第41話 笑止!かーっつ!


 残りの敵の数16名。


「(なんだ?寝ている奴が多いな、たるんでるんじゃないのか?)」

「(ほっとけよ、皆疲れてんだよ)」

「(そんな事よりそれで、そのプールの水が割れて、中からロボが出ると思ったら、ゴスロリ姿のおっさんが百人くらい高笑いしながら……)」


 敵集団の中心らは、大分弛んでいるようで全く気づいてないようである。


「おーし、こんなもんでいいだろ。…つうか、お前ら、んなアホ面してる場合か、とっととORの配置につけよ! ボーっとしてんじゃねーよ!」


 新たに珍妙な都市伝説を見せられた部下たちは、いずれもあんぐりと口を開け、アホ面をぶら下げ愕然としている。


「「「いやいやいやいやいやいや、おかしいって!!」」」


 トールの叱咤により、異世界から現実に帰還してきた部下たちは、率直な異論をハモりつつ狙撃支援態勢に就くのであった。


「なんすかあの人…いや、人じゃないか…ってか、銃なんか持つ必要無いんじゃないのかアレ」


 ピガッ


「あー、ウルフ3-1よりコヨーテ1-1。これより狙撃支援に入るから、後は適当に頼むオーバー」ガッ


『おーいおいおいおい! いったい何をしたんだ、あれは!?周りにいた奴らの頭が、次々弾けまくってたぞ! 対物ライフルでも使ってるのか!?けど、音はしなかったよなオーバー』ガッ


 コヨーテ1チームらも、何やら摩訶不思議な現象に呆気にとられ、イナバはそれについて言及を唱える。


「あー、んなもんこの場で使えるかよ。石ころぶつけたに決まってるだろ?銃はバレそうだからよー。オーバー」ガッ


『はぁ!?石ころ!?どこから!?ってか、そんな決まりは無いだろ!ったく【原始の力】と言うより、まるっきり原始人だなそれ、オーバー』ガッ


「言ってろよ。まーこれで楽になったろ?そいうわけだから、こっちも適当に処理するから後は頼んます。ブレイクオーバー」ガッ


『だー!もう分かったよ!ちゃんと支援の方頼むからな!コヨーテ1-1アウト』ガッ


 もうヤケだ!と言わんばかりにイナバは通信を修了させ、コヨーテ1チームは戦闘を開始する。


 タン!タン!タン!タン!


 タタタ!タタタ!タタタ!タタタ!


 残りはあっ気ないものだ。


 コヨーテ1チームは、横一列で片っ端から適格に敵戦闘員を処理し、ウルフ3チームも正確な狙撃で彼らを支援していった。


 相手の気が大分緩んでいたのもあるが、さすがはレンジャー。人数を減らす必要は無かったのではないかと言わんばかりに、鮮やか且つ迅速にそのモットーを忠実に体現して、道を拓くコヨーテ1チームであった。


「クリア」


 これにて、作戦フェイズ2は完全終了。


「……あの人、メジャーでも十分以上に活躍できるんじゃないすかね?」

「ああ即戦力間違いねーな…なんか、スクリューボールとか投げてたな。カットボールとかも、しかも、あの距離であの精度……」

「あはーん!? あれ見えたんすかダフィ一等軍曹!えげつない速度だったじゃないすか!」

「まぁな、目はかなりいい方だからな」


「アホか、仮に見えたとしてもあんな砲弾を誰が捕れるってんだ? キャッチャーが審判ごと粉々の肉片になるだけだろうよ」


「「……だよな」」


 一同はその光景を思い浮かべ、背筋に戦慄のようなものがパパラパパラ、ウォンウォンと珍走している。


 そして、トールは通信チャンネルを変え、部隊長のラーナーへと状況終了の報告をする。


「あー、3-1より1-1 こちら状況終了。問題無くクリアだオーバー」ガッ


『2-1より1-1 こっちもクリアだ。何も問題無いオーバー』ガッ


『1-1より各チームへ、グッジョブだ。こちらも問題無くクリア。それでは全チームは速やかに最終ポイントへと移動せよ ブレイクオーバー』ガッ


「3-1ラジャー アウト」ガッ

『2-1ラジャー アウト』ガッ


 ウルフ各チームは一旦コヨーテチームと別れ、最終フェイズに向け、最終目的地点へと移動を始める。


 コヨーテ各チームは作戦サードフェイズへの移行を告げるべく、イナバは前線司令へと通信を繋ぐ。


「コヨーテ1-1よりドッグハウスへ フェイズ2問題無くクリア。これよりオブジェ4へと移動を始めるオーバー」


『ドッグハウスよりコヨーテ お疲れ様。では、予定通りこれより作戦はフェイズ3へと移行する。すでに「ジャッカル」は移動を始めている。合流次第、行動を開始し、速やかにLZアルファを確保せよオーバー』


「了解 コヨーテ1-1アウト」


【アリの巣コロリ作戦】は、恙なく次なるフェイズへと推移し、すでに中継地点から、更なる獰猛な獣たちが解き放たれていた。



 それは、アメリカ陸軍最強の特殊部隊「デルタフォース」コールサイン「ジャッカル」チーム。

 

