第42話 作戦フェイズ3
【アリの巣コロリ作戦】はサードフェイズへと移行。セクター2森林地域の中央部の大きく開けた場所。
そこには、アフガニスタン一般家屋サイズ。無骨な荒いセメント造りの建物が、数軒点在していた。
そのほとんどが平屋建てだが、中央には一軒だけ強固そうな2階建ての建物が建てられている。
そこは一見、小さな集落にも見えるが、武装テロ組織の前哨拠点。二階建ての建物は、本部建物であろうことが窺える。
拠点集落の周囲には、幾つもの木の杭が打ち立てられており、それらを支点に有刺鉄線が巻かれ、集落を塀のように囲っている。
大型車両一台分が通れそうな表と、裏手の出入り口と思われる箇所には2名ずつの歩哨が立っているが、やる気も無さげに暇を持て余している様子だ。
しかし、仮に一般人がそこへ迷い込んだら、二度と帰る事はできない悪魔の巣窟とも思える所業がその身に降りかかるであろう。
だが、その悪魔の巣窟を見据える獰猛な獣たち。その眼は爛々と怪しく光り、拠点周囲を包囲していた。
獲物を狩るべく前哨拠点を包囲していたのは、アメリカ陸軍最強の特殊部隊、通称『デルタフォース』と、それに追従する『第75レンジャー連隊』の夜襲専門の特殊部隊。
コールサインは「ジャッカル」と「コヨーテ」。狂暴な獣たちの呼び名には、まさに相応しいコール名だ。
ジャッカルチーム12名、コヨーテチーム12名、計24名。特殊部隊では中隊規模に当たる。
いずれも、
尚、視界不明瞭時のフレンドリーファイア防止策だが、味方識別用に「赤外線マーカー、ビーコン」がボディアーマーの左肩付近部に取り付けられている。
サイズは3cmx1.8cmx1.5cm。スケルトンケース内に電子回路盤が入った風な見た目だ。
この識別マーカーは肉眼では見えず、NVG使用時にストロボ点灯が確認できる装置だ。
現在グリーン色の暗視視界では、各獣たちの左肩部から怪しい点滅の光が見えている。
そして、各平屋建ての家屋内には、精々2から3人ほどの敵兵が居座り、明かりは点いているもの寝ている者が多い。
明かりと言っても、こんな山岳地帯の辺境に電気が通っているはずも無く、どの建物も全てランプ等の薄暗い灯り。
起きているいる者もいるが、木製の椅子にふんぞり返って、いずれもダラダラと気を抜いている様子が窺える。
時刻は午前4時前。この時間帯もあるが、平穏な日常が長く続けば警戒心が薄れ、例えテロ組織であろうと、このような光景は至極自然であろう。
何か異変があれば、現在展開させている哨戒部隊や歩哨から、即座に連絡が入る手はずになっているので、
──だが、災いと言うものは、前触れも無く突然やってくるものだ。
ザシュ!ザシュ!
『ジャッカル
ザシュ!ザシュ!
『コヨーテ
歩哨一名に対して、各一名ずつ排除に当たる。黒い影にぬるりと纏わりつくように口元を押さえられ、カランビットナイフで首を掻き切られ、叫ぶ間も無く絶命してゆく。
カランビットナイフは、鎌や鉤爪のような屈曲した刃体の形状をしており、ハンドルエンド部に指を通す輪がついているのが特徴。
この形状から、突き刺して引き裂くと言った風に、ストレートタイプより大きな傷を与える事で、瞬時の殺傷力を高めている。
この形状のものが暗殺用武器として、フィクション作品でも多く見られており、見た目的には恐竜の鉤爪のような形状だ。
このカランビットを使った格闘技が、古くから東南アジアにいくつも存在しており、アメリカ軍でもナイフ格闘術に2000年頃から導入されている。
そして、入口が開放されると同時に、黒き獣たちが血を求めて、音も無く獲物らがいる拠点集落へと次々と侵入してゆく。
その集落の端の一軒にいる敵兵二人。どうやら二人とも、この時間まで酒を煽っていたようだ。木製のテーブルの上には、幾つもの安酒のボトルが転がっている。
共にヘビースモーカーであろう、二つの灰皿は吸い殻の山。部屋はスモークが掛かり、今も口に銜え新たに火を付けている。
かなり出来上がっており、呂律の回らない口調で談笑に花を咲かせている。
「(…それれ、その百人の高笑いしら、ゴスロリ姿のおっさんらの鼻かりゃ、キノコが生えれらんりょ!)」
「(ひゃーっひゃっひゃっひゃ、なんりゃそれ!!)」
コンコン
「(あん?誰りゃこんな時間に?)」
「(おーい、差し入れ持って来たぞー!俺もまぜてくれよ!)」
「(うひゃひゃ、しょうがれーなぁ!ちょっとらけよ~あんらも好きねぇ~)」
その二人が談笑中に、誰か訪問客が訪れたようだ。手土産持参ということで、快く招き入れようとドアを開けた。
「(んぐっ!?)」
ザスッザスッザスッザスッ!!
