その後は存分に暴れまくって、テロリストどもをこの世界から根絶やしにしろ!!」


「「「「イエッサー!!」」」」



 こうして、【アリの巣コロリ作戦】は最終局面へと移行するのであった。


 敵要塞拠点周辺の森の中、6か所ある突入ポイントの一つ、最も大きな洞窟開口部を遠巻きに散開。木々の間から、喰らうべき獲物たちの様子を見据える狼たち。

 フォースリーコン、ウルフチームの面々だ。


「向こうは、手はず通りに事が動いているようっすね」


 遠くで、複数のヘリの飛行音が聞こえ、順調そうな作戦運びを思い描き、ジミーホッパー二等軍曹は、チームリーダーであるトールに同意見を求め聞いている。


「あー、まぁそのようだな…」


「ん?どうしたんすか?怪訝そうな顔をして」


 同意は得ているようだが、言葉とは裏腹にトールはその逆の反応を見せている。


「トール、ウンチしたいんだね。見ててあげるから構わずしていいね。さーどぞどぞ」

「やかましい!どぞどぞじゃねーよ、なんで見る前提なんだよ!手を添えるな!  つか、クソがしてぇわけじゃねーよ!このクソッコリー!」

 

 その傍には【黒ブロッコリー】の異名?を持つ下品の塊、ダドリー専任曹長の姿も見られる。

 わざわざ、戦闘用グローブを外し、相変わらず鼻ほじりが、やめられない止まらないの大好きぶりだ。


 ウルフチームは、現在この周辺に全員揃っている為、わりと自由な配置状況。

強襲する際には、あらかじめ決めてある、各チーム編成に分かれると言うスタンス。


「ダドリー曹長、相変わらず鼻ほじりまくってますねぇ。いいっすねぇ!因みに左右どっちをほじるのが好きなんすか?」

「ん──、やっぱり右の方かなぁ。とてもいい感じなんだよねぇ」

「やっぱ右かぁ。分かるっすよその気持ち、例えるなら座薬をケツにぶち込まれて、そのまま船のマストにされてる感じなんすよねぇ」

「そうなの? じゃあ、この鼻クソを君に上げるよ」

「今はいらないっす。後でもらいます」


「あーやめろや!なんの話をしてんだお前ら!?その「やっぱり」の意味も分からねーし、その例えもやり取りも何一つ分からねーよ!!」


 この理路混沌な小ボケ二人によって、ここまで順調に進められたシリアスモードがサクッと儚くぶち壊される。


 ピガッ


『ウルフ1-1より3-1 ツッコミがうるさい。敵にバレるぞオーバー』ガッ


『さーせん オーバー』ガッ 


 結構ツッコミに力が入っていたようで、ラーナー大尉に戦術無線にて叱られ、素直に謝るトール。実に不本意である。


「で、話戻りますけど、何かあるんすか?クレイン上級曹長」


 黒ブロッコリーの邪魔が入ったが、中々の演者回しが上手いMCの如く、ジミーは再び話の本筋に引き戻す。


「……いや、なぁ…今、拠点内の状況の…んーなんつったらいいのかな、気配を探っているんだがなぁ……」


「ちょっと、何言ってるか分からないっすけど、続けてどうぞ」


 『気』の探知レーダー波を飛ばし、敵要塞拠点内部を探っていたところ、異変を感じたトール。

 だが、はっきりとした状況はつかめず、推測の状況を躊躇いながら告げる。



「……あいつら、奥で‶何か〟と戦ってるぞ」



「「はっ!?」」

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