 アメリカ陸軍、第一特殊部隊デルタ作戦分遣隊、通称デルタフォース。


 彼らの主な任務は、対テロを目的とした作戦を遂行する、いわゆる対テロ特殊部隊だ。


 その本部はノースカロライナ州、フォートブラッグの陸軍特殊作戦軍団基地の一角に置かれ、部隊の訓練は厳重な壁に守られた機密扱いとされている。

 施設には世界でも最先端の設備が整えられており、地下鉄や旅客機などの模擬訓練施設などが存在するとされ、あらゆる種類のテロを想定した訓練が行われている。


 人質救出やCQBの訓練には「恐怖の館」と呼ばれる、何やら物騒な施設が使用され、これはイギリスの特殊部隊SASの訓練施設「キリングハウス」を手本に造られたものだ。


 彼らを構成する隊員たちは、元グリーンベレーや第75レンジャー連隊の経歴を持つ者が多く、まさに特殊部隊中の特殊部隊の超精鋭部隊であるのだ。



 そして、作戦ポイントに向けて彼らは、山間いの車道をハンヴィーとストライカーICV1台1両で移動している。


 そのストライカーの車内、兵員室内、マルチカムブラック迷彩カラー戦闘服の集団の中、その男は憤りを露わに座席にて腕を組みふんぞり返っていた。

 背丈は2mはある筋骨隆々のゴリマッチョ、髪は短く逆立った金髪、サイド、バックを刈り上げたミリタリー系カット。


 その顔は、ブルーの鋭い眼にいかつくエラの張ったゴツゴツとした骨格で、その顎は割れていた。いわゆるケツ顎だ。

 更に顔の左側には、こめかみから頬に掛けて刃物に切られたような傷跡が深く刻まれている。


 とにかく、至る所がいかつくごつい男だ。

 

「ふん!何が雷神だ、何がワルキューレだ!くだらん!どいつもこいつも子供じゃ

あるまいし!アホ臭くて鼻が曲がるわ!笑止!」


「あ?そういえば、お前昼間のあの二人の闘いを見てなかったんだよな?イゴーリ」

「マジか!?見てないのか?上級准尉、アレを見てなかったから、んな事言ってるんだろ?」


 イゴーリヴィチ.ボロトフ5等上級准尉、准士官では最高位の階級、ロシア系アメリカ人。

 どうやら、昼間行われた人外同士のエキシビションマッチを見ていなかったようだ。


 他の荒くれ精鋭たちが、その対戦についてあーだこーだと考察等、議論していたところ、それを見ていなかったと言うより、見る気が無かったイゴーリの鼻についたのだ。


「ふん!少佐まで揃いも揃って、そんなあり得ない世迷言をほざくか!偶々の偶然を、あれもこれも関連付けて、全く正気の沙汰ではないな!笑止千万の気狂い、鍛錬が足りぬ証拠ぞ! 恥を知れ、たわけ共が!! かーっつ!!」


「おまっ、偶々で地面が陥没すっ「か──っつ!!黙れ黙れ! もう聞きたくも無い、そんなおとぎ話は!」


 懐疑心マックスのイゴーリの言葉に、精鋭の一人が反論しようとするも、そんな与太話に聞く耳は持たんと途中で遮る。


「いいか、そんな与太話に尾ひれはひれが付いて、こぞって持ち上げられて、イキがっている小蠅どもなど、俺からすれば蛆虫が沸いた生ゴミ以下だ! しかも、一人は女だと? 全く話にならん! 貴様ら恥を知れ!かーっつ!」


「確かに、お前の戦闘力は、俺らデルタの中でも群を抜いたもので、成果も上げているし、軍屈指の怪力の持ち主なのは認めているよ、だが、あいつらは」

「か──っつ!だから、そのくだらん話はもうやめろ!」


 そうまともに聞く気ゼロのイゴーリは、その巨漢から自分の膂力に絶対の自信を持っており、そのプライドと偏見から当然トールとリディの話など端から信用もしていないし、気にすらもしていなかった。

 だが、同僚達がやたらと持てはやすものだから、さすがに面白くなく、苛立ちを露わにしている。


「ふん!いいだろう。それほど言うならこの作戦が終わったら、俺様がその小蠅どもに訓練を付けて、上には上がいるって事を嫌って言うほど指南してやろう!そうすれば、奴らは泣いて跪いて、その愚かさを気づかせてくれた俺に、感謝の言葉も尽きないであろう!カーッカコカコカカカカカコ!!」


 若干、クセ強めな笑い方を放ちつつ、やれやれと掌を上に両手を広げ全否定。その人外らに挑もうと、色んな意味で豪の者がここに現れたようである。


「なるほど、近接格闘に於いてデルタ最強を自負するお前のすることだ。もう何も言うまいて……」


 デルタ隊を指揮する少佐は、もう何を言っても取り付く島もないイゴーリに、体験してもらった方が話が早いと、事の成り行きを委ねるのであった。


 こうして、若干波乱を含みつつ、作戦はサードフェイズへと移行するのであった。

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