開けた瞬間に現れた黒い影。その一人を悲鳴を上げないよう口元を左手で押さえ、右手の逆手に持ったストレートエッジナイフで、心臓辺りの胸をめった刺し。
「(んん?どうしらんら?)」
その
「(な?)」
ザスッザスッザスッザスッザスッ!!
もう一人は覚束ない足元で、椅子から立とうと中腰状態のところ、その黒い影に口元を押さえられ、同じようにストレートエッジナイフで、心臓をめった刺しにされて絶命。
「クリア」
その二つの黒い影は、マルチカムブラック迷彩の戦闘服姿の『デルタフォース』
コールサイン『ジャッカル』の二人。
その一人はアラブ系アメリカ人。アラビア語で一人をおびき寄せ、上手くドアを開けさせてからのサイレントキル。
ザシュ!
「クリア」
ザス!ザス!
「クリア」
ボキ!
「クリア」
同タイミングで、他の家屋でも首を掻き切る音、めった刺す音、首をへし折る音が銃器を使わずに、日常生活音の範囲内で密かに鳴り響いていた。
無慈悲な血に飢えた獣たちによる、獲物を狩る音だけが闇夜のその場を支配していた。
もはや流れ作業。これが一か所に集まっていたなら話が別だが、幸いにも各少数単位。都合よく散らばってくれていたおかげで、各仕事が容易に済んだようだ。
残りは、この前哨拠点の本部と思われる二階建ての建物のみ。
建物内の床は、外壁同様の無骨なセメント造り。中にいるのは10名。当初の調査より、この拠点の人数は多少多いようだが、想定の範囲内、特に問題は無い。
一階は、手前12畳ほどの部屋に木製の長テーブルが備え置かれ、その上には、食いかけのパンやソーセージにスープ、安酒のボトル、吸い殻の山の灰皿。他に、ハンドガンやマガジン、ナイフ等も雑多に置かれている。
もはや、テンプレの光景。だらけ切ったいかついテロリストら6名が、各木製の椅子や、壁際のボロボロのレザー製ソファーにふんぞり返り、酒に酔った虚ろな眼で、何やら語り合っている。
他の壁には、幾つものAK47等の銃器類が並び立て掛けられ、別の壁際には、古い通信機器が置かれた木製テーブル。埃や土、砂等で至る所が小汚い。
奥の部屋は6畳、6畳の二部屋。一方は食料、武器弾薬の保管庫になっており、その奥には、裏手へと繋がる勝手口となっている。
そして、二階の部屋は12畳ほど。こちらは仮眠室になっており、その中で小汚いマットレスに4名が、呑気に爆睡。
建物横の外階段から、手前前面の吹き曝しの通路を通って、その仮眠室に入れるようだが、その通路の手すりに沿って、土嚢が重ね置かれている。
戦闘時に迎撃射撃及び、防御遮蔽として利用されるのであろう。
尚、トイレは、外に共同用のものが数か所設置され、いずれも強烈な悪臭を放っている。
──ぬるいな。
と、過酷な訓練をこなし、実戦経験も多く積んでいる精鋭たちにとっては、危機感など微塵も感じぬ、極々容易い些末な作戦状況。
「……マジかよ…」
だが、とある部屋の状況を窓から覗き窺っていた一人が、何かの異変に気付く。
『コヨーテ1-1だ……こいつら…』
その一人とは、フェイスマスクの中で、非常に苦々しい表情のイナバだ。
『ジャッカル1-1だ。どうしたコヨーテ1-1。何か問題か?オーバー』ガッ
表側の部屋の様子を窺っていた、ジャッカルチーム指揮官「ベアード少佐」は、イナバの言葉足らずの通信に、怪訝そうにその続きを聞き返す。
30代で大柄の体形、ベアード少佐は、今はフェイスマスクで目元しか見えないもの、ブラウンヘアと、もみあげから繋がる口周りに豊かなひげを蓄え、イングランド系のいかにもの渋い精鋭顔だ。
とある部屋とは、1階物資保管庫の隣りのもう一つの部屋だ。
その部屋は明かりが点いておらず、真っ暗ではあるが、NVGにて中の様子を確認。イナバは、中の状況を各員に通信で苦々しく知らせる。
『こいつら外道どもは、ここで……一般人を‶拷問処刑〟していたようだ』ガッ
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